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濱口秀司(全5記事)

日本人の「決められない」が武器になる--世界を4分類してわかったイノベーションに適した国家とは

「働き方と学び方」の研究開発を強化することを目的に設立した「WORKSIGHT LAB.(ワークサイトラボ)」に、USBメモリなどの発案者であるの元パナソニック、Ziba戦略ディレクターの濱口秀司氏が登壇し、イノベーションを生み出すための方法論を教えます。本パートでは、「日本人イノベーション最強論」を唱える濱口氏が、世界を4分類することで日本とイノベーションの相性が良いと主張する理由を解説しました。

IDEOと取り組んだクリエイティブの実験

濱口秀司氏(以下、濱口):次、どうやってクリエイティブに考えるかですね。どう考えるんですか? 1つ事例を紹介します。これは口頭でいきます。コンペティターのお話なんで。IDEO対Hideshi Hamaguchiですね。

10年以上前なんですけれどもIDEOのティム・ブラウンって、今社長なんですけれども。ティム・ブラウンと僕とで、おもしろい実験をやったんですね。何かっていうとIDEOのプロセス改善をしようと。

もう超例外条件でIDEOのブレスト、本読まれた方は知ってると思うんですけど、むちゃむちゃ速いブレストですわ。1時間で7人集まって100個アイデアを作ると、自慢げに書いてるやつなんですけれども。

その実はね、ブレストに僕参加したんです。参加っていうかオブザーバーです。7人いて、ファシリテーターがいて、ティム・ブラウンと僕が後ろの席にいて、で、実験をやるんです、ガーって、リアルケースで。

で、改善していくと。すごいんですよ、本当に。1時間でぴったし100個。7人で、それもかなりバラエティに富んだやつ。

その1時間の終わりに差し掛かったときに何が起きたかというと、ファシリテーターが「グッドジョブ、みんな」と。まあアメリカ人ですからグッドジョブと褒めて、ポストイット渡すんですね。1人3枚ずつ「はい、はい、はい」と。

で何を言ったかというと「その中でクールだと、すごいいいな、と自分が好きなアイデアを3つ選んでください」と。「選んでポストイット貼んなさい」と。これ自動投票システムですね。

そのアイデアの何がおもしろいかを考える

壁に、これ、これ、これって貼って投票されると。で、ファシリテーターが「あ! これ票が5つも集まってるからグッドアイデアだね! グッドジョブ! さよなら!」て言ったんですよ。

これ何かおかしくないですか!? 僕ね、何かこれおかしい! と思って笑ったんですね。そしたらティム・ブラウンが「何で笑ってんねん!」って顔して、大阪弁じゃないですけどね、英語で。で、かなりね、ムカついてるんですね。

で、「おかしいんじゃない?」って言うと「何がおかしいの?」て言うから「だってさ、ブレストのゴールはすごいアイデアを思いつきたくてやってるんでしょ?」と。

「もしそのミーティング中にすごいアイデアが出たら、そんなのね、投票しなくてスゲー! っていうか、先ほどのコントロバーシャルであれば、半分の人間は大好きで半分の人間は大反対って言ってるけど大好きなやつは本当に大好きなんで、君んとこの有名なプロトタイプ、いきなりここで始まるんじゃないの?」と言ったわけですね。

これね、その時点で盛り上がってプロトタイプにしないってことは、全然おもんないってことですわ、アイデアが。おもんないアイデアに投票して、「これが一番」って言って、「よくやったね」って言うのはサラリーマンじゃないか!? と。あ、サラリーマンってみんなサラリーマンですけど。「おかしいんじゃないか!?」と。

という話をしたらティム・ブラウンが「じゃあ、君どうすんの?」って言うから、「待ってよ。じゃ、まだ帰んないで」と。「いや、ファシリテーターは座れ」と。「お前はもうだめだ」と。

で、何をやったかっていうと、もう一度ポストイットを配ったんです。はい、はい、はいって3枚ずつ。その瞬間の7人の顔のくもりよう。同じことやらすんか、こいつって(笑)。この東洋人は、と。

で、もう1個言ったんですね。「何でおもしろいか考えてください」と。で、「そのおもしろい理由をこのフォーマットで書いてください」と。棒1本引っ張って「こっちがこうだからおもしろい。というふうに書いてください」と。

「例えば、普通はそれは女性向けの商品だけれども、男性向けにしたからおもしろい。普通はそれを5個のパーツで作ってるけれども、1個にしたからおもしろい。何かおもしろいというクールファクター、おもしろいなと自分が思ったのを書いて、それを貼ってください」と。

宗教の違いでアイデアの出し方も変わる!?

