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生成AIで推し活が変わる!? 人間に残されたエンタメの可能性は?(全4記事)

今の日本の教育は、子どもの「好奇心」を止める構造 前田裕二氏らが語る、AIには持てない「偏愛」という感情の尊さ

グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「生成AIで推し活が変わる!?人間に残されたエンタメの可能性は?」のセッションの模様をお届けします。本記事では、AI社会における教育のあり方などを議論しました。

前回の記事はこちら

AI社会を生きる子どもたちに必要なこと

瀧口友里奈氏(以下、瀧口):では、そろそろお時間になってきましたので、質疑応答に行きたいと思います。みなさんからオンラインでいただいているご質問の「いいね」が多い順に、上から読んでいきたいと思います。

樹林伸氏(以下、樹林):この「いいね」も、なんで「いいね」なのかわからないですね。AIに聞いてみたいよね。

前田裕二氏(以下、前田):確かに(笑)。

瀧口:そうですね(笑)。じゃあまず最初ですね。「5才児のパパです。これからの子どもたちは、私たちの想像もつかないAI社会に生きる世代です。これからの子どもたちには何が重要になりますか。何を学ぶべきでしょうか。歴史はとても重要ですよね」という質問をいただきました。エンタメを越えたお話という気はしますが、何を学ぶのが大事でしょうか。

明石ガクト氏(以下、明石):これは、明確に「これだな」と思う答えがあります。というのは、バリバリAIを使っている経営者の人が、自分の子どもをどう教育しているかをウォッチしていたんですよ。結論が出ていて、みんなだいたいイギリスに留学させていますね。

瀧口:え!? そうなんですか? そんなに具体的な?

明石:ホントに。

瀧口:イギリスですか?

明石:僕、先週イギリスへ行っていたんですよ。その時にも、結局はリベラルアーツの時代になるんだなと思ったんですよ。要するにExcelとかそういうスキルの時代が終わるんだなと。スキルではなく、それを使ってどういうことをやるのか。

今日の冒頭で「歴史から何を学ぶのか」みたいなセッションがあったけど、ああいう深い考えを持って何をするかを決められる。それはたぶん、イギリス式の詰め込む教育です。

だからこれから世の中は、数学のパターンをやる前に芸術に触れたほうがいいし、歴史の本を読んだほうがいいというモードになっていくんじゃないかなと、僕は思いました。

瀧口:リベラルアーツの時代です。

今後も重要になるのが「対人コミュニケーション」

樹林:僕はやっぱり、AIに取って代わられそうなことはやらないほうがいいよねと思う。例えばちょっと前だったら、子どもに「プログラミングを習わせよう」という人はすごくいたと思うんですが、もはやあんまり意味はないですよね。だって、プログラマーは絶対にAIがやるようになるんですから。一番得意なジャンルですからね。

「じゃあ何? 言語はどうなんだ?」と言われた時に、言語はちょっと違うことになると思っています。例えば、AIにリアルタイムで翻訳させてしゃべるのは、もちろん仕事上は成立すると思うんですよ。

だけど飲みに行った時にAIをかませた声で、友だちや、もっと言うなら彼女になれるのか? という話になるじゃないですか。そういう意味では、やっぱり言語はやっておいてもいいのかなと思ったりします。

そうやって取捨選択をしていくというんですかね。それもAIに教わるという話もあるかもしれないんですが(笑)。習わせるというよりは、人に会って、人と人の付き合い方をもっと教えてほしい。だから子育てだったら、「こういうのを使って会わないで済ませる」のは、やめさせる方向に持っていけないかなと思いますよ。

瀧口:対人の付き合い方が大事ですね。コミュニケーション。

樹林:対人コミュニケーションですね。

AIは“それっぽいもの”を作れるが、逆に弱みでもある

瀧口:前田さん、どうでしょう。

前田:いつも2つ言っているんです。1個は樹林さんがおっしゃる通り、現実世界との接点がAIの苦手なことであり、それこそ我々人間に残された役目だと思う。例えば、AIは食べログのレビューをそれっぽく書けるけど、食べたことがないのに書けてしまう。

だけど、僕らは食べることができる。AIは食べられないじゃないですか。変な話だけど、その店に行ったことがないのに書けるところがAIの一番の弱みだし、(実際に店に行けるのが)人間の強みです。リアル世界におけるコミュニケーションとか、リアル世界における自分のフィール、感覚を大事にしてほしいというのが1つあります。

2つ目です。子どもの教育という観点で言うと、一番大事だなと思っているのは、まさに瀧口さんがおっしゃっていたような「好き」とか「嫌い」という感情です。

感情はAIから突然ポンと生まれにくい中で、子どもが突然「これが好き」とか言い始めることがあると思うんです。生まれてきたその感情を絶対に止めないことが大切だと思っていて。

うちを辞めた社員が、小学5年生のお子さんが突然古墳にハマったと言っていて。ハマリ度合いがすごくて、学校を休んででも「京都にある古墳を見に行きたいから、新幹線代とその他の費用をください」と言ってくる。

本当に勉強に支障が出るぐらい古墳の研究を始めてしまって、しまいには「庭にお父さんの古墳を作っておいたから」みたいな(笑)。

(会場笑)

樹林:怖い怖い。

瀧口:すごいですね。

前田:(古墳は)墓ですけどね。

樹林:前方後円墳とか?

