2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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後藤智氏(以下、後藤):ChatGPTが出てきたことによって、エンジニアの役割はだいぶ変わったかなと、みなさん思われていると思います。
これについて、今後も含めてエンジニアの役割とChatGPTの役割がどうなっていくのか。みなさんはどう想像していますか? もしくは、すでにどう変わっているかを、話していただきたいなと思います。小林さん、お願いします。
小林聡汰氏(以下、小林):たぶんこれに対する回答は、どの時間軸を見るかとか、いわゆるプログラマー、ソフトウェアエンジニアの定義をどうするかによって変わると思います。
例えば、直近の目線で今も含めたところで見ると、先ほどもCopilotの話がありましたが、先日コーディングインタビューを見学する機会があったんですよ。
これは会社や職種によってもぜんぜん違うと思いますが、その時はオープンブック、オープンインターネットで、一応業務の時と近い状況でやっていて、実際、優秀な大学を出て優秀な経歴を積んだ候補者に問題を出していました。
Copilotをオンにしていたので、タイトルを書いたらバーッと出してくれるんですよ。その時に何が起こったかというと、出てきたものをそのまま使用して先に進めていった結果、自分が何をやっているかがわからなくなってしまったんです。
Copilotは「副操縦士」なのに、むしろそっちが主役になっていて、(候補者は)今やっている課題に対してぜんぜん考えが回らなくなって、実はぜんぜん違うディレクションに進んでいたという状況が起きました。
本来、エンジニア側がChatGPTやCopilotを支配する立場だと思うんですよね。ある程度自分たちでコントロールしないと、自分たちがわからない方向に進んでいってしまって、気づいた時にはもう戻れない状況になると思います。
なので、現段階においては、まだソフトウェアエンジニアというかプログラマーはきちんと知識を持って、何を生成しているか、どうやってそれをコントロールするかに対して、ある程度の力を持っていた方がいいかなと思います。
ただ、この先の時間軸がもう少し未来になっていくと、出てくる精度や、それに対する人間側の信頼がかなり上がっていくと思うので、10年後、20年後は、立場が変わっているかなとは、少し思いますね。
後藤:なるほど、わかりました。
後藤:櫻庭さんはいかがでしょう?
櫻庭洋之氏(以下、櫻庭):今の小林さんの話にかなり同意しますが、エンジニアのそもそもの能力は、どういう課題があって、それがどういう構造になっているのかを理解することだと思うんですね。
手段としてプログラミングがあるという関係性だと思っているので、そこさえ押さえていけば、ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアは、この先も一定期間あり続けるのかなと思います。
現段階においては、ChatGPTもCopilotも、定義してくれるのはわりと断片的なコードなので、それが果たしてどういう動きをするのかを理解せずに、つぎはぎで使い続けるのはけっこう難しいなと思っています。なので、プログラマーが一掃されることは、短期的にはまだまだないなという、実感値ではありますかね。
後藤:なるほど。
後藤:輝さんはいかがでしょう?
後藤:小酒井輝氏(以下、小酒井):使い始めてから、生産性が上がったと感じているんですよ。
僕が今やっているプロジェクトが、1月から始まって、3月末でアプリが1本できたんですね。サーバーもモバイルもインフラのコードも作る中で、生産性がかなり上がったんですよ。
CopilotとChatGPTが使いこなせる人は、生産性がかなり上がります。使いこなせない人との差がかなり広がるはずです。できる人はさらにできるようになり、そうではない人との差が広がるかな、という印象です。なので、使いこなせない人が置いていかれる状況になるというイメージです。
後藤:例えば、今までそんなにコードを書いてこなかったけれども、プロジェクトマネージャーという人たちはけっこうたくさんいると思います。
その人たちが、これである程度自分のやりたいものや伝えたいことを伝えて、物を上げてくれるのであれば、エンジニアはあまり要らないんじゃないかという思想にもなっていきそうな気はします。
例えば、輝さんの会社では、今後人を採用するとなった時に、ChatGPTを使える、使えないというのはどうやって判断するんですか?
小酒井:前に、試しにPdM(プロダクトマネージャー)の人に、「ChatGPTにSQLを書いてもらってください」とお願いしていたんですよ。エンジニアの人であれば、ChatGPTにテーブル設計から何から何まで書かせることはけっこう簡単なんですよ。だけど、そのPdMは一切書かせることができなかったんですよ。お願いの仕方がわからないんです。なので、前提知識がないと使いこなせないんですよ。
後藤:なるほど。ということは、やはり前提知識は必要で、その上で細かい部分を補完してもらうのはChatGPTでもいいというやり方ですかね?
