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組織のパフォーマンスはこれで大きく変わる ~「承認」が人を動かす~(全3記事)

ただ褒めるより、部下のやる気アップにつながる“声のかけ方” コーチングのプロが教える“やりにくい職場”を変えるコツ

あいさつや声かけなど、「私はあなたの存在をそこに認めている」ということを伝える行為・言葉のことを指す「承認(アクノレッジメント)」。今回は、『「承認(アクノレッジ)」が人を動かす』著者・鈴木義幸氏が、組織とアクノレッジメントの関係について解説します。本記事では、承認の量が組織のパフォーマンスに及ぼす影響などを語りました。

コーチング上手な人がやっている「成長承認」とは

鈴木義幸氏「褒める」と「存在承認(アクノレッジ)」が違うと言いましたが、実は承認には3種類あると考えています。1つが「存在承認」で、2つ目が「結果承認」。何かができた時に「よくやったね」というのは、承認する側の評価が入り込むわけですね。

ですが、何かをやった時に評価されないというのも、ある意味で存在を認められないことにもつながりますから、存在承認の中に結果承認も含まれていると考えてもいいかもしれません。

ただ、結果承認が唯一の承認手段になってしまうと、何かができた時じゃないとストロークをかけられないことになってしまいます。評価した時だけストロークをかけると、それ以外の大半の時間はストロークがかからないことになってしまって、自分の存在に対する不安が生まれて、エネルギーがダウンするということが起こり得る。

なので、まずは存在承認というものがあって、その中に1つのかたちとして結果承認がある、というふうにとらえていただいたほうがいいのではないかと思います。

もう1つの承認が「成長承認」。これもオーバーラップしてる部分はたくさんあるんですが、成長承認とは何かというと、コーチング的には非常に重要なんですが、実はすごく難しい。例えば1週間や1ヶ月経って、ある時点で「こういうふうに差が生まれたね」「こういうことができるようになったね」「こういうふうにあり方が少し変わったね」「こういう状態だね」とか。

これって、ものすごく明らかな変化が起こればわかりやすいですが、本当にちょっとした違いでも認識して、「こういう違いを作ったね」と言えるには、本当に見てないとできないし、観察してないといけない。

でも、コーチングのうまい人やコーチとして技量のある人は、この成長承認がうまいというふうにも言えるかなと思います。なので、頭の整理として1つこういうものがあります。いずれにしても結果承認・成長承認だけだと、受け手からすると承認する機会が少なすぎるので、存在承認も必要なものだと、しっかりと認識していただけるといいかなと思います。

「叱る」と「怒る」の大きな違い

ちょっと余談ですが、俗に言われる「褒める」というのは、結果承認の中に含まれるわけです。自分のバックグラウンドは心理学なんですが、その昔『心理学辞典』というものをペラペラ調べていたら、褒めるというのは「前進への促し」と書いてありました。

褒める瞬間は、「これがいい」って言うわけですよね。ということは、「その行為を繰り返してほしい」という、ある意味でマネジメントする側の示唆なわけですよね。それを繰り返していくともっと前進できるし、結果が出るよねっていう意思表示だとも言えますよね。

ちなみに、褒めるの逆の「叱る」なんですが、心理学辞典では叱ることは「挽回への励まし」と書いてありました。叱るというのは、何か失敗をしたということだと思うんですが、それを自ら相手が挽回しようと思うように、ある意味でストロークをかける言葉をかけるのが「叱る」。それが挽回への励まし。

「叱る」と「怒る」は違うわけですね。何が違うかをすごくシンプルに言うと、叱るのは基本的に相手のため。挽回への励まし、相手の成長に向けて叱ってるわけですが、怒るというのは、スタンスが「for me」なんですね。自分のために怒っている。

だから親や上司やコーチにストレスがかかっていて、反応的な状態になっていて、なんかイラついていて、気に入らない部下の行為があると怒るということですね。だから、叱ってるのか・怒ってるのかはものすごく違うわけです。

整理としてなんですが、いずれにしても存在承認、アクノレッジは非常に重要だということをお伝えしたくてこんな整理をしています。

おじいちゃん子・おばあちゃん子は自己肯定感が高い?

