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後悔しないキャリア選択のために私が伝えたい3つのこと(全4記事)

知識、経験、体力、お金はすべてあなたのキャリア資産 後悔しないキャリア選択のために必要な“投資家思考”

技育祭は「技術者を育てる」ことを目的としたエンジニアを目指す学生のための日本最大のオンラインカンファレンスです。ここで登壇したのは、LayerX・代表取締役CTOの松本勇気氏。キャリア選択に後悔しないために必要な考え方について発表しました。全4回。2回目は、「投資家思考」について。前回はこちら。

キャリア選択において必要な「投資家思考」とは?

松本勇気氏:僕はキャリアを歩んでいくにあたって、キャリアというほど考えてきたわけではないんですよ。目の前にあるチャンスをキャッチしていったらこうなっていた、みたいな話でもあるんですが、振り返ると、大切にしてきたポイントが3つあります。

後悔しないために僕が意識しているポイントが3つあります。1つが「投資家思考」、もう1つが「コミュニティ」、もう1つが「最初の10年の使い方」です。これを1つ1つ話しながら、みなさんがこれからキャリアを歩んでいく上での参考になればと思っています。

それぞれいろいろなキーワードが並んでいて、1個1個解説していったほうがいいとは思っているので、最初は投資家思考の話からさせてください。

みなさんの中で株式投資とか、なんらかの投資を意識的にやったことがある方いらっしゃいますかね。投資というのは、やってみなきゃ何を考えなきゃいけないのかが、なかなかわかりにくかったり、ちょっとかじっただけだとただのギャンブルみたいな感覚に陥っちゃったりします。でも、投資家はわりとロジカルにいろいろな物事を整理して考えていると思っていまして、もうちょっとその話をさせてください。

投資において何においてもやはり重要なのは、リスクとリターンという概念だと思っています。「なんでここでキャリアの話でリスク・リターンみたいな話が出てくるんだ」というのがあると思いますが、このリスクとリターンの僕なりの解釈をちょっとお話しさせていただきます。

このリスクというのは、ヤバい事態に陥るとかそういう意味合いではなく、良かろうが悪かろうがズレること。ズレを引き起こす不確実性です。あとは、その影響の大きさ。この2つの掛け算で、自分の思っていたものに対してけっこうなズレが上にも下にも起きる。これがリスクです。

リターンというのは、自分が定義した、自分が何を得ようとしているのかということ。投資だと、これがお金というシンプルな指標があるんですが、一応定義としてリターンというものを用意します。ちなみに、リターンは可能なら定量的にします。あと、積み上がっていく指標とかにするといいと思っています。このリスクとリターンを意識しましょう。

リスク・リターンのトレードオフを意識するのが大事

このリスクとリターンは、基本的に比例するものです。リターンの大きいものは、リスクも大きいです。このリスクとリターンは比例するというのが重要な概念です。実は、このリスクとリターンの比例の関数を決めているのは、みなさんの知識量です。

イメージとして、サイコロは何も考えないと6分の1ずつ面が出ると思うんですが、例えばそのサイコロには微妙な偏りがありました、と。中に重心の偏りがあって、1が出やすいとします。

それを知らなければ、みんな6分の1だと思ってその確率を扱うのですが、知っていると、実はそのズレに従ってこれぐらいの偏りがある(ことがわかる)。それを知っていれば知っているほど、たくさん試行を繰り返している時の勝率がぜんぜん違うわけですよね。この知識があるかどうかで、リスク、影響、ブレの影響が小さくなっていきます。

なので、ある種知れば知るほど着実に儲かる。こう言われるとシンプルですね。したがって、このリスクとリターンはトレードオフ関係にあり「リスク・リターンのトレードオフを意識しましょう」というのが大事です。

まず、これを投資の大前提としてみなさんの頭の中に入れてください。リスク、不確実性があって、得たいものがあって、それらは比例するんだけど、知識量に応じてリスクはリターンに対して比較的小さくなる。これが前提です。

