吉藤オリィ氏のものづくりの原点は折り紙

吉藤オリィ氏(以下、吉藤):みなさん、こんにちは。オリィ研究所の吉藤です。よろしくお願いします。こんな感じのロボット(「OriHime」)を作っているのですけど、ご覧になったことのある方はいらっしゃいますか? 

(会場挙手)

ありがとうございます。このロボットを作っているのが私です。吉藤健太朗というのが本名です。この顔は8年ぐらい前の顔なんですけどね。人の顔は変わります。

私は吉藤健太朗というんですけど、私のことは「オリィ」と呼んでいただければ幸いです。折り紙の先生をやっていまして、折り紙が趣味なので、オリィと呼ばれています。

なぜ折り紙が好きかというと、昔の私は体が弱くて、小学校5年生から中学校2年生までほとんど不登校、引きこもりだったんですよ。

2週間ぐらい天井を眺め続けて、本当に半分うつ状態になってしまって、なにもできなくなり、引きこもりになっていって。そこから3年半ぐらい、あまり学校に行けなかった経験があったときに、なぜ我々は体が1つしかないんだろうと、ずっと思っていたんですよね。

それが今の研究につながっています。私の物作りの原点は、実は折り紙から来ていまして、その(学校に行けなかった)間、ずっと折り紙ばかり折っていました。

車椅子は「実はオープンカーである」

もともとこのロボットを作る前は、車椅子を作っていました。私は昔、入院しましたし、車椅子に乗っていたときもありました。しかし、車椅子ってなんだかいろいろ不便ですよね。

眼鏡は福祉機器で便利だけど、眼鏡をかけている人は障害者感がない。眼鏡は障害者を健常者化しているはずです。車椅子も同じ福祉機器なのに、車椅子は乗っている人のほうが障害者感がありますよね。不思議じゃないですか? 

実は車椅子って、オープンカーじゃないですか。だから、もっとみんな(車椅子に)乗ればいいのになと思って、今から15年前に工業高校に入って、(スクリーンの映像を指して)こういう車椅子を作りました。

私は奈良県で車椅子に乗っていたんですが、奈良は坂が多いんですよ。傾くと危ないことを知っていたから、傾かない車椅子を作ろうという発想が生まれました。いまだに車椅子の研究は続けています。目だけで動かせる車椅子を作ってみたり。

例えば、うちに来ている大学生の1人は、うち(オリィ研究所)に来て、「物作りがしたい」と。物作りは大学で学んでいて、技術は持っているけれど、何を作ればいいかわからない。そんなときに、彼のお父さんがALS(筋萎縮性側索硬化症:運動神経系が少しずつ老化し使いにくくなっていく難病)になってしまって、目しか動かなくなってしまった。

そこで「親父に、もう1回自由を取り戻してあげたいんだ」ということで、うちに来て、私が協力してこういうの(視線移動で操作できる、透明の文字盤がついた車椅子で)を作ったりすると。

寝たきりの人が立ったまま動き回れる乗り物

いまだにいろいろやっていまして、みなさんも将来、もしかしたら難病や体が動かなくなるかもしれません、例えば健常者が絶対に発想しない1つの問題に、「床ずれ」という問題もあるわけですね。

我々は簡単に体勢を変えられますが、(身体が動かない人は)寝返りはうてません。しかし、こういった車椅子をちょっと改造してあげれば、腰のひねり、腰の曲げという側屈(体を横に曲げること)ができて、体勢を自由に変えることができる。これがあれば快適な睡眠がとれるわけですね。

体のいろいろなところに体圧がかかっていて、体勢を変えないと床ずれが起こって、毎日介護しなきゃいけません。でも、これがあれば、自分の体勢を全部自分でコントロールできます。将来寝たきりになったとしても、こういったものを使うことによって、寝たきりでも立った状態で、視線での入力だけで徘徊することができます。

“寝たきり徘徊”が増えるわけですね。つまり、これってサイボーグチックじゃないですか。自分の体を全部周りの人に委ねていた時代から、こういったものを使って好きなところに行けるかもしれないし、できることが増えるかもしれないという。

