2024.10.10
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経営学者・入山章栄氏がパーソナリティを勤める、文化放送「浜松町Innovation Culture Cafe(浜カフェ)」。さまざまなジャンルのクリエーターや専門家、起業家たちをゲストに迎え、社会課題や未来予想図などをテーマにアイデアやオピニオンをぶつけ合います。本記事では、株式会社COTEN代表取締役CEOの深井龍之介氏と株式会社フィラメントCCOの宮内俊樹氏が、技術革新によって投げかけられる「哲学的な問い」について語りました。
◾️音声コンテンツはこちら
入山章栄氏(以下、入山):『浜松町Innovation Culture Cafe』。今週も常連さんに株式会社COTEN代表取締役CEOの深井龍之介さん。そして大常連のフィラメントCCO(チーフカルチャーオフィサー)の宮内俊樹さんをお迎えしました。深井さん、宮内さん、どうぞよろしくお願いします。
深井龍之介氏(以下、深井)、宮内俊樹氏(以下、宮内):よろしくお願いします。
田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):深井さんのプロフィールです。大学卒業後、大手電機メーカーの経営企画に配属。その後、複数の企業を経て、2016年には歴史領域をドメインとした株式会社COTENを設立されました。
会社を経営する傍ら、人気ポッドキャスト番組『歴史を面白く学ぶコテンラジオ』のパーソナリティも担当されています。
入山:深井さんは『浜カフェ』に何度も来ていただいてて、もう言うまでもなく大人気のポッドキャスト番組『コテンラジオ』のパーソナリティです。あらためてCOTENがどういう会社でどういう思いでやってるかを、(ご説明してもらっても)いいですか。
深井:わかりました。世界史のデータベースを作るというすごく変わった事業をやっておりまして。まだ、研究開発中でございます。
実は今、大きい企業のものすごく重要な経営判断に関わってるんです。データベースを使わず僕たちが人力で「同じような状況で同じように悩んだ人たちがいるか」をバーッて出して、「その人たちがどう判断して、その後どうなったか」を見せまくってるんですよね。
入山:そういう仕事があるんですね。歴史コンサルだ! 先方は「あ、これやっぱりけっこうぐっとくるね」とか「なるほど」みたいな話になったりするの?
深井:なりますね。やっぱりおもしろいぐらいに視点がひらけるんですよね。視座が上がるんですよ。
あなた方と同じ状況のパターンが十何種類あって、この人たちは全部で4パターンの挙動をしてると。「A・B・C・Dとある中で、あなたが選ぼうとしてるのはBパターンなんだけど、他のA・C・Dは検討しましたか」と。あと「A・C・Dのそれぞれにはこんなリスクがあって、分岐点がここにありそうです」みたいな話をする。
入山:それ、死ぬほどおもしろいっすね。
深井:経営者の方々はわからないことを決断しないといけないわけじゃないですか。それに対して思考が一気にガーッて進むんですよね。しかもそれを経営チームでやってるから、チーム全員で同じように思考が先に進むんですよ。これはすごく価値がある。
入山:めっちゃおもしろい。というわけで今日もよろしくお願いします。
深井:お願いします。
田ケ原:続いて、宮内さんのプロフィールです。宮内さんは大学卒業後、出版社で15年間雑誌編集者として勤務。2006年にはヤフー株式会社に入社し、「Yahoo!きっず」や「Yahoo!ボランティア」の担当、社会貢献サービスや「Yahoo!天気」、「Yahoo!防災速報」といったサービスの統括を担当されました。
オリジナルメディア『FQ(Future Questions)』の編集長を経て、現在は株式会社フィラメントCCOなど、多方面でご活躍されています。
この5月より、ディップ株式会社から、「ふるさとチョイス」を運営する株式会社トラストバンクに転職されました。
入山:はい。というわけで宮内さん、どうぞよろしくお願いします。宮内さんも『浜カフェ』の大常連で、先週もすごくおもしろい話をしていただいたんですが、なんか肩書きが消えてますよね。
宮内:すみません。この1週間で転職をしたことになるんですけど。
入山:今週に転職を。
