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ソニー出身起業家が語る『世界に「窓」をひらいて、好奇心を育もう』(全3記事)

“大企業が決めた幅”の中で低くなる、自分のアイデアへの肯定感 ソニー出身起業家が語る「境」を越えると見えるもの

「挑戦・学習・成長を加速させる“場”をデザインする」をミッションに掲げる株式会社ウィル・シードは、人材開発サービスを提供する大手企業の人材コンサルタントとして、研修などを通して組織や人の成長を支援を行っています。本セッションでは同社主催のセミナーより、MUSVI株式会社阪井祐介氏が登壇した回の模様をお届けします。相手と同じ空間を共有しているような次世代コミュニケーション装置「窓」について解説されました。最終回の本記事では、越境する・外の世界に踏み出すことの大切さが説かれました。

大事であり壁にもなる「境」との関わり方

阪井祐介氏(以下、阪井):最後にちょっとエピソードみたいな感じで締められればと思うんですけども。これは、「窓」も入っている島根県の隠岐島前高校とかがあるところなんですけど、摩天崖という場所なんですね。

見ていただくと、このあたりに白い部分があると思うんですね。こっちが空でここが海なんですけど、摩天崖ではよく見られる現象で、不思議と水平線がないんですね。水平線的な部分がぼんやりしていて、「どっちが海なんだろう? 空なんだろう?」と、だんだんよくわからなくなる、すごく不思議な風景を見ることができるんです。

例えばここに補助線を1本引くと、ここから先はすごく簡単なんですよね。上は空で下は海という。この状態だったらなんか曖昧だったものが、線を引くこと、まさに境を引くことで、すごくクリアに分かれちゃうんですね。上と下みたいなかたちで。

この境とか境界があるというのはものすごく大事なことである一方で、これ自体が今度は壁になっちゃう。つまり、「これは向こうの会社の仕事ですよね」「向こうの部署の仕事ですね」「僕じゃなくてあなたの仕事ですよね」みたいに、境が自分たちの行動を制約してくることが起きるなと思っていて。

それ自体は僕は悪いことじゃないと思うんですけど、ただ、境がもし生まれたり気づいたら、そこをどんどんまさに越境して、どんどん向こうへ行ってみたりこっちに行ってみたりということを繰り返していくことで、境がどんどんある種まどろんでいくというか、不思議な状態(になる)。

境はあるんだけども、境はないみたいな状態を作っていけると、最終的には非常に、自分たちの心の持ちようとかチャレンジのやり方次第で、ある時には境が必要な時もあるし、そうじゃない時はそれを越えていけるよねという、先ほどの非常に前向きなというか楽しい境との関わり方というのが出てくるんじゃないかなと思っていて、そんなことを考えながらやっております。ということで、私のパートはこれまでになります。

プロジェクトのグルーヴを加速させる「楽しそう」の分析・分別

司会者:ありがとうございます。あえて境界線ということで分かれ過ぎずにというか、「まどろむ」という表現が絶妙だなと思ったんですけど。「このために絶対組もうね」という会話からというよりは、先に会話があって、「こんなこともあんなこともできそうじゃない?」というような膨らみ方というほうが実際は多かったりするんですか?

阪井:そうですよね。だからやはり僕らのセンサーって、なんかわくわくするとか、なんかすごく楽しそうだなということだと思うんですよね。やはりそれだけはうそがつけないというか。どれだけ見た目上おもしろそうなプロジェクトでも、さっぱり心が踊らないみたいなことも当然あると思いますし、「どう考えてもこれは条件が悪いし、失敗しそうなんだけど、なんかすごく楽しそうだな」と。

そういう時に、同じフィーリングを持った人たちってやはりいると思うんですよね。いろんな関わりの中で。そうすると、「じゃあ一緒にやってみようよ」みたいなことを思った時に、まさに「じゃあなんでこれって課題があるんだろう?」とか「すごくやばい感じがするんだろう?」みたいな。

そういうのを分析、分別していくことはすごく大事だと思うんだけど、まさに分別しながら、「じゃあやめましょう」でもなくて、「じゃあ仮にその制約があるとしたら、どうやったら自分たちの楽しさをうまく引き出しながら継続できるんだろうね?」みたいなことを考える。

すみません、すごくコンセプチュアルな話になるんですけれども(笑)、こういうことを意識していると、どんどんいろんな方とのグルーヴみたいなものが加速していくなというのは、やはり思いますね。

