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日本文化におけるアジャイルへの道(全2記事)

この20年間、世界を変える日本企業が生まれないのはなぜ? 企業の成功に必要な、日本のアジャイルにおける“マインドフルネス”のシフト

日本におけるアジャイル変革について発表したのは、アヴィ・シュナイアー氏とJJ・サザーランド氏。日本で持続可能なアジャイル革命を起こすための実践的な戦略、文化的な考察について語りました。全2回。前回はこちら。

組織の文化において非アジャイルなものは?

アヴィ・シュナイアー氏(以下、シュナイアー):みなさんにちょっと聞きたいと思います。組織の文化を考えた時に、非アジャイルなものとしてどういうものが考えられるでしょうか? なにか言ってください(笑)。

(※会場から「承認を求める」の声)

承認を求める。もう1人、お願いします。

(※会場から「完璧な計画を求める」の声)

完璧な計画を求める。プロダクトの完璧じゃなくて、プランの完璧を求めるですね。

ほかにありますか? 勇気を持ってください。

(※会場から「合意がないと進まない」の声)

合意がないと進まない。

(※会場から「それから、年功序列」の声)

多くの場合、問題ですよね。日本の文化においては、年上に対するリスペクトを持つことがあるから、年上、目上の人になにかお願いをされたら、断れませんよね。バックログが延々と長くなってしまいますよね。どんどん必要ないものも上のほうに上がっていっちゃいますよね。

ほかにありますか?

(※会場から「オーバーコンプライアンス」の声)

オーバーコンプライアンス(笑)。

(会場笑)

前に進むのがすごく難しくなりますよね。ほかにありますか?

(※会場から「衝突を避ける」の声)

衝突を避ける。日本にもう10回ぐらい来ていますが、一番よく聞く言葉が、「ごめんなさい」と「ありがとう」です。「いいえ」や「ノー」は、ほとんど聞きません。

でも、みなさんは知っていると思いますが、プロダクトオーナーの持つ強い特徴は、きちんと断ることであったり、「ノー」と言えることです。

価値の低い仕事や途中で入ってくる仕事は断らなくてはいけませんが、日本ではその場面は滅多に見られません。

構造を変えて、システムを変えて、自分自身を変える

では、どうしたら日本の企業文化を変えられるでしょうか? スクラムの元となったホワイトペーパーを書いた竹内教授(竹内弘高氏)と野中教授(野中郁次郎氏)の言葉があります。この2人の教授は「どの企業も、特に危機的状況以外で変革を推し進めることは容易ではない」と言っています。

私たちは特に近年、いろいろなクライシス、大変なことに直面しています。それでもみんな一緒になって変わるということがなかなかできない状態です。

もう1つ、ジョン・セドンという組織心理学に詳しい有名な人の言葉があります。この言葉の中にすごく重要なポイントが2つあります。彼は、文化というものを辞書と異なって訳しています。彼は、「人々の行動」とシンプルに言っています。私は、それがすごくシンプルでいい訳だと思っています。

この中で、もう1つすごく大事なポイントとして「人々の行動を変えたいのであれば、その元となるシステムを変える必要がある」と言っています。

彼は西洋文化の教授なので、日本とちょっと違います。組織の文化やそういったポスターを会社の壁に貼ったからといって人々の行動が変わるとは限りません。

日本は少し違うかもしれません。日本では、政府が新しいルールを出した時に、みんなすぐに行動を変えます。「夏にネクタイをつけなくていい」と政府が言ったら、みんな急に次の日からつけなくなったように。アメリカではそれはなかなかできません。

この2つのアイデアを一緒にした時、彼は「文化を変えるためには、システムを変える必要がある」そして「システムを変えるには、構造を変える必要がある」と言っています。なぜなら構造がシステムにも影響しているからです。そして、システムによって私たちの行動が変わってくるからです。

私たちはどうしたら企業文化を変えることができるのでしょうか? この言葉を見たことがある方はいますか? 

「あなたが望む世界の変化になりなさい」。これを言った人が誰かわかりますか?