小酒井:そうですね。
後藤:なるほど、わかりました。
後藤:先ほど小林さんから、コーディングテストについて話がありました。例えばコーディングテストとしてはいろいろなサービスがあって、日本では「LeetCode」や「AtCoder」があるだろうし、アメリカでも「HackerRank」などいろいろあると思います。
今、そのコーディングテスト自体をGPTが解けてしまうんですよね。こうなった時に、これらのサービスは、まだ使えるものなのか。もしくは今後の採用のかたち自体も変わっていくのか。
このあたりについて、みなさんは思われるところがありますか? 小林さん、お願いします。
小林:自分はまさにLeetCodeをやって受かった側の人間ですが、確かに今、ChatGPTにLeetCodeの問題を入れると、けっこうな確率で回答が返ってくるんですよね。たぶん学習データとしてLeetCodeのけっこう有名な問題を集めているので、そういったこともあって(回答が)出やすいとは思います。
ではLeetCodeが、採用に関して使えなくなるかというと、たぶんこれは、それを通して何を学びたいかによると思います。
単純にアルゴリズムを学ぶ、別に業務で使わないなら、正直、もうそれを練習する意味はないし、それを測る必要はないと思います。
一方で、例えば、その問題を通してどういうふうに考えているかを見たいというのであれば話は別かなと思います。あと、アメリカのコーディング試験だと、基本的にその間はずっとコミュニケーションを取るんですよ。詰まったら「詰まった」と素直に言って、コミュニケーションを取りながらディレクションをしてもらって、バグを取って解答に導いていきます。
そういったところを見たいという場合だったら、それを通して自分で鍛えられる部分があって、採用する側もそれを通して見られる部分があると思うので、全部が全部取って代わるとはあまり思っていないですね。
後藤:なるほど。ただ、アレですね。(候補者に)投げて、「1日経ったら返してください」という使い方はできなくなるので、今言ったように、きっとオンタイムで実際書いている状況を見ながらというかたちも面談として使うようになっていくわけですよね。なるほど、わかりました。
後藤:櫻庭さんはいかがでしょう?
櫻庭:僕たちの会社は、コーディング試験をやっていないのですが、今も、この先も絶対重視している部分が2つあります。
まず1つは、みなさんの会社でもそうだと思いますが、自分たちの文化に合うかどうかという人間的な部分。もう1つは、学習を自律的にし続けられるかどうか。この2つを見ています。
つまり、今回のChatGPTみたいなインパクトのあるものが出てきた時に、「どうなるかわからないけど使ってみよう」と積極的に使ってみる人たちと、斜に構えて「いや、これはちょっと違うだろう」みたいに手を動かさない人の2つに分かれるかなと思います。
僕たちは、前者の「まぁ、結果はどうなるかわからないけど、とりあえず試してみよう」みたいなマインドを持っているプログラマーの人たちは、すごく伸びていくと思っているので、それは時代が変わったとしても普遍的な能力なのかなと感じていますね。
あと、コーディング試験に関しては、先ほど輝さんが言っていたように、プログラマーはこの先、二分化していく可能性はあるなと思っているので、ジュニアの方たちの単純なわかりやすい能力を測るコーディングテストは、なくなっていくのかなという気はしますね。
後藤:輝さんはいかがでしょう?
小酒井:ジュニアはわからないですが、エンジニアの中堅以上だと、話をしてペアプロをしたらだいたいわかるかなという気はします。ジュニアはどうするんですかね。ちょっとわからないですけど。
後藤:(笑)。
小酒井:ペアプロをして、あとはやる気かな(笑)。
後藤:そうですね。よく言われているのは、最初にサービスが潰れていく。ChatGPTによって置き換えられてしまうであろうサービスが最初になくなって、その後、人が(置き換えられてしまう)と言われています。
例えば、ChatGPT以降は、Google検索のクエリ数が減ったというツイートもよく見たので、最初にダメージを受けるのはサービス系なのかなと思います。
後藤:ChatGPTありきの状態の世界の中で、今後どういうサービスを作っていきたいとか、ありますか? 小林さん、お願いします。
小林:作っていきたいサービスですか。おそらく強みとしては、ナチュラルな会話だと思うんですよ。カウンセリングやコーチング系はやはり強いと思っています。
信頼関係が築けていない状態で、対人間とわかっている状態だと、自分の弱いところや困っていることをなかなか言いにくい人はいると思うんですよね。
解決方法がわからないとか、いいフィードバックを受けられないというのはあると思うので、きちんとしたトレーニングセット、きちんとプロが監修したいいフィードバックを返してくれる、疑似的なカウンセラーやコーチみたいなものは作ってみたいですね。
ただ、ありふれすぎていて、何万人もすでに世界中でやっているとは思うんですけど(笑)。領域に対してどんどん細かくしていって、ここのニッチに刺さるみたいなやつは、あったらけっこううれしいかなとは思いますね。
後藤:なるほど。
後藤:櫻庭さん、いかがでしょう?
櫻庭:今の現段階のChatGPTを組み込んだプロダクトやサービスには、あまり競争優位性がないなと思っているんですね。組み込むのはけっこう簡単だし、使うのもけっこう簡単なので、今の段階で、特別こういうのを作りたいというのはないです。
逆に、僕としてはChatGPTだけじゃなくAIに仕事を奪ってもらって、趣味のプログラミングの時間を増やせるようになったらすごく人生豊かになるのにと思うので、そっちの方向性に発展してくれるとうれしいなとは思っています。
後藤:輝さん、いかがでしょう?