司会者:ありがとうございます。ぜひ今日お集まりのみなさんも、どうしたらそういう探索みたいなことを緩やかに起こし続けられるのかとか、それをやってみようと、若手だったりレイヤーのメンバーが思いやすい環境が作れるのかというのも気になるところかなと思います。ぜひこの後、Q&Aタイムに入らせていただきたいなと思うので、その中でも聞いていきたいなと思ったポイントでした。

リスク回避とイノベーションのジレンマ

司会者:ということで、今日ご参加いただいているみなさんも、人事の方の視点とか、現場での教育視点とか、いろいろお悩みをお持ちかなと思います。Q&Aボックスが下のところにありますので、そちらに書き込んでいただけますでしょうか。

ちょっとお待ちしている間に、私からもいくつか聞いてみたいなと思ったんですけど、よろしいですか?

阪井:はい、もちろんです。

司会者:まず1つ目で気になったのが、部活だったり、あとは企業を飛び出して、別企業とか業界の方との出会いもものすごく多くおありだったのではないかなと感じたんですけども。そこの出会いによって、何かしらご自身の活動とかに思いがけないヒントを得たなということってあったりされますか? もしあったら何かエピソードをおうかがいしたいなと。

阪井:そうですね。でも本当にそういう発見しかないみたいな感じなんですけれども、あえて前の状態、けっこうベースは多動性のまさにこんな感じなんですけど、意外と、自分で言うのも何ですけど、めっちゃ真面目な一面もありまして(笑)。

司会者:もちろんです(笑)。

阪井:意外と企業の方ってめっちゃ真面目だと思うんですよね。いわゆるルールみたいなものとかガイドラインとか、「これを話したら情報漏洩になるかもしれないからやらないでください」みたいな話になると、僕もほとんど社外の方と積極的にそういうふうに話をするみたいなことは、2015年ぐらいまではほぼなかったんですよね。

事業の中で、例えばクリエイティブな何か映像を作るみたいなプロジェクトで、契約があるいろんな方と、けっこうクローズドな状態でいろんな方と話すみたいなのはあったんですけども。まさにイノベーションのジレンマじゃないですけど、岩田さんが今出されていたチャートみたいな苦しみみたいなものを2014年、2015年、2016年ぐらいでやはりかなり感じるようになって。

自分が、ソニーが決めているルール、ソニーというか大企業が決めている幅。「ここから先は危ない」「ここから先はやってはいけない」みたいな感じでがっちがちになっている中だけで歩いていくと、なんて言うんですかね、リスク回避で、「こっちの半分は捨てましょう」みたいなことをやっていると、ほぼもう会える人がいなくなってくる。つながる人がいなくなってくるみたいなことが、やはりすごくあったんですよね。

アイデアへの肯定感が異様に低い状態に

阪井:それでもやはり真面目に、「このケーキの端っこのここの部分にはいけるかもしれない」なんて言っていたんですが、スノーピークの山井さんに、あるタイミングでインタビューに伺うという企画を無理やり社内で作って伺った時に、けっこうブレイクスルー(があった)というか。

僕らはやはり細切れにされて、社内で「これは役に立たない」「(これも)役に立たない」とやられていると、自己肯定感というか、自分の持っているアイデアへの肯定感が異様に低い状態になっているんですよね。そうすると、そのつまらないものを人に見せても、ぜんぜん興味を持ってもらえないだろうし、かつ、おもしろい話なんかにならないだろうみたいな、そういう思い込みみたいなのがあって。

それが勇気を持って、山井さんのインタビューに燕三条の本社まで伺って、「『窓』でこんなことをやっているんですよね」みたいな話をした時に、実は山井さんがめちゃくちゃおもしろがってくださったんですよね。「めちゃくちゃいいじゃないですか」みたいな。それで「こんなことできないんですか?」「こういうことはできないんですか?」みたいな話がわーっと起きたんですよね。

あのインタビューは、今も覚えているんですけど、2015年の5月25日だったので、まさにこの時期ですよね。すごく季節のいい時に、燕三条でお話をうかがって。その時に目からうろこじゃないですけど、「あれ? 俺が思っていたものは何だったんだろう」みたいな。

そこからだんだん知財のチームの方と連携しながら、スノーピークと一緒に、「じゃあ、遠隔焚き火システムを考えて、そのアイデアから特許を一緒に出しましょう」みたいな感じで、知財を使ったインキュベーションプロジェクトみたいなものをやっていった。

他者によって気付かさせる「アイデアの価値」がある

阪井:先ほど出てきたような建築家の方だったり、介護施設だったり、教育だったりという方とどんどん会社の許可をもってというか、すごく前向きな応援をもって「いろんなことをやってみてください」みたいな、ちょっと神モードみたいなものに入れたんですよね(笑)。