究極の「うらやましがられる車椅子」とは

こういうものを作ったり、みんなが車椅子をうらやましいものにできると私は思っているんですよ。(単純に)車椅子に乗ってみたいと思っている子どもたちも、中学生ぐらいになってくると、「車椅子は遊んじゃいけないもの」という謎の固定観念が生まれてくるんですよね。

しかし、車椅子にもっと憧れを持って、車椅子に乗ることが楽しいとなっていけば、車椅子人口が増えていって、バリアフリーへの理解も増えるはずなんですよ。

それで、究極の「うらやましがれる車椅子」を作ろうという発想で、何が一番いいだろうかといろいろ考えた結果、これよりもかっこいい車椅子が登場しました。それがこちらの“こたつがついた車”です。

(会場笑)

我々は会社に行かなければいけないし、こたつに入り続けることを諦めるじゃないですか。じゃあ、もう「こたつから出たくない!」、ならば、こたつから出なくていいんですね。

こういったものを組み合わせてあげれば、外に行くときも、こたつに入ったまま外出できるのかもしれない。つまり、うらやましいと思われるようなものを発想を変えて作っていこうと。

17歳からずっと、孤独の解消に取り組み続けた15年間

そういったことをやっているわけなんですが、しかしながら、世の中には車椅子があったとしても外出が困難な方がいっぱいいらっしゃいます。私は入院をしていましたし、入院をしていても病院の中を自由に歩き回れる人もいれば、無菌室で完全に孤立している人たちもいます。

私が解決したい問題は、どうすれば孤独を解消できるか。私は2週間くらい自室の天井を眺め続けていて、何が起こったのかと言いますと、今話している日本語だってうまく話せなくなったんですね。

さらに頬の筋肉の使い方を忘れて、笑えなくなる自分に気づきました。それによって人前に出ることが恥ずかしくなってしまって、より人を遠ざけてしまうという、孤独の悪循環に陥っていって。本当に人を避けてしまっていたのが引きこもりのはじめだったんですね。

今、日本には1人暮らしの高齢者が1千万人。病気が理由で学校に通えない子どもたちだけでも4万5,000人。そして、18歳までの引きこもりが14万人いると言われているんですが、うつとか認知症とか(になると)、「孤独は自分を嫌いにもなってしまう」ということを私は実体験を通して感じています。

それで、17歳から、どうすればこの問題を解消できるかということに取り組んできて、32歳になったので、15年間取り組んでいることになります。

“心を運ぶ車椅子”を作りたい

車椅子というソリューションは、たしかにたくさんの変えられる余地があるんだけれども、これから先は、体がどうしても動かなくなっていく時代の中で、どう社会参加すればいいのかということで、この「OriHime」というロボットを作っています。

「OriHime」は人工知能で動いてくれるロボットではありません。体を運ぶことができるのであれば、心を運べる車椅子は作れないんだろうかという発想で作ったものです。

ここにはカメラとマイクとスピーカーが内蔵されています。例えば、私が入院しているときに、「OriHime」を会社に置いておくと、このロボットを通して、会社の中を自由に首を振って見渡すことができて、しゃべっている内容が聞けて、自分がこのロボットを操縦することによって自由に動かすことができる。

すなわち、私のもう1つの体であり、私が欲しかったものです。これがあれば、私が入院しているときも、学校のお楽しみ会などに参加できたのかもしれないし、思い出を作れたかもしれません。

私は遠足にも行けませんでした。だから、思い出がないんですね。みんなが(遠足で)どこに行ったのかも知りません。しかしながら、こういったもの(分身のようなロボット)があれば、友達と同じものを見て、しゃべりながら旅行をして、同じ経験をすることができたかもしれない。

4歳から寝たきりの青年とロボットを共同開発

実際にOriHimeを使っている様子を見ていただければと思います。もう4~5年ぐらい前の動画なのですけれども、その頃から、うちの会社ではロボットが出社しております。これは人工知能がしゃべっているわけではなくて、私の親友が遠隔で操作をしております。

(動画再生)

