2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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ーーでは今回、テーマとして「エンジニア力」というところをおうかがいできればなと思っているんですが。その前に、実は以前から及川さんとお話をしたいなと思っていて、以前『ソフトウェアファースト』の本の時のイベントを書き起こしたことがあって。あれを見ていて、今はまさにトヨタ自動車などもそうですし、どこもそうなのかなという気もしていて。けっこう本当にソフトウェアファーストの時代になったんじゃないかなと思っているんですけど、やはりそれって及川さん的にもそれは何か感じていたりするものですか?
及川卓也氏(以下、及川):そうですね。もしかしたらそのイベントの中でも話したかもしれませんが、ソフトウェアファーストというのは実は完成形ではなくて、ハードウェアとソフトウェアは境界が曖昧で、本来ならばハードウェアだけとかソフトウェアだけを取り上げるのではなく、それらを統合した上で、それがデジタル力なのかIT力なのかプロダクト力なのかはわかりませんが、そういったものになるはずなんですね。
ただ、日本はもともとやはり古い意味でのものづくり、ハードウェアという意味でのものづくりが非常に強かったという歴史があるゆえに、本来ならばハードウェアとソフトウェアが両輪であるべきところが、いびつなかたちでハードウェアに偏り過ぎていたという過去があり、それを今「ソフトウェアファースト」という掛け声の下にソフトウェアのほうの比重をしっかり高めるという方向に行っていると。
なので、本来ならば当たり前ですけれども、ソフトウェアとハードウェアというのは先ほど言ったとおり両輪のかたちになっていますから、バランス良く、時としてソフトウェアのほうの比重が高くなることもあれば、ハードウェアのほうの重要性が高まることもあると。ですから、最近半導体の話がありますが、半導体とかというのは、いわゆるIT企業においてはもうハードウェアのコア中のコアなわけですね。
この重要性は高まっているし、日本も安全保障上の理由なども含め半導体などの戦略的なハードウェアにもう一度国としても投資しようとしていることは正しいわけでして。なのでハードウェアの価値がなくなったというわけではなく、ただハードウェアとソフトウェアのバランスをちゃんと取らなきゃいけないという時に、繰り返しになりますが、ハードウェアに偏り過ぎていたものをソフトウェア側もきちっと理解しようというのを私は提言しています。
そして多くの企業が、どこまでこの本質をわかっているかは若干疑問ではあるんですけども、それに賛同していただき、ソフトウェアファーストということを各社が掛け声として、会社だけじゃなくて業界もですけど(理解)されているという認識ではあります。
ーーそうですね。本当は両方知っておかなきゃいけないんだろうなと。ハードをやる人もソフトを知っていないといけないし、ソフトをやる人もハードのことを知っておかなきゃいけないのかな、と。
及川:これはもしかしたら、後半の「エンジニアとして……」にも重なってくるかもしれないんですけど。今言われたように一個人として両方知らないといけないというのは、ある意味正しいわけですけど、一方でテクノロジーがこれだけ“シンカ”、その“シンカ”というのが進む(進化)というのとあとは深い(深化)という意味を合わせて“シンカ”と言いますが、その“シンカ”した中で、1人の人間がすべての領域を理解することは難しいんですね。
なので、先ほど言ったハードウェアとソフトウェアを両方理解するというのは、組織としてはやるべきであり、その組織の中の人材設計として1人の人間に両方見てもらうようにするか、それともハードウェア専門の人、ソフトウェア専門の人という両方配置しながらそれをうまくオーケストレーションというか、コーディネーションしながらその両方を両輪として使うかは、組織の組織設計であったり人材設計というところ、あとは本人のその志向性というところに関わってくるかなと思います。
ぜんぜん片方しかわからないというのも、おっしゃるとおりちょっとそれはマズイとは思うんですけれども。でもその両方をしっかり知ろうというのは、これは理想ではあります。やれている人もいるんですけど、全員にこれを求めることは難しいところがあるんじゃないかとは思います。
ーーなるほど。今の組織的な話もちょっと出てきたので、それこそ及川さんの会社のTablyさんもそういうところをけっこうやられているのかなと思うのですが。
及川:そうですね。結局は私の会社は、もともとは会社というか個人で独立した時には、技術的なアドバイスをするような、そういったいわゆるアドバイザリーサービスを考えていたんですけれども。でも実際には、技術者にはけっこう優秀な人がいるんですよ。でも技術者を活用しきれないような会社が多く、つまりそれはデジタル事業、プロダクト事業というものをしっかり立案し、それをエグゼキューションしてグロースさせていくということができなかったりするので、ここが私がプロダクトマネージメントをもう1つの柱として進めていた理由なんです。
それと同時に、例えばプロダクトを作る。外部の支援も含みながらできたとして、あとはエンジニアがいたとしても、もしくはエンジニア組織の重要性を理解したとしても、結局人材育成や組織設計というところができない限り、人がいないとやはりプロダクト開発も事業開発もできませんから、その部分が必要ということで。
一時は人材会社みたいに人材育成とか採用とかそういういった組織戦略面のところばかりをお手伝いしていた時期もあるんですけども。人材や組織というところが、会社としても、支援やアドバイザリーサービスの1つになっています。
ーーなるほど。話が少し及川さんの経歴に戻るかもしれないんですけど。及川さんは、やはり海外の企業も経験されて、日本の企業も経験されて、例えば海外と日本の違いは、エンジニアあるいはエンジニア組織とかでやはり明確にあったりするものなんですか?
