自律的な組織になるまでの、3つのフェーズ

斉藤知明氏:私のほうで、自律的でない組織から自律的な組織になっていくまでに、大きく3段階を経るなと整理をしています。

1つ目が先ほどありました「リーダーだけが意思決定をしており、各々の意思が反映されない組織」。(現場が意思を)持っていないわけではない。だけど上層部に反映されない。つまり上層部が吸い上げられていないのか、現場から発されていないのか、組織に反映されていないのか見えない、分からないという組織。これがフェーズ1。

フェーズ2は、現場の意思決定が尊重されるけれども分散した意思決定に共通の目的がなく、別々のベクトルに進んでしまっている。その結果、個々人が組織としての総量が増えない方向の意思決定をしてしまっているのではないか、ということを色分けで表しています。

なぜなら、会社として「これが大事だ」。これもチームごとの決定事として、決定事項だけを伝達して、メンバーが「やりたい」と言ったことを全部尊重しちゃう。そこになってしまうと、このフェーズ2に陥りがちですし。“受け入れる”と“指摘をする”と“権限委譲”のバランスが非常に重要だなと思っております。

Q&Aにさっそく書いていただいているんですけれども、「フェーズ2は必ず踏む必要のあるプロセスだと感じますか?」。これは本当に重要な質問だと思っておりまして。

私はこのフェーズ2は、踏まなくて済むなら踏まないほうがいいと思います。ただ踏むことによって、意思決定して反映されたという成功体験を積まないといけないな、とも思っておりまして。このフェーズ2と3が一気に積み上げられるなら、それに越したことはないなと考えております。

そのフェーズ3としましては「共通目的と現場の意思がある」。つまりリーダーだけが意思決定しているわけでもないですし、現場も共通の目的に対して、同じ方向を向いて意思決定ができている組織を目指していきたい。

このフェーズ3の中では、あえて全員の○の色を塗っていません。全員が全員そう(意思決定をするの)ではなくていい。多くのメンバーが意思を持ち、相互に横で作用しあっている状態を達成できれば、1つの自律的な組織と言えるのではないでしょうか。

自律的な行動を増やすための、3つの要素の好循環

では、今の話をまとめると「どうすれば自律的な意思決定を行う組織になっていくか?」。これは、3つあると思っています。「目的の伝達と再解釈」、「権限委譲」プラス「挑戦への称賛」。

目的が伝わっていない組織においては、先ほどのバラバラな意思決定が行われてしまう。ないしは、自分の言葉で目的を解釈できていない場合は「決められたことだから」という意思決定で進んでしまう。「決められたことだからやります」という習慣で進んでしまう。すると、自分で考える余地がなかなか生まれづらくなってしまう。

だからこそ各々が伝達され、意思決定・目的を再解釈できる習慣が重要。また2つめとしては、そのうえでどこまでだったら決めていい・どこからは決められないという、範囲を明確にしたほうがいい。というのが、この権限委譲であると考えています。

現場で「どこまで決めていいんだろう?」という、その綱引きみたいなのがあると思うんですよ。「ここまでは私はちょっと……うーん、権限が及ばないし、やらないほうがいいのかしら」という領域と「とはいえここまで、経営・リーダーとしては意思決定をしてほしいと思っているんだよね」というこの兼ね合いを、ちゃんとコミュニケーションを取ることが重要。これが1つ、権限委譲という項目です。

3点目の項目、挑戦への称賛。実際にやったことに対して「なんでそんなことをやったの?」「聞いていない」「そんなことをするな」。これは、次のサイクルを阻むものだなと思っていますので。

この3つが好循環で回っていくと、自律的な行動を増やしていくことができるのではないでしょうか。

カチタス新井社長が、絶対にやっていることとは?

具体的な例を、1つずつお話しさせていただきたいなと思っております。この“目的の伝達と再解釈”の中で、3つ例を挙げさせてもらうんですけれども。

「経営会議の直後に中間管理職との会議を設定する」としております。これは例えば、不動産会社のカチタスさんという会社さんがいらっしゃるんですけれども。そこの新井(健資)社長が「絶対にやっていることがある」と。

「部署の会議で『こういうふうに我々の部は進んでいくからな』と全体に対して説明する前に、必ずその現場からの質問が集まる中間管理職に対して『なぜそういう決定をしたのか』『それは会社にとってチームにとって部にとって、なぜ必要で、どういう意思決定なのか』を伝える会議を設定している」と伺いました。

部会、経営会議で大きな意思決定をした時に、じゃあ現場全員に対しても同じ密度で伝えるのか? それとも同じ濃度で伝えるのか? 

