2024.10.10
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藤井創氏(以下、藤井):広木さん自身についてうかがいます。広木さんはCTO協会の理事で、自身もCTOです。特に、つい先日もニュースになっていましたが、朝日新聞デジタルの社外CTOにも就任しました。おめでとうございます(笑)。先ほど、CTOは当たり前になり始めていると話していたと思うのですが、そもそも広木さんがCTOになった理由やきっかけは何だったのでしょうか?
広木大地氏(以下、広木):理由ときっかけでいうと、「『担当してくれ』というタイミングがあったから」以上にはないのですが。僕の場合は、さまざまな理由で技術と経営の間の問題解決をいろいろな会社でやらせてもらっています。技術の情報が強い、経営の観点が強い、その両方があると思うのですが、間に立って翻訳する役割は非常に重要だと思っています。
これはどの分野に関してもそうだと思います。例えば、若い人と年齢を重ねた人の間にある情報ギャップを埋めていくのもそうです。テクノロジーのカルチャーがある部分とビジネスにおいての要求をうまくつなげていくこともそうです。説明しなければならないことや、文化ギャップを埋める仕事は、ストレスフルなわりに報われない部分が多いと思っています。
そういった翻訳役を誰かが買って出ないと組織は良くなりません。CTOであれどんな立場であれ、僕がその立場を引き受けなきゃと思いました。目的を達成して世の中を良くしていくために、間に立ってあるべき状況に向かって導いていく・翻訳していく、そういった考えに近いです。
やはり、互いのことがわからない状態で起こるミスが大きいです。でも、間に立って翻訳することは難しいことなのです。エンジニアが見ている文化と、そうではない人が見ている文化にはギャップがあります。そもそも、ソフトウェアは見えないじゃないですか。ハードウェアは見えるんですよ。
例えば、ビルを建てるとして、完成前にまだぜんぜん建っていなかったら「ぜんぜん建っていないじゃん」と言えます。だけど、ソフトウェアは見えないから、ぜんぜんできていなくても「ぜんぜんできていないじゃん」とならないのです。
見えない分、基礎工事をしなければなりません。上にこういったものも作らないといけない、という状況もあります。見えないことの非対称性が発生している時に、ソフトウェアエンジニアは「このぐらいできているな」と、見えるのです。
見えないものを見えるようにしていく、それが重要です。サービスにしてもソフトウェアにしても、目に見えない性質を翻訳して、経営の目線でも見えるようにしていく、それが必要なのです。そのような役割をやっている感じです。
藤井:CTOとは翻訳者である。エンジニアとその他の部署をつなぐ翻訳者だと思います。では、そのギャップを埋めるために「こういうことをやっていますよ」「こういうことに気をつけています」というものはありますか? そのギャップをどのように埋めればいいのかについて教えてください。
広木:「エンジニア組織はうまくいっているの? いっていないの?」「この人の評価はどうしたいの?」「レベルは高いの? そうじゃないの?」など、良い組織を作ろうと思った時に、評価できないと管理できない、観測できないと改善できない、そういったことがあると思います。その時に、「現状はこうですよ」と可視化することはなかなか難しいです。
例えば最近、DevOps Scoreと呼ばれているものがあります。Four Key Metricsです。2000年代ぐらいまでは、開発の生産性や良さを測ろうと思った時に、「どのくらいコードを書いたの?」「どのぐらいで完成したの?」と見るのが正しそうだと思われていました。
でもそれはあまりうまくいかないというのが、ソフトウェア開発者にずっとあった肌感覚です。それに対して今注目されているのは、開発テンポの良さです。ソフトウェアを作ってリリースして、さらにまたソフトウェアを作ってリリースする。作って外に出すまでの速度が速く、失敗率が低い。つまり、テンポの良い開発がソフトウェアの生産性に転換していくということです。
例えば、自動テストの環境がしっかりしていないとテンポ良く外に出すことはできません。デプロイが失敗してしまう環境でもいけません。ちょっとしたミスが発生した時、修正できるわけではなくて、すごくガン詰めされて始末書を書かなければならない環境だったら、なかなかチャレンジングなことはできません。
