「教育漫才」のコンビ・トリオはくじで決定

田畑栄一氏:これは、教育漫才を実施する上で気をつけてほしいことや、教育漫才実施のポイントとしてやってきたことをまとめたものなのですが、まずコンビ・トリオ(を決める方法)は原則くじが望ましいと思います。

子どもたちの人間関係は、登校班やグループが一緒であるとか、(クラスに)40人いても、意外とほんの一部の子としかコミュニケーションを取り合っていないのです。それをみんなで「『相互承認』の考えでやってみようよ」という話をしていくと、子どもたちも最初はおっくうがるのですが、やった後は「くじが良い」というふうに変わっていきます。

昨年度に修学旅行に行った時の、部屋割班の決め方が実におもしろかったです。以前に教育漫才でコンビ・トリオをくじで決めた経験のある子どもたちです。半分の子どもたちが「修学旅行の部屋割りもくじがいい」と言い始めたりして、とても和やかな雰囲気でした。

(くじで公平に決めることの)その価値を、だんだんわかって受け入れていく様子がそこにありました。そのことによって、クラスみんなが仲良くなっていきます。教育漫才でのくじはおすすめです。

教育漫才のステップ1「三段オチを身につける」

もう1つは、(教育漫才の手法に)三段オチという型があります。まず、型をきちっと教えることが大事だと思います。守・破・離です。

(スライドを指しながら)5番目・6番目、これが非常に教育界の中では嫌われるというか、学校の中で問題視されるところなんですが、「死ね」「うざい」「むかつく」「消えろ」という、マイナスの言葉は使用しないこと。

あと、どつきや激しい身体接触はしないこと。たたく真似はいいけど、それを実際にやってはいけないことを徹底して説明するとうまくいくと踏んで、進めることにしました。ここを押さえてください。うまくいくか・いかないかの分岐点で、重要なポイントになります。

教育漫才のステップ1が、三段オチの型を身につけることです。例えば「給食は何が好きですか?」「うん、そうだな。カレーが好きかな」「他には?」「そうだね。麺類のラーメンが好きです」「他には?」「麺類の……僕イケメン」と言って、3番目で落とすわけなんです。

人はわりと、普通のことが2回来ると、3番目にも何か同じものが来るということを頭の中で連想する習性があります。ところが、そこで外すと大きな笑いが取れたり、大きな笑いは取れなくても、クスッとした笑いが取れたりするんです。これが、3段オチの魅力です。

くじでコンビ・トリオグループを決めて、型にはめながら自己紹介からネタを作っていきます。次に、ステップ2で「きょうだいペア」というのを決めて、お互いのコンビ・トリオでネタを見合って、指摘し合います。これを1時間ぐらいやります。

その後にステップ3として、クラスで学級教育漫才大会を開催し、学校全体のステップ4「教育漫才大会」につなげていく流れです。子どもたちがお互いの教育漫才ネタを披露して、そこに温かい笑いが生まれ、相互承認の気持ちが育っていきます。

漫才を通じて、子どもの積極性にも変化が

そして学級代表を決める際は、子どもたちの投票で決めていきます。教師の介入はありません、子どもたちの決定を尊重します。そこで、決まったコンビ・トリオを、ブラッシュアップしていきます。

代表コンビ・トリオに、みんなで「こうしたほうがいいよ」「ああしたほうがいいよ」というアドバイスをしていきます。ここがとても大切で、クラスの仲が煮詰まっていくきっかけになります。大会も大事ですが、実はこの過程がすごく価値があると思っています。

学校評価の数値なのですが、平成26年度は「学校が楽しい」が85.7パーセント。ところが、教育漫才をやってからは94.4パーセントになります。

「子どもが授業中に進んで発言できるか」、これは平成25年も69パーセント台だったので、大きな課題だと思っていたんですが、教育漫才を始めてからは84.4パーセントまで上昇しました。子どもたちの積極性や表現意欲が育ちました。

また、次の学校評価、保護者のアンケート結果ですが、13項目ある中で、教育漫才のアンケートを採ってみたのですが、97.5パーセントの高評価でした。保護者も自分の子どもが教育漫才を始めてから、明るく、学校が楽しい、あるいは授業で発言していることを認めて、その教育効果や笑いの価値を非常に高く評価してくれました。ありがたいなと思います。