彼は、あごを使ってコンピューターを操作することができます。人によって動かせる部分は違うので、そういったデザインも私がやっています。

そのうえで、この「OriHime」に腕をつけたのは番田(雄太氏)なんですけど、彼は20年寝たきりです。4歳のときに交通事故に遭ってしまいました。

一命は取り留めたものの、首から下はまったく体が動かない頸椎損傷で、呼吸器もつけていて、病院の中で20年(過ごしてきました)。しかも院内学級もなかったので、友達もほぼいない状態で生きてきました。しかし、その彼があごを使って6,000人にメールを打った結果、私と出会った。

じゃあ、彼が東京の私の会社で快適に働けるような肉体を作れば、それは誰にとっても一番良い分身になりうるのではないかと思って、彼に仲間に入ってもらいました。つまり、一番課題を知っている男と組んで、このロボットを作ったわけです。

超高齢化社会では、誰もが寝たきりになるかもしれない

世の中は身体至上主義なんです。これは本当に障害者・寝たきりの方にしか関係ないわけではなくて、我々もいつか必ず寝たきりになります。だから私は、寝たきり患者さんのことを“寝たきりの先輩”と呼びます。

じゃあ彼らはどうすればいいのか。実は65歳で定年退職をした我々は、「さて、じゃあ悠々自適に生きていこう」と思っているかもしれないけれども、健康平均寿命は75歳なんですね。

ということは、(定年退職後の)健康な時間は10年しかなくて、85歳の平均寿命までの10年間は、老人ホームに入ろうかとか、割と孤独になってしまう可能性があるわけですね。

それを考えているのは、一番課題に直面しているメンバーたちなんですよ。そういった人たちと我々は研究しています。

この番田は、うちの会社にロボットで出社してお金を稼いで母親に服を買ってあげたりしていました。つまり、これからは本当に心が自由であることがとても大事であると。体がいくら動いたとしても、心が死んでしまった人は意味がないと。

心を自由にしていくことが、とても大事な時代が……これからは心が資本なのであるということを訴えて生きてきました。

しかし、実はこの番田はもうこの世にはいなくて。28歳で亡くなりました。人はいついなくなるかわからないわけなんですけれども、彼が挑戦して残したことは今、多くの人たちのロールモデルとなっています。彼は盛岡からほぼ出ることができませんでしたが、さまざまなところに行ったり、このロボットで海外にも出張をしていました。

生徒たちの人気者だった教頭先生が、50代後半でALSを発症

こういった方々がいます。番田がテレビに出たときにそれを見ていた生徒会(の生徒たち)が、「教頭先生、『OriHime』を使ったら」って勧めたんですね。この教頭先生は、みんなから好かれていた先生だったんですけれども、実は50代後半くらいでALSという病気になってしまって。一番かかる可能性が高いのが、その辺の年なんですけれども。

その年になって、今まで第一線でずっと働いていた先生が、もう車の運転もできなくなって、学校を休職。いわゆる実質的に学校のことはできなくなってしまったんですけれども、生徒会がこれ(OriHime)を使って、「もう1回卒業式に来てほしい」とお願いをしたということがありまして。

ちょっとそちらの動画を見ていただければと思います。

(動画再生)

この方が教頭先生で、まだしゃべることはできるけれども、手はほぼ動かすことができません。教頭先生は(このときの卒業式でOriHimeを使って)スピーチもされているので、生徒からすると、このロボットが不思議と教頭先生に見えてくるんですね。

そうすると生徒からは「教頭先生がいてくれて、自分たちを見送ってくれた卒業式」として記憶に残っているし、教頭先生も「僕がスピーチをしてみんなから頭を下げてもらったり、『教頭先生』と言ってもらえたことによって、僕が教員生活の最後に見送った生徒たちである」という思い出が残ると。

これは両方にとって、「教頭先生がいたよね」「僕がそこにいたよね」というのが揃っていれば、“いた”ということじゃないかと。実はこれをきっかけに、教頭先生は呼吸器をつけて延命をされることを決心されました。「まだできることがあるかもしれない」ということで、今は広島県ALS協会の副支部長になられて、いまだに講演の活動を続けていらっしゃいます。

