CLOSE

基調講演「後任POのサバイバルガイド:カリスマプロダクトオーナーの後を継ぐ!ワンマンからチームプレーへの紆余曲折」(全2記事)

“カリスマ”の旅立ちで起きた「ビジネス判断」と「プロダクト判断」の分離 意思決定のコンフリクト防止のために後任プロダクトオーナーが取り組んだこと

THECOO株式会社・プロダクトマネジメント部部長の伊美氏が、プロダクトを0→1で立ち上げたカリスマPO(プロダクトオーナー)の旅立ちに伴い、1→10フェーズに向けたプロダクトチームの再構築で実施したことを発表しました。全2回。

伊美(ムラキ)氏の自己紹介

伊美沙智穂氏(以下、ムラキ):こんばんは、みなさん。「後任POのサバイバルガイド」と題してお話しします。THECOO株式会社のムラキと申します。今日みなさんにお話できることをすごくうれしく思います。

今日は技術記事のQiitaさんのイベントということで、おそらく視聴者のみなさんの多くがエンジニアリングのバックボーンを持っていると思うのですが、プロダクトマネージャーという立場から、少しでもみなさんの力になれるような話ができたらなと考えています。

「プロダクトマネージャーは、ふだん何をやっているの?」みたいな疑問があるエンジニアの方もいるかもしれないので、そのあたりの参考にもなる話を用意してきました。

少し時間が余るかたちで用意しているので、質問がある方はぜひコメントをしてもらえたらなと思います。30分程度、どうぞよろしくお願いします。

さて、最初に軽く自己紹介をします。ふだんTHECOOという会社でプロダクトマネジメント部の部長をしています。

経歴としてはプロジェクトマネージャー、UIデザイナー、リードデザイナー、プロダクトマネージャーをして、このあと詳しくお話しするんですが、いろいろあって今はPO(プロダクトオーナー)、つまり、会社のプロダクト方針を検討するようなお仕事をするに至りました。

(スライドを示して)参考までに、ふだんはエンタメ業界向けの、いわゆるBtoBtoCのファンビジネスプラットフォームを作っています。といっても、プロダクトの詳細は今回の主題とあまり関係がないので、このあたりはサクッと飛ばして本題に移りたいなと思います。

「じゃあ1回やってみよう!」ということで後任のPOに着任

さて本題ですが、今日みなさんに話をしようと思っているのは、プロダクトを0→1で立ち上げたカリスマPOが旅立ったあと、1→10フェーズに向けてプロダクトチームを再構築したお話です。

こういう会では、なるべくみなさんが体験したことがないような話をすることで、なにかしら参考になればなといつも考えています。フェーズが変化するタイミングでオーナーが変わるという体験は、誰しもがすることではないかなと思って、おもしろいんじゃないかなということで、このトピックを選んでいます。

1つでも「聞いて良かったな」と思ってもらえる話があれば幸いです。この話をするためには、前提をいろいろとみなさんに知ってもらえたほうが、スルッと話が入ってきやすいんじゃないかなと思います。

まずはちょっと昔……。と言ってもわりと最近なんですが、私がPOに着任する直前くらいから話をしたいなと思います。

時を遡ること2022年12月。当時、私はリードデザイナー兼プロダクトマネージャーみたいな立場だったんですが、会社で仕事をしていたら、隣の席におもむろにCTOが座り、私にこう話しかけました。「今のPOが新規事業を立ち上げるためにアメリカに行くんだけど、POをやれる?」。

今みなさんにはメチャクチャ唐突に聞こえると思うんですが、実のところ青天の霹靂ということでもなくて。前任のPOとは私も普通に仲が良くて、かねてより「アメリカで事業の立ち上げをする、事業の立ち上げをしたい!」みたいな話を聞いていたんですよ。とはいえ後任がいないことには旅立てず、なかなか後任が見つからなくて苦悩しているということも知っていたんですね。

なのでなんとなく経緯もわかるし、アサインの意図もわかる。でも、できるかできないかで言うと、ちょっとわからなかった。「やれるかやれないかは、やってみないとわからないですね」と正直に答えたところ、「じゃあ1回やってみよう!」ということで、あれよあれよという間に後任のPOになることが決定してしまいました。

軽く請け負ったものの、冷静に考えるとこれはけっこう大変な話なんじゃないかなと思い始めました。というのも、そもそも前任のPOは今の私たちの基幹プロダクトを0→1で立ち上げていて、かつプロダクトの初期はビジネス側の事業部長も兼任していたことがあって、P/LとかB/Sみたいなところも持っていました。

つまりプロダクト、いわゆる何を作るかというところと、ビジネス、いわゆるどう売るかみたいなところの判断を一手に担っていたわけです。なので、ここでミスするとプロダクト体制が瓦解する可能性があるんじゃないかと思いました。

カリスマPOの旅立ちで変わる2つのこと

今までと変わる点はどこかというところから、何をしなきゃいけないのかを模索しようと思いました。

大きく変わる点は2つありました。1つ目、0→1フェーズの意思決定者がいなくなること。2つ目、1→10フェーズに向けて組織が急速に拡大していること。それぞれ詳しく説明したいなと思います。

