
2025.02.19
アルペンの“店舗の現場”までデータドリブンを浸透させる試み 生成AI×kintone活用の3つのポイント
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森脇匡紀氏(以下、森脇):阿部さんが言われたアプローチと、今までの論文の書き方というかメソッドみたいなものがあったかと思うんですけれども、これは何が違うのかなと。
阿部幸大氏(以下、阿部):なるほど。
森脇:新しいものなのかどうなのかというところを(説明いただけるでしょうか)。
阿部:本のタイトルが『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』というタイトルになっているんですが(笑)。
森脇:確かに。新しいということですね。
阿部:アカデミック・ライティングの本は過去にもあるわけですが、何が新しいのかということです。まず重要なことは、「まったく新しい」というタイトルがついていなくても、アーギュメントは何らかの意味で新しいものでないといけないので、そもそも新しいわけです。
どこが新しいのか、つまりこの主張・この論文にはどのように価値があるのかということは、全論文が書くわけですね。なので、「どこが新しいのか」というのは、論文を書く以上必ずつきまとう。説明責任があるわけです。
その時に、例えば過去のアカデミック・ライティングの本であれば、「アカデミック・ライティングの本は従来こうでした。アカデミック・ライティングの本が過去にいっぱいあるにもかかわらず、この本をあえて書くことの価値」というものを、論文は自分で説明しなきゃいけないんですね。
この本の新しいところはいっぱいあるんですが、その中核にあるものの1つは、まさにこのアーギュメントという概念を中核に据えたことです。何が新しかったのかというと、従来は「問いを立てて、それに答えるのが論文である」というのが、おそらく最も影響力のある論文理解なんですよね。これ、ビジネスにもわりと同じようなことがあると思って。
森脇:「問いの設定」とか、よく聞きますよ。
阿部:「課題感」とかね。
森脇:だから、これを言ったら頭が良さそうに聞こえます。
阿部:そうそう(笑)。問いがあることはいいんですが、論文とは何かという時に、問いを立ててそれに答えることだというふうに考えちゃうと、必要十分条件であるとみんなが思ってしまう。問いが絶対に必要で、その問いにどう答えるかに対する注意が散漫になってしまうんですよ。この本では、「問いに答えた時に、何を言うのかこそが大事なんだ」というようなことを言っている。
森脇:なるほど。
阿部:何らかの論証責任が発生するような、つまり問いの答えがアーギュメントになっていないと、くだらない問いにくだらない答えで答えても意味がないので、答えにちゃんと価値が発生するようなかたちで答えないといけないという話をしています。
なので、問いに答えるという形式ではなくて、とにかく強いアーギュメント、つまり主張しなきゃいけないんだというのがこの本の新しいところです。
小倉一葉氏(以下、小倉):すごくおもしろいなと思ったのが、スタートアップもこういうところがあるなと思っていて。大きいアーギュメントというか、スタートアップではよく「問い」とか「課題」って言うんですが、そこを狙おうとすると、もちろん反対意見や「こんなことができるか」って言われる。
ただ(アーギュメントが)大きければ大きいほど、今まで誰も登ったことがないからリターンも大きいわけです。そういうことを、まさに研究の世界でも同じようにやるんだなというのを、本を読みながらなんとなく思ったっていう感じです。
阿部:なるほどね。
小倉:問いが小さいとインパクトもないんだなという感覚を、初心者ながら思って聞いていました。
阿部:たぶんビジネスでも、「お前、そんなの無理だろ」って思われているようなことをやっちゃうやつがいると思うんですが、そういうことです。つまり「めちゃくちゃでかいことを言っているけどできませんでした」というのが、さっきの「すごいアーギュメントを立てたけど論証できませんでした」という状況と一緒です。
小さいことを言って、「それぐらいはできるんじゃないか?」と思っていて、見ていたらできましたと。「自分ではどのへんのことをやるんだろう?」というのを探っていくみたいなことですね。ちなみにスタートアップでの「問い」というのは何なんですか?
