CLOSE

AIと創造性(全3記事)

深津貴之氏が教える、企業のAI導入で“やってはいけないこと” AIと社員の連携に必要な視点

国内外のスタートアップや投資家、アーティストが集まる「Tech GALA Japan(テックガラジャパン) -地球の未来を拓くテクノロジーの祭典-」。最先端のテクノロジーをテーマにしたカンファレンスの中から、「AIと創造性」をテーマに、株式会社THE GUILD 代表取締役 サービス・デザイナー 深津貴之氏、小説家の平野啓一郎氏、アートメディア「ARTnews JAPAN」編集長の名古摩耶氏によるトークセッションをお届けします。 本記事ではAIが得意な作業の特徴や、AIを職場に導入する時に注意したいポイントについて語ります。

ChatGPTに批評が可能か

平野啓一郎氏(以下、平野):(AIによる創作が社会に与える影響について)もう1個だけ加えると、文学は言語芸術なので、まだ言語化されていないものを言語化することが、創造性で言うと一番重要なんですよね。

深津貴之氏(以下、深津):未探索空間から星を発見するみたいなことですよね。

平野:ですから、ChatGPTでいろんな作家について質問すると、特に英語圏でよく知られている情報かどうかですごく回答の質に差があります。世界的に有名な作家について質問するとかなり正確な答えが返ってきますけど、文芸批評で重要なのは、まだ知られていない作家の価値を発見して、それがなぜすばらしいかを言語化していくことで。

名古摩耶氏(以下、名古):批評の根本ですよね。

平野:そういう意味では、よく知られていない作家について聞くと、まったくとんちんかんな答えしか返ってこないわけです。

文学にしても、さっきの身体性を伴って日常を経験して「世界のシステムの中に生きていると、ずっとストレスが溜まっていく」みたいなことを感じながら、それを言語化していった時に、読者が「あっ、これ、まさに自分がうまく言えなかったことを言葉にしてくれた」みたいな感動があるので、そういう類の文学は人間が書くものとして残るんじゃないかと。

AIが活躍するのはアイデアの組み合わせ?

平野:ただ、もう一方で、組み合わせの妙っていくらでもあると思うんですよね。例えばジュノ・ディアスの小説『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』は(主人公の)アニメオタクが南米の独裁政権をマジックリアリズム的に表現するというのが売りで、組み合わせがおもしろいと非常に評価された作品なんです。

実際はあんまりアニメとマジックリアリズムは溶け合っていなくて、一番読みごたえがあるラファエル・トルヒーヨ(ドミニカ共和国の独裁的な大統領)の独裁政治の部分は、普通のリアリズムなんですね。

それはともかく、AIはそういう突飛な組み合わせが非常に得意なので、例えば「日本の女子高生がカザフスタンの砂漠で宇宙人と出会う」とか、いくらでもアイデアを出せるんじゃないかと思いますよね。

名古:設定まではやってもらえると。ただ、それをつないでいく、網目を埋めていく作業には人間の関与があるべきで、そこにこそ著作権が発生すると思うんですけど。

平野:だから、すごく分業化が進んでいる創作ジャンルでは、どこの部分をAIがやるかは進んでいくと思います。

例えば音楽で、ロックバンドのプロデュースをしているんだけど、間奏の部分でビバップみたいなサックスのソロを入れたいと思った時に、今まではジャズの得意なスタジオミュージシャンを連れてきてやってもらうしかなかった。だけど、今はAIで簡単にできちゃうでしょう? なんちゃってビバップかもしれないけど、そこに加えられるようになりますよね。

どっかで聞いたようなソロなんかジャズの世界では価値を認められないでしょうが、今言ったようなかたちで、味付け程度でいいんだと割り切ってしまえば、簡単にAIでできる。あえて冒瀆的な言い方をしていますが。

例えばミックスダウンとかでも、人間は録音だけして、どうミックスしていくかのプロセスはAIが相当入っていくんじゃないでしょうか。すでに写真では、普通にiPhoneで画像加工のAIフィルターが出てきますけど。

AIで“平凡ではない答え”を出すには

名古:深津さんは批評によくAIを使用していると伺いました。

深津:批評に使うのが、ものを作る時のクオリティを一番上げやすいので、お勧めしていますね。

名古:それは設定の段階では使わないんですか?

深津:えっ、設定とは?

