リモート環境下でイノベーションを起こすために

中川紘司氏(以下、中川):そんな中で、オフィスって何のためにあるのかと言うと、やっぱりイノベーションを起こすためにあるんじゃないかなと思っています。

この“イノベーションを起こす”を分解していくと、コミュニケーションストレスが限りなくゼロになり、みんなのモチベーションが上がるような世界がつくれれば、イノベーションが起きる環境が整ってくると思っているんです。

なので、コミュニケーションストレスを減らし、モチベーションを上げるためのルールとツールとプレイスを実現するために、6象限に分けてさまざまな施策をトライアンドエラーで展開をさせていただいております。

大津裕史氏(以下、大津):こういうフレームワークがあるだけで、向き合いやすいですよね。

中川:やはり、どこから手をつけていいのか難しいテーマだと思うんです。まさかこんなに皆がテレワークする時代が来るとは思わなかったじゃないですか(笑)。

大津:本当にそうですよね(笑)。

中川:ニューノーマルの世界に僕らは飛び込んだと思うんです。なので、コミュニケーションのルールも変えていくべきだと思っています。例えば我々は、「もう会議室で会議するな」とはっきり言っています。

大津:そうなんですか!

社員の効率を促進するフリーアドレスのコツ

中川:なぜかと言うと、会議室で会議をすると、相手と会議室の時間調整でどんどん実施までの時間が延びてしまいます。

加えて、「調整ができたからとりあえず1時間取っとこう」とかが行われてしまう。本来5分で判断できる内容に対して、1時間も掛かってしまうという究極の無駄が積み重なっていきます。

会議室での会議をやめると何が起こるかと言うと、「○○さん、ちょっとこれいいですか?」という雑談が増えていきます。洗練していくと、本質的な問いかけだけが来るので、社員それぞれがスピーディーで核心を突いたやりとりができるようになっていく。

なので、実は会議室での会議は非常に悪なんじゃないかと思っていて。それを減らしていこうと。ただ、そんなにすぐにはできなくてですね。

大津:確かにそうですね。

中川:まず必須条件はフリーアドレスだったりします。なぜかと言うと、固定席があって横がミチミチに詰まっていると、雑談する物理的スペースがないんです。

そうすると「ちょっとあっち来てください」となって、結果的に会議室を取らなきゃいけなくなります。なので、我々は常に横が空いているくらいのフリーアドレス空間を作っているんです。

大津:広めのフリーアドレスを確保することが狙いなんですね。

中川:そうなんです。なので、社員の数と同じくらいの席数のフリーアドレスを作っています。そうすると横に座って「ちょっといいですか?」って話しかけやすくなるんです。なので、良質なコミュニケーションを生むプレイスとしてのフリーアドレスを提案しています。

あと最近で言えば、テレワークでも簡単につながるオフィス。要するに、テレワークの人が不利益を被っちゃいけないと思うんです。

例えば、同じ資料が見えないとか、同じホワイトボードが使えないって、やっぱり不利益だと思っています。そうすると、会社に行ったほうがいいと思ってしまうので、そうならないようにする必要があります。あとは、コミュニケーションにいいツールですね。

あと、モチベーションが上がるルールとして、毎週30分は必ず1on1の時間を設けています。これはかなりの時間コストがすごく掛かりますが、これはもう鉄則にしています。

実は、弊社でやってみると最初はすごく失敗しました。20人〜30人の部下を持っていたマネージャーがいたんですが、ずっと1on1ばっかりになってしまって(笑)。今は最大で7人までしか部下を持てないルールに変更しました。

ただ、これもやってみてわかったのですが、1on1をやればやるほどモチベーションが上がっていく組織と、下がっていく組織に分かれたんです。

1on1でモチベーションが上がる組織と下がる組織の原因

大津:そうなんですか!