小倉:それぞれの起業家が自己資金や借金をしたり、あとは資本をエクイティで調達したりしながら、自分がクリアしたいというかお客さまに届けたいものを作っていったり、サービスを作っていったりすること。その問いの設定。
「お客さまはどんな課題を持っているのか? そのお客さまは誰なのか?」ということを解いていくわけなんです。VCの方々や投資家の方々とか、もちろん目の前のお客さまもそうですし、あとは一緒に働く仲間たちも「それをクリアしたい」と思うものが大きければ大きいほど、みんなですごく遠くに行けるなっていうのもあって。
近ければ、それこそ「自分でやればいいじゃん」という話になるので、みんなじゃないとできないものは何なのか、みんなが納得してもらえるものは何なのかというのを、(書籍を)読みながら「なるほど。こういうことか」って思わせてもらったことがありましたね。
阿部:なるほど。
阿部:今、「なるほど、なるほど」と言っているのは、やはり人文系の研究って1人でやるものがほとんどなんです。アーギュメントをなんて呼んでもいいんですが、会社ではみんなでそれをやるっていうのが、ぜんぜん(研究者とは)違うかもしれないですね。
小倉:確かにそうですね。
阿部:今日もう1個思っていたのは、ビジネスとアカデミズムの連携、いわゆる「産学連携」というものがあって、それはほとんど自然科学なんですね。理系ばっかりなんですよ。
小倉:確かに。
阿部:人文系ってほとんど聞いたことがないと思うんですよね。なので、今日はそういうことを考えるきっかけになるといいなと思っております。
小倉:ありがとうございます。では、続いて1つ目のテーマですね。主張(アーギュメント)を持つためにどうしたらいいかということです。
ビジネスもそうなんですが、それ以前にそもそも研究者の方々、そして研究されている方々の中で、アーギュメントを構築されるためにどんな情報や準備が必要なのか。著書にも書かれていらっしゃいますが、そういった話をお聞かせいただければなと思います。
阿部:これはいろいろあるんですが、アーギュメントを持つために重要なことで、今言おうとしていることは1つあって。たぶんそれは後から言ったほうがいいなと思っているんですが、アーギュメントを持つことってけっこう難しいんです。
みんながよく何をやっちゃうかというと、例えば文学部だと、この本では『アンパンマン』を例に使っているんですが、「『アンパンマン』のジェンダーで卒論を書きたいと思います」と言って持ってきちゃうんですよ。これはいいんですが、「『アンパンマン』のジェンダーについて論文を書く」というのは主張ではないですよね。
「『アンパンマン』のジェンダーについて論文を書きたいです」と言った時に、「えっ、それはどういうことなの? 論証してみてよ」とは、相手は絶対に言わないですよね。これは示すようなことではないんです。
このことを、よく「指さしただけだ」「『アンパンマン』のジェンダーを指さしただけだ」というふうに言うんですが、論証できるような内容になっていないわけです。これは『アンパンマン』のジェンダーというトピックがつまらないという話では決してなくて、『アンパンマン』のジェンダーについてどういう主張を展開したいのかを考えなきゃいけない。
小倉:確かに。
阿部:論じたり調べたりする前に、「自分はこれについて、そもそも何か言いたいんだろうか?」「何かを主張できるんだろうか? 主張したいんだろうか?」みたいなことを考えるのがけっこう重要ですね。
なので、「これはおもしろいと思います」と言って、そこで始めないことがまずはすごく大事です。「そのことについて何をか言わなきゃいけない。そして言えるんだろうか?」というようなことを、まずは考えることが大事かなと思いますね。もっとしゃべっていいですか?
小倉:どうぞ。
阿部:もう1個言うと、さっき言ったようにアカデミックな文章を書くことにおいて、ビジネスだとたぶんそっくりな現象があると思うんです。類似している業界があって、「この会社はこれをやっている」というふうに既存の縄張りがある。
小倉:競合とかね。
阿部:競合がいて、そこの合間を縫うように「じゃあ、こういうサービスはどうだろう?」というふうに(事業を)立ち上げる隙間産業的なものがあると思うんです。これは別にいいですし、成立すると思うんですが、これだとやることが小さくなっちゃうんですよね。
小倉:そうなりがちですね。
阿部:だけど、この調査自体は必要なわけです。もう1個必要なのは、「そもそも自分は何をやりたいのか?」というでっかいビジョンみたいなものを持っておいて、それと現状をすり合わせる。つまり、隙間産業は自分がやりたいことじゃない可能性が高いんですよ。「やれるからやりました」みたいな。
つまりアーギュメントも、「過去にこういう研究がないので、これをやりました」というふうになっちゃうんですね。それで論文は成立しちゃうんですが、それだとつまらないし、「自分、何やってんだろう?」という感じになってきてしまうので。
論文を書くなり何でもいいんですが、「結局、究極的に何がやりたいんだっけ?」ということを常に考えながら、現場をちゃんと見ていくことがすごく大事かなと思います。
小倉:ありがとうございます。
小倉:続いて、相手のアーギュメントを正確に理解する・引き出すコツ、アーギュメントが弱い、矛盾していると感じた場合の修正方法、指摘、改善方法など。
森脇:先生、どこかでホワイトボードを使ってくださいよ。
阿部:使ってください。
森脇:千葉大学(で講演した時の)の先生は、「ホワイトボードがないな」みたいに腹立たしい感じになっていたので。
阿部:(笑)。
森脇:これは怒られて帰ったらまずいなと思って、一生懸命向こうの部屋から(ホワイトボードを)持ってきたんです。
阿部:確か千葉大では、(ホワイトボードが)あると思って後ろを向いたらなくて、「ねぇじゃん」とか言っちゃったんだよね。
(一同笑)
阿部:「すいませんでした」と言って持ってきてもらって。それで、アーギュメントの何だっけ?
