2024.10.10
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グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために開催されるカンファレンス「あすか会議」。今回は「あすか会議2023」から、「生成AIで推し活が変わる!?人間に残されたエンタメの可能性は?」のセッションの模様をお届けします。本記事では、生成AIを活用したエンタメコンテンツの可能性や、“推される人”の特徴などを語りました。
前田裕二氏(以下、前田):みなさんもやってみるとおもしろいんですが、ChatGPTに「今から私があなたに、うれしいことや悲しいことをいろいろ言いますので、あなたの気持ちのブレを『怒り』『悲しみ』『喜び』とか、5段階のパラメーターで表してください」と入れる。
最初は「私には感情がないので」とか言って嫌がるんですが、「いや、本当にお願い」と言うと、「わかりました」と、やってくれますからね。これ、実際にやってもらうとおもしろいんです。
樹林伸氏(以下、樹林):ちょっと嫌がるのが逆にかわいいよね。
前田:そう。「私には感情がないので」とか、最初は嫌がるのがまたちょっとかわいい。
樹林:「感情はないので」みたいな。
瀧口友里奈氏(以下、瀧口):すごく控えめですよね。
前田:「またまた。感情あるでしょ?」と言うと、「わかりました。やってみます」みたいな感じで言ってくるんです。AIをいじめるようなことを言うと、「怒り」のパラメーターがぶわって振り切れることもある。でも、たぶんそれも樹林さんの感覚で言うと「感情」ではないですよね。
樹林:たぶん違うんだよね。
前田:感情があるようにふるまっているだけだけれども、だんだん「怒り」のパラメーターが上がってきたりするのを見ていると、感情を持っているように感じる。
樹林:「メタ感情」ぐらいかもしれないね。
前田:そうです。結局「感情」とは、本人がどうとかではなくて、相手側がどう感じるかによって成り立っているものなので。
樹林:確かに。
前田:とすると、浅い意味での「感情」を、意外と早くAIが持ち始めるかもしれないなと感じています。そうすると、感情移入や共感がけっこうなされるかもしれないなと、最近とても恐れています。
みんな「AIには感情はないから、人間には叙情的でエモーショナルな仕事は残っている」と、言いたいじゃないですか。僕もそう言いたいんですが。
樹林:感覚的にはそうですね。
前田:ですが、そっちの領域までけっこう早く侵食してしまう感じもありますね。
樹林:あり得なくはないね。ChatGPTをいじって、「おもしろい」がわかってないんだなと思ったんだよね。だけどAIが「おもしろい」を理解し始めたら、怖いかもしれないですね。
前田:そうですよね。
樹林:確かに、エンターテイメントの世界のクリエイターたちにとって、少々手強いものになる可能性はある。
前田:確かに。
瀧口:今の話の続きでお聞きしたいのが、「人間に残されるものは何なのか?」ということです。ここまでの話は、AIが人間側に寄ってきているということだと思うんですが、その中でも人間側に残りそうなところ。例えばアイドルだと、推されるアイドルは本質的にどういう特徴を持っているのか。どうですかね?
前田:そうだな。この間解散した、BiSHってご存じですか?