名古:何かデザインプロダクトを作りたい時に、どういう機能が求められているかの要件を用意して、「ここに商機がありそうだ」みたいな設定をAIにやらせる。その上で、人間が作ったものを批評するような。

深津:そうですね。すでに人類が解いたことのある答えだったら、だいたいそういう使い方でいいと思います。生成AIって基本的にはインターネット中の言語を組み合わせてパターンを学習して、確率的にしゃべるマシーンなので、すでに人類に探索された空間、すでに答えがある空間ほど得意なんですね。

なので、すでにあるパターンを組み合わせれば答えが見つかるような問いとかデザインとか設計であれば、AIに聞いてポンと出せる。

一方で、AIは確率上に存在しないことをしゃべるのは非常に苦手なので、人類が誰も探索していない空間を答えるのがすごく苦手なんですよね。

そういう場合は問いの立て方を変える必要があって、それ自体にクリエイティビティが求められるんですけど。じゃあ、問いとして「平凡な答えを出すことが得意なAIを使って、平凡でないことをするにはどうすればいいか」。

算数の図形の問題を考えてほしいんですけど、例えば、四角があるとします。AIを使って、その中に平凡な答えを全部集めます。その箱から平凡な答えを全部外しちゃって、残った空間をがんばって探せば、平凡じゃない答えを効率よく探せるかもしれないですね。

平野さんの前で小説のたとえをするのは申し訳ないですけど、例えば小説だったらば、AIに平凡なプロットを1万個出させて、「このプロット1万個と絶対に被らないようにやるぞ」みたいな感じをスタート地点にする。

そこが当たりかどうかはわからないですけれども、探索しなきゃいけない空間を刈り取る。すでに自分の知らないところで人類が探索していたところには手を出さなくて済むようになるかもしれません。

創作活動は、自分がやりたいからやっている

平野:あとね、もう1つ加えると、アートをやっている人とか小説を書いている人って、結局やりたいからやっていると思うんですよね。

突然、小説を書きたくなるのは小説家だけじゃなくて、芸能人とかいろんな人が急に小説を書いたりします。それは当ててやろうという山気で書く人もいるかもしれないけど、一方で、ある種の実存の危機に瀕した時に、よくわからないけどとにかく自分で小説を書いてみることで救済されるという感覚があるわけです。ウケるかどうかはもう、どうでも良くて、ともかく書いてみる。それは、非常に尊いことなんですね。

小説家もそれがすごく大きな動機になっているし、アーティストだって表現せざるを得ないからしているので、僕たちがAI脅威論みたいなのを感じるのは、結局人間がやりたくてやっていることを……。

深津:取られちゃうから?

平野:そう。代替されると嫌なわけです。「平野さん、AIを使って小説とか書かないんですか?」って質問されますけど、自分でやるのが楽しいからやっているのに、わざわざ、AIに一番おもしろい部分をやってもらうという発想がないんです。

ただ、やはりビジネスとしていかに売れるコンテンツをどんどん出すかという効率性を考えた時に、AIを活用する話は出てくると思うんですよね。

AIでマーケティングは変わるのか

平野:また音楽の話ですけど、アメリカの有名なジャズレーベルであるブルーノートを復活させたドン・ウォズという社長がいて。ブルーノートは保守的なレーベルとして停滞していた時期もあるけど、彼になってからは好調なんですよね。

彼が言うのは、ある時期から、銀行とかお金を持っている人たちが会社の権力者になって、いかにヒットを飛ばすか、マーケティングに基づいてやったりして駄目になったと。

1980年代までは豊かだったから、若いミュージシャンが「これ、どうですか?」ってレコード会社の社長に音楽を聞かせると、「なんだ、このクソみたいな音楽。まったくわからないけど、まぁ、いいや。やれ」みたいな感じで、理解していないけど口を出さずにお金をドンと出してくれて、それが良かったんだと彼は話しているんですよね。

要するに音楽をプロデュースする側の人間は、アーティストが凧揚げをしている時に、その凧という作品に雷が落ちるのを待っているようなもんなんだという話をしていて。

やはり、何が生まれて何がヒットするかがわからない、ブラックボックス化されたまま手探りでやってきたのが今までで。それを人力のマーケティングでやろうとして、あんまりうまくいかなかったのがここまでの段階だと思うんですよね。

それをさらにAIマーケティングでやると、もっとうまくいくんじゃないかという考えがあり、もう一方で、そうじゃないやり方と、中間段階でAIを部分的に活用するグラデーションのパターンがあって。それぞれがどのポジションでやっていくかを決めて、結果を見ていくことになる気がするんです。