1つ目の課題です。0→1フェーズの意思決定者がいなくなること。まず、当時のPRD(Product Requirements Document)やビジョンは前任者が作っていました。本人がいない環境下……。別に会社からいなくなるわけじゃなくて、あくまでもアメリカに行くだけではあるんですが、なにか迷った時にすぐ聞ける場所にビジョンを作った人がいないという状況で、私たちは意思決定をできるのだろうかという問題がありました。

また、先ほども軽く話しましたが、このPOは、一時期、事業責任者も兼任していて、実質のところビジネス側の判断にも関わっていました。ということは、彼がアメリカに行くタイミングで、POだけでなく事業責任者も完全に変更になるわけです。

これまである程度1人で担っていた「ビジネス判断をする事業部長」と、「プロダクト判断をするPO」という人格が、完全に分かれることになります。

違う人間が合意を取って協力をして物事を進めるという時、ここはたぶんみなさんもよくわかると思いますが、いろいろとコンフリクトが起こることがありますよね。そういう時に指針がない中で話し合っても埒が明かないので、「二者で合意を取って共通ゴールのための方針を合わせられるか」みたいなことをやはり考えていかないとなと思っていました。

この2つをそれぞれ解決するためには、プロダクトビジョンをあらためて再定義する必要があるだろうなと感じていました。といっても、すべて丸々作り変えるという話ではぜんぜんなくて、あくまでもこの2つの課題に対して解決策になるものを模索して、今のビジョンがそのままでいいならそのままにしておけるし、なにか変更が必要なら変えなきゃいけないなと考えていました。

2つ目の課題。1→10フェーズに向けて組織が急速に拡大している点。ちなみに、この少し前のタイミングで上場もしていたので、いわゆる株式市場における会社のスタンスみたいなものも、スタートアップ時期とはかなり明確に変わってきていました。こちらに関しては、POが離れるからとか、アメリカに行くからということは直接的な原因ではないです。

単純にフェーズとしてゼロから立ち上げる時の組織と、そこからまた大きくなりつつある組織だと、やはり動き方がぜんぜん違ってくるという話ですね。

この話は後ほど詳しくしますが、もともと良くも悪くも弊社はワンマン体制だった組織の作り方をしていました。ただ、これでは早晩立ち行かなくなるだろうということは、正直自分の立場がリードデザイナーだった時にも感じていたことでした。

なので、1→10フェーズにおける組織がどうあるべきかとか、各メンバーが自律的に意思決定して、同じゴールを目指すために必要なものは何かと考えた時に、各組織が自走するチーム体制というのがどういうものか、あらためて考える必要があると感じていました。

というわけで、後任のPOとして着手した2つのこと。まずは、1→10フェーズのためのプロダクトビジョンを再定義すること。(スライドを示して)そして「カリスマ的なワンマンからチームワークを目指して」と書いてありますが、各組織が自走するチーム体制の構築を目指すこと。この2つについて今日は細かく話をしていきたいなと思います。

プロダクト方針を決める「プロダクトの三領域」

さて、課題の1つ目。1→10フェーズのためのプロダクトビジョンの再定義の話をする前に、今日はPMというよりエンジニアのみなさんが多いかなと思っているので、「そもそもプロダクトビジョンは誰が決めるものなのか」という話をしておきたいなと思います。

ビジョンはPO本人の一存で、パッと思いつきで決めていいものなんでしょうか?

もちろんNoです。(スライドを示して)これはよくある「プロダクトの三領域」と呼ばれているもので、たぶん知っている方も多いと思いますが、あらためて説明したいと思います。右側の図に書いてあるとおり、プロダクトは3つの領域の重なる部分で構成されていると言われています。

3つの領域は上の丸のUser、ユーザー価値の部分。つまり機能的であるとか、これまでにないとか、ビジュアルが美しいとか、そういう部分ですね。

あとは左の丸のTech、実現可能性の部分。つまり技術的に可能とか、現在の人員で作れるとか、可用性があるとか、そういう部分。

最後に右の丸、Biz領域ですね。Bizは事業収益の部分で、短期収益が上がるとか、長期的成長が見込めるとか、株主の期待に沿うとか、そういう部分。このうちのどれかが欠けても事業は成り立たないと言われています。

例えばユーザー価値があって実現可能性もあるけど事業収益が立たない場合、メチャクチャ価値があるプロダクトでも事業が継続しないので、結果的に破綻してしまう。ユーザー価値があって事業収益が成り立ちそうでも、実現可能性がなくて今の技術で作れなければ、絵に描いた餅ですよね。

そういうわけでプロダクト方針は、特定の誰かが決めるというよりも、この3つの状態を考えていくと自ずと決まっていくものだなと思っています。

職業的にはプロダクトマネージャーがここを担うことが多いんですが、正直、できるのであれば誰がやってもいいというか、誰がやっても、いろいろなステークホルダーと議論していくと、ある程度同じ方向性になるかなと思います。なので、POが勝手にトップダウンで決めるものではないというところだけ事前に認識してもらえたらなと思います。

