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議論の極意! 人文学のプロフェッショナルに学ぶ 効果的コミュニケーション術・アーギュメントの作り方(全5記事)

“文章力がない”と悩む人が見逃している点 阿部幸大氏が教える、書くスキル以前に大切なこと

話題の書籍『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の著者である、筑波大学人文社会系助教の阿部幸大氏がイベントに登壇。本書のキーワードとなっている「アーギュメント」とは何か、そしてアーギュメントをビジネスシーンで活用するためのポイントを解説。本記事では、文章力がない人の原因と、書く力を上げるために大切なことを語ります。

阿部幸大氏がすすめる「他動詞モデル」の考え方

阿部幸大氏(以下、阿部):「どのようにするとアーギュメントを正確に引き出すことができるか?」というさっきの話に戻ると、相手が明確にアーギュメントのかたちでしゃべってくれるとは限らないわけですよ。

小倉一葉氏(以下、小倉):確かに。

阿部:そこで、自分の脳内でパラフレーズするわけです。その人がいろんなことを言っていて、「この人の言っていることからアーギュメントを1つ抽出するとすれば、どうなるか?」ということを、自分の脳内で他動詞モデルなどを使って整理すると、「それってつまりこういうことですよね?」って、めっちゃ賢いことを言えるみたいな(笑)。

森脇匡紀氏(以下、森脇):確かに。

小倉:おっしゃるとおりで、私は投資家の方にけっこうこっち(自動詞)で持っていっちゃっていたんですよ。

森脇:なるほど。指さして終わっていたのね。

小倉:そう。指さして終わっていた。

森脇:「人に指さすな。ダメだ」って言われるのと一緒だ。

小倉:そうですね。でも、「それってどうことなの?」って聞いてくれるんですよ。「それってそういうことなんじゃないの?」「言いたいことってこれでしょう?」と、こっちのモデル(他動詞モデル)で整理をしてくれる。こういう構造になっていたんですね。

阿部:そうですね。なので読解すること、あるいは議論することでもいいんですが、つまり論点が何なのか。論じるということは意見が対立しているということなので、論点がごちゃごちゃになっていた時に、どのような意見の対立なのか、今はどのような議論を展開しているのかを整理するのにも、ここ(他動詞モデル)に集約させるといいのかなと思っていますね。

森脇:ここまでロジックが構成されていると、変な話、生成AIでプロンプトを書いちゃって、ダラダラトークでまとまっていない人も、パンパンといいかたちのアーギュメントを引き出してくれますよね。

阿部:そうですね。AIに、この他動詞モデルでアーギュメントを立ててもらうように教育すればいいのかもしれない……。

小倉:阿部さんのGPTを作ればいいんじゃないですか(笑)?

森脇:そうそう。昨日「AI 伊藤羊一」のイベントに行っていたんです。

阿部:今のところ、ChatGPTとかはブレインストーミングにはめちゃくちゃ役に立つんですよね。いろんな論点をバーッて出してくれるので、それはいいんです。ただ、むしろこうやって1つに集約させるような使い方って、やればできるのかもしれないですがあんまりないなと思っていて。

今のところChatGPTを使っている限りでは、水平的にブワーッてやってもらうのに役立つ。こっち(他動詞モデル)はむしろ垂直的というか、1点だけに落とし込むことが重要なので、そんなようなことを考えておりました。

森脇:なるほどね。

小倉:ありがとうございます。

「強い動詞」を使うことのリスク

小倉:あと、アーギュメントが弱い、または矛盾があると感じた場合の修正、改善方法。さっきパラフレーズの話もあったかと思うんですが、何かご助言いただけるところがあれば。

阿部:これ(他動詞モデル)で書くと強くなります。AとBとVがそれぞれ何なのかを考えた時に、Vで「排除する」と言いましたよね。それは非常に強い動詞なわけですよ。みんなそれに注目します。

「この論文では『アンパンマン』のジェンダーに注目します。『アンパンマン』の男性中心主義に注目します」とか言っちゃうんですが、「排除する」という動詞はめっちゃ強いわけです。

強い動詞を使うことってリスキーなわけですが、論文っていうのは反論が出てこなきゃいけない意見を提出するものなので、そもそもリスキーなんです。そこで闇雲にというか、いたずらにただただ強い動詞を使ってセンセーショナルなことを言っても意味がないわけですよ。

実際に自分が主張したい内容を表現できる、言語化できる最も強い動詞は何なのかを考えると、アーギュメントが非常に強くなって、どんどん怖くなってきますね。

(一同笑)

森脇:議論を巻き起こすわけですもんね。

阿部:そうです。

小倉:なるほど。

森脇:でも、ビジネスの世界では盛り上がらない会議もけっこうあるので、「ぶっ込む」みたいなことを言いますけれどもね。そういうものを、もうちょっと本当に最終の目的地点で持っていきたいところがあって、この手法を覚えていけば、ちゃんと建設的な議論が巻き起こるような可能性も感じました。

阿部:ありがとうございます。だから本当に重要なことは、これはセンセーショナリズムに流れてしまいがちな考え方なんです。それには注意しないといけない。結局、責任が発生することなので、その範囲内でやらなきゃいけないと思いますね。