遠隔ロボットなら、時間や距離という障害も乗り越えられる

そういうふうに、このロボット「OriHime」を使って、働く方々がたくさん増えています。例えば我々も人生において、大きなプレゼンと親友の結婚式のどっちを優先するか、というような究極の選択はあるわけですよね。

我々には時間や距離という障害もあるわけですが、こういったもう1つの体を使えば、(体の)障害以外も乗り越えられるかもしれない。今この瞬間にどこに来てほしい(と言われても)、それによって大事な自分の娘の結婚式に行けない、ということもあるかもしれません。病気をしている可能性もあります。

しかし、「OriHime」を使えば、アメリカに出張している人がこうやってイベントに参加できるようになって、意外とちゃんと仲間たちと会えたり、新郎も「来てくださったんですね」みたいに喜ばれたりすると。

番田の後輩にあたるメンバーたちを「OriHimeパイロット」と呼んでいるんですけど、今は31人に増えました。こういった人たちがうちの会社で働いたり、うちの会社で働いているうちに、どこかの企業から、「うちで働かない?」と言われたりして。うちはそれはぜんぜんOKだと思って、どんどん送り出してあげるという感じの支援をやっているわけですね。

そういうことをしていると、例えば展示会の説明員もできます。つまり、専門の知識を持っている人を、ここに連れてくるのは大変かもしれませんけど、こういった方法(OriHimeを使った遠隔のコミュニケーション)であれば、どこの地方にいても、離島にいてもこんなふうに仕事ができるかもしれません。

曲がるストローもトイレのウォシュレットも障害者向けに開発された

NTT東日本さんの中では、実はこのOriHimeが66台導入されていて、障害者ではなくて、育児中のお母さんたちが使っています。

曲がるストローもウォシュレットトイレも、片手でつけられるライターも、もともと障害者向けに作られたものなんですよ。それが便利だから一般化したと。

つまり、この「OriHime」もそうで、初めは障害者向けに作っていたかもしれませんけれども、実は今、障害者よりも育児中のお母さんたちのほうが多く使っています。

会社からすればとても大事な優秀な方が、育児のために2~3年間会社を休むうちに、第一線から外れてしまって、そのまま帰ってくると思っていたのに、仕事の勘を忘れてしまったり。そのお母さんからすると、もう自分の会社じゃない気がして戻ってこなくなることがあったわけですけれども。

こういった方法を使ってあげると、子どもといながら仕事ができてお金も稼げて、ちゃんと話し相手もいる環境を作れる。そういう使われ方をしています。

あとは学校でも使われていまして。私や番田が憧れた学校生活。私は小学校後半・中学校はほとんど行っていなかったんですけれども、不登校になったり、ちょっとうつ状態になってしまうと、やっぱり毎日通うことが難しくなります。

しかも、学校が近づくとおなかが痛くなってくるんですね。だけれども、この「OriHime」で心を運んでおいて、居場所を作っておいて、その後に友達に「おいでよ」「来てほしい」と言われて体を運んでくるという社会参加の方法もあるんじゃないでしょうか。

ということで、今は引きこもりの支援で使われたり、さまざまな学校で使われるようになってまいりました。

障害者雇用は弱者救済ではなく、誰もが力を発揮できる「生存戦略」

今はテレワークツールは本当にさまざまなものがありますけれども、そこに体をまったく運ぶことができない人たちからすれば、なぜその組織、その会社が自分の居場所と思えるのかというところに、そもそものずれが発生してきます。彼らと一緒になって、彼らがどうすれば社会に参加していけるかということを、我々は徹底的に研究している。

そうすれば、それ自体が、他の会社でもテレワークツールとして導入されるようなものを生み出すことにつながります。すなわち、障害者を雇用するのは別に弱者救済という意味ではありません。ダイバーシティは、人それぞれ違う価値観を持っていて、違う(ことの)専門家であるから、その力を発揮するには生存戦略が生まれるわけですね。

