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PMキャリア論-成長と退行-(全2記事)

「PMはミニCEOかもしれないが、王様ではない」 “プロダクトの退行”を引き起こさない組織作りと考え方

「プロダクトマネージャーカンファレンス 2022」は、プロダクトマネジメントに携わる人たちが共に学び、切磋琢磨することを目的に開催されるイベントです。ここでエン・ジャパン株式会社の岡田氏が登壇。まずは、プロダクトを成長させる組織作りについて話します。

本セッションの概要

岡田康豊氏:お願いします。じゃあ私から「PMキャリア論-成長と退行-」と題して、話をしたいと思います。

最初に結論を伝えちゃおうかなと思います。(スライドを示して)今日伝えたいことはこちらです。「プロダクトの成長なくしてプロダクトマネージャーの成長はない」ということと、「PMの成長なくしてプロダクトの成長はしない」という、格言みたいな話でちょっと抽象的かもしれないですが、ここについて詳しく話をしていきたいと思っています。

話の中で、PMが独りよがりになってしまうとプロダクトと組織は退行してしまうし、PM自身の目線がプロダクトにちゃんと向いた時、自身のキャリアもちゃんと好転・成長するというところを伝えたいと思っています。

なお中身ですが、8月にFlyleさんのイベントで話した資料があり、それをリバイズしたかたちの内容になっています。

(スライドを示して)合わせてこちらの資料も見てもらえると、より理解が深まるかなと思います。あと私はTwitterのアカウントを持っていて、そちらでも同時実況みたいなかたちで(投稿が)流れているので、よければそちらも見ながらセッションを聞いてもらえると楽しめるんじゃないかなと思います。

岡田氏の自己紹介

はじめに自己紹介です。エン・ジャパンで執行役員とプロダクトマネジメントもやっています、岡田といいます。(スライドを示して)猫ちゃんを2匹載せていますが、MOMOとTAROというのを飼っています。今は(近くに)MOMOがいます。最後にもちょっと紹介しようと思いますが、なるべく騒がないように静かにやろうかなと思っています。

エン・ジャパンですが、実はもう20年以上続いていて。3,000人ぐらいの規模の従業員を抱えていて、550億円ぐらいの売上がある。プロダクトも30ぐらいある大きな会社になってきました。

その中でも私が携わっているのは「engage」というプロダクトで、主にBtoBで企業さま向けに0円から使える採用プラットフォームとして提供しています。

これは文字どおり採用まで0円で使えるプロダクトで、(でも)それだけでは当然収益は得られないので有料のプランもあります。より多くの企業さまに利用いただいている状態です。売り文句みたいなものなので、あとで見ておいてください。

(スライドを示して)求職者はこういったかたちで、地図と一緒に求人を探せるようになっています。「身近なところで働きたい」とか、今のコロナ後の世界においても「近所で働きたい」というものがユーザーの大事なインサイトになってきているので、こんな機能も2022年9月ぐらいに実装しました。

こちらのプロダクトですが、ここ数年で事業規模も拡大してきています。すでに50万社に利用いただいていて、求人数も100万規模あるし、採用数も2021年に比べたら2倍弱ぐらいまで増えている。非常に規模を拡大しているプロダクトになっています。

規模拡大中のプロダクトにおいて伝えたい2つのこと

そういったプロダクトにおいて僕が今日伝えたいのは、最初の答えはこの2つです。まず、PMは自分よりも能力が高い人たちにちゃんと仕事を任せようよというのが1点目。PMがすべて背負う必要はないし、PMが中心である必要もない。あくまでも中心はプロダクトなので、この考え方と行動と組織作りがすごく大事だよねということが1点目です。

もう1点目は、これまでいろいろな情報がネット上にあふれてきていますが、やはりプロダクトマネージャーは「僕にはなれないな」とか「こんな能力をすべて身に付けなきゃいけないんだ」と、けっこう辟易するところもあると思います。

でもそうじゃなくて、スーパーマンを目指す必要はないんじゃないかなと思っています。PMは個々の能力に合わせてキャリアみたいなものを細分化していく必要があり、今はこのフェーズに来ているんじゃないかなと思っています。

プロダクトが大きくなって出てきた3つの問題

まず1点目。「自分よりも能力が高い人たちに仕事を任せようよ」という話を深掘りしていきたいと思っています。私が携わっているengageですが、先ほどお伝えしたとおり、プロダクトがけっこう大きくなってきていて、3つぐらい問題が出てきました。