中川:これはなぜかと言うと、原因は明確です。上司が話を聞かない組織はモチベーションがだだ下がりでした。説教部屋みたいになっていたんです(笑)。

大津:確かに(笑)。

中川:我々は1on1に対して、さまざまなトレーニングを行いました。話を聞くためのトレーニングとかですね。

しかし、トレーニングをしてもすぐに忘れてしまうんですね。なので、部屋の中に、1on1が終わると自分が何パーセントしゃべっていたかがわかるセンサーを置きました。

これによって、「今回は65パーセントでしゃべりすぎちゃったな。じゃあ次回はもうちょっと話を聞こう」ということで、自分の1on1を改められる。

すると不思議なくらい部下の話を聞くことができるマネージャーが増えまして。社員も安心して毎週30分コミュニケーションができています。「本当は最近こういうこと困ってるんですよね~」「いや、特に話すことないんですけど」みたいな。

アジェンダを決めないことをルールにしているので、すごくダラダラとした空間なんですが、部下からすると必ず毎週30分上司が時間を取ってくれる。かつ、上司はちゃんと聞いてくれるルールとツールができたので、モチベーションの向上に寄与しているかなと思っています。

大津:ちなみに、センサーはどこでも使えるんですか?

中川:今は物理的なマイクを置いているので、特定のセットがされた場所でしか使えないんですが、今いろんなWeb会議ベンダーさんとディスカッションをさせていただいていて、Web会議空間の発話量をAPIでもらえるように交渉を進めています。

大津:Web会議での発言量が可視化されたらすごく素敵ですよね。

中川:おっしゃるとおりです。間もなくそういったリリースができると思いますので、ご期待してお待ちください。

大津:そうなんですね。それはすぐにでも使いたいです。

人事評価のオープン化は何をもたらしたのか?

中川:ちなみに大津さんはけっこうしゃべるほうですか?

大津:私はけっこうしゃべるほうなんですよ。でも、客観的に可視化されると、抑止力につながっていいのかなと思いました。

中川:まさにおっしゃるとおりで。私も初めてセンサーを入れた時に、話を聞こうと思って1on1したんですけど、なんと85パーセントもしゃべっていたんです(笑)。

大津:自分だと気付かないですよね。

中川:気づかないです。特に伝えたいことが多いと、ワーっと伝えがちなんですが、それは部下にとってはあんまり良くない。なので、自分でしゃべりすぎだなと思うマネージャー職の方は、弊社でテストができますので。ぜひ一度チャレンジしていただければと思います。

そして我々は、さまざまなルール、ツール、プレイスという軸で、コミュニケーションとモチベーションの活性化につながる取り組みをさせていただいております。

例えば、目標管理をオープンにする施策もご紹介します。これはSalesforceさんの「V2MOM」という仕組です。これを自社で作りまして、「どこまで成果を上げれば今期の目標として100点だよ」といったキーワードを打ち出しすんですね。

ちゃんとオープンな空間で他の社員からも見える仕組みです。弊社ではまず人事評価の仕組みをオープンにしました。

人事評価って、一般的には隠される情報だと思うんですが、我々は出すほうに挑戦してみたんですね。結果から言うと、良いことがたくさん起こりました。

具体的に何が良かったかと言うと、社内でまったく関係ない人に相談する機会が大きく減りました。要するに、○○さんが何をどこまで達成すると評価されるかが明確に共有されているので、関係ないことを相談しても意味がなくなっていきます。

大津:確かにそうなりそうですね。

中川:結果的に、目標達成に関係がある人との会話が増えていきました。「この人は僕の悩みを解決してくれるミッションを持っている。この人に相談しよう」という事象が起こりやすくなったかなと思います。

あともう1つよかったことは、リモートが増えるとお互いの仕事ってますます見えなくなっていきますよね。そうすると、「あの人ってあんまり仕事してないよね」という発言はどうしても出がちなんです。

でも、ちゃんと目標も書いているし、進捗も載っているので、そこを見たらこの人がどこまで仕事をしているかが明確になっている。なので、一歩先のコミュニケーションが生まれる。この点についても、ニューノーマルの時代に非常に合っていたと思います。