小倉:相手のアーギュメントを正確に理解する、引き出すコツ。
阿部:そういうことを考えるには、まずはアーギュメントはどういう形をしているのかを理解することがすごく重要です。
この本でも言っているんですが、「他動詞モデル」。これに対立する概念は自動詞ですが、他動詞とは何かというと、主語(A)、目的語(B)、動詞(V)で言うと、「AがBをVする」という構文で書かれる。それに対して自動詞は「AがVする。終わり」というものです。
どういうことかというと簡単で、他動詞というのは主語A、つまり「俺がこの水のボトルを持つ」と言う時に、(動詞が)「have」だとして、主語Aの「私」が、主語ではないBの「水」に何かをするっていう動詞なんですよ。つまりプレイヤーが2者登場して、主語が主語ではない何かに何かをするというのが他動詞です。
英語の基本動詞の「have」「take」「get」みたいなものは全部他動詞です。今言ったことは自動詞と比べるとわかりやすくて、自動詞は「walk(歩く)」みたいなものなんですが、地面を歩いている、歩いている時に何かに働きかけているという意識って希薄じゃないですか。つまり自動詞っていうのはBが要らない動詞なんですよ。
他動詞には日本語で言うところの「を」が入っているので、対象が必ず存在するようなものが他動詞。だから「他」という漢字を使っていて、自動詞は自分で完結しているので自動詞と言うわけです。
この話を何度もいろんなところでしているんですが、この本では「アーギュメントを他動詞で書け。他動詞の構文で書きなさい」と言っているんです。
森脇:なるほど。
阿部:つまり、さっきの『アンパンマン』のジェンダーでも、ももクロ(ももいろクローバーZ)でも何でもいいですが、「これがおもしろいと思います」って指さした時、その内容は他動詞になっていないわけですね。もはや動詞がない。ただただAを指さしただけなので、「何とかがおもしろい」「トピックがおもしろいと思います」と言っているだけなんですね。
森脇:なるほどね。「これがおもしろいと思います」みたいな。
阿部:どういう例を使ってもいいんですが、『アンパンマン』の例でいいか。
森脇:『アンパンマン』でいいですよね。
阿部:「『アンパンマン』のジェンダーに着目します」というのはAだけですね。「『アンパンマン』では男性が目立ちすぎている」「『アンパンマン』という作品の名前なので、『アンパンマン』は男の物語である」という話は、まだ他動詞になっていない。
他動詞モデルで書こうとすると、「主語は何なのか? 目的語は何なのか? その2者はどういう関係にあるのか?」ということを必ず記述しなきゃいけない構文になるんです。
確かこの本では、「『アンパンマン』においては男性中心主義が女性キャラクターを排除している」というアーギュメントを立てているんですよ。男性中心主義という主語、男性中心主義が女性キャラクターという目的語を排除している。これは他動詞ですね。
この構文で書くとどうなるかというと、まずは3者が何なのかが非常に明確になるんです。「本当にそれは『男性中心主義』という主語でいいのか? 働きかけられる対象は本当に女性キャラクターなのか? そして、その動詞は『排除する』という動詞でいいのか?」というふうに、一つひとつの要素を吟味することができるんですね。
これをさっきの「『アンパンマン』のジェンダーはおもしろいと思います」というものと比べてみてほしいんですが、「『アンパンマン』においては、男性中心主義が女性キャラクターを排除している」って聞いたら、「え?」って思うと思うんです。
これがアーギュメントであるということの証左なんですが、それを必ず他動詞で書かなくてはいけないわけではないんです。ただ、他動詞モデルで書くと、自分が何を言おうとしているのか、何を考えているのかが明確にならざるを得ないんですね。
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