瀧口:はい。この前ね。
前田:東京ドームのライブに行ったんですよ。すごくおもしろかったんですが、ドームの会場に入るやいなや、ライブで振るサイリウムというペンライトみたいなものを、ものすごい量を袋に入れて持っているファンの方がいて。
僕はペンライトを振る感じで(ライブに)行ってなかったから、持っていなかった。それを、そのファンの方が僕を目ざとく見つけて「すみません、ペンライト持ってないですよね」と渡してきたんですよ。その人は「誰一人、この会場にペンライトを持ってない人を存在させたくない」と言っていました。
樹林:ははは(笑)。
瀧口:へえ(笑)。
前田:すごくないですか? 全員がアイナ(・ジ・エンド)さんの落ちサビで「アイナのカラーがピンク色なので、落ちサビの時にこう振ってもらっていいですか?」「これ、1時間ぐらいずっと配って説明しているんです」と渡していた。
前田:何が言いたいかと言うと、「推し」はすごく多様なモデルがあるということです。なんで応援するのか、なんで推すのかにはいろんな理由はあるんですが、僕がいつも言っているのは「好きになれるか」と「役に立てるか」の2つがすごく重要ということです。
「好きになれるか」はいろいろあるじゃないですか。それこそガクトさんは「ダンスがうまいな」「見た目が好きだな」という人もいると思うし、あるいは「その裏側にある物語がすごく感動的だ」「この子は昔、こういう貧乏な生活をしていたんだけど……」という人もいると思う。
そういう「好きになれる要素」も多様です。「好きになれるか」までは、もしかしたらAIでもいったんできるかもなと思ってしまいます。
「役に立てるか」は余白の部分。「BiSHのためになんとか役に立ちたい。この会場の全員、サイリウムを持ってない人を誰一人いなくしたい」と思わせるとか。
あとは何でもいいんですが、「何か足りない部分を埋めることで、自分が一部分を担いたい」「夢を叶える過程で、自分も夢の片棒を担いで、一緒に夢を叶えていきたい」と思えるかどうか。
瀧口:なるほど。
前田:こっち側は、どうやらAI側は、まだ苦手っぽいなと思っています。
瀧口:今のお話ですと「夢がある人」かな。
前田:そう。夢があり、現状があって、そのギャップがあるから、それを一緒に埋めていってあげたいのが「推し」の構造だと。何でもそうじゃないですか。
前田:例えば、K-POPアイドルのコンテンツを「ファンサブ」といって、ファンの方が世界中の言語にすぐ翻訳する。
「韓国だけではなくて、世界にもちゃんと見てもらいたい」と、リアルタイムで翻訳部隊がばーっと翻訳する。それをファンの方が担っているのも、まさに「役に立てる」ポイントです。みなさんが好きなアイドルや好きな人の発信のリポストをするのも、「役に立てている」という感覚をもたらすものです。
まだ今のAIは完全性が高くて、平らではないし、常にパーフェクション側にいるというか。完璧なものであるところが、「推す」余白をなかなか生みにくい構造なのかもしれない。
瀧口:なるほど。
前田:さらに言うと、余白があったとしても、余白を埋めたことによる感謝が跳ね返ってくる感覚も弱い。そこが、推す対象としてのクオリティがまだすごく低いポイントなのかなと思いますね。
瀧口:なるほど。「余白がある」。
明石ガクト氏(以下、明石):じゃあ、この流れで私がしゃべってしまいます。これだけAIで「いろいろ作れます」となっても、人間そのものはその反対側にいるじゃないですか。
さっき前田さんの話で出てきたBiSHは、WACKという事務所のアイドルです。これを食品に例えると、WACKのアイドルって加工があんまり入っていないというか、一番オーガニックな感じがしませんか?
前田:うん。あんなに生歌で歌うっていう。
明石:そうそう(笑)。すごく生身じゃないですか。
前田:だから「音が外れたかも」みたいなところも、あえてそのままにする。
明石:そうです。
前田:本当にオーガニックですね。
明石:画像とかも含めて、「あ、まんまだね」みたいな感じでやっている。
明石:世の中には、いわゆるオーガニック食品と、バリバリ宇宙食・完全食品と、その間にあるコンビニエンスストアで売っているような食品。みなさんがふだん一番口にするのは……勝手な偏見ですが、瀧口さんはオーガニック食品ばっかり食っていそうだけど。
瀧口:そんなことないです。
前田:めちゃくちゃイメージで言っているじゃないですか(笑)。
明石:(笑)。
瀧口:オーガニックも好きです。
明石:やはり適度に添加物が入っているものが、我々は一番気軽においしさを楽しめる。オーガニックにすると高いし、レアリティが高いのでなかなか手に入らなかったりするので、安価でおいしいものを食べるじゃないですか。
一方で完全に宇宙食みたいなやつになると、物珍しさで……コオロギ食とかもそうですよね。(流行で)一瞬は食べるんだけど、別に続きはしない。では、間にあるものは何だ? 人間で言うと、僕は「2.5次元」ではないかなと思っています。
今はVTuberとか、いわゆる2次元を動かすことがすごく流行っています。あれはものすごくファナティック(熱狂的)なファンがたくさんいて、すごいんです。
だけど一方で、今までのテレビやエンタメとかの世界で言えば、非常に人間はオーガニックのほうにいたわけじゃないですか。でも今、InstagramやTikTokの中って、みんなフィルターで画面をめちゃくちゃ盛っていますよね。
明石:僕はたくさんのインフルエンサーさんと一緒に仕事をするから、実際に現場で会うじゃないですか。すると「お、けっこう違うね」みたいなことがめちゃくちゃあるわけですよ(笑)。
(会場笑)
瀧口:そうですか。
明石:今のはぎりぎりオフレコじゃないから。どうしようかな。
前田:ぎりぎりオフレコじゃない。
瀧口:カットしますか?
