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成果が出せない=「能力がない人」とみなす能力主義の組織の問題点(全4記事)

40代〜50代の管理職が「部下を承認する」のに苦戦するわけ 職場での「傷つき」をこじらせた世代に必要なこと

近年は人手不足や人材獲得競争の激化が深刻化しています。一方で、個人の能力によって、人を「選び」「選ばれる」能力主義が、職場では根強く残っています。環境、機会、適性など、成果に影響を与える要因が多岐にわたるなかで、成果と能力を直結させる風潮を見直す必要があるのではないでしょうか。

そこで今回は、組織開発専門家の勅使川原真衣氏にインタビューを行いました。本記事では、「成果が出せない部下」に上司が伝えたいポイントや、メンバーとの関わり方に悩むマネージャーへのアドバイスをお届けします。

「成果を出せない部下」とどう向き合うか?

——現場のマネージャーがメンバー個人の性質を見て(仕事やメンバー同士を)組み合わせていくことが大事だというお話がありました。具体的には、マネージャーはなかなか成果を出せない部下と、どう向き合っていけばいいのでしょうか?

勅使川原真衣氏(以下、勅使川原):そうですね。まずは「(マネージャー本人が)部下のことを『成果が出せない部下』だと感じているんだな」と認識を自覚する必要があると思います。でも、「成果を出せない部下」という事実が本当にあるかどうかは、わからないんですよね。

「成果を出せない部下=能力が低いからだ」という図式が存在していれば、なんとなくすっきりするんですけども。能力の問題ではなくて組み合わせの問題だと考えて、「成果を出しにくい、環境調整をマネージャーの自分はもっと工夫できたかもしれない」「組み合わせをもうちょっと試行錯誤できればな」などと、自戒を込めて自己客観視をすることが不可欠だと思います。

なので、「成果は周りとの相性によって作られている」という前提に立つこと。よく「成果が出せない部下が多くて」といった相談をされるんですけど、「あぁ、なるほど。そういうふうに見えるんですね」と言っています。

フィードバックで見落としがちなこと

勅使川原:そこで「『成果が出せていないように僕の目から見えているんだけど?』って、(相手に)フィードバックをされているんですか?」と聞くと、十中八九、「いや、それはしたことありません」って言うんですよ(笑)。そりゃないでしょうよと思ってしまいます。そうしたフィードバックが必要だと私は思うんですよ。

というのも、成果や期待をちゃんと定義・言語化していないことがまだまだ多いんです。「ごめんね、成果ってちゃんと定義していなかったかもね」「自分はこういうものを成果だと思っていて、あなたはそれを満たしていないような気がしているんだけども、どうなのかな。あなたもやりにくいところがあったりするの?」という対話が生まれるのが、理想だと思うんです。

そもそも成果が出せていないと認識した時に、相手の能力の問題であると思って思考停止しているか、そのまま対話もせずに「もう駄目だから、あいつをどっかに送り込みたいな」となってしまうケースが多いと思うんですね。

なので、これは双方向的な組み合わせの問題の可能性があると理解し、それをちゃんと伝える。「あなたの能力の問題としてではなくて、僕もできていないことがあると思うから、一緒にやりやすい仕事にするためにはどういう方法があるかな」と対話していく。

——「自分はあなたにここまでやってほしい」とか、「これをやってくれたらもっとうれしい」とか、相手に求める成果を分解してお話ししていく方法もありそうですね。

勅使川原:そうなんですよ。これもやはりジョブ型にちょっと似ているんですよね。自分は何を期待しているから、「相手のことを期待外れだ」と思っているのか、言語化しないといけないんですよ。

フィードバックもせず世間話をする1on1は無駄

——対話が大事だということですね。今は1on1を取り入れる企業も多いですが、「何の話をすればいいかわからない」「忙しい中でやる意味はあるのか」という声もありますね。

勅使川原:いや、本当にそうですよ。「最近は何か言うと全部パワハラとか言われるし」と言いますが、フィードバックもしないで世間話する時間は本当に無駄じゃないですか。

日々を労いつつも「自分の目からはこういうふうに見えているんだけど」って水を向けて話し合う。その時に「能力論にするのはNGにしましょう」とかグランドルールを作って、お互いにできていないところがある前提で、「今日はどうしていけばいいかだけを話そう」とか。

だいたい、コンサルもすぐ「組織の問題はコミュニケーション不足です」と言ったりします。でも、その問題設定で、「じゃあ、コミュニケーション量を増やしましょう」「合宿しましょう」「1on1を増やしましょう」とやっても、うまくいく気がするでしょうか。その関係性のまま話しても、むしろ話すほど逆効果みたいな。

そうではなくて、決めることを決めていないから、「お互いに仕事の成果が出せていないように見えちゃっているよね」ということを、仕組みとしてちゃんと考えないといけない。

「自分が駄目なんだ」で終わらせない

——マネージャーができることとしては、目の前の部下をよく見ることなんですね。一方で、成果が出せず悩んでいる人に向けて、個人ができることはありますか?