本当に、さまざまな事例があって、今日は全部をご紹介することができないのですが、『孤独は消せる』という本に書いてありますので、よかったら読んでください。

あとTwitterでもいろいろと事例を情報発信しまくっていますので、ぜひ見ていただければと思います。

体が動かないALS患者のためのさまざまなソリューション

最後に、みなさんが将来寝たきりになってもご安心くださいという話をしたくて。もし寝たきりになったら、ご相談ください。いろいろとできることがあります。

例えば、もしみなさんの会社でタクシーに乗っていて事故に遭って、その人はぜんぜん悪くないのに頸椎損傷になってしまって、仕事を辞めなければいけない。本当にここにいる人たちはそうなんですよ。寝たきりになってしまった瞬間に、みんな仕事を全部辞めている。

でも、そういった人がどうやって仕事を続けるかということについて、我々はノウハウを持っています。そういったことで1つ紹介したいのが、我々は6年前から、本当に体が動かなくなるALSの患者さん向けのソリューションを研究しています。

例えばここ最近で言えば、舩後(ふなご)議員。舩後議員も私が使ったシステム「OriHime eye」を使ってくださるんですけれども、けっこうALSの患者さんの間ではスタンダードな感じになっています。

(動画再生)

例えば目だけでも動かせれば、(OriHimeが)頷いたり、首を振ったりできるんですが、さらにそれを改良して、例えばこういったことができます。

これ(ALS患者が意思伝達を行うために、目の動きで文字盤を指し示す方法)はけっこう大変なんですね。本当に人同士のコミュニケーションなんで、この人はできるけど、この人はできなかったりするんですよ。

しかも、これは(どの文字を指したのかを)忘れるので、横でメモする人も必要だったりするんですよね。めっちゃ大変じゃないですか。日本にALSの患者さんは1万人いるけど、その(意思伝達をサポートする)ためにヘルパーさんが要るんですよ。どうやったら、この課題を解消できるかを考えることになります。

これ(「デジタル透明文字盤」)のいいところは、画面がズームされて真ん中に寄ってくるので、視力が悪くなったり、目の動きが悪くなってもけっこう使えるというところで国際特許を取っていたりします。

寝たきりの方にとっては、指先1センチすら手の届かない世界

しかも、いろんなものを配置できるのでインターフェースが並べ放題。すなわち、文字を打つだけじゃなくって、ほかのロボットも(動かせる)。当然、分身ロボットも動かせますね。

(動画再生)

私もそうでしたけれども、天井ばかり見続けるのはけっこう大変なわけですね。彼らからすれば指先1センチ先が、もう遠隔なんですよ。自分の手の届かない世界なんですよね。

でも、このロボット(OriHime)を近くに置いてあげたり、ツールやテクノロジーを使うことによって、自分ができることが増える。例えばこういった場に参加して、一緒に展示会を回ることもできたりするわけです。

さらにこれを改良して……。ちなみにこの目だけを動かせるコンピューターは45万円です。今、保険が下りて、患者さんたちは4万5,000円で買えるようになっています。

今は、日本中のALSの患者さんたちがこのシステムを使ってくれているので、目しか動かせなくなって、コミュニケーションができなくなるというのは、本当に過去の話です。今はこういった方法を使えば、Windowsコンピューターも全部目だけで操作できるようになっています。

子どもたちがこれを使うと、こんな感じで絵が描けるんですね。目だけでWindowsのペイントを使って絵が描いてあるんですよ。「絵が描けるね」「すごいね」と思ったら、もともと絵を描いていてALSになった方が、「描けるじゃん」と気づいて、「じゃあ俺も描いてみよう」と描いた絵がこれです。

これは目だけで描いた絵です。視線入力です。今、我々のインターフェースでやれば、これができるようになっています。

寝たきりでも、もう1つの分身を手に入れられる

また、今はこういうものも描けるようになっているんですが、それはこのサカキさんという男性です。彼は病院からほぼ出ることができません。しかし、天井ばかり見たり、テレビを見るんじゃなくって、仲間と一緒に働いたり、趣味で絵を描いたりできるようになっている。ちょっとだけこの病室をご紹介したいと思います。