ちなみに、おじいちゃん子、おばあちゃん子は自己肯定感が高い。心理学的な統計として明確にあるかどうかわからないんですが、一般的にそのように言われますし、自分や自分の周りを見ていても「なんとなくそうかな」と思うところはあります。

どうしてかというと、これも心理学用語で「アンコンディショナル・ラブ」、無条件の愛なんていうふうに言います。両親はどうしても子どもをしつけなければいけないということから、当然、良いことは褒めてダメなことは叱るというふうにしますよね。

なんですが、祖父母はある意味で育成責任からちょっと解放されているので、とにかく“存在承認のシャワー”を孫に浴びせる傾向があるわけですよ。できたか・できないかではなくて、アンコンディショナルですから、膝元に持ってきてとにかく「いい子ね、いい子ね」と。

小さい頃にこのアンコンディショナル・ラブを受けると、非常に精神的に安定した大人になりやすい。じゃあ、おじいちゃん子・おばあちゃん子じゃなかったら安定しないのというと、そういうことじゃないんですが、1つの変数として「精神的に安定して育つ可能性が高い」とは言われています。

つまり、自分に価値があるかどうかということを、他人の判断に過剰に依存しなくても済むってことなんですね。そういうふうに言われて育っていると、そもそも「自分ってイケてるじゃん」というのがデフォルトになるので(笑)。

おじいちゃん子だったか、おばあちゃん子だったかというのは別にして、例えばみなさんの部下を想像してください。仮に10人いるとすると、その10人の本当に深い部分での存在承認が、この瞬間にどのくらい足りてるか、足りてないかという度合いは、人によってさまざまだと思うんですね。

やたらと他人の粗を探す人の心理

もちろん、おじいちゃん子・おばあちゃん子でめちゃめちゃ無条件の愛をもらった人だとしても、たかだか1週間、2週間でも「周りからぜんぜん自分の存在を承認されていない」というのが続くと、人間である以上不安が高じたりすることは絶対にあり得ます。

冒頭の問いでも投げかけさせていただきましたが、今この瞬間における承認の充足感、「足りてるな」「足りてないな」というのは絶対にあるわけですよ。

「ゲーム」というのは何かと言いますと、自分が直接的に何かを欲している時、例えば褒めるのは存在承認ではないですが、褒めてほしいと思った時に「ねぇ褒めてよ」と言うのは、わかりやすいしシンプルだし、「あ、褒めてほしいんだな」となりますよね。

でも、大人はなかなかそうはいかなくて。自分が手にしたいものを直接的ではなくて関節的に、結果的になんらかのかたちで自分に手に入ってくるように仕組んでいく。こういうことを「ゲームをする」とか「ゲームが存在している」という言い方をします。

例えば会社の中で、やたら人の粗を探す人っていますか? 粗を探して、「粗を見つけられる自分」だということを浮き立たせることによって、自分に向けた承認が起こるように仕組んでいるとか。それから、「自分の意見になんらかの異を唱えた人とはもう口を聞かない」というふうに、拗ねることを通して「自分にリスペクトをはらわない人はダメだ」とか。

つまり、自分に対して変なことをした人に口を聞かないことによって、「そもそも自分はリスペクトをされてしかるべき存在なんだ」「自分はリスペクトされるべき存在なんだ」ということを際立たせていくという、ある意味でゲームですね。

どんなに偉い人でも“認められたい気持ち”はある

それから、会議の中で発言しないとか。つまり、直接的に関わって「話そう」ではなくて、自分にアテンションが向けられるように仕組んでいく。問題は、こういうのって仕組もうと思って仕組んでるわけじゃないんですね。無意識のうちにアプリケーションが内側で起動して、そういう行動を起こしていってしまう。

「そういうやつ、ダメだよね」というのは、そんなことなくて。語ってる私も、多かれ少なかれもちろんやってますし、みんなどこかでこういうことをやるんですね。ただ、このゲームが多すぎると、組織やチームの中ではお互いに対するマインドリーディングがものすごく増えちゃうので、「相手を読まなければいけない」という変数がすごく増えるわけですよ。

経営チームに対するグループコーチングをずいぶんやらせていただいてるんですが、経営チームは副社長、あるいは専務が社長に「社長、僕のことを評価してくださいよ」なんて間違っても言えないですから(笑)。悪いって意味じゃなくて、そういうものですから。

そうはいっても人間なので、やはり「自分にちゃんとストロークを向けてほしい」というのはあるわけですよね。いくら偉い人でも、偉い人だからこそ。

それを手にしようとしていろんなゲームを起こしてしまうと、経営チームの中で「場が淀む」「空気が重くなる」というかたちで現れてくる。だから、カラっと晴れた湿り気のない、「ハーイ!」という感じじゃないんです。なんかじと〜っとした感じになってきちゃうんですね。