「自殺・不登校・いじめ」にどう切り込んでいくか

学校教育の最大の課題は、自殺・不登校・いじめです。人間関係の中で、やはり一番難しいのが、むかつく・死ね・きもい・暴力を予防すること。つまり、学校教育の最大の課題は、言葉のやりとり、それから暴力なんです。ここにどうやって切り込んでいくかが大事なポイントです。

道徳教育や学活(学級活動)や教科であったり、さまざまなやり方があると思いますが、教育漫才はこの「むかつく・きもい・死ね・暴力はだめだよ」ということから入っていきます。子どもたちが楽しみながら、みんなで笑いながら指導できるツールなんです。

そうすると、大人が熱く語ることより、子どもたちの胸の中にストーンと落ちて、トラブルを起こさなくなっていくんです。これが、私が全国の学校や関係者にわかってもらいたい教育漫才の非常に大きな1つの良さであり、可能性であり、キーなのです。

本の中に登場するCさんですが、この子は中学校3年生の時に、市内英語スピーチコンテストに学校代表として出場することになったと、お母さんから連絡をいただきました。ぜひ、Cさんの姿を見てほしいとのお誘いを受け、時間休を取って会場に出向きました。

出会ったのが小学校3年生の頃です。その頃のCさんは学校が大嫌いで、学校に行きたくなくて困っていた子どもでした。

3年生になった時、初めて玄関でCさんと出会いました。泣いていたので「どうしたの?」と言ったら、「鞄を相談室に置きたいんだけど、みんなが『教室に置きなさい』って言うからいやだ」と言うのです。

「そんなことで泣いてるんだぁ……」「じゃあ、相談室に置いていいから」と言ったら、「新しい校長先生が許可してくれた~」と言って、走って相談室へ行ったんですよ。これがCさんとの出会いです。

学校嫌いの生徒に掛けた、ある言葉

(Cさんは)2年生の時の指導が合わなくて、学校も嫌い、教室も嫌い、すべてが嫌いで困っていた子です。さまざまな特性を持った子で、集団にこだわりや強い違和感を持つ子だったので、なかなか馴染めなくて過ごしていたんです。

そんなCさんに、「学校の中すべてが教室なんだよ」ということを伝えて、束縛を解放しました。安全面を担保しながら、比較的自由にさせていたんです。

それを先生方とも共有し合いました。そういった中で、1つの取り組みである教育漫才で自分を出せるようになって、変わっていったのです。そして、6年生の時に「校長先生に手紙を書いていく」と言って手紙を準備してくれたのですが、結局書けなくて。「そう簡単に書けるものじゃないな」と思ったんですが、そのまま卒業していきました。

当時の私たちの不登校対策や、教育漫才に共感してくれたCさんのお母さんが、A4で21枚のお手紙を私にくれたんですよ。

それを、先ほど示した教育漫才の本(『教育漫才で、子どもたちが変わる』)の中に全文、許可を得て載せましたので、不登校でお困りの親御さん、さまざまな不登校傾向のお子さんを抱えている先生は、このお母さんのお手紙を読んでいただくと、光が見えてくると思います。

3年がかりで校長先生の元に届いたスピーチ

(話を)中学校3年生のところに戻しますが、夏休み前にお母さんからお電話をいただいて、「(Cさんが)スピーチコンテストに出ますので、校長先生、見に来てくれませんか?」と言うので、会場に出かけました。

Cさんがステージに登壇しました。そして、「Warm Communication」、温かいコミュニケーションというタイトルで、私との出会いを発表したんです。驚きました。

学校に行くのがすごく嫌で、学校が怪獣のように見えたと。だけど校長先生と出会って、校長先生が温かいコミュニケーションを教えてくれた。そのコミュニケーションを中学校で活かして、そして、将来は「Warm Communication」を世界に広げていきたいというスピーチを流暢な英語で堂々と語ってくれたんですよ。結果、優勝です。

小学校6年生の時に書けなかった手紙を、3年かかって英語スピーチコンテストの原稿に書いてくれたんです。感動で涙が止まりませんでした。だから教育漫才は、そういう意味ではすごく子どもの心の中にも残るものだと思います。