仮説する→振り返る→知識を深めるのPDCAを回していく

この上で大事なのは、知識があればあるほど着実に儲かるんだという話です。ちょっとお金の話になっちゃうんですが、儲かるというのはリターンを得られるということです。なので、リターンを着実に得ていくには、この仮説から学びを得るというサイクルが重要だと僕は思っています。

僕が事業家として投資家的な思考を持って仕事をしている時には、だいたいこんな考え方をしてます。基本、今持っている知識から「こういう仮説がありますよね」、この仮説からこんな行動が導けると(考える)。PDCAともけっこう近い話ですね、仮説を立て、結果を振り返る。そうすると、こういう概念があるよねと、今度は知識が得られます。

「PDCAはぐるぐる回しゃいいんでしょ」となりがちですが、一番大事なのは、知識をどれだけ深めるかです。対象の物事について、投資対象について、どれだけより深く知っているか、学んだかです。

この、「より深く知っている」が重要で、そのためにサイクルを回していって知識を増やします。知識を増やせば、先ほどのリスク・リターンが小さくなっていきます。リスクを小さくしていければ、より精度の高い状況理解ができているということなので、より確度の高い仮説を作って、また行動して、また振り返って。こういうサイクルをぐるぐる回していくと、対象の知識がどんどん増え続ける。ストックされていきます。

ストックされていく知識があると、着実にリターンを得る能力が増していきます。このリスク・リターンを意識する時に、どれだけその物事について知っているんだと考えるわけです。

株式投資をしている方がチャットにいたので株式の話をします。本当に個別株の投資をする時、特定の会社に投資する時は、「みんなはこう思っているんだけど、自分だけが知っているこの知識をベースにすると、もうちょっとこうなるから、こっちのポジションを取ったほうがいいよね」と判断できる。だから儲かると。それと同じで、この探索と学びで知識を増やしていくことが大事です。

「言われたからやる」ではなく、自分で仮説を持ち結果との差分を解釈する

ちなみに、この学習・知識化フェーズでおすすめの具体的なアクションですが、この学習・知識化の時に大事なのは、仮説をまず持っていることです。なんでこれをやろうとしたのか。「言われたからやった」だと、サイクルをぐるぐる回しても「これが起きた」しかわからないんです。

「これが起きた」じゃなくて、「仮説はこうだったが、実際はこうだった。そのズレはなぜ起きたのか」。このズレがすごく重要で、「俺が知っている物事と世の中にちょっとズレがあるぞ」という点で経営上、事業を作るにも大事です。

例えば有名な物理学者も、やはりこういう違和感から気づくわけです。こういう事態が起きた時に、「あれ? みんなはこういうふうに常識的に思っているけど、実は違うんじゃないか」みたいな。これが重要な知識なんです。

なので、その差分を解釈することを意識するのと、このタイミングを決めるのがおすすめです。みなさん開発している中でスクラムを勉強することもあるとは思うのですが、アジャイルとかスクラムはすごく良い枠組みです。

アジャイルとかスクラムの本質、本質というと雑ですが、アジャイルやスクラムも、大事なことは知識を積み上げていくことだと思うんです。あれはスケジュールとかなんだとかありますが、事業というのはお金がなくならない限り終わりません。

終わらない事業という営みの中では、知識を積み重ねていって、そのプロダクトをより着実にコントロールしていくことが重要です。なので、この定期的なサイクルを作ってやっていくといいと思っています。

知識、経験、体力、お金…自分の資産をどう配分して人生で何を得たいのかを考える

この中で会計をされている方は、あまり多くはないと思うのですが、バランスシートとポートフォリオという考え方があります。バランスシートというのは、シンプルに言うと持っている資産とその配分先です。お金に色はないので、これをひとくくりに資産として、「どこから調達した資産だ」「それをどのように配分するんだ」と考える表だと思っています。

