グリーンランドの漁村を廃墟にしたモンスター津波

ハンク・グリーン氏:2017年6月17日、グリーンランドで世にも珍しい事件が起こりました。辺鄙な漁村のヌーガートシュアク村が、史上最大級の高さである、100メートルものモンスター津波に襲われ廃墟と化したのです。

津波の高さは自由の女神像とほぼ同じくらいで、11軒の家屋を押し流し4名の命を奪いました。そのすさまじい大きさは、付近の地震計が4.1マグニチュードの地震に相当する衝撃を計測するほどでした。

さて、地質学者は少々とまどいました。津波は、通常であれば海中の地震によって引き起こされるはずですが、詳しく調べても、津波を起こしうる時間枠には、地震の記録がなかったからです。つまり、グリーンランドの津波は、従来型のものとは一線を画するものでした。学者たちは、これは「巨大津波」と呼ばれる事象だと確信しました。

津波と巨大津波は何が違うのか

では、巨大津波とはいったいどのような物なのでしょうか。通常の津波よりも大きくなる傾向はありますが、違いはそれだけではありません。通常の津波と巨大津波とを分けるのは、サイズではなく発生方法です。

巨大津波ができるには、海や湖などの広大な水域に、膨大な量の物質が投入されることが必要です。例えるなら、プールに体を丸めて飛び込んだ時に起こる、水しぶきのようなものです。

ただし、プールに飛び込む必要があるのはみなさんの友人だけではなく、もっと大人数です。もしくは隕石です。

グリーンランドの巨大津波の場合は、飛び込んだのは地滑り帯でした。

グリーンランドの事象は、フィヨルドに巨大地滑りが突入し、広大な岩盤が剥がれ落ちて1キロメートルほどの水しぶきが上がったために起こりました。岩盤はすべてフィヨルドに没入しました。その結果生じた波は急速に散逸しましたが、30キロメートル離れた沿岸部の水位を上昇させるほどの威力は残っていました。

巨大津波の痕跡は何千年も消えない

さて、これは把握されている最古の巨大津波ではありませんが、近現代においては、グリーンランド以外ではほとんど知られていません。1958年7月9日、アラスカ州のリツヤ湾でマグニチュード7.8の地震が発生しました。8,200万トンもの岩石が狭い湾内に崩れ落ちる地滑りが発生し、その結果生じた巨大津波は高さ524メートルにも及びました。これは記録として残っている唯一のものです。

巨大津波はあまりにも巨大であるため、痕跡だけでも何千年も残ります。そのため、人類が存在するはるか以前の痕跡も残されています。把握されている中でも最大級の巨大津波は、7万3前年前頃に西アフリカ沿岸沖で発生しました。フォゴ山の広大な側面が一度に山体崩壊を起こし、海面に激突したのです。

グリーンランドの津波の2倍近い、およそ170メートルもの高さの津波が発生しました。

地滑りでエッフェル塔級の高さの津波が発生

これよりもさらに巨大な津波が、10万年前にハワイ諸島を襲ったと考えられています。ラナイ島の海岸の斜面に残された石灰岩の砂利に、その手がかりが残されています。

通常、石灰岩は海底で形成されますが、この砂利は海抜326メートル地点で見られます。1984年の研究で研究者たちは、これらの砂利は単純な海面上昇によって堆積したのではなく、ラナイ島の急斜面で起こった地滑りで生じた、超巨大津波によるものではないかという仮説を唱えました。

このような堆積物が生じるには、ラナイ島を襲った津波の高さは、少なくとも300メートル超であるはずです。これはフォゴ島(前述のフォゴ山を擁する島)を襲った津波の、さらに2倍に当たります。

実際にこの津波を目撃したとすれば、エッフェル塔ほどの高さの津波が突然現れ、迫って来るようなものです。

恐竜を絶滅に追いやった隕石は、高さ1500メートルの巨大津波を発生させた?

これより昔の事象は、巨大津波に直接関連付けることはやや困難になりますが、恐らくはそうであろうとされる候補はいくつか挙げられています。

例えば、6,600万年前に恐竜の時代を終焉させた、今日のユカタン半島沖に墜落した隕石の衝撃はよく知られていますが、これは巨大津波を発生させた可能性が非常に高いとされています。直下のメキシコ湾からスタートした衝撃は、衝撃波として地球上の海洋のすべてを駆け巡りました。2018年のプレゼンテーションにおいて、研究者たちは隕石は実に1,500メートルもの高さの津波を発生させたのではないかと発表しました。

それがどのくらいの規模の水量であったかを想像するのは困難ですが、仮にキリマンジャロ山が津波の進路にあったとするなら、津波の高さは標高の4分の1に達したでしょう。隕石の衝突によって地球上の恐竜はほとんどが滅びましたが、津波の進路にいた恐竜は1日足らずで全滅したことは間違いありません。

地球温暖化が巨大津波の増加につながる

巨大津波に救いがあるとすれば、地震によって発生する津波に比べ、寿命が短いことが挙げられるでしょう。巨大津波の衝撃は、極地的なものです。何千キロメートルも離れた場所にも到達し猛威を振るう通常の津波と比較しても、衝撃の範囲は限定的です。しかし、局地的には信じがたいほどの破壊力を発揮します。

さて、悪いニュースです。巨大津波は極めて珍しいものですが、研究者たちは、気候変動により、近い将来にはもっと頻発するだろうとしています。

グリーンランドやアラスカなどの地域には、永久凍土層という恒常的に凍結した土壌があります。永久凍土層は夏であっても溶けません。硬く凍った層の上にあるためです。

しかし地球温暖化により、永久凍土が溶解します。すると、突如不安定になった土壌が、地滑りを起こします。地滑りが沿岸部で発生すれば、巨大津波の増加に繋がります。

理論上では、警戒システムにより北極圏に住む400万人が守られるとされています。巨大津波が増えて北極圏のコミュニティを脅かすのであれば、これはぜひとも必要になるでしょう。