前田:そうです。学校を休んで、お父さんの前方後円墳を作っているってすごくないですか?

瀧口:(笑)。

今の日本の教育は、子どもの好奇心を止めてしまう

前田:その時に親から、「学校へ行け」と言ったほうがいいのかを相談されたんですよ。義務教育だから。

瀧口:悩ましいですね。

前田:「算数ドリルや漢字ドリルをまったくやらずに、ずっと土で古墳を作ったりしているの」と言っていて。今の日本の教育だと、それって止めないといけないというか、「いやいや。とはいえ学校へは行こうよ」と言わないといけないじゃないですか。

ですが、子どものためにはそれを止めないで、いい状況を作りたいですよね。結局その子は学校に行かないといけなくて、義務教育だから卒業しないといけないので、古墳の研究をいったんやめてしまったらしいんです。

瀧口:なるほど。

樹林:古墳だったら、俺も「(学校に)行け」と言っちゃうかな(笑)。

瀧口:(笑)。

前田:言っちゃいますか(笑)。でももしかしたら、そのまま突き詰めていったら。

樹林:さかなクンみたいな、ああいうこともあるわけでね。

前田:そうそう。それって機械的に作り出したものじゃなくて、本当に「なんかすごく好き」という、ナチュラルな人間の感情や気持ちから生まれているものだと思うので。それを止めない教育をしていきたいよねと、めちゃくちゃ思っているところです。

樹林:エンターテイメントって、もともとそういうものですからね。

前田:本当にそうですよね。

樹林:「なんで好きなのかわからないもの」が好きになっていくんだからね。

前田:そうですよね。

AIには絶対にない「好き」という感情の尊さ

前田:「好き」の発芽というか、最初に芽が出てきたところを繊細に見てあげて、それを絶対に見逃さないで、水をあげ続ける教育ができると最高だよなとすごく思いますよね。

AIは「『あなたはこれが好き』という設定でお願いしていいですか」と言って、「好き」というプロンプトを入れないと、やれないじゃないですか。「今から古墳がめちゃくちゃ好きな小学校5年生として話してもらっていいですか」と、お願いしないとやってくれない。

突然、「私、古墳が好きです」とは言ってこない。そのランダム性と、ある種偏った愛情、偏愛と言うんですか。これがすごく人間らしくて、僕はすごくすてきだなと思うので、それを育てていく。

瀧口:そうですね。「好き」を追求できる環境。

樹林:「中から出てくる何か」というやつね。

前田:そう。それを育てていってほしいなと思います。

樹林:それはAIには絶対ないから。

前田:5才児のパパは、突然古墳とか言い始めても、それを一番大事に愛でてあげてほしいというか、尊重してあげてほしいなと思いますね。

瀧口:ありがとうございます。

SNSやアプリの加工で、現実の自分と心が乖離する

瀧口:もう1問ぐらい質問に答えていただけるかなと思います。

「友だちにインフルエンサーがいます。ずっと加工して写真を撮って、インスタに上げていて、ついに整形に踏み切ってしまいました。とてもきれいになったのですが、彼女は『しんどかった。素の自分を受け入れられなくなっちゃった』と言っていたのが印象に残っています」。

「加工した顔……先ほど明石さんがおっしゃられた“添加物”を入れたものが社会的に役立つのだとすれば、心が現実との乖離を受け入れられなくなってしまうのではないか。その可能性や人間の心にもたらす影響についてはどう考えますか?」という質問です。そうですよね。この状況に心がついていくか。どうですか?

明石:すごく壮大な質問ですね。

瀧口:はい、壮大な(笑)。

明石:そうですね。じゃあ私から短めに言います。映画にもなっていますが、僕は『攻殻機動隊』という漫画原作のアニメがすごく好きです。あの世界だと、パラリンピックのほうがオリンピックより記録がいいんですね。

だってそうじゃないですか。例えば今の電動義手とか、ボストン・ダイナミクスのロボットを見ていてもわかるように、機械的なものでどんどん補っていくと、生身の身体よりもスペックが高いものを手に入れることができる。

どうしても、身体にメスを入れるとか人工的なものを入れることに対して懐疑的になるのは、“オーガニック食品が好きな人”ですよ。質問者の方はたぶんホールフーズ(自然食品)が好きな人ですよね。

瀧口:オーガニックですね。

明石:だけれども、その価値観はどんどん変わっていくと思うんですよ。

“ソーシャルの中の自分”に近づきたい欲望は今後も高まる

明石:例えば日本だったら、今の社会の通念上、タトゥーや入れ墨はあんまり歓迎されてはいない。けれども世界中を見渡したらタトゥーだらけだし、耳にものすごく太い骨のピアスを入れている人とかもいる。キャンドル・ジュンさんのことじゃないですよ(笑)。

(会場笑)