テレワーク時代には、従来のセグメントはもう機能しない

中川:あとは、ありがとうを贈り合うような仕組みについてもお話しさせてください。やはり私たちがオフィスにいたときは、「この間ありがとうございます!」などが言いやすかったと思うんです。

しかし、テレワークに移行していくと、直接会って感謝を伝える機会が減っていきますので、こういったサービスをご提供させていただいております。

実際にこのサービスのデータを見ていると、テレワークに移行したことで悩みが大きく変わってきていたんです。まずお伝えしたいのが、多様性を受け入れる必要性についてです。企業にとって多様性の許容が必要な時代になったと思っています。

我々はこんなアンケートを取りました。それにあたって、社員のセグメンテーションをゼロから作り直しました。今までは、営業やSEやマネージャーなど、職種によるセグメントだったんですけれども。

そのセグメントが、もう合わないなと感じてきていました。なので、「あなたは1人暮らしですか?」「2人以上で住んでいますか?」「育児・介護中ですか?」という3象限と、「家に快適なテレワーク環境がありますか? ありませんか?」という3×2の6マスで、社員をセグメントし直したんです。

なぜこの取り組みを実施したかと言えば、JINSさんというメガネ屋さんがあるじゃないですか。JINSさんってすごくおもしろくて、集中力を測るメガネとかを作っているんですね。

そのJINSさんがおっしゃるには、左3つのセグメントにいる人は、オフィスでの集中力を50パーセントとすると、テレワークでそれ以上の集中力を出せている。しかし、右下3つのセグメントの人は、どうやってもオフィスより高い集中力は出せないらしいのです。

大津:確かにそうかもしれませんね。

テレワークへの移行で生じる社員の5段階の欲求変化

中川:要するに、右下のセグメントに対して、「会社に来い」と言うのではなくて、会社で仕事したいと思っているのなら、働きやすい環境を準備してあげるべきだと思います。

左上3つのセグメントに対しては、家のほうが仕事ができると思っているのであれば、テレワークが機能するルールを作らなきゃいけないと思ったんですね。ですので、この6つに社員をセグメントしまして、それぞれ別の打ち手を実施しております。

さらにアンケートで「なにか困ってることないですか? なんでもいいから書いてくださいね」とアンケートを取ると、「実は自宅にインターネット回線がないんです」という社員がけっこう多くて。

大津:確かに! 弊社でもその意見はありましたね。

中川:「ミーティングをスマホでやってます」とか、「突然テレワークしろって言われたので、どうしようもありませんでした」みたいな声だったり、椅子がないとかですね。

テレワークになった2週目くらいからは、「いいマイクスピーカーがほしい」とか、「音が聞きにくい」とか、「セカンドモニターが家にないので仕事がしづらい」という意見が出てきました。

3週目からは、「さみしい」みたいな声がけっこう出てきました。4週目からは、やった仕事に対して評価をしてほしい、褒めてほしいみたいな声が増えてきました。5週目くらいからは、「評価の基準ってどうなってますか?」みたいな意見が増えていて、要するに近くにマネージャーがいないので不安になっている。

そういった悩みごとがどんどん出てきたので、これってマッピングしてみると……基本的環境があって、次にクオリティとリレーション。次に褒めたい・褒められたいがきて、今はゴールの達成ということで、マズローの5段階承認欲求みたいに、社員の悩みごとって進化していくんだなぁということがわかりました。

ニューノーマルな6事象セグメントの各特徴とは

もちろんそれに対して弊社は、さまざまな打ち手を実施し、お客さまの課題解決のご支援をさせていただいています。リモート移行で生じる社員の5段階の欲求変化については、我々も非常に気付きが多く、さまざまなお客さまに、5段階の分析ができるようなアセスメントサービスを作らせていただいております。

ちなみに、アンケートにお答えいただくと、その企業のワークスタイルスコアをお返ししてます。これはさまざまなアンケート結果を合計したスコアです。これは、スコアの高い低いが問題ではなくて、良くなっているのか、悪くなっているのかを可視化しましょうというものになります。