及川:そうですね。あまり二項対立的なかたちで、白黒はっきりさせるかたちで言いきれないところはあるんですけれども。でもあえて言うと、最近日本でも言われているように、ジョブ型雇用とかメンバーシップ雇用という考え方があります。
海外、少なくとも私がいたMicrosoftやGoogleは特にそうなんですけど、基本的にはこれらの会社は、少なくとも技術職においてはジョブ型雇用で専門職、職能というものを非常に重視するものになっているわけです。
なのでGoogleがそうでしたし、おそらく他のテクノロジー企業、シリコンバレーを中心としたテクノロジー企業もそうだと思うんですけれども、エンジニアは自分から希望しない限りは自分の志向した職能以外に就かされることはなく、例えばソフトウェアエンジニアならばソフトウェアエンジニアとしてのキャリアを志向していくかたちになり、ここの組織で、そのエンジニアの育成を支援する立場であるマネージメント層というのも、当然エンジニアリング経験があり、エンジニアリングがわかる人間であるというところで固められます。
まずは、この職能というところでキャリアを積んでいける。スペシャリスト的なところでキャリアを積んでいけるというところが1つ。あとは、今言ったマネージメントというところに関しても、エンジニアとは別のエンジニアリングマネージメントの、キャリアラダーというんですけど梯子のように上がっていく、昇進、昇格していくキャリアパスですね。
これも基本的には別のものなので、本人が「マネージメントに移りたい」と言わない限り、もしくは組織からの意向や依頼であっても、本人の同意がない限りは、あるレベル以降は全員がマネージメントに行くなんてことはないわけですね。これが基本的に私の知っている米国企業です。
なので整理すると、1つはきちっと専門を活かしたキャリアを考えていけるものになっているのと、マネージメントというのはまた別の専門職という認識なので、マネージメントに行くにも適正や本人の意向というものを尊重した上で、マネージメントに行っていただくかたちになると思っています。
これに対比して、日本企業はもう言うまでもなく、いわゆるその三種の神器と言われていた終身雇用であり、年功序列であり、労使協調でありの3つがあった中で、特に終身雇用と年功序列を極めようとすると、専門職のままキャリアを積むということは、最初からおそらく多くの企業は施行していなかった。
かつその人の人生、社会人人生が30年から今ですと40年近くあるということを考えた時に、その間その職業がいつまでも必要とされているかどうかがわからないという事情があったことを考えると、簡単に言うとスペシャリスト志向ではなくジェネラリスト志向というかたちで本人を育成していくかたちになると。
しかもある一定層以上は専門職もしくは何らかのかたちの専門を持っていたとしても、それプラス全員がやはり管理職、マネージメントになるような、これが典型的な日本におけるキャリアパスだったわけですね。こうなってしまうと、例えばエンジニア1つ取ってみた時にも、どこかで自分はもうマネージメントに移るんだと。要は手を動かさなくなって一人前という考え方が、日本企業では当たり前になっている。
一方、ソフトウェアのテクノロジーが非常に強い、特にシリコンバレーを中心とした米国企業などの諸外国を見てみた場合には、ソフトウェアエンジニアリングを極めていくということでキャリアが成り立ち、繰り返しになりますが、マネージメントはそれとは別の職能であるということをきちっと認識されているところが大きな違いです。
それゆえに、例えばエンジニアとしても自分は技術を一生懸命に極めることが大事なんだと思えるし、それに興味関心を持ち続けられるし、それが評価されるのが諸外国であり、日本はどちらかというと「どうせ自分はいつか手を動かさなくなる。むしろ手を動かさなくなったほうが自分の給料が高くなる。会社からもそれを奨励されているし」みたいなかたちになってしまっているのが、従来までの日本だと。
今は日本企業もジョブ型雇用に移行しつつあり、必ずしも成功はしていないと思いますけど、やはりこういった違いがわかり、米国を中心とした諸外国のやり方が適している領域があるということで、ジョブ型を施行し始めているという認識はしています。
ーーなるほど。ただ、やはりそれは会社側が意識を変えないとダメな感じなんでしょうか?