これ何かというと、アイデアがおもんないと。しかし日本人としてですね「八百万の神」を信じている僕はですね、そのつまらんアイデアの中にも、何かおもしろいもんがあるはずだと。それを引き出そうとしたんですね。で、実はそれを組み立てることはできますよね。クールファクター2つ組み合わせて強くすることができますよね。それをデモンストレーションしたんですよ。

アメリカ人はそれ、なかなかしないですね。絶対神を信じてるから、すぐもう投票してこれがいい! って決めるんですけど、僕は全部とにかく取り込みたいと。しかしアイデア全部取り込むのは無理なんだけれども、そのおもしろそうだとみんなが思ってる、えも言えないような切り口を塊にして持つ、ということをしたんですね。

で、それでブレストして「例えばこんなアイデアできるよね、この切り口を組み合わせると」ってみせると「おぉ、おもしろいじゃんこの東洋人」となるわけですね。で、それで終わりそうになったんですね。「待て、待て」と。「君たちがこのあとこのブレストをあと5回やったら、たぶんここにたどり着いて、その方向で考え始めるよ」と。

これ何かというと「バイアス」です。そのIDEOのプロフェッショナルがクールだと考じる方向で、どんどん考えていくはずなんで。「これがバイアスだ」と。

で、それは構造化しても見えてるんで、その場で「例えばこんなふうに壊してさ、こんなアイデアどう?」って言ったらみんな「えーっ!?」って言うわけです、さっきの車と一緒で。「えー!?」みたいな。「二人乗りだけど自由度ないの?」みたいな。で、説明すると「おぉ、おもしろいじゃん!」と。

これが実はね、IDEOと僕とのセッションの1つの例なんですね。これ、何を意味してるか? ブレストのプロセスがあります。IDEOの最初やったプロセスっていうのは、これですね。

有名なやつで、「どんどんどんどん、アイデア出そうぜー。で、そこで否定してはいけないよー」とかね。「ポストイットに必ず1個書けよー」みたいなルールがあって考えるわけですね。

で、これアイデアがアイデアを刺激したりとかしながら、いろんなこと思いついて、次何やるかというと、投票するか、くっつけてすごいアイデアにする、と。

これ何でかと言うと、ブレストのゴールが右なんですよ、必ず。そら当たり前ですよね、新しいアイデアを作りたいわけで。モチベーションが右に向いてるんですね。だから投票したくなる。

加えて、「八百万の神」を信じてないから。って、あのすいません、宗教の闘いをするつもりはないんですけれども、もしキリスト教の方がおられたらごめんなさいね。あの、絶対神を信じていると右に行くと。これがね、ブレストレベル1です。ま、素人レベルですね。

で、会社でやると、よくこれやりますね。で、もちろんもっと深い話になると、アイデアがアイデアを生んでるようなんだけれども、後ろでいろんな切り口を考えてる、ってのもあるんですが200メートル離れて見ると、こういう形ですね。

ブレストやるときはアイデアを見てはダメ

次のレベル。「切り口を出す」と。これ僕がIDEOにデモンストレーションしました。切り口を出して、それを例えばもう少し組み合わせて、もう一度割り戻すとできますし。

もしくはレベル2で、マイクなんだけれども1日24時間あるので、シーンを分けていきましょうと。で、オフィスでこのプレゼンで使ってるマイク。それ考えますよね。「いや、プレゼン終わったあとに使うマイク」「え、何それ?」みたいな。