この言葉を言ったのはガンジーです。この言葉は有名ですが、実は彼が言ったのはこの言葉じゃありません。アメリカはみんな車にこのシールを貼るのですが、シールに言葉が入るように省略されちゃっています(笑)。彼が実際に言った言葉は、これです。

みなさんに読んでいただきたいと思います。これを赤くしたのは、ガンジーじゃなくて私です(笑)。

(会場笑)

なぜここを強調したいのか。周りでちょっと変な行動をしている人を見た時、その人に「間違っていたよね?」と聞かなくてもいいですよね。なぜなら知っているから。

じゃあ、アジャイルの場合はどうでしょうか? 自分たちのカウンターパートがアジャイルになっているのをどれぐらいの間見てきたか。みんな、周りがどんどん変化していく中で自分たちは変わらずに待っている状態ですよね。

日本最大の銀行である三菱UFJ銀行は、アジャイルを一部で取り入れていますが、アメリカ最大の銀行、JPモルガンは、15年以上前からアジャイルを実践し、今では会社全体でアジャイルを実践しています。だから三菱UFJは、今すぐアジャイルになる必要があります。待つ必要はない。今がその時です。

ガンジーが言っている言葉と、竹内教授と野中教授とセドン教授(ジョン・セドン氏)が言っていることを合わせた時に何が出てくるかというと、構造を変えて、システムを変えて、自分自身を変えることだと考えられます。

マインドフルネスの精神を企業の文化に持ってくる必要がある

じゃあ、それがどうできるのか? システムは、スクラムで変えることができます。構造をどう変えるのかというと、「Scrum@Scale」で変えることができます。

しかし、自分自身をどう変えるかを考えた時はちょっと違います。ゴールドラット博士が言っている言葉、「どのように私を計測するかを教えてくれれば、私がどのように振る舞うかをお話しします」。

これは、子どもの行動でも見られることです。彼らを褒めたり叱ったりすると行動が変わるのが見られますよね。私たちは大人ですが、子どもと同じような行動をします。組織において、アジャイルやスクラムの価値観やプロセスを実現したいのであれば、アジャイルやスクラムの実践度合いを測るKPIや人事評価の仕組みを考える必要があります。

どう勝つか。人間心理を活用することで競争的な行動よりも協調的な行動のほうが、個人、チーム、顧客にとって有益なエコシステムを構築することができると考えられます。日本はすごくユニークなので、特別なことができると思います。

1つの例を見てみましょう。3.11で起きたことに世界中が注目しました。この大変な時、日本の人たちは、みんなで協力し合っていましたよね。子どもから大人、おじいちゃん、おばあちゃん、お金持ちからそうではない方まで、みんなで協力し合いましたよね。CEOから普通のワーカーまで、みんなが協力し合いましたよね。みんなが1つになりましたよね、一丸となりましたよね。

なるべく早く元の状態に戻そうと、一生懸命に協力しましたよね。もしかしたら、みなさんはこれを当たり前のように思うかもしれませんが、世界中の人たちはこれを見て、他人に対するマインドフルネスの一番の例だと、メチャクチャびっくりしました。

この精神、このマインドを企業の文化に持ってくる必要があります。どうやったらみんなが職場においてもっと気持ち良く働けるのか。ストレスを減らして、ワークライフバランスをもう少し良くすること。本当に日本の文化を企業の文化に持ってくる必要があります。ありがとうございました。

(会場拍手)

なぜ日本人は仕事場で待つのか

JJ・サザーランド氏(以下、サザーランド):私は3.11の3日後くらいに日本の気仙沼にいました。

オニール:JJはもともとジャーナリストのバックグラウンドをお持ちで、戦争、災害、いろいろなものを目撃しています。

サザーランド:本当に酷いことが起きると、日本以外の国はどこでも政府が助けるのを待ちます。

でも、気仙沼の人々はみんなで道路をきれいにしたり、一人ひとりが待たずに行動に移していました。私が人生の中で見た一番すばらしいこととも言えるぐらい、本当にすばらしいことで、その精神をビジネスの文化に持ってくる必要があります。

なぜ仕事場で待つのでしょうか? 日本の職場において、人々がみんな待っている企業文化を多く目撃します。

なぜそうだと思いますか? 私にとってはすごくミステリーです。世界が尊敬する日本の企業はすごくたくさんあります。トヨタ、ホンダ、ソニー、三菱……もう数えきれないぐらいあるのに不思議で不思議でしょうがない。

そういった大きな企業は世界を変えています。でもこの20年、世界を変えるような企業は考えられない。この20年のことを考えると、Google、Facebook(※現「Meta」)、Airbnb、Alibabaなどの企業の名前が思い浮かびますが、その中に日本の企業はありません。

「リーダー層に対してマインドフル」はアジャイルの考え方と正反対

日本にはすばらしい創造性があるのに、なぜそういった企業が生まれてきていないのか。私はそれが不思議でしょうがない。みなさんはなぜだと思いますか? 勇気を持って(発言してください)。

