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[特別招待講演] チーム安野が目指すデジタル民主主義(全2記事)

AIエンジニアが挑む“政治革命” 安野貴博氏が目指す大規模言語モデルによる次世代民主主義

AIエンジニア、起業家、SF作家という異色の経歴を持つ安野貴博氏が、2024年東京都知事選で実践した「デジタル民主主義」。従来の一方通行の選挙戦略を覆し、AIとテクノロジーを駆使した双方向のコミュニケーションで15万票を獲得しました。その革新的な手法と、これからの政治のあり方について、「Developer eXperience Day 2024」で語りました。全2回。

安野貴博氏の経歴と都知事選出馬の背景

安野貴博氏:では、本日は「チーム安野が目指すデジタル民主主義」というお題で話をしたいと思います。

(スライドを示して)まずは安野が誰かという話からすると、今まで3つの職業をやってきました。1つがAIエンジニアで、東京大学の工学部の松尾研究室を卒業したあとにAIのエンジニアをしていました。その次にやったのが企業家で、AIの技術を使った技術系のスタートアップを創業して、過去に会社を2社立ち上げて参りました。

1社目が株式会社BEDOREというところで、コールセンター向けのチャットボットのソリューションを提供していました。2社目がMNTSQ株式会社というリーガルテックの会社で、契約書を機械に読ませてどういった情報がどこにあるのか、どこに危険な条項があるのかを検出するサービスを提供してきました。

3つ目がSF作家で、ハヤカワSFコンテストというSFの新人賞があるのですが、そちらで賞をいただいてデビューしています。基本的には、近未来の社会で新しいテクノロジーが使われるようになったらどういった問題が起きるのか。そこでどういう事件が起きるのかというような話を書くことが多いです。

これら3つの職業はけっこうバラバラのように見えるかもしれないですが、自分の中では一貫したことをやっているつもりです。基本的にはテクノロジーで未来を描く職業だと思っています。

今回都知事選に出馬をして、それも、今東京都の未来のビジョンが見えない中で、しかもテクノロジーの重要性がすごく上がっている中で、テクノロジーを通じて未来を描きたいという、そういう一貫した行動原理で出馬をしています。

私はSFの業界やAIスタートアップの業界では知っていただいている方もいたのですが、ほぼ一般人への知名度がない状態で出馬をしていました。

都知事選の結果と評価

(スライドを示して)結果はどうだったの? ということなんですけど、こんな感じでした。無名の状態からだいたい1ヶ月で15万票を得票しました。順位的には小池さん、石丸さん、蓮舫さん、田母神さんの次に来ています。

この15万票という数字がすごいんだか、すごくないんだかという話なのですが、まず私は当選を目指してやっていたので当選できなかったことは残念ではあるものの、意味のある数字になったかなと思っています。というのも、過去22回知事選があったのですが、その中でも30代では史上1番の得票数になりました。

もう1つは議員経験がなくて、支持組織がない候補の中でも史上最高の得票数を得られたということで、これは何でしょう。意味のある結果になったと思っています。

双方向の選挙戦略とデジタルテクノロジーの活用

今日お話ししたいのは、なぜ15万票をその無名な状態から取れたのかという話です。これはいろいろな仮説があると思うのですが、いろいろ考えた上で自分なりに、まとめてみるとこういうことかなと思っています。

デジタルテクノロジーを使って双方向の選挙をやった。これが私と他の候補者の圧倒的な一番の大きな違いだったと思っています。(スライドを示して)双方向の選挙とは何を言っているかというと、今までの選挙は基本的にはブロードキャスト型の選挙だったんですよね。その候補者が考えていることを、その政策を一方的にみなさん有権者に伝えるというスタイルの選挙活動が今まで行われてきました。

しかし、私は今回2024年、今の技術を使うことでこれを双方向なものにできるんじゃないかと思ったんですね。ブロードキャストではなく「ブロードリスニング」と言っていますが、これはどういうことかというと、ここに3つの絵がありますが、テレビやラジオとかが発明されて以降、一番左側のブロードキャストができるようになりました。

これは1人の考えていることをメディアがコピーして、それをたくさんの人に一気に伝えることができるようになったということです。これが1900年……。ラジオが発明されて以降、新聞もそうですね。活版印刷が発明されて以降は、こちら側の選挙のかたちでした。

一方で1990年代以降はインターネットが出てきて、誰でも自分の意見をネットで発信できるようになりました。これによって民主主義が変わるんじゃないかと、2000年代もすごくいろいろな議論が盛んにされていたのですが、それは真ん中の状態だったと思っています。誰もが意見を言えるようになったのですが、情報が多過ぎて受け取り手がパンクしてしまっていました。これが2000年代、2010年代に起きていた光景なのかなと思っています。

しかし、2020年代になって「ChatGPT」や大規模言語モデルが人間の言葉をうまく操作できるようになってきました。これによって、みんなが言っていることをうまく消化して1人の脳みそに入れられるようになってきたんじゃないかなと思っています。

なので私は、ブロードキャストだけではなくて、この一番右側のブロードリスニングという受信をアップデートすることによって、選挙というものを大きく変えられるんじゃないかということを思っていました。

選挙という期間を、発信するだけの期間じゃなくてみんなで未来の東京をどういう場所にするといいのかというのを議論する時間にできるんじゃないかと私は考えています。

選挙活動の3ステップ「聴く・磨く・伝える」

(スライドを示して)では具体的に何をやったの? というと、3つあって、聴く・磨く・伝えるのサイクルを高速に回すということをこの選挙期間でやってきました。

まずはみんなの意見を広く聴く。そして、その意見が出てきた上で誰が何を考えているのかがわかった上で、案を磨く。最後にそれを意思決定したことをみんなに伝えるという、この3つのサイクルを高速に回すということを安野チームはやっていました。これが決定的に違ったところだと思います。1つずつ詳しく見ていきたいと思います。

まずStep.0、この3つの前段階です。みんなの意見を聞くと言っても、いきなりみんなの意見を聞いて、いい政策やアイデアが出てくるかというと、私はそうではないと思っています。やはり議論の出発点となるものは必要だと思っているのでその出発点を用意しました。

具体的に言うと、マニフェストを出しました。これは100人以上のエキスパートに話を聞きながら、96ページぐらいのマニフェストを公開しています。もし興味がある方がいらしたら、私の名前で検索してもらえればそのホームページのトップにも出てきますし、こちらのQRコードで読み取ることも可能です。

マニフェストもどんどんバージョンアップしていったんですが、今はバージョン2になって、130ページぐらいあります。けっこう分量があるんですけれども、もし興味がある方がいたら見てもらえればと思います。

出してみると「こんな長いマニフェストは誰も読まないよ」というお声もいただいていたのですが、実際に蓋を開けてみると、ものすごく読まれて、SNSのインプレッションだけでも出してすぐに1,000万インプレッションぐらいいきました。

ただ分厚いだけじゃなくて、実際に中身を評価いただいている第三者の機関があって、早稲田マニフェスト研究所というところが各候補者のマニフェストを採点して点数を出してくれるのですが、その点数でも他の候補者をぶっちぎりで抜いて、一番の評価をいただいています。

ここで、こういった思想をテクノロジーをうまく使うことによって東京は良くなるんだというコアなビジョンを示しながら具体的なプランを出すと、このそれぞれの部分について「これはいいと思うけど、これは良くないと思う」みたいな議論の出発点ができるので、ここからちょっとサイクルを回していきました。

(次回へつづく)

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