実際のバランスシートを見ると、どこに配分しているのかは反対側の、(スライドを示して)左側にくるのですが、図の都合上、このように書いています。

これを自分のキャリアに置き換えて、「今、持っている資産は何があるんだっけ?」とまず考えましょう。そして「それを何に使っているんですかね?」と考えましょう。配分しているということは、なにかに投資しているんですね。

投資するということは「それぞれにどういうリスク・リターンがあるんだろう」と考えなきゃいけないということです。これを合計すると、「今の自分の人生におけるリスク・リターンってなんなの?」が視点として見えてきます。

正直、リスク・リターンをそれぞれそんなに厳密に定義できるわけではなく、感覚でしかありません。ただ、この考えのフレームワークとしてのこのポートフォリオ。どう配分してどういうリターンを得ていくんだという、このリスク・リターンの分析は、ものすごく重要なメタファーだと思っています。

特に自分の人生として考えると、ファジーになりがちな理由がお金以外にもたくさんあります。知識とか、経験とかも僕は重要な資産だと思います。体力も大事ですよね。体力をどう使うかは大事。お金もだし、時間はみんなに平等でめちゃくちゃ重要な資産です。

みなさん、社会人になっていくと、どんどん信用というものを考えなきゃいけなくなってきます。信用という資産は毀損することもあるし、増えることもある。人生というのは、これらを使って、どういうものに投資していくのかだと思っています。

ぶっちゃけ、このポートフォリオの答えはなくて、自分がどうしたいかに合致した配分になっているかを考えることが大事だと思っています。なので、例えば5年後、10年後にこういうリターンを得たいんだとしたら、「こういう投資をしていなきゃいけないよね」という絵をここから逆算して作っていって、「今持っている資産がこうだからこうしてこうぜ」みたいな。そんな考えの順序で、自分の持っている時間、お金、信用、体力、知識、経験を総動員しなきゃいけないよね、ということです。

資料ははぜんぜん秘匿しているものではないので、あとでSpeaker Deckにでも上げておきます。興味がある方は持っていってください。

運用効率を上げるレバレッジの活用

このポートフォリオを考えた上で、さらにみなさんが取れる技として、レバレッジというものがあります。レバレッジとは、投資でいうとお金を借りることですね。お金を借りて、今持っているお金1に対して1のお金を足して2倍の投資をして、リターンを2倍にするという考え方なのですが、これは人生でも活かせる考え方だと思っています。

先ほど自分の持っている資産とはなんぞやという話をしてきましたが、「その資産をどう運用したらいいんだっけ?」という時に、より運用効率を上げていったほうがいいよね、と。

そうすると、お金で時間を買うとか、知識と経験を買うとか、あとは人と一緒に動くことで、より大きなものを成し遂げられる。自分の投資対象に対する投資量、どれだけの資産を使うかというところで、自分が持てる以上のことにチャレンジできるようになるので、このレバレッジはすごく重要です。

すごく具体的に言うと、一番重要なのは信用がベースになっています。例えば「経験を買おう」というのは、信用を使ってより難易度の高い挑戦をさせてほしいということです。何も信用がないのに、なにかすごく難しい事業に挑戦させてよというのは、相当なお人好し企業だと思うんですよね。やはり信用が必要です。

信用があると新しい経験ができるようになったり、今の資産からすると、「ちょっとそこにチャレンジするのはけっこう危ないんじゃね?」みたいなことがあっても、チャレンジできたりします。

また、信用があれば人を引っ張ってこられます。「あなたとだったら一緒に仕事したいです」と人が集まって、より良いチームができる。より良いチームがあれば、またいろいろな知識、経験を積むことができたりします。あとは時間を買うことができますよね。1人でやるよりもいろいろな仕事ができます。

レバレッジをかける時に気をつけたいこと

ほかにも、例えば信用をお金に換えることもできます。借りてくることもあるし、あなたが起業をしてそれで資金調達をする。まさにこの資金調達をするというのも1つの資産を増やす方法です。こうやってみなさんは信用を使っていろいろな物事をより拡大していくことができます。