小酒井:僕は実は今作っているので、あまり言いたくはないんですけど(笑)。
ChatGPTが流行った理由があるんですよ。これがなにかというと、ChatGPTってすごく優しいんです。絶対に文句は言わないし苦情は言わないし、とても気持ちいいんですね。
これが一番、ChatGPTが優れているところです。これで仕事がなくなるのは、たぶん教育界だと思っていて、僕もプロダクトを作って企業向け、会社の中に入れようとしています。
今作っているのは、チャットボットです。企業向けのすごくかわいくて、すごく優しいチャットボットを作っています。これを会社内に入れると、従業員たちがすごく気持ちよく仕事ができます。優しくなれるし苦痛がなくなるチャットです。仕事の効率じゃないですが、職場から仕事の苦痛をなくせるものを作ろうとしています。
後藤:なるほど。
後藤:今後もたぶん、ChatGPTやAPIを基にしたいろいろなサービスが出てくると思います。
逆に、今プライバシー面についていろいろと言われています。例えば、イタリアの政府はChatGPTにアクセスできないようにするとか、そういった負の側面も少しずつ出てきているのかなと思います。
Samsungの従業員が会社のコードをそのまま載せてしまってそれが漏れたとか、そういうことがこれからもけっこうあると思いますが、こういう負の側面も若干あるわけですね。
このあたりについて、みなさんはどのように思われますかね。小林さん、なにかありますか?
小林:たぶんどんな科学技術も、負の側面といいところ、どっちもあると思っていて、その流れ自体は止められないとは思っているんですよね。
変な話、例えば最新鋭の兵器を開発をして、「それをやめろ」と言ってもやめないところは、現に今も世界にあるわけです。
例えば今、プライバシーがどうこうと言っても、全部の企業が守っているわけではないですよね。実際にこの間、「AIの開発についてちょっとストップしなよ」という話が世界中で流れましたが、スタートアップはそんなことで開発をやめません。
一方で、使う側も、先ほど言った、従業員が漏出してしまったというのもあると思いますが、「出さないようにしてください」と言ったところでみんなが守れるような人間ではないと思うんですよね。人間の性質上、やはりそういうのは自己をどうやって抑制するかにかかってくると思っていて、ぜんぜん歯止めが利くわけじゃないので、ある程度これが残り続けるのは確かだし、それは致し方ないとは思っています。
後藤:小林さんの会社では、倫理規約などChatGPTを使う上での規約はありますか?
小林:厳しい規約はないですね。正直に言うと、けっこうCTOはノリノリで、「もう使えるところはガンガン使っていこう」と言ってくるタイプなので、ここは本当に個人が自分でラインを引いて今やっている感じです。
むしろ、うちのようなシリコンバレーの小さなスタートアップは、たぶん使えるところはどんどん使っていきたい派だと思うんですよ。
たぶんギチギチにルールを敷いていくことが、今後の世界をリードしていく流れの足を引っ張ることになると思うので、そこは従業員と信頼関係を結んだ上で、使えるところはどんどん使っていこうと言ってくれているんだと思います。
後藤:なるほど、わかりました。ありがとうございます。
後藤:櫻庭さん、いかがでしょう?
櫻庭:プライバシーやセキュリティの観点と利便性はトレードオフの関係かなと思っています。
基本的に人はやはり便利で楽なほうに流れていく性質があるので、大きなうねりの中で、これ自体を止めることはできないだろうなと思います。
AIに限らず、普通のECサイトと同じように、セキュリティや運用などをどういうふうにしていくかというのは、これから先、議論が始まってくるのかなとは思いますが、基本的には、うまく付き合っていこうという方向なのかなと思っています。
後藤:わかりました。
後藤:輝さんはいかがでしょう?
小酒井:今日ちょうど(※取材当時)ベネッセが社内用ChatGPTを作ったのですが、あれでいいかなと思うんですよね。それをマイクロソフトが提供すればいいんじゃないかとは思うんですけど。
後藤:なるほど。まぁ、そうですよね。みなさん「Outlook」や「PowerPoint」や「Excel」を使っているでしょうから、基本的にマイクロソフトに対する信頼度は高いんでしょう。だから、マイクロソフトが出すんだったらいいかなという感じですか?
小酒井:マイクロソフトが安全かどうかは知りませんが、マイクロソフトだったら許してくれる、みたいな(笑)。
後藤:なるほど、そうですね。これは会社によって意見が分かれるところかなと思うので、なかなかちょっと難しいです。
ただ、小さい会社に関していうと、どんどん使っていこうという話があったので、たぶんChatGPTのいい面を活かして会社のパフォーマンスを非常に伸ばせるほうに行けるんじゃないかなという感じはします。
(次回へつづく)
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