トランプ当選でマーケットはどう動く?

広瀬隆雄氏(以下、広瀬):みなさん、こんばんは。コンテクスチュアル・インベストメンツの広瀬隆雄です。今日もよろしくお願いします。

今日お話しすることですが、トランプ大統領誕生でマーケットがどう動くかのかということに関して、私の考えを申し上げます。

まず結論なんですけれども、今、相場を動かしている最大の要因は何かというと、「トランプ減税」ですよね。

アメリカで抜本的な税制改革が行われるのは、実に30年ぶりです。しかも、今回の税制改革は大きな減税になると言われています。5兆ドルです。これはバカでかい減税額ですよね。

そうすると、30年に1回しか来ないような税制改革議論が行われていて、しかも今回の減税はバカでかいと。これは祭りだということですよね。だから、「なぜ株が買われているか?」という理由はそういうことです。

減税するということは、その国の税収が減るわけですから、それは米国財務省証券の信用が低下するリスクがあるかもしれないということを意味します。

だから、米国債は売られているということですよね。それはリスクオンを意味し、今のところドルは買い進まれてきたということですよね。

今はそういったかたちでマーケットにモメンタムがついてるので、それに逆らってもしょうがないと。マーケットが走っている間はそれについていこうというのが私の考えです。

だから基本的に、株は上を見ています。債券は下を見ています。つまり、金利は上昇を見ています。ドルにはナチュラルにドル高になる圧力がかかるんじゃないかなと考えています。

共和党のキーマン、ポール・ライアンという男

それで「ドナルド・トランプが当選だ」というニュースが出たあとで、米国市場の米国株の先物が、東京市場で瞬間−5パーセントぐらい突っ込んだわけですよね。

そのあとでショートカバーの買いが入って、それ以降にどんどんマーケットが高くなったわけですけれども、そのときの事情をもう1回説明し直しておく必要を感じます。

あのときにトランプは、「ポール・ライアンでいいんじゃない?」ということをちらっとシグナルしたんですよね。

ポール・ライアンは誰かというと下院議長です。The Speaker of the House。つまり、下院の議員さんたちのまとめ役です。

そのポール・ライアンの前職は下院歳入委員会、英語でいうとHouse Ways and Means Committeeと呼ばれる委員会の委員長でした。

この下院歳入委員会というのは、国家予算を決めたり、税制の草案を書いたりする委員会です。

下院にはいろいろな委員会があるわけですけれども、そのなかでも最もパワフルで隠然たる影響力を持っていると言われます。

予算審議というのは、いろんな草案のなかでも、一番審議の回数が多いので、その委員長を務めるということは、およそ下院で法案を通過させるためにどのボタンを押せばいいのかという細かいテクを熟知している。そういう男がポール・ライアンということです。

だから言ってみれば、伝統的な共和党の価値観を一番背負ってる男ということですよね。

ドナルド・トランプが公認候補になる過程で、トランプとポール・ライアンはガーンとぶつかりあいました。なので、「トランプが大統領になったー!」といったときに、投資家は「ああ……これでポール・ライアンはクビだ、終わりだな」「政治生命が終わった」と。

そうすると、「法案が通らなくなるんじゃないか?」という不安が出たわけですよね。そしたらトランプが「んー、ライアンでいいんじゃない?」と言って(笑)。

そのあとで共和党が採決して、「下院議長はポール・ライアンでいいか?」ということを投票したわけですよ。そしたら、圧倒的な多数でポール・ライアンがSpeaker of the Houseに再選されたわけです。

何を言ってるかというと、トランプは「下院と一緒に仕事をしていきますよ」ということをシグナルしたということです。

レーガノミクスとトランプ政策との違い

トランプ政権の特徴は、1行で言えば、「アンチ・エスタブリッシュメント+大きな政府」という性格を持っています。「アンチエスタブリッシュメントとはいったいなんだ?」ということなんですけれども、これはアンチエリートということです。

例えば、アメリカには王朝的な有力ファミリーがいくつかあります。典型的な例でいうと、ケネディ家、もっと最近ではブッシュ家、あるいはクリントン家、あるいは昔でいうとルーズベルト家、そういった有名な政治家ファミリーがいるわけですよね。

トランプはそれに対してアンチだと。「もうそういうのはやめてくれ」「俺はビジネスマン出身だから、庶民の味方だよ」というメッセージを出している。

それから2番目のポイントとして、大きな政府。これは何を意味するかというと、トランプ政権の文脈での大きな政府というのは、社会保障のいろいろな制度をカットバックしない、減額しないということなんです。

これはロナルド・レーガンの価値観とはかなり違います。だから、トランプが当選したあとで、日本のマスコミがわ~っと「これはもうレーガノミクスの再来だ」とか、株式のコメンテーターも、レーガノミクスとトランプを比較する人がすごく多かったんですが、それはぜんぜん間違っています。そんなことを言っているやつはバカですよね。

なぜかというと、ロナルド・レーガンという人は、非常に小さい政府という美意識を持ってた。国家というものは個人の生活にあーだこーだ口出しすべきではないと。

それで、レーガンは「これも面倒見る、あれも面倒見る、おむつも替えます」という福祉国家みたいなことはやるべきじゃないと考えていたわけです。つまり、小さい政府ということですよね。

レーガンが出てくる直前の1979年に、ミルトン・フリードマンというアメリカの経済学者が『選択の自由』(『Free to Choose』)という経済書を書いて、それがベストセラーになりました。

最近で言えば、トマ・ピケティの本がベストセラーになったでしょ? あれより『選択の自由』のほうがポピュラーだったと思います。部数をチェックしていないので、いい加減なことは言えませんが。当時、非常に影響力を持った本だったんです。だから、政府は小さければ小さいほうがいいと。

でも、翻って今日、政府がしゃしゃり出る必要はないと世論が言ってるかというと、そんなことはぜんぜんない。我々日本もそうだし、アメリカもそうだけれども、「もっと政府にこれをやってほしい」「あれをやってほしい」「格差政策・貧困政策をやってください」というふうに、政府に期待するものが非常に大きいわけです。

だから、ロナルド・レーガンが出てきたときの空気と、今の空気はぜんぜん違うということですよね。

しかも、ドナルド・トランプの場合、「減税をやる」と言っています。国家の税収は下げるにも関わらず、1兆ドルのインフラストラクチャ工事をやると。それから軍備を拡大するということも言っています。

だから、レーガノミクスとは違うんだということを、1つしっかり押さえておいてください。