プロダクトにおいて「こんなことをやっていくべきだ」ということが、上のほうで止まらずにやるべきことの理想像がちゃんとできていることが重要です。このような部分がつながって初めて高速で仮説検証できる、テンポ良く開発できるわけです。このような状況を作り出している会社は、実は生産性が高く調子が良い。ただ、これはテンポが良ければ良いわけではありません。それは直感的にはわからないことです。
直感的にはたくさん書けているほうがいいし、間に合っているほうがいいです。組織の良さを見ようと思ったら、テンポの良さを見ればいい。たくさんの会社を見ている人や最近のトレンドをしっかり追いかけている人にとっては、「こういうもので測れるんだな」とわかるわけです。
そして、「世の中的にはこうですよ」「他社の事例ではこうですよ」「こういう論文がありますよ」などを経由して他の人に説明します。そういったものをちゃんと理解して、自分たちの組織はどうなんだろうと折り合いを付けていく。生産性へのテーマで言えば、1つにはこのような考え方があります。
藤井:聞けば聞くほどCTOが必要で、今の組織では特に必要だということをすごく感じました。ただ、全部の会社にCTOがいるわけではないと思います。本当に小さい組織であれば、CTOを置かずに作っているところもまだある気がします。
今後、そのようなところにもCTOはいたほうがいいのでしょうか? また、いたほうが良いとわかっていながらも適任者を見つけられない場合、どのように人材を見つけたらいいのでしょうか?
広木:いくつかパターンがあると思っています。今、「小さい会社ではいないと思う」とありましたが、事実としては新しくて小さい会社のほうがCTOはいるんですよ。
藤井:確かに(笑)。
広木:それに対して、古くて大きい会社のほうがいないのです。なので、新しい会社の場合は、たとえ小さくても経営メンバー・創業メンバーとともにエンジニアがいます。エンジニアが技術と経営の間に立って、開発もするし何もするしという何でも屋の要素になっていくと思います。最終的には組織を監督することも含めて、経営としてできることを増やしていく状況になると思うのです。ですから新しい会社には、いそうです。
古い会社にいないのは、創業時にテクノロジーが必須ではない事業だったからです。そのまま必要ないビジネスをしていくのであれば、問題はありません。しかし、今はGAFAMも含めてデジタルディスラプターにいろいろなものが襲われていく時代です。「自分たちはこのままじゃアカンかもな」と思った人たちが、創業の時の気持ちに戻って、「もし、我々が今、創業するとしたら、いったいどんなものを提供するんだ」と考えます。
もともと提供したい意思はあったはずです。創業する時に「こういう問題を解決したい」と考えていたことでしょう。その創業時の意志に基づいて「今、新たに多くの人に届け直すとしたら何を作るの?」と言った時に、どうしてもテクノロジーが関わってきてしまいます。なので、古い会社は自分たちを変えていくために必要だというだけなので、逆に変えなくてもいいぐらいイケイケであれば、CTOはいらないという話なのだと思います。
変化を望む会社がCTOを設置していないと、エンジニアも採用できないし、自分たちにとって必要な技術は作れないと思っているという話でした。
藤井:「CTOを置かないと」と思った企業は「CTOはどこから連れてくればいいの?」と考えます。CTOを置いてエンジニア組織を作るとなれば、CTOをどこから引っ張ってくればいいのだろうと声があがると思うのですが。
広木:よく聞かれます。「いいCTO、いないの?」と。
(一同笑)
まず、経営者が自ら口説きにいけるかどうかは重要でしょう。「誰かいないの?」「採用してこい」などと言っても、ボードメンバーと一緒に組織を変えていくメンバーを簡単に見つけられるかというと、見つけられないじゃないですか。特に、「大きい会社のCTOをやります」と言った時に、もともとITではない会社の人だったら、よくわからないことも含めたたくさんのコミュニケーションをしないといけません。情報のギャップがあるからです。
このギャップがあるより、気の合う仲間と話して仕事するほうが楽は楽です。だから、それほど多くの人にとってやりたい仕事になるかというと、やりたくないと思う人も多いのではないでしょうか。そういった結果だと思います。
(3記事目につづく)
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