宮内:そうですね。また新しく自分のやりたいことを見つけて。「ふるさとチョイス」という、要するに地方創生でふるさと納税をやっている会社なんですけれども。ヤフーでやってたのも社会貢献ですし、やっぱり自分の課題意識があって。
それらの興味関心を統合すると、地方にすべて集約されるなと。なので地方にこそチャンスがあるんじゃないかと思いますし、やっぱり地方が残れなかったら日本の未来ってちょっと残念な感じになってしまうんじゃないかと。
入山:そっか。宮内さんのこれからのキャリアは、もっと地方をおもしろくしたいと。
宮内:そうですね。
入山:だとすると、ふるさと納税になってくるんですね。
宮内:そういうことですね。これは第2次安倍内閣が促進させたすばらしい制度です。これがもっと普及して自分が思い入れのあるローカルにお金を渡して、経済がそこで回るようになるのはすごくいい仕組みだなと思ったので。それを広めて地方を元気にしたいと。
入山:『浜松町Innovation Culture Cafe』。というわけで今週も「ChatGPT時代の歴史思考」というテーマでお話をしていこうと思います。
先週も、もう散々話題になったChatGPTについて話しました。これは大規模言語モデルといって、世界中のありとあらゆる言葉をAIが解析するものです。「ものすごく頭のいい人間が、情報処理をして文章を生み出す」みたいなことを、もうAIがやってくれるので、今もう世界中が大騒ぎになってますよね。
というわけで、ちょっと先週のおさらいも含めて、深井さんご自身は歴史的な視点で見た時にChatGPTをどう捉えていますか。
深井:そうですね。あらためて言うと、今までの技術革新の中でも群を抜いて影響力があると僕は思っています。
入山:先週は「鉄の登場よりすごかった」と言ってて。
深井:そうですね。なぜ鉄の登場がすごかったかと言うと、やっぱり農業の生産性を上げたからなんですね。つまり耕せない土地を耕せるようになったんですが、(ChatGPT)はそれを凌駕する可能性が十分にありますよね。
そういう意味では、横断的にあらゆる領域の技術を革新させることもできるからこそ、非常に強いインパクトがあるだろうなと。今、史上最大のインパクトになるんじゃないかなぁと思ってますね。
入山:僕も先週深井さんの話を聞いて言語化できたんですけど、やっぱり言語を生成できるって異常なインパクトですよね。
深井:はい。異常だと思います。
入山:今までの通信革命の時は、言語を伝えるところまでだったじゃないですか。だけど言語ってありとあらゆるコミュニケーションの根幹だから。しかもプログラミング言語も言語だし。人類が発明してここまで成長させてきたものを機械が勝手に作れる時代になっちゃったってことですよね。
深井:それはすごいインパクトですよね。細かい判断とかも全部任せられるようになっちゃうわけだから。わかりきってるやつも、そうじゃないものに関してもけっこう任せられちゃうので。今までと技術の質がぜんぜん違いますよね。
入山:宮内さんはいかがですか。
宮内:そうですね。やっぱり僕は、逆に人文学的なことにすごく興味があるので。「じゃあ人間って機械やAIとどう違うのか」とか「そもそも何を拠り所に、人間に意識があると言ってるんだっけ」みたいなね。
人間と機械の違いって、「意識や意思があるか」と言われるんですけども。僕もよく考えると無意識に行動していることもけっこう多いし、アルゴリズムとあんまり変わんない気もするなぁと思う瞬間もあるんですよね。
それに対して「人間の意識があるのかないのか」って、客観的には誰も証明できないわけですよね。これが、人間の脳の問題点なんですよね。(人間の脳が)意識できないだけで、もしかしたら(AIが)何かの意思を持って返してきてるかもしれないし。
入山:まあ、少なくとも我々からはそう見えるということですよね。
宮内:そうですね。かつ、「我々からそう見えるんだったらそれでいいじゃないか」という考え方もあるし、(AIが)意識を持つのだとしたら、僕らの目を欺いて悪いことをする可能性だってある。
そういういろんな可能性を感じさせる、表面上はある種哲学的な問いを投げかけてくるのがおもしろいと思っていますね。
入山:うーん。深井さん、今の宮内さんの話はどうですか。
深井:いや、そうですよね。哲学を勉強してても、「どこからどこまでが確固たる自分か」という自分の個別性って、論理的には説明できないんですよ。実際には細胞は入れ替わってるわけだし。
入山:そうですよね。