勅使川原:個人も、能力主義を過度に内面化してしまっている方が多い気がしています。自分自身で、「どうせできないから」「あの人のほうができるから仕方ないな」とか、「もっとがんばらなきゃ」と追い込んでいく傾向がある気がするんですけれども。

「なんか相性悪いな」とか「昔は違ったのに、あの人と一緒の時はやりづらい」と少し引きで見てみる。置かれた場所で咲かなきゃいけないわけではないので、相性とか、(組織の)いじれる部分を探っていってもいい。

今いるところで打診できるのであれば異動を願うとか、その前に「今こういう点で期待に応えられていない気がしているんですけど、もう1回どういう部分を期待されているかを伝えてもらっていいですか?」と面談を申し出るとか。

その上で「あぁ、これをあと2年とか3年もやり続けるのは嫌だな」と思ったなら、飛び出していいと思うし、咲ける場所を自分で探っていくぐらいの能動性があってもいいのかなと思います。

——「自分が駄目なんだ」というところで終わらせるんじゃなくて、どうすればいいのかを、自分から上司に掛け合ってみるのも大事ですね。

勅使川原:そうです。でも能力主義が根強いと、「自分はできないやつだ」と申し出ることになるので、言い出しにくいと思うんですよ。だから能力の問題じゃなくて、「ちょっと組み合わせが悪いみたいです」と、脱能力主義を組織全体で進めておく必要があるんです。

上の人が知っておかないと(個人は)身動きが取れないですよね。なので私は、組織開発の仕事も大事にしているんですけど、書籍でより広い範囲に伝える活動も大事にしています。特に「偉い人」にこそ知ってほしい。

経済産業省では、2022年に出した「未来人材ビジョン」という提言書の中で、「これからの時代を生き抜くために必要な56の能力」なんていう資料を作っています。「あなたはその56もの能力があるんですか?」と思ってしまうんですが、(1人に完璧な能力を求めるのではなく)複数人で持ち寄ればいいだけなんだと気づいてもらえたらと思いますね。

40代〜50代は、さんざん能力主義で傷ついてきた世代

——今プレイングマネージャーに大きな負荷がかかっていることが問題視されていますが、メンバーと向き合っていく上でのアドバイスはありますか?

勅使川原:マネージャーに「よく観察せよ」というところからお伝えしたいんですけど、その前に必要なことがあります。『職場で傷つく リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』という書籍にも書きましたが、おそらくマネージャーはマネージャーで、散々能力主義で傷ついてきているんですよね。

能力主義的に人となりを見られて、「黙ってやれ」「お前なんか大したことない」とか言われながら育ってきた人が、今管理職をやっているとすると……自分も報われてきていないのに、いきなり「人と人は組み合わせの問題だから、よく観察してください」とか、「まずは承認してあげてください」って、けっこう無理ゲーなのかなとも思うんですよ。

特に自分も含め、40代〜50代の世代は、本当に能力主義で傷ついてこじらせている感じなので(笑)。けっこう50代の中年男性の中には、「ずっと駄目出しされてきて、人生で1回も受け止められていない」みたいな人もいます。人的資本経営で人を大切にすると本気で言うのなら、そのこじらせを承認するプログラムなどもあったほうがいいんじゃないかなとは思います。

そりゃあ、「だって、俺はこれで育ってきた」「あいつが軟弱だからいけない」となるよなと。だから傷つきのケアから始めて、癒える場所を作る。

でも時代は変わってきているのは確かなので、能力主義で評価したり人を蹴落とすことが当たり前(という価値観)ではなく、「発揮しやすい機能の組み合わせを、みんなでがんばって考えていきましょう」と、問題を設定し直せるといいかなと思っています。

強さには限界があるから、弱さでつながる

——マネージャーが、自分の傷つきを無視しないことですね。

勅使川原:そうだと思います。「manage」って、もともとは「なんとかうまくやる」という意味なので、「管理職」という名前も違うのかもしれないですね。うまくやれるようにみんなと関わっていれば、個人でうまくやれていなくてもいいんですよ。だから、(マネージャーも)自分自身の評価を能力主義で捉えて自縄自縛に陥らないことが大切です。

「今できていないから駄目なんだ」じゃなくて、「あと何があったら、どういう人にサポートしてもらうとできそうか」とか。「(メンバーに)何を打ち明ければ、より距離感が縮まるかな」とか。強さには限界があるので、弱さでつながることが当たり前になればと願います。

管理職が弱みを開示するにも、「会社全体として、能力主義じゃない組織開発をもう少し進めていくことになった」という建て付けがあると、やりやすいかもしれません。ぜひ、偉い人には建て付け自体を変えていただいて、「じゃあ、それをどう現場に連鎖させていくの?」となった時に「強み一辺倒じゃなくて対話的な組織にしていきましょう」とか。

弱みの開示をしないと対話は絶対にできないので、会社がしっかり場を設定した上で、下は下で地道にやっていく。上から下から、挟み込むように進めていけるといいかもしれないですね。

——勅使川原さん、ありがとうございました。

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