そこまですごく長い道のりだったんですけど、17年ぐらい経って、「あ、これすごい」みたいな。そうやっているうちに、すごくいろんな事業の種みたいなのが生まれてきて、「『窓』でこういう事業化をやってみたらいいんじゃない?」みたいな感じになりました。

司会者:ありがとうございます。今のはヒントになるなと思いました。自分が考えているアイデアとか好奇心とかって、「しょうもない」とか「大それたものじゃないんじゃないか」と思って閉じ込めちゃうみたいなことが、ぜんぜん違う他者によって「それってすごくおもしろいよ」とか「価値にできるよ」と気づかせてもらえるってすごくあるなと思います。いつも同じ人と、このプロダクトとか、この技術とか、このアイデアがあるのは当たり前の状態だと、もう風化してしまうというか(笑)。

阪井:そうなんですよね。十分今の場所が持っているポテンシャルみたいなものがあるんですけど、そこがなんか本当にキャンセルされちゃうみたいな。だから、そこからすごく伸びないと何かが起きないみたいな感じで、どんどんさっきの「解像度をちょっとでも良くしよう」みたいな感じになっちゃうんだけど、実はここはもう求められていないみたいなことって、やはり多々あるんですよね。もちろんあればあるだけいいんですけども。

あ、質問がちょっと今来ていますね。

司会者:そうですね。

外部と共創関係を作れる人に必要な素養や能力

司会者:「外部と共創関係を作れる人に必要な素養や能力はどのようなものだと思いますか?」というご質問をいただきました。

阪井:はいはい。これね、よく悩みますよね。

司会者:悩みますよね。

阪井:でもすごく真面目に考えると、例えば旅好きな人とか、人と会うのが好きな人とか、それこそ自分でずっとこだわってやっている、何か打ち込んでいるものがある人とか、そういうのはある意味引き出しは多いですよね。社内の状況とか情報とかにめちゃくちゃ精通しているけど、一歩先に出ると、共通の話題というか場を作るのが苦手みたいなところはあるのかなとはなんとなく思うんですけど。

一方で、僕はやはりソニーの中で人事の人にすごく言われた、いろんな意味でショックだった言葉があるんです。実は唐川(靖弘)さんというINSEADとかで研究されているすごくおもしろい研究者の方が、「うろうろアリ」という概念、「THE PLAYFUL ANTS」という概念を本にされていて。

要はアリの巣を見ると、なんかめちゃくちゃ遊んでいる、ぜんぜん仕事をしていないアリみたいな感じで(笑)、うろうろアリみたいなのが、実はなんかトラブった時にサポートに入れたり、ぜんぜん餌場だと思っていなかったところをふらふらしてすごい宝を見つけるみたいな、なんかそういううろうろアリみたいな役割があって。

これはある意味そういう話だと思うんですけども、「役に立つうろうろアリと、役に立たないうろうろアリの見分け方を教えてください」と言われたことがあって、すごくゾワッとしたことがあったんですよね。確かに共創関係を作るというのは、仮に1人でペネトレイトするという意味では、先ほど言った旅好きの人たちとかがいいかもしれないですけど。

やはり継続的に企業と企業のすごくサステナブルな関係性を作るみたいなチームで考えていった時に、必ずしも共創関係を作れる人、作れない人がいるというよりは、やはり役割というか、まずはチーム全体に探索モードを持つことで、自分たちにとっても、世の中にとっても、相手にとっても、ものすごくいいことが起こり得るんじゃないかという、いいムードですよね。

そういうものがあると、一見「この人、共創とか外部とのコミュニケーションにはまったく向いていないよね」みたいに思った人が、実はとんでもなくおもしろいコネクションを持ってくるとか、本当にそのプロジェクトの中で要になるような方になるということが、けっこうあるんじゃないのかなと思っていて。

だから僕が思うにはですけど、僕みたいないわゆる「ザ・開拓家」みたいな感じでバリバリいく人もいるとは思うんですけど、そんな人ばっかりを選ぼうとすると、またそれはそれでよくわからなくなってくるので。

それぞれの人が持っている何らかの好奇心だったり主体的な情熱みたいなものを、みんな隠している状態になっちゃっている。

自分で設定してしまう「ブレーキ」を抜いてあげるみたいな機会

阪井:僕も15年ぐらいまでは、「借りてきたネコ」なんて言っていいかわからないですけど、意外と大人しくしていたんですよ。「こんなことはやっちゃダメだよな」と思って、けっこう一回それで自己設定しちゃうと、そういうことをやらなくなるんですよね、人間って。