「いや、朝起きたときのマイク、トイレ行ったときのマイク、歯磨きしてるときのマイク」これ普通に論理的に切り口出せますよね。それで作っていく、と。こういうことができますよね。

でもポイントは、一番左の包括モデルまで持っていくと。これが重要なことですね。なぜかっていうと、包括モデルっていうのはバイアスを探ろうとしている。それを潰すと。これがやり方です、簡単に言うと。

すごくおもしろいです。何かって言うと、普通アイデアに着目しちゃうんですよ。ブレストやったらアイデアを見ちゃうんですけれども、見たらいけないんです。これが難しいところです。

アイデアじゃなくて、なんでそのアイデアが生まれてるの? 誰が、なぜそれが、クールだと感じてしまうの? と抽象概念を引きずり出して、組み合わせて、それを壊す、というのが実は重要なやり方ですね。よろしいでしょうか?

似たものが並んだときにあなたは何を選ぶ?

次行きます。2番目のトピックです、やっと。イノベーションと日本人。さてどんな関係があるんでしょうか? 日本人を理解しようと思ったら、世界の人も理解しないといけない、と。いろんな分類の仕方があります。いろんな理解の仕方あります。

実は2010年のBODW、ビジネスオブデザインウィークという、世界最大のデザインとファッションとイノベーションのイベントが香港であって、そこで僕が喋った内容の一部です。

世界の人を分類しましょう、と。この際、分類方法はこの切り口です。人間が目の前にある物体、オブジェクトに対してどういう判断をしますか? と。目の前にあるものに対してどう考えますか? と。

まず1つがですね、異質なものを見たとき。例えば、このiPhoneとマイクを2つ渡したと。で、「どっちか選んでね」って言うと、「iPhone!」って。「僕iPhone好きだからこういう理由で」「俺マイク!」みたいな。とにかく選ぶと。これはわりと何か西洋的ですよね。決定論的に選んで、理由をつけて決めると。

で、これ対極的にあるのがですね「選べない」と。「いや、何か両方とも欲しいんだけど。いや、そんな無理に決めろって言われても何かちょっと決めれないよ」と。

深いところに、先ほど言った宗教観みたいなのがあって、「おばあちゃんはすべてのものに神様が入ってるから、俺マイク取ったらiPhoneの神様に、スティーブ・ジョブズに怒られる」みたいな、こういう感じを受けるわけですね。

A and BとA or B。もうわかってると思うんですけれども、見たら、同じようなものがいっぱいあったときどうするか? ですね。

よく似たものA1、A2、A3、こういうやつ、これとこれとよく似てますよね。よく似たものが並べられたときに人間がどう反応するか? 

世界中を4つの分類する

1つがmore is betterですね。「全部欲しいよ、俺」と。反対は「いや、そんなよく似たものだったらシンプルにいきたい」と。「質素倹約で1個でいい」と。もしくは「引き算の美学でもっと煮詰めたい」と。こういうふうに分かれるんですね。

これで4通りに分かれますよね。で、ステレオタイプはよくないんですけども、世界中の人間分類します。

1番目。右上。簡単です、アメリカ人ですよね。バン、バーン! て決めると。「トラック乗りたい! でかいやつ」と。一番いい例が、最近何か映画でヒットしてる『アベンジャーズ』。

(会場笑)

あれ、ありえないですよね? A、A、A、A、Aがドワーっと集まって(笑)。あれ日本人ではありえないですよね? 感覚的に。アメリカ人にむちゃヒットしてるんです、これ。アメリカ人ですよね。

次、反対側、日本人。これ日本人ですわ。決めれないけど、最後、龍安寺の石庭作っちゃう? みたいな。

(会場笑)

これはもう、全然違うタイプですよね。

で、よく似てるんですけど中国の方。「選んでくれ」って言ったら「いやAもBも欲しいし、CもDも欲しいけれども、どんどん大きくいっぱい欲しい」と。こういうメンタリティの方がいますよね、ステレオタイプでいうと。