森脇:論証が責任。その積み上げみたいなものになってくるわけですね。

阿部:はい。

文章が書けない人は、そもそも文章を読めてもいない

小倉:あとは「アーギュメントを持つためには?」というところで、著書の中で先行研究を読むところがあるんですが、阿部さんが実際にやられているハイライトの使い方もすごくおもしろいな、興味深いなと思って。癖が強いといいますか、すごいことだなと思って見ておりました。

阿部:ありがとうございます。蛍光ペンの使い方と、あとは「アカデミック・リーディング」と呼んでいる読み方の方法論ですね。

小倉:そうですね。

阿部:論文は世の中にいっぱいあるにもかかわらず、みんなが書けるようにならないということで、どうやって書けるようになるのか。だけど、答えはもうあるわけですよね。それとまったく同じことをやるわけではないわけですが、出版された論文があるわけなので。

この間ちょうどNewsPicksさんで伝説の企画書を読んで、自分もそれに似たようないい企画書を書くというお話をしたんですが、それをデモンストレートしたんです。

そこで言ったのは、俺はパンチラインを考えるのが大好きなんですが、パンチラインの1つに「書けないやつは読めてもいない」というものがありまして。みんな、読めるけど書けないと思っているわけですよ。本当はそうなんだけど(笑)、「書けないということは読めていないんだ」って思うべきなんだという話をしていて。

これはどういうことかというと、例えば非常に優れた案件を取ってきた先輩の伝説の企画書があるとしよう。すべてを盗むかどうかはさておき、自分もそれを真似して書くわけですね。それで、しょぼいものが出来上がることがあるわけです。

それは、誰でも何らかのかたちで経験がある。つまりモデルがあって、真似するとしょぼいものになってしまったという経験があると思います。

“文章力がない”と悩む人に足りていない考え方

阿部:ここで、今言った「書けないということは読めていないということなのだ」という考えを適用するとどうなるかというと、自分で企画書が書けなかった時に、「あぁ、自分はなんて文章力がないんだろう。なんてバカなんだろう」みたいな反省をここでしてしまうわけですよ。

森脇:ある。

阿部:これは間違っていて、こんな反省は誰でもするわけです。(自分は)バカだって思っているだけだから、これでは進歩しないわけです。

そうじゃなくて、「書けないやつは読めていない」って考えるとどうなるかというと、書けないという状況とモデルの間に落差があるわけですよね。「それが再現できないのは、そもそも読めていなかったからなんじゃないか?」という反省が、ここでできるんですよ。

森脇:なるほどね。

阿部:なので、「読む」というところにさかのぼることができるんです。情報、つまりモデルがあるわけなので、「モデルから十分に情報を抽出しきれていなかったのではないか?」という反省が可能になる。

森脇:確かに。

阿部:なので、質問は何だっけ?

小倉:(書籍で紹介されている)読み方だったり、ハイライトの使い方がおもしろかった。

阿部:読むということをもっと方法的に、あるいはもっと深くメカニカルに分析的に読むとはどういうことなのかを解説している。

小倉:そうですね。この手法はかなり独特でおもしろいというか、「こうやって読んでいるんだ。こうやって整理されているんだ」という、阿部さんのエッセンスがめちゃくちゃ詰まっているなって思いましたけどね。

阿部:そうなんですか? どういうことですか(笑)?

小倉:(今までは)自分でパパパッてハイライトを引いていたけど、そうじゃなくて。ぜひとも引用したいというか、分類、知識へのタグ付けを自分の中で方法化しているということだと思っていて。もともと阿部さんは学生時代から、「お金を気にせず本を買え」って主張をしていた。

阿部:そうでしたっけ?

森脇:自己投資でね。すばらしい。

小倉:本当に学生の頃からそうだったんですよ。

森脇:すばらしい。

小倉:なので、ものすごくたくさんの本を読まれる中で、そうやってめちゃくちゃ知識の整理を自分でやられているんだなと。だからChatGPTに物を覚えさせるとかは、それを自分でやっているという感覚なんだなって思ったんですね。

森脇:俺はすぐ「楽しちゃおうかな」と思うので、そっちの方向に行っちゃうんですが、違うんですね。やはり努力家ですね。

阿部:タイプとしては努力家タイプです。ありがとうございます。

たくさん本を読んでも文章力が上がらない理由

阿部:「こんなに読んでいるのに自分で書けないって何なんだろう?」というのはけっこうあって、そういう気持ちがあったから書いた。つまり院生時代の自分に読ませたい本として書いたものなんです。

あともう1個は、留学中は本当にものすごい量の本を読まされて、何かしらの方法論を構築しないとさばけないんですよね。ただ漫然と読んで、感想が出てきて終わり、みたいな。このままやっていると……ちょっと別の話になりますが、量的な努力をするのは実は簡単で、つらいですけどつらいことに耐えるのって簡単なんですよ。

このまま100冊、200冊って読んでいくことはできるけど、これは伸びていないなって思ったんですよね。ずっと字面を追っていて、知識はどんどん増えていっているけど、目的はいい論文を書かないといけないので、それに資するような勉強になっていないなと思って。その時に開発した読み方ですね。

小倉:なるほど。

森脇:思ったことある。たぶん、カメラの向こうの方々にもいっぱいいるんじゃないですか? だから(阿部氏の著書が)売れているんだわ(笑)。

小倉:(笑)。

阿部:はい、そうなんです。

小倉:すばらしい。

森脇:これは3冊、5冊と買わないといけないですね(笑)。

小倉:そうですね(笑)。ありがとうございます。

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