1つ目は、プロダクトが大きくなっていくと、その成長とともに「1人のPMではちょっと見ることができないよね」という当たり前の状況が生まれてきています。

それとともに、我々は採用の会社をやらせてもらっているので、ありがたいことに新入社員が自分の部署に毎年数十名増えてきています。そこに対して、ポジションや役割を作る必要性が、組織上どうしても出てきてしまったことが2点目。

3点目は、そういった駆け出しのPMにちゃんと育成機会を与えたいんだけれど、これまでの1人PMのミニCEO的な体制でやると、当て込める枠がないんですよ。これは問題だという話になってきていったのが先ほどの答えです。

従来のプロダクトマネジメントのかたちと、変更後のかたち

規模が小さければこういったことは今でも当てはまると思うんですけれど、従来のプロダクトマネジメントのかたちというのは、プロダクトマネージャーがミニCEO的に、僕の言葉では「スーパーマン型PM」と言っているんですが、すべてのことを取り仕切って、すべてのことに対して指示を出す。

これはとても美しいと思うし、僕も小さいプロダクトだったらこうしたいなと思います。でも、規模が大きくなると「ちょっとこれは無理だな」というのが正直なところでした。

(スライドを示して)組織的に取ったのがこのかたちです。三権分立のかたちにしました。PMMの話はSmartHRさんが発表されているので、認知もされてきていると思います。

プロダクトマネージャーとプロダクトマーケティングマネージャーと、BtoBではけっこう大事だと思っていますが、プロダクトオペレーションマネージャーの3つの役割に分けることにしました。

要は、プロダクトマネジメントの仕事からPMMのところに関しては、グロースのところの数字の責任を持ってもらって、事業直結の数字を見てもらう。まずはここを取り外したというところと、あとプロダクトオペレーションに関しては、プロダクトを支えるバックボーンのBtoB業務はいろいろあるので、そこを切り取った。ここはユーザーサポートも含めてVOC(Voice of customer)のデータを基に、しっかりプロダクト提案をしてもらう。この2つをPMから取り外すという決断をしました。

個人的にはある意味自分で決めたことでもありますが、自分たちがプロダクトマネージャーでやってきたことの右手・左手をもがれるみたいな。

自分たちの役割がもがれるみたいに感じた瞬間もありましたが、やはり大事なのはプロダクトの成長であって、プロダクトを成長させなければプロダクトマネージャーの成長もないと思っていたので、あえてこういった機能や役割を分割するという決断をしました。

PMMとPMOそれぞれの役割

(スライドを示して)さらにここを深く見ていくと、プロダクトマーケティングマネージャーのほうはKGI/KPI、グロースのところに責任を持ってもらっているし、メールマーケティングとかカルテなどを使ったWeb接客ツールのマーケティング活動もそうだし、スプリットテストみたいなものも自主的にやってもらっています。

彼らはやはり非常に能力も長けているので、開発を伴わないJavaScriptを用いたフロント画面の改変みたいなものや、ABテストも自主的に高速スピードで回してもらっています。

オペレーションのほうは、こっちもこっちで従来はよく“サイト運用”と呼ばれていた人たちだと思いますが、彼らはTechの能力を持っていてRPA(Robotic Process Automation)とかPythonみたいなものを書けるので、業務の効率化みたいなものも自主的に行ってもらう。あとはユーザーサポートの業務であれば、VOCを活用した提案をしてもらう。

いわゆるQCD(Quality、Cost、Delivery)に対して責任を持って、いかに効率的にプロダクトが回っていくかみたいなところに対して、ちゃんと責任を持ってもらう。これは、これまでのサイト運用と言っていた中から、テクノロジーとかの力をちゃんと持った人たちを当てはめることになって、プロダクトがより成長できるようになったのが大きな視点かなと思っています。

やはり私が注目しているのはプロダクトオペレーションマネージャーで、海外でもUber EatsとかstripeとかNETFLIXでも求人はちゃんと出ているので、普通に認知されている仕事です。

このプロダクトオペレーションマネージャーという存在が、特にBtoB領域のところで、今後とても重要になってくるんじゃないかなと思っています。

ただ業務的にサイトを運用するのではなくて、Techスキルをちゃんと用いた上でのオペレーションの改善活動、行動が取れることがとても大事だと思っています。一般的にはDXみたいな文脈で言われる仕事なのかもしれませんが、そういったテクニカルスキルを持った人たちがプロダクト運営に携わることで、プロダクトマネージャーはロードマップの制定だったりビジョン選定みたいなところだったり、より本質的な業務に目を向けられる。