リーダー陣に対してまず丁寧に伝えますとなった時、リーダー陣がメンバー陣に対して今度は「そういえば部会全体でそういう話をしたけど、どういうことだったんですかね」という問いに対して答える習慣ができるようになると。

目的に対して「Why」を答える習慣ができてくるので、経営が全体に対して説明をする、目的を説明する。プラス、リーダーも現場に対して説明できる。するとメンバーも、自分の中で目的をより理解できる時間が取れる。なぜならその対話の時間が、対経営よりもリーダーとの方が多いから。

という、この「中間管理職との会議を設定する」。これが1つ、目的を伝達するために重要だなと思っています。

目的を各々が理解する“場作り”の必要性

また、今度はそのリーダーの説明する責任と伝えているんですけれども。目的を伝達するにあたって、経営全体で話をする。部署全体で話をするだけではなくって、チームのリーダー、例えば10人とか7人8人のリーダーから「どういうふうに今週は進んでいく、今月は進んでいく」。という説明を、週1回というのが頻度が多ければ、月1回でもいいと思うんですけど、全体で1時間。各リーダーから5分ずつとかで指針と進捗を共有する全社会議というものを実施しております。

この権限委譲に対しても「メンバーに対して行う権限委譲」と「リーダーに対して行う権限委譲」の中で、リーダーに対して行う権限委譲の説明責任を果たしてもらう。また、その目的を自分の言葉で語れるようにすることで、会社事で「決まったことだから」じゃなくて「なぜそれをするのか?」が各々のポジションを持っているリーダーから説明される。という環境を生むことができるのではないでしょうか。

ここは、さっきの経営がどう説明するか、リーダーがどう説明するかの順番だったんですけど。次は目的と価値観の再解釈。メンバーの一人ひとりが自分の会社の目的、会社の価値観を自分の言葉に直して再解釈する。という場作りをしているんですけれども。

(スライドを指して)これは何をしているかと言うと、行動指針のワークショップをしているんですね。弊社で「バリュー」と呼んでいるんですけれども。Do・Dive・Deep・Dialogue・Be of Serviceというバリューが社内にはございまして。この「Do」と聞いても、自分の言葉に直すのがすごく難しいなと思っています。

「するってことかな」「何か実施すればいいのかな」。実はこのDoというのは、自律的に行動をするプロフェッショナルであってほしいという思いがあります。

じゃあ「自分の中で、自律的に行動するプロフェッショナルらしい行動ってなんだろう? 今の行動を今後こうしていったら、もっとこうなるんじゃないかな?」という行動をみんなに書いてもらって。成功体験と、これからしていきたい行動とを共有しあうワークショップを開催したんですね。

このワークショップを通して「この人が思っているうちの価値観ってこういうものだ」「私の思っている価値観ってこういうものだ」。そこには必ずリーダーが混ざっていると「なるほど。チームで思っているうちの『Do・Dive・Deep』というのは、こういうものなんだな」というのを再解釈する習慣がつきます、と。

これは1つバリューを例に取ったんですけれども。このバリューは組織を運営していくうえで、会社にとって重要な価値観を表していると思っています。

だからこそ「我々らしい行動ってなんなのか?」の、価値観を共有するための場所を作る必要がある。そのための、こういうバリューワークショップを実施しています。

共通してチームで決めている意思決定、会社で決めている意思決定。絶対レベルはあるんですよね。「資金調達するぞ」だったりだとか「事業をピボットするぞ」だったりですとか。「こういう新しい事業を作るぞ」という意思決定って、どうしても経営層で起こることが多くなってしまうと思うんですけれども。「その意思決定を全員でやりましょう」って(なかなか)できないです。

だからこそ、その意思決定の背景を知る。「なぜそれが必要なのか?」という目的を、各々が理解する場作りをする必要がある。というのが、この“目的の伝達と再解釈”というパートでのお話でした。

権限委譲=問う責任&説明する責任

続きまして“正しい権限委譲とは”なんですが、みなさんとこのお話をする中で賛否両論が出るとおもしろいなと思っているんですけれども。この“問う責任”と“説明する責任”と、権限委譲というものを定義づけています。