前田:まあ、特定していないので。
明石:いや、今のはいいよ。実際そうだから。
瀧口:現実、そうだからしょうがないと。
樹林:ちゃんと普通に素顔で会ってくれるんですか?
明石:素顔で来るんだけど、結局は撮影する時も盛るから。
樹林:ああ、なるほど。そうするんだ。
明石:だから、みんな本当の顔を知らないんですよね。彼女にとって、フィルターやアプリで盛られた顔のほうが、社会的な本当の顔ですよね。そっちのほうが社会的接点が大きいわけだから。今後は、そういう2.5次元的な使われ方がめっちゃされていくと思う。
でもその時に、ベースになっている人間の話すことやストーリーについて、AIはそれっぽいものは作れても、本当に共感するような絶対的なものは作れないと思っています。
明石:さっき楽屋で樹林さんが、自分の顔を女の人にしてみたって言っていました。
樹林:やってみたんですよ。でも加工していくと、元の顔がちょっと残るんですよ。それが意外とおもしろいっていうか。
明石:そうそう。
樹林:だから、おっさんたちがみんなやっている。僕も取材でいろいろ話を聞いてみたんですが、50代のおっさんが一番かわいい女子になりたがっている(笑)。
(会場笑)
明石:そう(笑)。
樹林:「なんでだ」みたいな話だよね。
明石:でもね、僕はその気持ちはめっちゃわかるかもしれない。僕もこの間、女の子になってみて、俺を見て「かわいい」と言う人がX(旧Twitter)にいる。得も言われぬ……自尊心が満たされるんですよ。
瀧口:(笑)。
樹林:そうなりますよね。たぶんそういうことなんだと思いますよ。
明石:そうそう。
樹林:今、加工女子を「カコジョ」って言うんですよね(笑)。
明石:そう(笑)。それって(普通とは)違う種類の自尊心です。この会場にはたぶんいろんな属性の人がいらっしゃるけど、40代以上のおっさんになると、日々の自分に対して変化ってあんまりないし、あったとしても基本的には劣化しかないんですよ。「毛艶が悪いな」とか。
樹林:でも、若くてかっこいい男の子になろうとしないのが不思議ですよね。
明石:そう(笑)。
樹林:なんか不思議だなと思って。おっさんたちはみんな女子になろうとするんですよね。
明石:でもそんなおっさんが、2.5次元の自分はすごくいろんなものになれたり、ふだんの自分をちょっと良くしたりする。要はすべてが、適度に添加物が入った“コンビニエンスストア食品化”していく。これは爆発的に流行ると思うんですよ。
でも今までは……表現は本当にアレですが、これが現実だからあえて言います。見かけが微妙なおっさんだから聞いてもらえなかったけど、本当は話がおもしろい人とかがすごく脚光を浴びる。
樹林:そういうエンタメの世界があり得ますよね。
明石:そうそう。
樹林:おっさんが若い女の子になって、リアルタイムで配信して、めっちゃアイドルになるみたいなね。
明石:そうそう。「この女の子、めっちゃ鉄道に詳しいじゃん」みたいな。
樹林:けっこうあると思いますよ。
瀧口:今はおじさんの話にすごくフィーチャーされていますが、すべての人の隠れていた才能がちゃんと見てもらえる、組み合わせを作っていける、という話かなと思いますね。
前田:おじさんの話を制してきましたね。
明石:すごくうまくまとめてくれましたよね。
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