こういうところが一番大事だと思うので、ある意味、仕事を分割することでプロダクトマネージャーが本来的な仕事に帰ることができた。これが私の思っている、プロダクトマネージャーのあらためての成長なんじゃないかと思っています。

(スライドを示して)ちょっとおまけで伝えると、このプロダクトオペレーションマネージャーみたいなところがとても大事で、社内ではこういった登用基準みたいなものも設けてあります。

ある意味ちゃんとしたVOCの収集、分析をして、PMとか経営幹部に対しての意思決定支援ができるかどうかであったり、QCDを意識したプロダクト運営とか、コストにかかる部分はどれだけ抑えられるのか。よりプロダクトを成長させられるのかみたいなところに責任を持って、今は運営をしてもらっています。

プロダクトを分割して“ミニプロダクト化”を実施

プロダクトマネージャーのラインでもう1つやったのが、プロダクトを分割するということです。“ミニプロダクト化”みたいに言っていますが、すべてのラインに対して1つのPMが全部見るのではなくて、今はユーザーの行動に合わせてプロダクトチームを分けるようなかたちを取っています。

例えば会員登録のスケジュールやKPIを見る人のPMだったり、我々は求人を作るサービスなので、求人作成数を増やすPM。そこに責任を持つPMだったり、それぞれのフィーチャーチームごとに分けて、相互にコミュニケーションをちゃんと取りながら運営をするようなことに挑戦をし始めたということです。

読んだことがある人がいると思いますが、RettyさんがLeSSみたいなところをPRされていますけれど、我々もそこに倣って、今は『大規模スクラム Large-Scale Scrum(LeSS) アジャイルとスクラムを大規模に実装する方法』という本の輪読会を行い、エンジニアとPM全員がこれを読んで、何とかこの大規模なスクラムを完成させようと動き始めたところです。

正直まだよちよち歩きなので、述べられることは我々の力としてはまだないんですけれど。なるべくここをうまく活用しながら内製化チームをドリブンしていきたいなと思っています。

今後発生する可能性のある問題と、その対策

ただ今後、いろいろな問題も起こるだろうなとは思っています。先ほど言っていたミニプロダクト化していくとそれぞれが分割しちゃうので、それぞれでKPI/KGIがバラバラになっちゃうんじゃないか。それをどうやって仕組み化して解決しようかということだったり、あとは経営の方針もあるので、それをどうやってチームに伝えていくかというコミュニケーションの問題とか。

あとはPMMの分割のところでちょっと話しましたが、彼らはしっかりとプロダクトグロースに責任を持ってもらって、フロントの改善、スプリットテストみたいなものをやってくれているので、時々「あれ? なんでここにボタンがあるの?」みたいなかたちで、いろいろなABテストをしていたりするんですよね。

そうすると「プロダクトの世界観はどうやって守ったらいいんだろう」みたいなところがやはり課題には出てきているので、ここはデザイナーと協力しながら「プロダクトマネージャーがちゃんと世界を守る」みたいなところも必要だなと。あとはフィーチャーごとの調整コストみたいなものも課題として出てきそうだなと思っていますが、一つひとつチーム運営をしながら潰していこうかなとは思っています。

「こういう考えになったら絶対に成功しない」アンチパターン

ここで大事なのはやはりアンチパターンで、「こういう考えになったら絶対に成功しないよ」ということがあります。PMはミニCEOだと。これは僕もある意味正しいと思っています。(でも)王様ではないと思うんですよね。

これを勘違いして「自分がすべてやるんだ。これは譲らん」(となる)。これだとダメ。組織として成長しないし、そもそもプロダクトが成長しないと思っています。あくまでもプロダクトマネジメント、プロダクトマネージャーは役割。プロダクトが成長してこそのプロダクトマネージャーなので、ここを勘違いしちゃいけないと思っています。

あとは自分の役割が減ったと思ってやる気を失ってしまう。これはただの子どもみたいなものなので、こういうのは止めましょうという話だったり。あとは、先ほど言ったフィーチャーチームごとに分割されてしまうので、開発ディレクター的な役割に収まってしまうみたいな思考があっても失敗するだろうなと思っています。

経営からの情報とか、何を大事にしてプロダクト化していくのかみたいなところは、自ら取りに行ってチームに伝えるという行動がPMやPOには必要なので、その意識を持つことが必要だと思います。

あとはPMM、PM、POと分かれた時に、自分の領域以外に関心をまったく示さない。これも絶対に失敗するなと思っています。プロダクトは事業として成功させてこそなので、数字にちゃんと責任を持って越境して口を出すべきだなと思います。

(次回に続く)

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