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撤退基準大全 ~先進企業から学ぶ新規事業の撤退基準~(全3記事)

「1年以内に月700万円の売り上げ」小嶋陽菜氏のブランドを買収したyutoriの事業の撤退基準 

「撤退基準大全 ~先進企業から学ぶ新規事業の撤退基準~」と題して開催された本イベント。株式会社unlock 代表取締役社長の津島越朗氏が、新規事業における撤退基準の必要性や多様なパターン、自社に最適な設定法を解説します。本記事では、ソフトバンクやディー・エヌ・エーなど、18社の撤退基準の事例を紹介します。

18社の撤退基準の事例を解説

津島越朗氏:撤退基準を定めればいいという単純な話ではないものの、一定のメリットがありそうだと。定める場合、各社はどのような基準を持っているのでしょうか? いよいよ本題になります。

「多様な撤退基準」ということで、第2部に入ります。今回、18事例を集めました。まずは1事例ずつ見ていきたいと思います。

実際の会社名も入っているんですけども、撤退基準の情報自体がけっこう断片的だったり、まだ抽象的な情報もあります。紹介する会社を代表する撤退基準ではないことをご了承の上、見ていただきたいと思います。

※以下の事例に出てくる撤退基準は会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

まず、サイバーエージェントですね。こちらは、それこそ「AbemaTV(現ABEMA)」とか、最近では『ウマ娘』のヒットとか、直近でもいくつかヒットがある会社です。

こちらの会社、今まで確か100社以上の新規事業用の子会社を作っています。新規事業をやる時には必ず分社化してやるのがサイバーエージェントのスタイルです。分社化して、やはりKPIをドライに見る側面もあるそうです。

「サービスをリリースして4ヶ月の時点で、コミュニティのジャンルのサービスは月間300万PVを超えない、ゲームは月間1,000万円を超えない場合」は撤退と。「新しい会社は3四半期連続で粗利が減少した場合」に撤退というのが、サイバーエージェントの基準だそうです。

ディー・エヌ・エーの撤退基準

次に、ディー・エヌ・エーですね。サービスインキュベーション部門という、新規事業をたくさんやっている部門があるんですけども。

こちらの部門では、初期開発費プラス初動KPIウォッチ費用という運用費に近いようなものを合計して1,000万円(でスタート)ですね。ディー・エヌ・エーにしては比較的小規模な新規事業の場合で情報が見つかったんですけども。

「1,000万円とメンバー1人から3人で最初にスタートして、キャッシュアウトのタイミングで継続の可否を上長と会議。ユーザー熱量・満足度の伸びなどのKPIで総合的に見る」のが、ディー・エヌ・エーの撤退基準の決め方になっています。

先ほどのサイバーエージェントに比べて、やや抽象的に見えると思うんですけど。ディー・エヌ・エーの場合はこんなかたちで総合的に決めるのが特徴で、実際に私が中にいた時もこのようなかたちで決まっていました。

こちらが、delyですね。delyは「クラシル」という、「クックパッド」のある意味、競合・後発というかたちで、動画をメインにしたレシピサイトということで登場しました。先ほどのように、大きなジャイアント、圧倒的1位だった先行プレイヤーがいましたので、こちらに対抗するサービスということで、「クックパッド」を非常に意識してリリースした。

ということもあって、「市場で圧倒的に1位を取れる可能性があるかどうか」を撤退基準にしているということです。もっと具体的な詳細はつかめなかったんですけども、市場の立ち位置、参入の動機から、非常に特徴的だなということでご紹介をしております。

撤退基準がないことが多い製造業

続いて、日立製作所ですね。こちらも非常に明確な基準をお持ちです。製造業って、我々も取引が多いんですけども、一般的に撤退基準をお持ちじゃない会社が非常に多い中で、とても明確な基準をお持ちだなと思います。

売上高営業利益率の目標を8パーセント超に設定している。これを超えないと駄目だと。「5パーセント未満の事業は撤退する」というのが基準になっているそうです。

コングロマリットとして本当にたくさん新規事業を生む会社なので。こうでもしないと、新陳代謝と言うんでしょうかね、それがうまく回らないことがおそらく(この撤退基準を設定された)背景なんじゃないかなと推測します。

ファーストリテイリング柳井社長の方針

続いて、「UNIQLO」のファーストリテイリングですね。こちらも、かつては農業だったり、新規事業を意外にもというか、やってこられている会社です。柳井(正)社長の個人的な方針として、「ご臨終」の基準を新規事業進出前に明確に決める。要は撤退基準を決めてスタートしているみたいです。