今までの病院は寝たきりの患者さんが横たわっているだけだったんです。しかしサカキさんの場合は、ここにもう1個の体があるわけですね。

(動画再生)

(映像の中で吉藤氏が「こんにちは」と声をかける様子が映り、それに答えるかたちで)「こんにちは」というふうにしゃべってくれます。「本当に、これを本人が動かしているの?」(と思われるかもしれませんが)見ればわかります。こんな感じで、かなり速いですよね。今は予測変換機能も搭載したので、「よろ」と打ったら、「よろしくお願いします」というのがパーンと出てくるようになっていて。よりもっと速くしゃべれるようになっています。

サカキさんがこういうかたちで病室にいることによって、何がいいかというと、今まで寝たきりの人は、ひどいときは人扱いされなかったりとか、(こちらが話していることが)わかっているかどうかわからないような扱いをされていたんですよね。

でも、こういったかたちで、(OriHimeが)服を着ているじゃないですか。これは病院の先生が作ってくれたらしくて、病院の中でも人気者になっていたりします。

将来は自分で自分を介護できる可能性がある

実はサカキさんはFacebookもやっていて、「OriHime」の撮った写真をFacebookに投稿して文字も入力するし、毎日目だけでいろんな人たちと交流することができていると。友達と一緒に「OriHime」で、鎌倉旅行にも行かれました。

そして、この鎌倉旅行で買い物をしたりして、さらにそこで見た景色を、また目で描こうといって、描いた絵がこれです。これ、「日本はもう少しこの人を誇っていいんじゃないか」と思うぐらい、すごくないですか?

この絵はWindowsのペイントで描いているんですけど、つまり、重要なことは「それをやりたい」と思うことなんですよ。

言ってしまえば、本人たちは別に働かなくてもいいんですよね。障害者年金をもらって生きてはいける。だけど、こういった方々は何かをしたいんですよね。つまり、人の心が自由であることはとても大事なんです。

最後に紹介するのは、このでっかい「OriHime」です。これを使うことによって、ついにALSの患者は、遠隔で、つまり自分の身の回りのこうやって走り回ったりできるし、玄関に行ってお客さんを迎えたりできるようになりました。

6年前にうなずきができた岡部さんという方は、このでかい分身を使うことによって、マグに入った熱々のコーヒーを私に手渡すという、世界初の実験(をやってくれました)。私はコーヒーがかかることを覚悟でやっているんですけれども、こういうかたちでできると。

布団をもう少し身体にかけてもらうとか、ちょっとカーテンを開けるようなことはお願いしにくいじゃないですか。でも将来は、自分の体の介護を自分でやれる可能性があるというのが、この分身、つまり身体拡張の可能性なわけですね。

「分身ロボットカフェ」がきっかけで、企業から採用のオファー

そして、これが最後の動画なんですけれども、今はこういった実験(分身ロボットカフェ)をやっています。

(動画再生)

こういった寝たきりの先輩たちがどうやって働いているかというと、実は今いろんな企業さんが雇ってくださっているんですね。さっきの31人のメンバーたちがいま何人か就職の声をいただいていて、そのうちの1人の山﨑さんという人は、今は大阪のチーズケーキ屋で販売員をやっていたりします。

そういったもの(OriHime)を企業に入れると、「その人がどうやって活躍できるだろうか」と、企業の中の人たちが一緒になって考えたり、知恵を使うことで、そういうこと(寝たきりの方が働くこと)ができるというものになっています。

実はこの後も、今週日曜日までまだ実験をやっています。この分身ロボットを普通のお店でも働かせられるんじゃないかということをやっていて、また1月にも渋谷のほうの大きめのお店で、こういった寝たきりの方々が、普通のカフェで店員さんと一緒に働くという実験をやろうと思っています。ぜひみなさんにもお越しいただければうれしいと思っております。

体が動かなくなっても自分の意思で行きたいところに行って、会いたい人に会えて、死ぬ瞬間まで人生を謳歌できる未来を作りたい。それが私の考える孤独の解消であり、このテクノロジー、ツールを使って実現したい未来の姿です。以上、ご清聴ありがとうございました。

(会場拍手)