及川:基本的にはおっしゃるとおりで、これは人事制度なので、人事制度が変わらない限りは無理です。もしその勤めている会社が「あるジョブグレード以上は管理職となってください」ということを言っている限りは、先ほど言った従来型の日本企業なので、どこかで手を動かさなくなるように、もしくは手を動かしてもいいけどそれ以外のいわゆる管理職業務をやらない限りは自分は昇進できないし、給料は上がらない。昇給できないと考えざるを得ないんですね。
その場合、個人としてやれることは2つで、もうその会社に見切りを付けて転職することが1つ。もう1つは会社に掛け合って人事制度を変えていくと。後者はかなり大変ではありますけれども、でも先ほど言ったように今の日本企業もだいぶジョブ型雇用に変えようというような、そういった動きが出てきているので、そういった流れにうまく乗りつつ、個人がそういった問題を抱えている「こうあるべきじゃないか」というのを、できれば同じようなことを考えている同僚とともに人事に掛け合って変えていくことができればいいと思います。
ただこれは先ほど言ったようにそんなに簡単ではなく、できない可能性も十分ある。なのでけっこう乱暴に聞こえるかもしれないけど、私はどんどん会社を辞めちゃえばいいと思っているんです。それで転職していけばいいと思うんですね。
やはりここ10年ぐらいの功罪として、日本企業っていわゆるゾンビ企業が多くなってしまっていて、本来ならば日本経済から撤退しなければいけないところが、国からのさまざまな支援などもあり、生き長らえている会社もあるわけですよ。
そこはちょっと一般論として普通に考えたならば、会社の寿命というのが何十年と言われているので、栄枯盛衰がもっと激しくあるのが正しいわけで、滅びゆく産業であったり、申し訳ないけれどもなくなっていく会社があり、でもそこにいた若い人たちや活躍していた人たちというのがどんどん新しい産業や新しい企業に来ることによって、「社会のダイナミズム」が生まれるわけです。
なのでそれを考えたら、人材の流動性ってあってしかるべきなんですよ。旧態依然としたそういった人事制度しか持っていなく、エンジニアとしての活躍の機会が失われている、成長の機会が失われているというのであれば、会社と心中する必要はないわけですから、そこを辞めて、そういった柔軟な考え方を持っている会社や新しい会社にどんどん移ればいいわけですね。
ですから実際に、例えば私がよく話すのが、米国の『Forbes』の時価総額トップでいくらとなっているところを見ても、30年前や40年前と今とでは、もう様変わりしているわけじゃないですか。例えば私が最初にいたDEC(Digital Equipment Corporation)という会社があるんですけれども。当時IBMに次ぐ世界第2位のコンピューターメーカーで、もうすぐIBMを抜くんじゃないかというぐらい勢いがあったんですね。
ですが、ダウンサイジングの波にのまれ、いろんな事業面での失敗もあり、そのあとコンパックに買収されて、ヒューレット・パッカードに買収されて、今は影もかたちもないわけです。そのDECという会社がなくなったあとも、もしくはなくなる前もどんどん事業売却をして「この会社やばいな」という状況になったりしたならば、優秀な人はどんどん抜けて他の会社に行くんですよ。実際にMicrosoftとかに転職した私もそうですけれども、転職した時の米国本社では、ついこの前まで他の会社で働いていて業界でも有名だった神様みたいなエンジニアがたくさんいて、それがMicrosoftが本格的にエンタープライズに進出するところを支えていたわけですね。
こういうふうにDECからMicrosoft、DECからどこという会社が、こういった人材流動ができたから米国はこういった米国はドットコム、バブルと言っちゃいけないですけどそれを含め、ITの成功を収めたというところがあると思います。
なので、そういうことも考えたならば、どんどん活躍の場があり自分を評価してくれる。成長を促してくれている会社に優秀なエンジニアが移っていくことはもっとやるべきだと、私は思います。
(次回へつづく)
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