たき火をしたいけど、火起こしはしたくない

深津:僕も企業にAIを導入する時に、必ず一番最初にお勧めすることとして、「社員がやりたいところをAIにやらせるな」とよく言っています。最初にみんながやりたいところをAIにやらせると、たとえ成果が出てもチームが病んだり、辞めちゃったり、アンチAI運動が起きちゃったりするんですね。

なので、導入する時の初手は、「チームのためにやらなきゃいけないけど、やりたくねぇな」という部分を全部AIでやることをお勧めしているんです。

そういう意味だと、料理とかキャンプに近くて。おいしいものはお金を出せば食べられるし、高級ホテルに泊まりゃええやんという現代社会で、「いや、自分で作りたいんだ」「自然の中で戦いたいんだ」とか。

名古:キャンプしたいんだと。

深津:はい。それに近いんです。確かにキャンプとか料理って「自分の手でやりたいから」と言ってやるもんですけど。

そう言っている人も各フェーズをじっくり見ていくと、「料理はやりたいけど、キッチンから先のところをやりたい。麦を埋めて育てて脱穀するところまではやりたくねぇんだ」とか。「キャンプのたき火はやりたいけど、竹ひごをこすって火をおこすところはさすがにチャッカマンを使いたいな」みたいな。

結局、1個の大きな「キャンプやりたい」みたいなところでも、自分がやりたいこととやりたくないことが出てきて、やりたくない部分がどんどんAIに任されることで、その人のやりたいところだけやれる。

そのせいで極端に尖った生き方や作り方をする人が出る感じで、AI時代の創作は生まれていきそうな気がしますね。

創作活動にも、その外側にも広がる可能性

名古:なるほど。最後にお二人にうかがいたいなと思います。平野さんはまだAIを使っていないとのことですが、AIがどこまで進化すると平野さんがワクワクしながら創作に使いたくなりますか?

平野:僕は結局、こういうものが出てくる前から創作活動を始めた、境目を経験している古い世代の人間です。25年間ぐらいやってきた小説の書き方があるので、新しくAIを導入する動機をいまいち持ちきれない。というか、さっき言ったみたいに自分でやっているのが楽しいんです。

ただ、これから物を作っていく人たちは、少なくとも部分的な活用はかなり巧みにやっていくんじゃないかとも思います。まあ、それも人によりけりでしょうが。

そうやったほうが確かにおもしろいものがたくさん出てきているとか、小説書くのが面倒くさくなるとか、さっきの、嫌な部分はAIにやってもらいたいとか、そういう具体的なことがあれば、AIを小説を書くアシスタントとして活用することも考えると思います。

あと、僕はそもそも、プロンプトをいろいろ考えるのが面倒くさいんですよ。「こういうので、こういう話を、どうして、こうして」とか指示を出すぐらいなら自分で考えるみたいな。そのへんがクリアにされれば使うこともあるかもしれないですね。

深津:そうですね。僕も非常に同意をしているところです。僕は逆に、1個やってみたいこと、あるいはよくやってみることで言うと、自分が何か創作とかものを作る時って、生成物を選択するわけじゃないですか。機能でも作品でも、「これだ!」っつって。

選ばなかったものの行く末がどうなるかを知りたいんだけど、その全部を自分で知るための体力やリソースがない時。例えば小説とかドラマとか、スタートがあってエンディングを迎えるわけじゃないですか。

エンディングを迎えた後に、それをプロンプトで追加して、「……という物語の主人公が時空間乱流に巻き込まれ、過去に戻ってしまいました。平行世界でどんな可能性が展開されるか、樹形図で全部バーッて広げてください」みたいに見て。

自分が選ばなかった未来はどんなものがあって、その中で「あっ、けっこう惜しいのがあったな」とか、「いや、それを選ばなくても、楽しかったな」みたいな。そういう可能性を創作の外側で使うのもけっこういいんじゃないかなと思いますね。

名古:なるほど。でも、本当に使い方ですよね。どこまでをAIと協業できるのか。平野さん、深津さん、ありがとうございました。

深津:ありがとうございました。

平野:ありがとうございました。

(会場拍手)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • AIでXのポスト傾向を分析→おすすめ本を紹介 深津貴之氏が語る、創造性を高めるためのAI活用法

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!