「売上目標に届かないもの、差別化できないもの」などは、もうすぐに撤退というような、非常にドライで。「ご臨終」の基準もおそらくわかりやすいと思うんですけども、ある種、あまり情や勘案事項を入れないタイプの撤退基準と言えると思います。

それから、社長さんが有名なストライプインターナショナルです。こちらは、「当初の投資限度額を超えた場合」ということで、これがいくらなのかは当然事業によって違うと思いますし、規模感はわからなかったんですけども、比較的明快な基準をお持ちです。

「1年以内に月700万円の売り上げ」社内で競争し合うyutori

それから、yutoriという会社をご存じの方もいらっしゃると思います。確か(アパレル業界で)最年少上場かな。アパレルの会社で、最近では元AKB48のこじはる(小嶋陽菜)さんが作ったブランドを買収して傘下に入れたことでも、2024年に話題になった会社ですね。

「若者帝国」を作るって、時々テレビ番組とかに出ていますけれども。こちらの社長が率いるyutoriという会社ですね。今も業績が非常に良いみたいです。こちらの会社は、たぶんいくつかブランドを立ち上げるという意味で、新規事業を常にやっているそうなんですけども。

「1年以内に月700万円の売上を達成しなかったら自動的に撤退」という。わかりやすく、そしてあえてドライにした目標を……目標というか基準をお持ちだそうです。理由に関してもおっしゃっています。同世代の人たちがけっこう多いので、やはりみんな社内で競争しているみたいなんですよね。

そういうこともあって、社長の好き嫌いでこういうことで決まる組織なんだとなると、そこに会社としてのほころび、弱さが出るというようなお考えで、あえてこのようにしているみたいです。

都度判断するリクルートのスタイル

それから、リクルートですね。こちらはあまりドライではない撤退基準です。「数値データが不振であることを理由に突然撤退を判断することはない」と。

「事業開発チームがこの先何年かけて問題のブレイクスルーを提案できるか」を見て、都度判断しているというのがリクルートの撤退基準。撤退基準があってないようなと言うとあれですけども、わりと都度判断するのがリクルートのスタイル。

実際、私も10個以上の撤退をリクルートの中で見てきたんですけど、やはりこういうかたちでしたね。私が知る限り、スタートする前に明確に基準を決めることもないですし、何らかの共通基準でもってあらゆる事業に予告してジャッジしているというのもなさそう。

ただリクルートの場合、主力の人材ビジネスがGDPの景気の波の影響を非常にビビッドに受ける。

なので、外から見るとちょっと芽があるように見える事業でも、業績が悪くなった時に、わりと大胆にガサッといく。そういったものがリクルートの特徴かなと、私としては見ています。

ソフトバンクの撤退基準

続いて、ソフトバンク。こちらは「失敗して撤退・精算する時にグループ全体の事業価値の3割を超える損失が出るか否か」で判断しているみたいです。

当然、ソフトバンクはすごくたくさん事業をやっているので、大と小でおそらく基準は違うんだろうなと思うんですけどね。こういうBS的な撤退基準を適用する事業はたぶん多くないはずなので、ある意味孫さんが大勝負をかけている時の話だと思うんですけど。

それでも、やはり事業投資会社的な側面が非常に強いと思うんですけども、そういう会社らしい撤退基準の持ち方だなということでご紹介をしています。

ローンチして約3ヶ月のPLを初期データと比較する「メルカリ」

それから、メルカリですね。こちらは「ローンチして3ヶ月くらいのPL」を、なんとメルカリの初期のデータと比較して決めるみたいです。私がもしメルカリの社員さんだったら、なかなか酷だなと思うんですけども。これはなぜかというと、「5年前に『メルカリ』が生まれた状況を再現したい」と。ここが理由みたいです。

例えばサービスをローンチして3ヶ月だと、どのくらいの広告費を使って、どのくらい成長したといった「メルカリ」の数字をやはり基準にして。新規事業をプロジェクト制にして可視化して、ルールを作って、もうヒリヒリしながらやっている。

というのが、実際に『週刊ダイヤモンド』のインタビューの中で得た情報です。こういった進め方をしているそうで、非常に厳しいなと思うんですけれど。「こんな大ヒット、メガヒットサービスと比べられるんだ」というところは、中にいる方としては非常に酷なんですけど。