(※会場から「ほかの人と違うことをやりにくい同質性がある」という声)

サザーランド:ほかの人と違うことをやることが難しい。でも、第二次世界大戦が終わった時にできましたよね。私は壊れないからトヨタ(の車を)をずっと運転していました。トヨタ生産方式は、製造業を本当に変えています。世界中の製造業を変える力がありました。そして、そういった日本の製造業からアジャイルも生まれています。

ほかの人と違うことをやりにくいのは日本だけではありません。実際、世界中のリーダーがアジャイルになりたいと言っていますが、実現できていません。

組織の中でそれをどうリーダーが売ろうとするか。勝つチームにいることでどういう気持ちになるかをリーダーは説明します。

学生の頃、スポーツをやっている中で、勝ったチームにいるという経験をみんな持っているので、リーダーはそういう説明の仕方、売り方をしていますが、それはたいてい、たまたまうまくいっただけです。

でもスクラムは、故意にやることです。すごくすばらしいチーム、勝つチーム、世界中の企業の働き方のインスピレーションの元となったものは、全部日本から来ています。

シュナイアー:私が思う大きなギャップは、現在の日本における、生産現場とそれ以外の職場のギャップです。野中教授と竹内教授が書いた論文には、日本の製造業のさまざまなR&Dのチームについて書かれています。例えば富士ゼロックス(※現「富士フイルムビジネスイノベーション株式会社」)、ホンダ、キヤノンです。

このホワイトペーパーは1986年に書かれています。ジェフ・サザーランド博士がこのホワイトペーパーを読んだ当時、どの企業もソフトウェア企業ではなく製造業でした。

リーン思考や製造業から来たアイデアをどういうふうにナレッジワークに適用するのかを考えたことが、ジェフ・サザーランド博士の天才的なところなんじゃないかと私は思います。

日本のどの製造業も、トヨタ生産方式のあるバージョンを適用していると思いますが、ナレッジワークにおいてはまだできていませんよね。アジャイルの価値がきちんと体感できているところ以外では、体現できていません。

みなさんに勧めたいのは、このトヨタ生産方式の考え方をどうやったらナレッジワークに適用するのかをリーダーシップに問うことです。それが大事だと思います。

他人へのマインドフルネスを考えた時、ビジネスにおいて、私たちは誰に対してマインドフルであるのだろうか。伝統的な企業においては、リーダー層に対してマインドフルですよね、もしくはマネージャー。それはアジャイルの考え方と反対です。

アジャイルの中では、マインドフルネスというものをリーダー層から顧客、顧客のニーズにシフトしていきます。日本のビジネスにおいて、この考え方、思考を変えることはできると思います。それをすることによって、日本の企業の成功は実現できると思います。

構造とシステムの差は?

オニール:ごめんなさい、2分しか残っていないので(笑)。

(会場笑)

質問を受けたいと思います。気になることがあれば、ぜひみなさん勇気を持って聞いてほしいんですが、いかがでしょうか?

質問者1:ありがとうございます。私は日本で働いている中国人ですが、文化的な話を聞く中で本当にいろいろと思うところがありました。

けっこう細かい質問をさせていただきます。最初に構造を変えて、そしてシステムを変える、そして文化を変えるというプロセスの話があったと思います。そこの構造とシステムの差はどこにあるのかが知りたいです。

シュナイアー:構造というのは、バリューストリームがどうセットアップされているか。ナレッジワークにおいては、情報がそのバリューストリームをどう流れるか。例えばなにか注文を受けて、そのバリューストリームの中を流れていって、顧客の手に届くまで。

そのバリューストリームの中の人たちがどうインタラクトするのかということをシステムと言っています。だから、構造がバリューストリームで、その中身がどうなっているのかがシステム。わかりますか? ちょっとわかりにくい?

質問者1:なんとなく理解しました。ありがとうございます。私からは以上です。

アジャイル文化を適応させるためにリーダーシップに必要な原動力は?

