地域振興を目的に、地域ぐるみで採用と育成を行う「就域」
増本全氏:みなさまこんにちは。新卒採用領域の話を始めさせていただきたいと思います。
まずは簡単に、リクルートキャリアのサービスについての紹介になります。正社員を中心とした、新卒・中途採用のお手伝いをさせていただいている会社です。このあとの話は、とくに新卒採用に関わるお話になります。
これまでは一般的に就職という言葉が使われてきておりますが、今回着目したのは「就域」です。この言葉を、2019年のトレンドとして捉えさせていただいております。地域の中小企業と行政・金融機関が連携し、そして街ぐるみで地域に根差す若者の定着を支援する、そんな活動になります。
簡単に内容をご説明させていただきたいと思います。東京一極集中と言われるように、地方からの人口流出が止まらない状況です。そして採用においては、売り手市場が続いておりまして、なかなか人を採用できなくなっています。
そこで、地域振興を図るという共通の目的を設定することによって、本来は利害が一致しない採用競合同士の中小企業のみなさまが、街ぐるみ、地域ぐるみで採用と育成を行っていく。そんな新しい共同体のマッチングのお話になります。
地方中小企業の採用を活性化させる
イメージとして、こんな図を用意させていただきました。これまで都心部での就職も、そしてUターン希望で地元に帰ろうとする学生の就職も、知っている会社や有名な会社を中心に、1社1社を見て就職しているのが実態かと思います。
地方の会社からすると、なかなか人は戻ってこないですし、学生のみなさんの応募が地元の大手地方銀行さんや市役所などに集まっていく状況で、なかなか中小企業のみなさんは採用がうまく前に進まないと考えています。
そんな中で、今回この就域という新しいかたちが生まれました。地域で働く魅力、地域で働く意味や意義をきちんと発信し、その魅力を伝えながら、そのあとも決して孤立させず、不安にさせず、地域に定着させるために一緒になって育成するといったかたちになっております。
人口流出の主因は「良質な雇用機会がない」こと
簡単に背景をお話しさせていただきます。もうご承知のとおりですが、人口減が止まらない。これは1990年と2045年を比べておりますが、若者の減少率が40パーセント、約1,000万人が労働人口として減っていくというような状態です。
そして、地方から都市圏への流出が、ずっと止まっていない状況です。
そんな中で、地方自治体が考える人口流出の要因といった調査もございますが、一番多い意見が「良質な雇用機会がない」ということです。これが多くの理由として挙げられるという現状です。
では、学生は本当に地元で働きたいのか、働きたくないのか。こういった側面から見ますと、都市圏での就職を希望する学生さん以外で、地元で働きたいと答えた人の割合は約6割を占めています。
そして、Uターンを決めた方々におうかがいすると、実際はやはり安心して暮らせる場を選択している。東京はなかなかストレスがあって、ずっとここにいるのは難しいのではないかという声が聞こえてきます。
ただ、Uターンをすることへの不安について聞くと、「働く場所があるんだろうか」という悩みの声が出てきます。少しヒントとなるかもしれないのですが、高校時代までの間にその地元の会社をより知っていれば知っているほど、地元へ戻りたくなるといった声も聞こえてきます。
企業説明会で最初に話すのは「この地域で働く魅力」
こうした状況の中で、国を中心として、もう地方創生が動き始めており、さまざまな地域で、さまざまな取り組みがいま行われています。
そんな中で、今回ご紹介するのがこの就域という話です。2つの事例からお話をさせていただきたいと思います。
兵庫県にある但馬エリアが1つ目の事例です。ここは、コンセプトとして“人口減少の全力抑制”ということで、市役所と但馬銀行さんが一緒になり、計14社が共同体となって取り組みを進めています。さまざまな取り組みをされているんですが、企業は採用力向上を主として情報交換をしていたり、新入社員合同でキャリア開発研修をしたりといったことを進めています。
実際に、企業のみなさまにインタビューをしてきました。とある企業は、合同の企業説明会の場において、本来であればその会社で働く魅力をお話しすることが普通ではあるんですが、ここの場では、まずその地域の魅力や、その地域で働く魅力をお話ししていました。そして、この学生は、私たちの会社とはマッチングしないなという場合でも、「あそこの会社だったら君に合うよ」というかたちで紹介しているといった声も聞こえてきます。
そして、地方銀行さんは、人材課題は経営課題そのものと考えており、地方銀行にとって、またこれからの地域にとっても非常に重要なテーマについて、市役所と一緒に連携しながら進めています。
自社だけではなく、この地域で就職してくれる人を増やす
そして、このプログラムに参加した新入社員のみなさまにも、声を聞いてきました。
5名採用している会社で、5名の同期はいるんですが、一人ひとりはまったく別のセクションで働いています。身近な先輩は40代、50代で、本当に近しい仲間がいないとのことでした。ですので、毎週1回みんなの家に集まって、情報交換をしているそうです。
また、関西に出て、働くタイミングで戻ってきた方は、「地元でずっと生まれ育ってきたけれど、祭りや運動会でどんどん人がいなくなってきて、すごく寂しい」とおっしゃるんですね。そんな中で、この土地の力になりたいと。こういう取り組みをきっかけに、そういったチャレンジができることを知ったという声も聞いています。
もう1つ、北海道にある十勝エリアです。ここでは、コンセプトとして「“十勝”として最後まで面倒を見る!」ということで、企業が共同体を組んで、26社で連携しています。市役所とも連携をしながら進めています。地元の会社をより多く知ってもらうための業界研究会をしたり、合同で内定式もしています。
そんななかで聞こえてくる声は、1社1社の話ではなく、学生が十勝のどこかの企業に勤めてくれれば本望なんだということです。学生の悩みに真摯に応えることが、我々先輩としての役目なのではないかと。十勝には十分な魅力があり、ぜひ選択してほしいという企業側の声です。
そして、この取り組みを通じて来てくれた学生は、安心して暮らせる場を求めており、この豊かな土壌を魅力に感じて戻ってきている。企業はこういう機会を通じてそうしたことがわかり、また学生からは、十勝を選択肢に入れることができたといった声が聞こえてきました。
これまで、1社1社ではなかなかこのかたちは実現しませんでした。地方企業の人口流出は止まっていませんし、採用も非常に難しいなか、合同で集まって地域の魅力を伝えていく。そして、そこで働くということが、これからどんどん生まれてくるのではないでしょうか。我々はそれを応援していきたいと思っております。
新卒領域からは以上となります。
(会場拍手)