プロダクトに起きていた変化

翻って、私がオーナーに着任した2023年の春。自分たちのプロダクトでどんな変化が起きていたのかを考えると、まずユーザー価値の部分では、昔作ったプロダクトビジョンではメッセージの新規性がなくなってきつつありました。

実現可能性の部分では、ユーザーが増加してドメインが拡大する中で、それこそエンジニアのみなさんだといつも気にしていることかと思うんですが、「例えば秒間でチェックアウトが可能な数とか、サービスレベルの定義をちゃんとしていかないといけないよね」「見直さないといけないね」みたいな話が出ていたりしました。

一方で、事業収益の観点だと、先ほどもちょろっと話しましたが、上場したので、株式市場というステークホルダーの重みが以前よりも今のほうが増してきていました。当時のビジョンがここに対応できているのかを考えて、対応できていなければ再度考える必要がありました。

ビジョンとはメンバーが同じ方向を見るための指針である

もう1つ、ビジョンを考える上で大事な話があります。プロダクトビジョンはなぜ必要なのかという観点です。正直、(プロダクトビジョンが)なくても走り出すこと自体はたぶんできるんですが、ないとどうなるんでしょうという話をしたいなと思います。

これはいろいろな人がいろいろなことを言っていると思うんですが、個人的にはビジョンとはメンバーが同じ方向を見るための指針だなと思っています。

(スライドを示して)これをなるべくわかりやすく説明したいなと思っていて、某国民的漫画を例にして説明しようとこのスライドを作りました。ちなみにこのイラストは公式でフリー配布されているやつなので、著作権的に大丈夫ですという話をQiitaさんに言い添えておこうと思います(笑)。

仮にプロダクトが1つの船だったとして、ビジョンがない時にメンバーはどうなるでしょう。この漫画を読んだことがある人が見ればわかるかなと思うんですが、特に指針がない状態だと、メンバーそれぞれが、「お金!」「強いやつ!」「女の子を見つけた!」「うまい飯を見つけた!」みたいな感じで、おそらく秒でバラバラになると思います(笑)。

日本には「船頭多くして船山に上る」といういいことわざがあって、私はこのことわざが大好きです。海を航海していたはずなのに、全員がバラバラにやりたいことを示した結果、いつの間にか船が山に登っているみたいなことも起こるかもしれないですよね。

じゃあビジョンがあったらどうなるのかという話をすると、これはまさしく漫画の船長がやっていることです。「大秘宝を目指すぞ!!」という大きなビジョンを掲げている。船員はそれぞれ自分の願望に沿って横道を逸れてどこかに行っちゃうことは往々にしてあるんですが、おおむね自分の得意な分野で、自律的にこのビジョンに貢献しながら進むことができています。おかげさまで船はきちんと海を航海し、紆余曲折ありながらも次の島に着くことができるわけですね。

というわけで、ビジョンの更新において私が重視した点は2つです。まず先ほど話したプロダクトの三領域。User、Biz、Tech領域それぞれの現在の環境に対応できること。そして少なくとも各事業部長レベルはそのビジョンに腹落ちしていて、各部が自走するための指針になること。この2つを重要視して再定義を進めていきました。

構築とリファインメントを繰り返して新たなビジョンが完成した

この定義の話は細かくしていくと1回分話せちゃうぐらいにはボリュームがあるので、今回はサクサク進めます。とにかくいろいろな観点で議論をしながら、構築とリファインメントを繰り返していきました。

特に社長、事業部長、各部門長みたいな方々がこのフェーズで納得できない状態だと、このあと展開してもたぶん結局うまく回らない、手戻りがメチャクチャ発生すると考えたので、すごく慎重に会話を重ねていきました。

アウトプットとして出ていくのは、それこそビジョン、ミッション。全社ミッションにおける立ち位置をどうするかみたいな話とか。

「ターゲット、ステークホルダーを定義しよう」「バリュープロポジションキャンバスを書いてみよう」「製品原則を決めてみよう」「ビジネスモデルは結局どうだったんだっけ?」「短期・中長期ロードマップ、重要指標の定義ってここだよね?」「提供機能はどうしよう」「アーキテクチャはどうしよう」「プライオリティはどうしよう」みたいな話とか。

果てはチーム体制、各部の役割みたいな感じで、一般的にプロダクトに大事だと言われているフレームワークを使ったりカスタムしたりして、とにかく可視化とかドキュメンテーションを進めていきました。

というわけで、各者と3ヶ月弱ぐらい議論をして、なんとかかたちになりました。最終的な内容としては、今までのビジョンを特に壊さず、むしろ包含をして1つ上のビジョンを作るみたいなかたちになったかなと思います。

散々話したので、この時点で部門長以上での合意もなんとか取れていました。もし内容が気になったら詳しくは「Twitter」……。いや、「X」ですね。SNSとかで声をかけてもらえれば説明します。絶賛エンジニア募集中ですので、ぜひ声をかけてください。

(次回に続く)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 孫正義氏が「知のゴールドラッシュ」到来と予測する背景 “24時間自分専用AIエージェント”も2〜3年以内に登場する?

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!