ほかにも、実際にお金を使ってレバレッジもかけられます。例えば、みなさんのお仕事の一部をアウトソースしちゃうとか、お仕事に時間をあてるためにそれ以外をアウトソースするとかです。

すごくわかりやすいところだと、家の掃除をアウトソースしちゃおうとか。僕は今子育て真っ最中なのですが、けっこういろいろな部分をシッターさんにお願いしてアウトソースしています。これはすごく大事だし、正解を買うことができます。

例えば、エキスパートに業務委託でお願いしたり、プロダクトに課金したりとか。みなさんが開発をする時に有料のプロダクトを使ったり、自分の個人開発やプライベートのために、じゃあCircleCIに課金しようかAWSに課金しようかとなると、そこにはマネージドなサービスがいろいろあって、正解をサッサと知ることができます。

それをやることで、みなさんの知識や経験が早くたまったり、時間を効率化したり、体力を節約したり、そういうレバレッジがかけられます。

もちろんレバレッジには副作用があって、レバレッジをかければかけるほど問題が出た時に爆発します。要は借金しているので返さなきゃいけないんですよね。例えば、より難易度の高い挑戦をしたら、それなりの結果を出さないと、あなたの信用を毀損します。「あなた、嘘つくのね」って。「次、あなたがこんなレバレッジをかけてやりたいと言っても、Noと言いますね」とか、そういうリスクはあります。

背伸びをすればするほどいろいろな問題を引き起こし得るので、諸刃の剣感はあります。でも、自分なりのリスク許容度、これぐらいだったらなんとか正解にできるだろうという方向にレバレッジをかけていくことは、基本的に自分のキャリアをより素早く営んでいく上で重要だと思っています。

自分がやりたい方向を決め、仮説を立て、効率よく投資して資産を拡大していく

「投資家的にキャリアを考える」をまとめてみると、キャリア選択は自分がやりたい方向、仮説を明確にして、そこに効率よく投資して資産を拡大していく活動です。資産を拡大すると、さらにレバレッジも拡大される。そのサイクルを回すことで、より大きなことにチャレンジできるだけの資産を積み上げていくことだと思っています。お金だけではなく、信用、技術力、知識、経験、体力など、いろいろな資産を拡大していく活動です。

こう考えてみるとキャリアとは、楽しいかどうかというシンプルな思考から、もう少し本当に「自分のやりたいことはなんだろう、10年後に何を獲得していると私はより満足しているんだろう」といった思考に至ることができます。

例えば、今持っている資産はこれでいいんですよ。こういう時は自分に正直になったほうがいいです。「30代までに1億円稼ぎたいわ」、これはいいことだと思うので、稼げばいいんですよ。そのために合理的なポートフォリオを組もうということです。アロケーションといいますが、そこに対して自分の資産をちゃんと置いていこう。そして、リターンを獲得していこうと。

例えばそれは、技術力かもしれないし、ポジションをもらえるだけの信用力を得ていくことかもしれない。何を得ていくべきかというリターンを自分の中で明確にして、投資を繰り返していく。そうやって資産を拡大して、時にはレバレッジをかけながらより大きなことにチャレンジして、より人よりも早く成長していく。

こういうことを、僕はキャリア上ずーっと考えてきています。例えば、最初の起業をした頃は、まず一発大きな会社を作ってみようと。そのあとは、おもしろい事業をやり続けたい、おもしろい課題に向き合い続けたいよねというので、よりおもしろい問題でそこで得るべき経験を定義して、そこに自分を投じていくということを繰り返してきています。

ここまで、投資家的にキャリアを考えるということをお話ししてきました。前回はここまでの話で終えていたのですが、実はキャリアを考える上で、さらに重要なこともあるかなと思っているので、この投資家的に自分のキャリアを考えようという話に加えて、「もう少し意識しているよ」ということをお話ししていきたいなと思います。

(次回へつづく)

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