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人間にできて、ChatGPTにできないことは?「ChatGPT時代の歴史思考」#2(全2記事)

人間に残された最後の自由は「自分で選び取ること」 ChatGPT時代の意思決定力の鍛え方

経営学者・入山章栄氏がパーソナリティを勤める、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe(浜カフェ)」。さまざまなジャンルのクリエーターや専門家、起業家たちをゲストに迎え、社会課題や未来予想図などをテーマにアイデアやオピニオンをぶつけ合います。本記事では、株式会社COTEN代表取締役CEOの深井龍之介氏と株式会社フィラメントCCOの宮内俊樹氏が、ChatGPT時代に宗教を考え直すことの重要性について語りました。 ◾️音声コンテンツはこちら

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ChatGPT時代、宗教の位置付けが変わる

入山章栄氏(以下、入山):今、哲学っていう話が出ましたけど、もう一方で宗教があると思うんですね。僕、実はたまたま宗教にめちゃめちゃ興味を持っていまして、人類のほとんどの歴史は、行動規範とか考えの根底に宗教があって。

深井龍之介氏(以下、深井):そうですね。

入山:先週もちょっと深井さんがおっしゃっていた気がしますけど、もし哲学がそういう金持ちの遊びだとしたら、このChatGPT時代に宗教はどう位置づけられると思われますか?

深井:そうですね。僕も実は今、宗教の勉強をかなりしていまして。

入山:ああ、そうですね。

深井:もう本当ににわかには否定できないんですよ。一つひとつが、僕がちょっと考えたくらいで否定できるようなレベルの哲学じゃないんですよ。

ある一定の思考を超えるともうわかんなくて、そう思うかどうか自分で選ぶしかなくなる世界に突入するんですよね。これから先はもうわかんないと。でもこの宗教が言っていることを、「あなたはそう思いますか?」みたいな話になってきたんですよ(笑)。

一番わかりやすい例が、死んだらどうなるかです。死んだらどうなるかって科学では絶対にわかんないんだけど、各宗教がいったん決めているんですよ。「どれを信じているか」って、勝手に決めるか、習慣で思っているかしかないじゃないですか。

最後の最後に残る部分は必ずあって、そこに科学の万能性が進行しちゃっているんだけど。逆に科学について「そこまで万能じゃないよね」と冷静に気づき始めている人たちからすると、今は宗教の価値が上がっているなと思ってて。

おっしゃる通り、倫理に結びつくと社会を一番うまく回せるのは、けっこう宗教だなと思ったりもするんですよね。なので、そこらへんで宗教の価値がまた上がってくることが起こりうるとは思っていますけどね。

宮内俊樹氏(以下、宮内):「ChatGPTはこう言っているけど、俺はこれを信じる」というのも、ある種宗教性みたいなことなんですよ。

入山:そういうことです。

深井:だからそういう世界になっていく可能性がありますよね。

ChatGPTは自分を深掘りできるツール

宮内:僕の知り合いの哲学者も、「やはりアメリカの歴史では、ある種の現世における不安の解消として、宗教とテクノロジーがずっとある」と言っている哲学者がいるんですよね。

なので、ある種ChatGPTもその置き替えになりうるものだとは思うんですよね。ChatGPTからある種の宗教が生まれるので、その比較をして自分で選び取る。基本的に選び取るのは人間の最後に残された自由なので、やはり自分が何を信じるかというのが、今までよりも強くなっていくようなね。

入山:そう考えると、いい時代とも言える。

宮内:そうですね。考え直して選び直す時期みたいなのはあるかもしれないですよね。

入山:タガエミちゃん、いかがですか?

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):一方で、これからの自分の意思決定力を高めようと思ったら、アイデンティティは自分の歴史というか、生まれた場所とか、やってきたことの中であって。

入山:経路依存(制度や仕組みが過去の経緯や歴史に縛られる現象)で引きずっていますからね。

田ケ原:そこから選ぶか、宗教みたいな他で見たものというか「この人について行こう」みたいなところがあると思うんですけど。どうなっていくんですかね(笑)。

宮内:例えばBTSが好きだったら「なぜ僕はBTSが好きなんだろう」といったことを深めていく。何か理由が見つかったり、人と違いが出てくる中に、生きる価値があるのかなと思うので、自分自身をまず深めてほしいですよね。

あと4大宗教を遡っていく。これは竹中平蔵さんがよくおっしゃっているんですけど、「川を上れ。海を渡れ」という言い方があります。川を上るというのは歴史を遡って学びを得ることです。海を渡れというのは海外の事例から学ぶことです。たぶん両方やったらいいと思うんですよね。そのためにはChatGPTってすごく使えるものなので。

入山:そうですね。

宮内:とにかく自分の見聞を広げるツールだと思えば、怖くはないというかね。

「超主観時代」における「好き」のエネルギー

入山:深井さん、いかがですか?