さきほど書いていただいたコメントにもあったんですけど「任せるのと放任は違いますよね」。まさに僕はここで「権限委譲とほったらかし(は違う)」という表現を使ったんですけれども。

(相手に)お任せした時に、みんながしてくれた行動に対して「もう任せたから、私はなにもコメントしませんよ」となってしまうと、今度は本当にそれが会社にとって重要なのか? チームにとって重要なのか? というディスカッションが起こらないまま、各々が意思決定をする組織になってしまうのではないかと考えています。

この“問う責任”というのが任せる側の責任なんですよね。“説明する責任”は任された側の責任。責任と定義をしているんですけれども。任された側は、なぜその意思決定をしたのか? なぜそれが重要なのか? これを説明する責任を持ってもらう。

一方で、ちゃんとチームにとって決定したケツ持ちは、任せたほうの責任なんですよね。なんですけど、任せた以上は「その結果につながるのかどうかを、ちゃんと対話をする責任」というものをお互いに話さない以上においては、どうしても先ほどのフェーズ2とフェーズ3の壁を越えられないのではないかと、私は考えています。

これが、“問う責任”と“説明する責任”で。この“問う責任”を果たすって、なかなか勇気がいるんですよね。

「『任せたのに口出ししている』『ガミガミ言っている』と思われたらどうしよう」と、ビクビクもしますし。

一方で“説明する責任”を負うと、今度はメンバーがなかなか難しい。「その説明がうまく通じなかったらどうしよう」だったりですとか「根拠を集めないといけないから時間がかかってしまう」。これも綱引きが起こる話だなと思っているんですが、この2つの責任が噛み合わさると、自律的な組織というものを作り出すことができると思っています。

でもこれを「当たり前だよね」って思ってしまうと、事故が起きると思っていまして。現場のメンバーに対して「いや、任せたんだから説明してよ」って言ってしまうと「いや任せたのにほっといてよ」と、相反してしまうからこそ、このメンバーのマインドセットアップというものを、前始末としてやっていたりします。

自分が上司だったら、どんな若手に任せたい?

(スライドを指して)これはUnipos社内での、新卒の研究資料の一幕なんですけれども。どんな人であってほしいのか、イケてる・任せたい人ってこんな人なんだぜというものを伝えて、こういう説明責任を果たしてほしいんだということを伝える研修をしています。

組織に入った以上「成長していきたい」「いろんな権限を持っていきたい」「ポジションも上げていきたい」「お客さんに貢献していきたい」「もっとお給料を稼ぎたい。そのためにポジションを上げていきたい」。そんなシンプルな欲もあると思うんです。

だからこそ「マネージャーから見て、任せたい人ってどういう人なんだろうね?」というのを伝えて、新卒のみなさんへの期待を伝えていたりします。

右のページ、けっこうピーキーな書き方をしていて。社内資料から引っ張ってきているので、ぜひ……。なんでしょうね、率直にお伝えしたいなと思って持ってきたんですけれども。

「NG?」「Good」という表現をしてまして。例えばオーダーへの返し方1つとっても、元気よく「はい、わかりました」と言ってくれるのはうれしいんだけど、これだと本当に伝わっているのかな? とか。正直わからないことがあります。

「はい、わかりました」ではなく「つまりあなたが言っていることって『こういう目的に対してこういう手段を取る』ということだよね?」って、要約返しをする。これをすることによって「こいつは理解しているんだな」「目的をちゃんと理解したんだな」「この人は理解してくれたんだな」というものが、オーダーした側に伝わる。これを伝えているんですよね。

「はい、わかりました!」と言って、2日後に蓋を開けてみるとぜんぜん違うことをやっていたとなった時。リーダーからすると「いや、違うことをやっていたから正さないといけない! 口を出さないと!」ってなりますし、メンバーからすると「いや、言ってたことと違うじゃん!」というすごい不幸な関係、すれ違いが起こってしまう。

これは、リーダーが伝えるのを怠ったという責任ももちろんあるんですけれども。メンバーからも「ちゃんと伝わったよ」というアピールをして、お互いにコミットしあわないと、意思伝達って起こり得ないと思っています。