瀧口:連想しちゃってすみません。

明石:世界的にたくさんいるわけですよ。別に日本に限らずそういう文化がある。それは時代とともに変わっていく。だから2.5次元化によって、理想の自分やソーシャルの中の自分に近づきたいという欲望は、むしろ高まっていくんじゃないかなと思いました。

瀧口:樹林さん、一言いかがでしょう。

樹林:人間って意外と強いというか、慣れるものだなと思います。顔をいじって性格が変わってしまって、それがプラスに働くかマイナスに働くかわからないんですが、いずれ人間は自分の身体や心をコントロールする方向に向かっていかざるを得ないな、と思っているんですよ。

それがいい方向に行ってくれればいいかなと思うけれども、僕らがエンターテイメントの仕事をずっとやっていて常に考えるのは、いろんな価値観を受け入れる人たちが少しでも増えてくれたらいいかな、なんて思っているんですね。

瀧口:そうですね。

樹林:顔も身体もそうだし、足がないとか。でも、それで価値の変わらない世界が少しでもできてくれればいいかな、と思いながらやっているんです。

さっきパラリンピックの話がありましたが、例えば義足によって普通に走るよりも速く走れるようになってしまった場合、それはどうなっていくんだというか。両足とも義足なんだけど、普通のランナーでは信じられないようなスピードで走れるようになることもあり得るじゃないですか。

だから、あまり恐れずにテクノロジーを使っていってほしい。とは思いながらも、多様性を受け入れるためにそれを使うんならいいんですが、自分を改造してそっちに寄せていくのはなるべく抑えてほしいなという気持ちですね。

瀧口:自分を否定する方向には(いってほしくないと)。

樹林:そういう気持ちでエンターテイメントをやっています。

瀧口:そうですよね。オーガニックな状態が逆に希少価値になっていきそうですよね。

樹林:そうなりそうですよね。遺伝子もいじってしまって、スーパーマンみたいなやつがバンバン生まれて、みんなかわいい子ばっかりになってしまうこともあり得るのでね。

瀧口:ありがとうございます。

アプリ加工は「ポジティブな変身」にもなり得る

前田:僕は、バーチャルキャラクターやVTuberと言われるような子たちとか、Vライバーを作ったりすることも多くて。だいたい人気になったりポテンシャルのある子は、もともとネットにずっと居着いているネットの住民みたいな子が多い。ちょっとオタクで、ぜんぜん目も合わせなくて、すごく暗い子。

その子にひとたびキャラクターを与えて、キャラクターを通じて歌ったり、自己表現やコミュニケーションをして褒められるようになると、オーガニック側の本当の自分がすごく明るくなっていくということを、僕は何度も体験しています。

会うと「あ、ようやく目を合わせてくれたな」「この子、笑うんだな」とか。僕はそういうポジティブな変身というか、進化を何度も目の当たりにしていて。

樹林:それは、エンターテイメントの世界では理想的なことですよ。

前田:そうですよね。

樹林:うん。そうあってほしい。

前田:広義に言うと整形みたいな話ですか。整形もそうだし、VTuberになるのもそうだし、フィルターも全部そうだと思うんですが。

僕の経験上、なんらかのかたちで自分が一回承認される経験を経ると、「現実世界が違うから」「もともとが違うから」とか、そのギャップに苛まれることは別にあんまり起きないんだなと感じますね。

瀧口:なるほど。

前田:なので、そうやって少しでも自分の身体や、自分の特徴の一部を好きになれるきっかけをテクノロジーの力で与えていきたいというのが、自分たちの会社のビジョンでもあるので、それはすごく考えます。

AIに向き合うことは、人間性に向き合うこと

樹林:整形はやり過ぎないことだよね(笑)。ちょっとぐらいだったらいいんじゃないの? と思うけど。なんでもそうだけどね。

前田:フィルターもそうですね。でも、やりすぎてしまうと、ちょっと。

樹林:気持ち悪くなっちゃうね。

瀧口:「自分が使いこなせる範囲で」ということでしょうね。主体は絶対的に自分で、(自分が)使いこなす側であるという意志を持ち続けることですかね。

樹林:テクノロジーは、本当に「使いこなせるか」どうかですよね。

瀧口:逆に振り回されないように、ですかね。

前田:そう思いますね。

瀧口:うんうん、ありがとうございます。さあ、お時間になりました。

いろんな研究者の方々に、AIについての取材をさせていただくと、もともとディープラーニング(人の手を介さず多数のデータを学習する機械学習の手法)とかニューラルネットワーク(人間の脳の働きを模したデータ処理方法を、コンピューターに教える人工知能の手法)は、人間の脳を模して作ったものだそうです。

AIに向き合うと、人間性に向き合うことになって、脳のことがより詳しくわかるようになってきたというお話も聞きます。

まさにこの時間は、AIの話に向き合う中で、みなさんが「普遍的な人間性とは何だろうか?」と向き合っていただく時間になっていたら、非常にうれしいです。「Generative AI時代に高まる人間性〜AI×エンタメの可能性~」をお送りしました。お三方に、大きな拍手をお願いいたします。

一同:ありがとうございました。

(会場拍手)

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