深井:そうですね。僕は好きなことをずっとやっていればいいんじゃないかなと思ってて。何でか知らないけど好きなことがあるじゃないですか。

入山:はい。わかります。

深井:意思決定を我々自身に任せられていて、瑣末な仕事はChatGPTがやってくれるとなった時に、もはや理由もないけど好きなものをめちゃくちゃ突き詰めることが、今、僕たちにできることだと思うんですよね。

入山:(瑣末なことはChatGPTが)やってくれますからね。

深井:僕たちに残されたエネルギーって「好き」だと思うんですよ。それを最大限ブーストするのは、もう何周かまわって、めちゃくちゃ価値がある状態になっていると思っていて。

入山:そうですね。

深井:それを突き詰めるのが一番楽しいしね。

入山:さっきの宗教の話も含めて、「超主観時代」が来たってことですよね。

深井:本当に超主観ですよね。

入山:前半でも先週でも深井さんがおっしゃったんですけど、僕がChatGPTが来る前によく言っていたのが、「ZoomとかTeamsって結局もっと発展するけど、所詮取られるのは視覚と聴覚だけですよ」と。五感全体で感じる価値は絶対に上がると。

この日、たまたま僕は京大の総長だった霊長類の研究者である山極(壽一)先生としゃべったんです。霊長類って近接感覚というものを持っていて、実はそれで信頼関係を作るらしいんですよ。

深井:へえ。

入山:オランウータンもゴリラも。よく考えると、お尻のにおいを嗅いだり毛づくろいするじゃないですか。あれは嗅覚とか触覚を使ったコミュニケーションなんですよね。

技術革新によって変わる「身体全体で感じること」の価値

入山:まさにChatGPT時代になって、何かを信じたり共感する時に、この身体全体で感じるのがものすごく重要になってくるというのが僕の考えなんですけど、いかがですか?

深井:(僕も)まったく同じで、人間が受け取っている情報量って、たぶん本当はめちゃくちゃ多いんです。僕たちが意識しているのは小さいことしかないかもしれないけど。例えばこのマイクで拾えない僕の声の音域を、触覚ないし聴覚で感じ、それが脳にインプットされ、何らかの作用を起こしている可能性はぜんぜんゼロじゃないじゃないですか。

そういうことが積み重なったすごい情報量を、我々は受け取って処理しているんだろうなと思っていて、それがコミュニケーション技術で再現できるようになるまでは、逆に価値が際立ちますよね。

入山:そうですね。逆にそこまでコミュニケーション技術がいっちゃうと、人格が同一化しちゃうような世界ですもんね。逆に言うとあり得ないみたいな。

深井:そうですよね。すごくおもしろいと思うんですよね。映像と音声って、Zoomとかだとたぶん情報量として数百、1ギガバイトぐらいしか交換していなくて。たぶん実際に僕たちが会っている時って、もう何ペタバイトとかいう圧倒的な情報量なんだろうなと思っていて、それが再現される日が来たらやばいなって(笑)。

入山:「自分って何だ」みたいな。

深井:今おっしゃったようなわけわかんないことになっちゃう。今自分がいるのが、現実か現実じゃないのかが判断できない情報量になっているので。

禅の世界とChatGPTの関係性

入山:僕が言うのもおかしいと思うんですけど、けっこう禅の世界って、やはり目指しているところが自他の非分離じゃないですか。

深井:無分別(仏語で物事を区別して考えないこと)ですね。

入山:あれってやはり結局究極的にそっちを目指している話なんですかね。

深井:そこの話はすごく深くて(笑)。僕は仏教哲学を勉強しているからあれですけど、仏教が目指しているのは、結局今日の途中で言った「『自分が個体だ』というのは勘違いだよ」って話なんで。

入山:うーん。

深井:僕はこれでワンセットで個体だと思っているけど、仏教がやっているのは「それってどういう根拠でそう思っているんですか?」という問いかけなんですよ。「本当はもっと意識がつながっている可能性を論理的に否定できませんよね」という哲学なんですよね。

これだけ聞くとやばい話に聞こえるかもしれないんだけど、科学的には確かにそうだなと思うんですよね。そうなった時に、禅は「それを言語を介さずに感じる」という状態ですよね。

入山:僕は昔、禅の藤田一照さんという和尚さんにすごく近いことを聞いたんです。結局すべてはつながっていると。木が根っこでつながっているのに、表面上はバラバラな木に見えると。

下がつながっているはずなのに、それを(見えないように)覆っているのは何かというと、自我なんだと。だから、自我を捨て去ることが禅の1個の目的だという世界観ですよね。

これからの時代に宗教を考え直すことの大切さ

深井:まったくおっしゃるとおりで、それが仏教哲学です。僕はそれをChatGPTが出てきた時のLLM(についても感じました)。

入山:大規模言語モデル。

深井:あれがまさにそれだなと思ったんですよ(笑)。要はChatGPTは僕たちが質問すれば一つひとつ返すので、個別性を持っているように見えるんだけども。

入山:つながっていますからね。

深井:全部がつながって、LLMという1つの総体じゃないですか。

入山:おお! なるほど(笑)!

深井:実は仏教哲学はそれと同じことを言っているんですよね。

入山:なるほど! ChatGPTは禅の世界をある意味体現していると。

深井:そうですね。いわゆる個別性が勘違いであるというか、個別性と全体性が同時に起こり得ることを、目の前で見せていますよね。

入山:深井さん、宮内さん、ありがとうございました。いや、たがえみちゃん、今週のお二人の話、もう本当にやばかったね。

田ケ原:はい、あと今起きていることを今一度、宗教や哲学といった観点から学ぶことができるんだなということも分かりました。

入山:今生き残っているからこそ、宗教や哲学はすごい。ChatGPTの時代、まさにこういった哲学や宗教を、我々一人ひとりが真剣に考えなきゃいけない時代なんだろうね。

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