だからこそメンバーにとって、この要約返しをする。実はこれはすごくシンプルな手段なんだけれども、オーダーを受け取る時、任される人の特徴として出てくるのではないか。

こんなことを新卒研修の中で、経営として私から全体に対してお話をしていたりします。そうすることで「こういう自律的な組織を作っていきたい。だからこそ、このメンバーとしてはこういう責任を果たしてほしいし、リーダーとしてはこういう責任を果たすし、経理としてはこういう責任を果たす」というコミットをお互いにしあう。こういったことを重要視していたりします。

他にも、話す頻度を増やすというシンプルな話もあるので。今のオンラインの環境では、雑談ベースで話をしようとか、こういう課題を持った時に声をかけることが難しくなってきた。そんな中だからこそ、週1回30分メンバーと対話をする1on1をして、意思決定に対して悩みの相談に乗る時間としておいています。

なので「ノーアジェンダでいいよ。こういうふうに話をしようね」というような時間を持っておくことによって、メンバーに対しては、意思決定に対して(メンバーの意見を)問う場になりますし。メンバーからしてみると、会社ごとだったりですとか、チームごとの意思決定を問うことができる。そういう相互の場にできるといいなというかたちで、このリーダーとメンバーの1on1を実際していったりします。

「“問う責任”、まさに昨晩、実感したところです」ってコメントをいただいたんですけど“説明する責任”へのレスはまだない。メンバーのみなさんの心情って、すごくいろんなパターンに分かれると思いまして。

「ちゃんと結果に対してのクエスチョンをくれたから、確かに自分が考えられていなかったな。じゃあどうやって、結果に対してコミットしていこうか」と考えるのか、それとも「任されていたのに、なんで口出しされているんだろう」という考えなのか。いろんなケースがあると思うんですけど。

その時に「こういう態度で臨んでほしいんだ」というのを、ちゃんと伝えないといけないと思っておりまして。それがメンバーのマインドセットアップにおいて重要なことだなと思って、弊社で新人研修で取り組んでいることです。

「共感・共有」が良いサイクルを回し続ける鍵

最後は“挑戦への称賛”と書かせていただいているパートなんですけれども。これまで“目的への伝達と再解釈“、”権限委譲“としてきた時に……なんと言うんですか。この2つのパートは、社会人としての厳しいことを言ったという自覚があるんですよね。

経営陣としてメンバーに対して求める時も「プロであるからにはこうあれ」というのを伝える、ということを重要視してやっているんですけれども。この“挑戦への称賛”というパートでは「クオリティや成果を論点とすると、すぐ罰を与え始めてしまう」ということだと思っておりまして。

挑戦や新しい行動には、3段階あります。「行動」「スキル」「結果・クオリティ」という3段階があるんですけれども、この「結果・クオリティ」だけを論点にしてしまうと、どうしても足りないことのほうが多いです。なぜなら、新しい挑戦だったり、自分で意思決定をしてみたり、チャレンジしたことだからです。

「結果・クオリティが伴ってないからだめじゃん」とか「私は聞いてないです」とか。「こういうことをしてはいけません」とすると、次からメンバーはきっと動かないです。

だからこそ、まず「提言をしてくれた」であったりとか「こういうアイデアをくれた」ことに対して「そういうアイデアをくれるという行動がすばらしいな」と。「こういう着眼点はおもしろいね。でもこの着眼点は抜けているんじゃない? 結果としてはこれを求めないといけないんだけど」という、この順番ですよね。

「行動する」「スキルが伴う」最終的に「結果が伴う」。この中で、ちゃんと行動が伴っているなら行動自体は認めるべきだし、スキルが伴っているならそこまで認めるべきだし。結果・クオリティの中でも段階に分けて、ここまでは達成できているんなら認めるべきだし。

足りないポイントだけを言うのではなくて。行動スキルから「元(スタート)のポイントから、ここまではよかったね」というところを共感・共有しない限りにおいて、そこまでの行動を次から取ってくれなくなっちゃうリスクがあります。

だからこそ、挑戦だったり工夫だったりに対して「権限委譲をして、目的を共有して、再解釈もしてもらって、だからこそ挑戦が生まれた。そのこと自体を歓迎しているし、すごくすばらしいことだ」と。これを口に出して伝える。ないしテキストにして伝えるということが、このサイクルをぐるぐる回し続けていくために重要であると考えています。