逆に言うと、もうそうじゃないと意味がないというふうに思っているということですよね。「小さな新規事業を作る気はありません」というふうに勝手に深読みをしております。次に、CARTA HOLDINGSというデジタルマーケティングの会社ですね。「ECナビ」というのを運営されている企業さんなんですけども。

こちらは「代表と事業責任者が四半期の粗利や他のKPIを元に、新規事業承認の際に撤退検討ラインを設定。責任者が役員にもう一度プレゼンすることで再設定可能」というかたちで。けっこう多くの会社がやっていそうなと言うと失礼ですけども……やり方で総合的に撤退を判断されているなという撤退基準だなというふうに思います。

事業展開のフェーズを4つに分け撤退基準を設定する「ラクスル」

続いて、ラクスルですね。もう日本のユニコーンになっておりますけれども。こちらはかなり具体的で、そしてかなり参考になる情報を得ることができましたので、この後にもう少し詳細にご説明したいんですけども。

「事業展開のフェーズを4つに分けて、フェーズごとに撤退基準を設定。それで都度判断している」というふうなことです。まず、フェーズが4つという話をしました。「発見」「検証」「効率化」「拡張」というフェーズが置かれています。

それぞれに目的があって。「発見」は、まず「プロダクト/サービスに価値があるのか?」。どういうことかというと、「このサービスは無料であれば日々使い続けてくれるのか?」という問いからスタートしているんですね。

これが非常にまず有益・有用な情報かなと、私としては思います。結局、「タダでも使ってくれないものって駄目だよね」ということですね。

余談ですけども、これをお作りになった方がラクスルの創業者の松本(恭攝)さんで。松本さんは、「経営者は質の高い問いを投げかけることが重要だ」とおっしゃっていました。まさにこのあたりに収れんされているんだろうなと思います。

最初から売上を追わない

具体的なKPIとしては、AHAカスタマー。喜んでくれた方の数が50社程度。トライアルユーザーの中で喜んでくれたカスタマー、使ってくれた人の中で50パーセント、半分以上の人が喜んでくれた、満足してくれた「すごいね」と言ってくれた。

だいたい1年から1年半の間、こういったことを基準に見極めるそうです。けっこう長いなと思いました。でも、現実的に本当にPoCをプロダクト改善しながらやっていくとすぐにこれくらいの時間が経っちゃうので、すごく経験に裏打ちされた情報だなと思いました。

無料だったらけっこう喜んでくれるなとわかった後に、やはりお金を払ってもらえないと事業として成立しませんので、次に「お金を払っても使う価値があるのか?」を検証するそうです。

こちらは、優良顧客数をだいたい50社集めるそうです。ポイントは、やはり最初から売上を追わないところですね。続いて、「効率化」です。利益を出すというのは、ある方の言葉を借りれば「どれくらい工夫ができたか」と言えるそうです。なので、売上が立つことがわかった後に、利益が出るかという順番で考えるということですね。

「収益を伴う事業として成立するか?」「問合せを獲得する方法はあるか?」「契約率は十分か?」「利益を出すには十分な粗利が出ているか?」。つまり、集客、商談に当然コストがかかるわけですよね。よくCPAと言われる(顧客)獲得単価の話が非常に大きいです。事業計画でもよく読み間違えるポイントです。

ここがやはりかなり圧迫しています。結果的に、原価は当然超えているんですけども、獲得コストによって利益が出ない新規事業はやはりけっこうあります。ここをしっかりと確認しにいっている。

半年から1年かけて確かめるポイント

「セールス/マーケティングのチャネルを発見する」。これが最初にきているのは、私は個人的に非常に印象的でした。やはりここが非常に重要なんですよね。営業成約率/コンバージョンレートも同じ話です。

ここまでがセットで、どちらかというと粗利率はその結果ですね。粗利率自体を追いかけるというか、この2つが非常に重要。これが適切なものが見えてくると、自ずと利益率は出てくるということだと思います。

営業、マーケティング、価格設定がどうなのか。こういったことを半年から1年かけて確かめるということですね。この後に初めてスケールに関する話をしていくというかたちです。

ポイントはやはり、すべて一緒くたにしないことです。検証することを分解して、各フェーズの中で見るべきポイントを絞って撤退の判断をしているということです。いきなりここで「売上が700万円いっていないじゃないか」ということをやっていないところですね。

これもラクスルだけが正しいというわけじゃなくて。ラクスルの進め方はこうということなので、これ自体が正解というわけじゃないと思うんですけども、でも私としても、これは非常に参考になりますし、共感するところは大きいです。

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