で、右下は例えばイギリス人とかフランス人。何となくやっぱり西洋チックに、アメリカ人チックにバン、バン! って決めるんですけども、イギリス人からアメリカ人見たら「そんないっぱい取らんでええやん」と。フランス人から見たら「何でそんないくの? もうちょっとピュアにいこうよ」みたいな。こういうふうに分類されるんですね。

これ、すごくおもしろいんですね。両方、隣同士はわりと仲良くできるんですね。うちプロジェクトやってると、例えば中国のプロジェクトやったときには、たくさんがいいっていう議論しているうちは中国チームとアメリカチーム、OKなんですよ。

ところが、さあ物事決めて戦略決定だっていう話になったときに、中国チームは「待て、待て、待て。まだAもBもCも全部持っときたいよ」っていうので分かれるんですね。実は中国人と日本人はOKなんです、コンプロマイズしてるときは。でも日本人から見る中国人のいっぱいを見ると「あ、それ、ちょっといっぱい過ぎる」と。

イギリス人とはこういう関係。実は隣同士は理解しあえるんですね。対角線上はもうね、ミステリアスですわ。

(会場笑)

日本人がイノベーションと相性が良い理由

もうアメリカ人から見て「何なの? あの寿司は」みたいな。日本人から見て「何なの? ウェスタンは」みたいな。

香港なんかおもしろいですよね。香港なんかこの真ん中ですよね。イギリスと中国の文化の接点みたいな。これね、対角線上はもう、実はね、あまりにもミステリアスだから逆に食えるんですよね。利害関係がないから、売り方によっては。こういう形になってますね。

MUJI(無印良品)の話なんですけれども、MUJIはなんなのみたいな。MUJIってここ、日本の文化なんですよ。本当はシンプルなんですけれども、いろんなバランスを取ってるんですよね。

面白いのは、中国人から見たMUJIは、バランス取ってるのはわかってると、シンプルやなーと。イギリス人から見たMUJIは何かというと、シンプルなのはわかってるけれどバランス? みたいな。アメリカ人から見たMUJIは何なのそれ? みたいな。

店の数を見たらわかりますよね、最初イギリスで大成功しましたよね。今も増えてますよね。で、中国、今すごい人気ですよ。アメリカはまだ1店舗、こういうことですね。

こういうふうにキャラクターが別れたときに、4種類の人たちが世界で生きてるんですねーというチャートなんですね。これ注意しましょうねー、マーケティングする時よく考えましょうねー、というチャートなんですが、これとイノベーションを組み合わせると、1ヶ所だけ僕のさっき言ったプロセスにぴったりのクワドラントがあるんです、これです。

これ何かというと、決めない。すぐ投票して、いいもの見つけないと。なんとなく全部の人を入れてジャグリングしながらでもその背後にあるものを探りたいと。包括的に何か見たいと。このA&Bですね、捨てたくないと理解したいと。

次は、そのままほっといたら、ひっちゃかめっちゃかになるんですけれども、無理やりあるとき単純化して、何か見たいと、本質をと。この左下のカルチャーを持ってる人だけが、僕の先ほど書いたこのプロセスに3番のレベルと、あれを壊すというのに合うんですね。

で、Zibaっていうのは多国籍なので、22ヶ国ぐらいの人が集まってるんですね。教育もします。プロジェクトもします。明らかに、明らかにアメリカ人だめです。

もう、僕のプロセスは頭では理解するんですけれどもすぐ投票したり、すぐ決めようとするんです、わかってても。

ところが、日本人チームはいなんですけど、日本人僕1人なんで、日本のクライアントさんと仕事したりするとこれを説明すると全然OKなんですよ。左側の概念論をとにかく組み立ててみたり触ったりするんですね。これすごいんですよ。

これ日本人は、だからこういう意味でイノベーションには実は近いというのは結論ですね。ですからこのプロセスは充分日本人は受け入れることができると。

もしくは「よーいどん」で学ばしたりとか、「よーいどん」で練習したりとかすると確実に日本人の方がレベルが高くなります。だって体に根付いているもんですからね。

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