質問者2:Thank you for the presentation.ありがとうございます。先ほど、なぜ日本人はこんなにマインドフルなカルチャーがあるのに成功できていないのかという話がありましたが、私はアヴィさんが挙げてくださった、成功している企業にはすばらしいリーダーシップがあったからだと思っています。

アジャイルもスクラムもそうなんですが、日本でどうすれば成功できるかというのは、個人的には、リーダーシップ層のみなさんにマインドセットを持っていただくことによって働く人たちの環境が向上するのではないかなと考えています。

サザーランド:リーダーシップのマインドセットや、リーダーシップを変えることを説得するのは、実は意外と簡単なことです。リーダー層は、心理的安全性を気にしていますが、それ以上に、ビジネスの成果を重視しています。

大事なのはリーダー層の視点で話すこと

私は、ほかのリーダー層と話す時、アジャイルやスクラムという言葉を一切使いません。リーダー層には「彼らの中で優先順位の高いものが実際に終わったら最高だよね」とか、そういう話し方をします。

「組織が抱えている課題を実際にリーダー層が見えて解決できる仕組みがあったら最高だよね」みたいな話し方をする。そうすると、多くの場合、「最高だよね」って(笑)。

アジャイリストがよく持っている課題は、水道会社の人に電話して蛇口を直してもらうように漏れています。蛇口を直す人が使うツールのサイズは別にどうでもいいですよね。でも、スクラムとかカンバンとか、SAFe(Scaled Agile Framework)とか、何を使おうかですごく争う。実際それは誰も気にしないこと。実際には気にするべきことではありません。

組織をアジャイルにするために変革するのは、間違っていること。なにか実現したいことがあるからアジャイルになる必要がある。リーダー層にそう話すことによって、きちんと聞いてくれるようになる。我々は「アジャイルになろうよ」とか言いがちだけど、大事なのは彼らの視点で、彼らが気にすることに対して話すこと。

私はアジャイルやスクラムという言葉を一切使わず、「優先順位の高いものが終わったら最高だよね」とか、「実際に課題が解決したらいいよね」とか、彼らが「イエス」というように言ってくれるような話し方で話し掛けます。

質問者2:ありがとうございます。

アジャイルを取り入れることで日本がNo.2に戻ることを期待している

サザーランド:もう1つ、もう1個だけ。

オニール:誰か勇気を持って。ゴー。シーンってなっちゃった(笑)。

質問者3:講演をありがとうございました。これからの日本にずばり期待したいことは何でしょう? お聞かせください。

シュナイアー:もっと和牛を期待しています。

(会場笑)

オニール:和牛をもっと期待している(笑)? Anything else?

シュナイアー:大きな期待、希望が1つあります。コロナ前は毎年のように……もっとかな、私は1年に何回も日本に来ていたのですが、中国が日本の経済を追い抜かしました。私の希望、期待は、日本がアジャイルをきちんと取り入れることによって、No.2に戻ること。No.1はちょっと難しいかな。

(会場笑)

(No.1は)アメリカだから(笑)。それでもいいかな?

サザーランド:KDDIの藤井さん(藤井彰人氏)をご存じでしょうか? Scrum Inc. Japanの取締役の1人でKDDIの中でのリーダーで、その前はGoogleにいた人です。

彼はScrum Inc. Japanを設立しようと思った時にボストンに来たんですね。私と父のジェフ・サザーランド博士と会った時に、父と私に、過去30年間、日本の成長がどんどん遅くなっていると言いました。

その一番の理由は日本の企業の文化だと思うと、藤井さんはそのミーティングの中で言っていました。協力し合うことによってそれを変えることが可能かと、藤井さんはジェフと私に聞きました。

Scrum Inc.で雇っているみんなに、私はその話をしています。変わることが可能かどうかはわからない。日本の全体を変えられるかどうかはわからない。でも、トライしないと始まらないよね、駄目だよね。じゃないと、悪い人だよね。トライしないと悪い人だよね。

ここの部屋にいるみなさんには、すごく感心しています。大昔、私がまだ小さい頃、父がいろいろなカンファレンスに連れて行ってくれたことを思い出します。

たぶん、みんなと一緒が嫌と思っていたり、ちょっと違うことをしたいと思っていたり、なにか冒険心があったり、勇気を持っている。その当時カンファレンスに来ていた人は、なにかちょっと普通と違う人たちの集まりだったんですよね。

どんなレボリューションも、そういう「ちょっと、なんか違うことをやりたい」と思っている人たちのグループから始まる。あなたたちはみんなそうだと、私は思っています。ここに来られたことをすごく光栄に思っています。私と同じ感じがして、すごくうれしいです。どうもありがとうございます。

(会場拍手)

質問者3:ありがとうございました。

(会場拍手)

司会者:アヴィさま、JJさま、クロエさま、ありがとうございました。

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