そういう人たちのサイドブレーキみたいなものとかをすっと抜いてあげるみたいな。そういうことをやることで、能力によってそれが起きるということではなくて、場によってそういうことを生むみたいなことができるんじゃないかなと。お答えになっているかわからないですけど、そんなことを思いました。

司会者:ありがとうございます。ご質問いただいた方もありがとうございます。そういうちょっとブレーキがかかりがちとか、ブレーキをかけながら仕事をしてきた人が、本当はちょっと思っていることとか、「もっとこうしたいな」「こうなったほうがいいんじゃないかな」というのがあるんだけれども、そのブレーキを抜いてあげるみたいな機会とか経験とかって、例えばどういうものになりそうとかありますか?

阪井:そうですね。でも、例えば先ほどのスノーピークのインタビューなんかは、僕が課長さんと話をして、やはり新しいインプットが要るよというわりには、みんなWebで見たり、調査レポートとかを見て、「とにかく新しい潮流はこれです」とか全員同じことを言っていて、「それはちょっとおかしいよね」というのがあって。

一回僕が企画したのは、「私は」という主体的な理由で始まる何かの観点。例えば「僕はスノーピークがやられている焚き火への情熱が、コミュニケーションのヒントになるんじゃないかと思ったので、山井さんのところにインタビューに行きたいです」みたいな。

そういう文章をプロポーズすることで、チームの中で「じゃあそれをやらせてみようよ」と。例えば旅費を出してみようとか、あそこの時間を使ってやってみようというので、「ボイス」という僕が作った自作自演のプロジェクトであれなんですけど、その時10人ぐらいいたメンバーが、トータルで30件ぐらいのインタビューをやったんですかね。

「自分」が主語で興味があることから生まれるエネルギー

阪井:今まで一切インタビューなんかやっていなかったメンバーだったんですけども、それぞれが地域創生のところに行ってみたり、音楽のところに行ってみたり、登山の話に行ってみたり、子育てをやってみたり。今までまったく想像もしなかったバリエーションのレポートが本当に1カ月ぐらいの間にばっと集まったことがありました。

司会者:うわあ、おもしろそうですね。

阪井:特にもともとそういう生業を持っていない人たちに対して、やはり伴走は大事で、「いや、そんなの無理ですよ」と言ってばんばんばんと止まっていくので、最初は僕しか出せないみたいなモードはあったんですけど。

でも、だんだんそういういろんな人を巻き込んでいって、「阪井さんがやっているやつ、なんか楽しそうですよね」とか「僕もこういうのをやってみたいんですけど」という時に、「じゃあ例えばこういう切り口でやってみたらおもしろいんじゃないの?」とか、そういうところでやってみたりしていましたね。

司会者:ありがとうございます。けっこう「自分」が主語で興味があることというのがまず大事なんだなと思ったところと。そうすることによって一般論とかありふれている情報からの仮説とかではなくて、オリジナルの仮説がたくさん集まってくるから新しいものが生まれやすいとか。もちろん本人が興味があって、好奇心が開かれているというのが一番エネルギーがあると思うので。

阪井:うんうん、まさにそうですよね。

司会者:そのエネルギーが切れないように、ちょっと一緒にまずやってみようとか、フォローしてあげるというのも、誰かと一緒にできるみたいな、そういう環境もまた後押しになるのかなと。

阪井:うん、すごく大事だと思います。そこから即効性があったわけではないかもしれないけども、やはりその時の感覚はすごく大きかったなと。チームのメンバーの顔が変わったというか。上から叩かれて、先ほど言ったちっこいケーキをちぎっていくようなことをしていたら、アイデアを出すたびに否定されるみたいなモードに基本的にはなっちゃうので。

だけど僕がまったく新しい観点で出した時に、評価はされないんですよね。「これ、何なの?」みたいな。「ぜんぜん関係ないじゃん。テーマとも違うし」みたいな感じになるんですけど。あの時にやった10個、20個ぐらいのレポートって、今読んでもたぶんめちゃくちゃおもしろいなというのはあって。なんでかと言ったら、やはり個人の主体性とか個性に本質的に基づいているアプローチだからというところはあるかなと思いますね。

司会者:ありがとうございます。まだまだいろいろお話を聞きたいなと思ったんですけれども、お時間も迫っているので、Q&Aのタイムはこれぐらいにさせていただきます。ありがとうございました。

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