本企画、「キャリアをピボットした人の哲学」では、インタビュイーにこれまでの人生を折れ線グラフで振り返っていただき、その人の仕事観や人生観を深掘りしていきます。
今回は、新刊『ADHD会社員、フリーランスになる』を上梓されたライターのいしかわゆき氏に、今までの人生を振り返っていただきました。本記事では、「強み」を持ったキャリア形成のポイントを語ります。
2度の転職を経てフリーランスに
——前回、2度の転職を経てライター職に就かれた経緯をお話しいただきました。ここからライターとしてのキャリアが始まるんですね。
いしかわゆき氏(以下、いしかわ):そうですね。「これじゃない、あれじゃない」って言いながら転職を繰り返してきて、最後にたどり着いたのがライター。いろんな人に取材をして記事にするのはすごく楽しかったです。
——自分に合った仕事で楽しみながら成果を出されていたと思いますが、その後フリーランスに転身されたのはなぜでしょうか?
いしかわ:会社の方針によって書きたいことが書けなくなってしまったんです。「今後はSEOに力を入れよう」となった時に、会社員はその決定に従わないといけないじゃないですか。自分が書きたいことよりも、会社としてやるべきことをやらなくてはいけない。それが会社員なのだと気付きました。
さらに、本数を増やすために記事を作るのも外部のライターさんにお願いすることになり、私は編集のポジションに回ることになりました。
SEO記事は、必要な情報を網羅して、戦略的に検索結果の上位を狙っていくのですが、私はそれをぜんぜん楽しめなくて…。外部のライターさんに(インタビュー記事の)仕事を依頼しながら、「あっちのほうがやりたいな」と思っていました。
ちょうどその時、社会人コミュニティに入って、いろんな働き方をしてる人に出会うことになりました。
公務員やパイロット、フリーランスのライターなど、いろんな人がいる中で、初めて“フリーランス”という選択肢が世の中にあることに気づいたし、身近にそういう人がいたからこそ、「もしかしたら自分もできるかもしれない」という気持ちになりました。
退職を決意したタイミング
——そうした出会いが、フリーランスに転身されたきっかけになったんですね。退職をするタイミングは、どうやって決断されたんですか?
いしかわ:これまで休職をしたこともないし、会社を辞めた後もすぐ次の会社で働いていたので、初めてルートから外れる感覚というか…。正直、フリーランスになるのは怖かったです。
最初は副業しながら会社員を続けようと思っていたのですが、実際にはその“副業会社員期間”が一番辛かったんです。平日は朝から夜まで本業の仕事をして、土日は副業をやって一切遊べないという生活の中で、ちょっとメンタルをやられかけまして。
その時に、「副業の依頼がいっぱい来ているからこそ、土日が圧迫されているんだな」と気づいて、「これはフリーランスになるタイミングかも」と思って辞めました。
会社員→フリーランスになって気づいたメリット・デメリット
——会社員からフリーランスになって良かったことや、悪かったことはありますか?
いしかわ:会社員を辞めて良かったことは、やっぱり自分で仕事を選べるところ。今までは仕事が来たらやるしかなかったけど、今は嫌だったら断れます。自分の裁量で進められるのがいいですね。これまではひとつのメディアでしか書いていませんでしたが、いろんなメディアで幅広いジャンルの記事を書けるのも大きいです。
あとは、私はADHDの特性が強く、どうしても朝起きられなかったり、時間を守るのが難しかったりすることを、自分でコントロールできるのがありがたいです。
例えば「取材やミーティングは午前中に入れない」と決めているのですが、そうすると、午前中にやることがないので絶対に朝寝坊をしなくなりました。こんなふうに自由にスケジュールを立てられたり、がんばりたい時は多く仕事を受けられたり、疲れてる時は休めたりするのがよかったところですね。
そのおかげで、仕事をしながらもう一度声優の養成所に通い、事務所に所属して何本か作品に出演させていただくこともできました。
対するデメリットは、毎月の固定給が入ってこないことによる不安感。会社員と比べてどうしても安定性には欠けるのと、やっぱり「自分はこの会社の一員なんだぞ」という所属意識が、自分を支えてくれていたところもあって。仲間と一緒にやっていたのが、フリーランスになった瞬間孤独な気分になり、所属欲求が満たされなくなりました。
あとは、ハードルが高いことや嫌なことを避けるようになったことで、自分自身の成長を阻害している可能性は少しあるかもしれません。
「得意なこと」で仕事をするのが一番いい
——いしかわさんは声優やライターなど、着々と夢を叶えていった印象がありますが、キャリア選びで大事にしていることはありますか? 今のキャリアも計画して築いてこられたのでしょうか?
いしかわ:いや、ぜんぜん計画的ではないです。これまでの転職では、どっちかっていうとやりたくないことを軸に考えている気がしますね。
やりたいことがある人ってあんまりいないと思うんですけど、やりたくないことがある人はいるはず。例えば私は、1社目では「営業やアナログな社風が嫌だ」と広告代理店に行き、「自分が作ったものが残らないのが嫌だ」とライターになって、最終的に「会社の方針に振り回されるのが嫌だ」とフリーランスになりました。
これが嫌だ、あれが嫌だとやっていたら、最終的に残ったのが、自分の欲しいものだったという感じです。
——これまでライターや声優など、憧れや好きなことを仕事にされてきていかがでしたか?
いしかわ:うーん、そうですね。ライターになってみて、やっぱり「得意なこと」で仕事をするのが一番いいなと思いました。ライターは好きなことでもあるんですけど、どちらかと言うと、得意なことというか、楽なことですかね。
私はしゃべるのは苦手だけど書くことは得意で、ずっとやっていても苦じゃないんです。練習や努力することはあまり得意じゃないけど、書くことだけはずっと続いてるんです。それはたぶん、練習や努力だと思っていないから(笑)。
自分が無意識のうちにやってしまうことで、第三者から褒められることは、自分が一番得意なこと、かつ周りに貢献できること。それを磨いていくと、1つ強みを持ったキャリア形成ができると思います。
経理の仕事をしている友だちは、税金や節税について考えるのがすごく好きなので、経理にすごく向いてるんですよ。あとはお店に入って、「ここの集客ってどうなってるんだろう」「このメニューの価格設定はどうなんだろう」と考える子は、マーケターにめちゃめちゃ向いてるとか。
私の場合は、無意識にやっていた「書くこと」が仕事になったので、ライターは自分に合っているなと思います。