存在承認の量が減るとチームの動きが悪くなる

人間社会である以上、ゲームは絶対にあるのでなくなることはないんです。でも、チームの中で、お互いがお互いに対して投げかけているアクノレッジメント、存在承認の量が減ると、トータルでチームの中でのゲーム量が多くなっていって、エネルギーが下がっていって、動きが悪くなるんですよ。

なので、特にリーダー・上司はアクノレッジの総量をチームの中で増やしていって、チームのエネルギーをチャージして、余計な変数を減らして、ゲームを減らす。未来に向けて、目標に向けてエネルギーチャージされて、行動が起こるようにしていきたいですよね。

じゃあ、そのアクノレッジとはいったい何をすることなのかというと、シンプルなのは「あいさつ」。もう、あいさつはめちゃめちゃ大事なので。

もともとヨーロッパは階級社会・貴族社会で、誰かの紹介がないと人に会えなかったらしいんですね。でも、アメリカという国でHelloという言葉が出てきたから、人の紹介を介さずに誰に対しても「Hello」と言えるようになった。

つまり、「俺はあなたを存在承認するよ。Hello」と言うと、こっちでも「Hello」でもう関係ができて、「なんかやろうよ」となる。そこがアメリカという国のすごく強いところですよね。

あいさつする時に大切なことは「声のボリューム」

私の知り合いで、ある学校の高校野球の監督になった人がいるんですね。そのチームを甲子園に連れていっちゃったんですが、実は彼の前任者がすごく厳しい監督でした。ところが、血圧が上がりすぎて体調が悪くなって、私の知り合いが監督に急遽呼ばれて。その前任者と大学が同じだったということもあって、監督として行ったらしいんですよね。

選手たちからすると、怖かったけど前任の監督とずっと甲子園を目指していたのに、夏の大会の半年ぐらい前に急に新しい人、私の知り合いが来て。当然、選手も「何なんだ?」という目で見るじゃないですか。結果的に、その半年後に甲子園に連れていっちゃったわけなんです。その時が初出場ですよ。

「どうやって選手と関係を作ったの?」って聞いたら、「あいさつだよ、あいさつ」と。「でもお前さ、あいさつで関係なんてできんの?」「いや、それがね……」って彼が言うんです。

だいたい声のボリュームって「閾値」というものがあって、ある一定の音量以上であいさつされると反応する領域があるんですって。例えば「おはよ……」とかって言うと、「は?」みたいに、振り向きもしない(笑)。でも「おはよう!」って言われると、「お、おはようございます」というふうに、体が反応する声量・音量の閾値があると。

基本的にあいさつをすることの一番難しいところは、「あいさつして相手に無視されたらどうしよう」と思ってしまうこと。高校生っていろいろなマインドセットがあるので、「こっちがあいさつしてるのに無視されたらどうしよう」って、やはり監督でも思うんですって。

でも、それを超えて「おはよう!」と言うと、「あっ」と振り向く。そういう音量でやっていくと、向こうも「おはようございます」と言う。そうするとだんだん関係性ができるというふうに言っていて、なるほどねと。やはり違うなと思いますよね。

ある高校野球の監督が、安易に選手を褒めない理由

それから、(あいさつと)似てますが「声をかける」。当たり前なんですが、声をかけるのは大事です。それから「ありがとう」。ありがとうというのは、結果承認か存在承認か微妙なところですが、ありがとうという言葉を伝えるのは当然大事です。

それから「観察を伝える」。これもまたさっきの友人の話になっちゃうんですが、選手を褒めないんですって。なんでかというと、例えば「お前、守備うまいな」って褒めると、成長が止まってしまうのではないかということを彼は恐れて、安易には褒めないんですって。

褒めないんですが、さっき言ったように、結果承認しかないとエネルギーチャージが起こらないし関係ができないので、観察、オブザベーションを伝える。

例えば守備でショートを守っている生徒がいるとして、すごく果敢に前に出てボールを止めようとしていると、彼はその選手を見て「よく前に踏み込んでるな」と言う。「前に踏み込んでるな」というのは、褒めているというよりは「踏み込んでいるということを、ちゃんと自分は見て知ってるよ」ということです。

それから、朝早く来ている生徒に対して「おう、早く来てるな」と言う。「早く来ていて偉いな」とか「すごいな」って言うのとは、ちょっと違うんですよね。「早く来ているという事実をしっかり自分は見てるよ、認識してるよ」と。相手に対するエネルギーチャージという観点からは、こういうものが関係性を作ったりするのに重要だと言っていました。

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