深井:入れ替わってるし、僕は物理に詳しくはないんですけど、握手をすれば素粒子レベルでなんか交換されたりするらしいんですよ。
入山:あ、そうなんだ。じゃあ、(自分も他人も)つながってるんですね。
深井:そうです。だから「『何から何までが自分か』って、実は常に曖昧な状態で遷移してるけれども、我々は自分のことを自分だと認知し続けてる」という問題があるじゃないですか。
入山:なるほど。
深井:これはめちゃくちゃおもしろいなと。その知的好奇心の延長線上として、僕はそういうおもしろさを「個」に見出してて。本当に哲学が進むなと思っています。
入山:実はたまたま僕もTwitter(現X)で拝見したんですけど、ちょうど深井さんが「2023年はとにかく哲学を学びたい」と言ってるタイミングでこのChatGPTが来たって、けっこうな巡り合わせですよね。
深井:そうですね。いやでも本当に哲学を勉強したほうがいい時代に突入してるなぁと思ってまして。やっぱり僕たちは「自分の人生を自分で決めていかないといけない」という時代を今生きているから、良くも悪くも自己決定権を持っちゃってるわけですよね。
入山:なるほど。
深井:自由があるから。
入山:「この自由に対して、自ら考え決断している」という主体性を持たないといけない。自分の人生を主体的に生きていかないといけないわけですよね。
ここで、まさにこういうChatGPTとか出てきて「仕事もしなくていいよ」となった時に、我々はなぜ生きてるのかと。
入山:本当ですよね。
深井:「僕はこの人生で何をするのか、それはなぜなのか」ということをやっぱり考えざるをえない状態になります。昔だったらもう本当にフィレンツェのメディチ家とかの裕福な人たちだけに起こってたことが、ものすごい数の人たちにも起こる(※注:15世紀、フィレンツェのメディチ家が中心となってギリシア哲学について盛んに議論、研究が進められた)。
入山:「世界総メディチ家」状態になる。
深井:そうなんです。そうすると、やっぱり哲学が進んじゃうと思ってて。
入山:あぁ、なるほど。哲学ってやっぱり余裕がある人たちが中心になって進んだんですか。
深井:ですね。僕は「人間が哲学的になる3条件」を歴史上から見出したんですけど。
宮内:あれ、おもしろくてめっちゃいいですよね。
深井:この3つの条件が揃うと、基本的に人間は哲学的なことを考え始めるというのがあって。
1つ目が、「食うのに困ってない」。2つ目が「近くに自分と価値観がまあまあ違う人がいて、会話ができる」状態。3つ目が「このままじゃだめだと思ってる」。この3つの条件が揃った人って、哲学を考えるんですよね。
入山:(笑)。
深井:今、哲学的なことや「なんでだろう」とか考えてる人は、この条件をまさに自分に当てはめてほしいんだけど。年収が上がって、ある一定ラインを超えると、本当に「俺なんで働いてるんだっけ」となるんですよ。
入山:(笑)。今、自分がなりつつあると。
深井:いや、まあ自分もそうですし、これはけっこうな数の人たちに起こっていて、たぶんより加速しますよね。
入山:めっちゃおもしろい。宮内さん、いかがですか?
宮内:僕は前職(ディップ)で「働く」の起源もいろいろ調べたりしたんですけど。もともと労働ってある種の苦役で、エジプトから始まっている「つらいものだ」という考え方もあれば、江戸時代くらいまでは、だいたいみんな遊んで食うために生きていたわけですよね。
入山:そうですよね。前に深井さんがまさにおっしゃっていた、宵越しの金は持たない的なね。
深井:そうですね。
宮内:工場労働制からいろんな仕組みができたりしているので、そのぐらいから歴史を振り返ると、「これが変わるな」とか「これは変えたほうがいいかも」というのが、けっこう150年とか(経って)国民国家的になってからだと思うんですよね。だからそこを振り返るのはおもしろい。
深井:今みたいに賃金を貰いながら働く感覚は、本当に何なら戦後ぐらいからなんですよね。
宮内:そうですよね。
深井:戦前とかは、農家に生まれてそのまんま農業して暮らすみたいな、家業を継ぐ感覚が多い人もたくさんいて、賃金労働からけっこう離れている状況なんですけど。我々はたかだか数十年しか続いていない賃金労働感覚を当たり前だと思っているんだけど、それがまた変わる時代になっているのかもしれないですよね。
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