先ほどのマズローの5段階で言うと、自社が今どのあたりにいらっしゃるのか。リレーションまではできているので、「次のステップである、仲間の承認に対してサポートしてあげるべき段階に来てらっしゃいますね」といったご提案を差し上げたり。

あとは、先ほどの6象限のセグメントごとで社員のワークスタイルに関する点数を測ってみるとおもしろくて。下のセグメントの人ほどスコアが低くなるんですね。

大津:ん~、なるほど。

中川:家に快適なテレワーク環境がないのでスコアがうまく上がらない。生産性が高まらないのは、ある意味当たり前のことかなと思うんですけども。

じゃあこの下のセグメントの方に対して、しっかりと打ち手を実施しようということで、我々は今、社員にThink Lab さんの「HOME」という自宅で使える仕切りの付いたテーブルを配っているんです。

大津:家にですか?

中川:家にです。家でコンパクトに集中して仕事ができるような環境を提供してみたら、スコアにどんな変化があるんだろうと試しています。

大津:なるほどですね。

中川:ルール、ツール、プレイス。それぞれの設問ごとにスコアを測ったり、期待と満足の2軸で今の現在地を見せられるようにもしています。

これは要するに、社員の期待値が低いことに対して、会社が投資してもあんまり成果って上がらないと明確になるんですね。なので、社員が期待していることに対して、ちゃんと打ち手を実施できるようになるという。

例えば、社員が期待していないのに満足度が高い場合って、オーバーコストになっている可能性があるわけですね。なので、「ここはちょっと手を抜いていきませんか?」みたいなご提案が正しくできるように、定量的に時系列で見ていただけるようなアセスメントサービスも作らせていただきました。

ぜひこういったシステムをご活用いただいて、企業のみなさまのよりよい働き方や、ニューノーマル時代の新しい働き方を作っていくご支援ができればと思っております。

我々、Web電話帳のPHONE APPLIは、多くの企業の働き方改革のご支援をたくさんさせていただいておりましたが、ますます複雑になっていく世の中でご支援させていただければと思っております。

些細なご相談でも頂戴できればと思っております。ということで、私からのご説明は以上になります。ありがとうございました。

効果的なアンケートを実施するための掟

大津:ありがとうございました。でも本当にPHONE APPLIがあると、環境が変化していく中で、どのように社員を気遣っていけばいいのかとか、どんな環境を作っていけばいいのかというデータを総合的に可視化して、PDCAを回すことができるということですよね。

中川:はい、そうでございます。

大津:弊社も今回のコロナ禍の中で、働き方をどう変えていくべきか、人事も含めてPDCAを回しているんですが、やはりフィットするまでに時間が掛かっていて。

社員からするとやっぱり不安じゃないですか。「もっとこれもしてくれ」「あれもしてくれ」ってコミュニケーションにおいても負荷が掛かっている感じがするんです。

なので、客観的に状況が見えたり、不満のあるセグメントが存在するんだと、会社の経営陣や意思決定層に伝わっていると社員が、それを実感できると精神的に安定するというか。

中川:そうですね。ただアンケートってけっこうデメリットもあると思っていて。

「なにか困ってることないですか?」って言うと、みんな困っていことを書くんですね。「どうしてほしいですか?」と言うと、「もっと良くしてくれ!」「もっと良くしてくれ!」ってコメントしか来ないんです。

要するに、アンケートって満足している人って書かないので。

でも期待と満足の2軸に分けて分析することで、期待していることで困っているのか、期待してないけど満足しているのか。そういうアンバランスなところが見えてくるので、そこをチューニングしていくことを、非常に細かくやらなければいけない時代に入っちゃったなと思いますね。

大津:アンケートで効果的なデータを取得するためには、聞き方が大事になってくるということですね。

中川:その通りです。

大津:なるほど、ありがとうございます。