2024.10.10
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組織を変革する最初の一歩に躓いたけど、それはそれで良かった話(全1記事)
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岡田謙一朗氏(以下、岡田):よろしくお願いします。発表の練習を何回かしたのですが、時間がけっこうやばかったので急ぎ気味にやります。「組織を変革する最初の一歩に躓いたけど、それはそれで良かった話」というタイトルで発表させてもらいます。
Unipos株式会社の岡田といいます。「Unipos」というプロダクトを作っているエンジニア兼スクラムマスターです。マネージャーもしています。
最初に、今日の目標を述べさせてください。(目標は)組織やチームに新しいアイデアを持ち込む最初の1人に、ちょっとの勇気をお裾分けすることです。ちなみに最初の1人以外の人にも見られるものがあるセッションにしようと思っています。というわけで、今日はアジャイル方面の知識ゼロ、社内の仲間ゼロの状態から最初の1人をスタートした私の活動を振り返って考察した話をしたいと思います。
スクラムを始めたり、なにか技術プラクティスを啓蒙したり、今までと違ったなにかに変えるのは難しいですよね。所属する会社やチームによるところも大きいと思います。こういったカンファレンスで、成功事例を聞くのは私も大好きです。勇気をもらえますよね。私はなにかに変えるためにやり方を導入した実績はあっても、うまく変えることができたという手応えがありませんでした。
どれも表面的に変わっただけで、いずれ形骸化したり元に戻ったりしていたのでカンファレンスでは役に立ちにくいんじゃないかなと考えていました。でも確かに、最初の1人が得られるノウハウはありそうな気がしました。もしかしたら私以外の最初の1人は私と同じぐらいか、それ以上にもっと長く険しい道を歩んでいるんじゃないだろうかと考えています。
なにより、最初の1人が継続して活動を続けられることが大切ですよね。そこで私は、失敗した経験をお伝えできれば最初の1人になにかの気づきを与えることができるんじゃないかと考えました。
今日は現場で泥臭い失敗をした経験を、できるだけ生々しくお話しします。盛大に躓いたのですが、私は何度かの躓きから次はどうしたらいいのかという光明を見出すことができました。今日は「躓きから光明を見出すことができたので、それはそれで良かった」という話です。
みなさんが私の光明からなにか気づきを得て、それぞれの現場で新しい光明を見つける手助けになれば幸いです。なので、あまりテクニカルな知識や理論については話しません。スクラムや組織の話に触れたことがない方にもなるべくわかりやすく噛み砕いて考察します。
(スライドを示して)アウトラインはこんな感じです。失敗ストーリーを紹介して、考察、躓いても歩みを止めないために意識したこと、そのまま歩みを止めずに進んだ結果、数年後どうなったのかという話をします。
それではいきましょう。最初のセクションでは、私の失敗ストーリーを話していきます。あとで考察をするために、私が取り組んだことを順番に、大雑把に伝えることを想定した内容だと思ってください。(スライドを示して)私の失敗ストーリーを年表にしてみました。起きた出来事と私のテンショングラフを重ねています。うねっていますよね。最初の取り組みを始めたのは今から約3年半前でした。
『カンバン仕事術』という本を読んで興奮した私は、カンバンを導入します。チームのリーダーになりたてで、チームのリーダーとして新しいアイデアを持ち込む初めての活動でした。ですが、カンバンは私だけがリードタイムを計測したり保守するばかりで、メンバーが自主的に使うツールにはならず、だんだんと形骸化していきます。
カンバンの導入から3ヶ月後にスクラムの導入にチャレンジします。私は本でスクラムを知ってとても興奮していました。というのも、従来の開発はリリース直前に重要な指摘をもらい納期どおりに終わらなかったり、リリース前のテスト時にバグがたくさんできて納期に間に合わせるために残業パワーでがんばっていたりしたからです。私はスクラムを勉強するうちにチームが不確実性に振り回されていることに気づきます。
私はチームを、納期までに安定したデリバリーができるように変えようとしました。そこで、チーム編成が変わったタイミングでスクラムを始め、いよいよスクラムを導入します。しかしチームメンバーの感触はあまり良くなかったみたいです。私はリーダーに頼らないチームを目指していたので、チームに意思決定を任せることに努めました。
その結果、メンバーからは「リーダーに決めてほしい」と言われてしまいました。私はなるべくメンバーに決めてもらうように、なぜ私が意思決定をしないのかを説明しました。ですが納得してもらえず、(メンバーは)不満を感じていたと思います。
スクラムを実践して半年が過ぎた頃、上司との面談で聞いた話です。私はチームのリリースが遅いことに不満がありそうだと感じました。チームメンバーからの評判も上司越しに聞きました。チームメンバーは「スクラム開発だから開発量が減っている、他チームと比べてうまくいっていないと感じる」そうです。
また、「働くなら私のチームよりも他のチームがいい」と言っているメンバーが数名いることを私は知りました。私のチームに否定的な態度のメンバーもいるそうです。かなりタフなフィードバックを聞きながら、私の話に共感の姿勢を取ってくれない上司に悲しさを感じていました。
チームメンバーと上司の双方から信頼されていないと感じた私の心はかなり弱っていきます。スクラムを1年ぐらい実践した頃、うまくいかない状態が続いていたのでアジャイルコーチを呼ぶことにしましたが、呼ぶにあたり組織からの金銭の支援が必要になったのでトップのメンバー7人に直談判します。話し合いを続けた結果、うまく協力を引き出すことができませんでした。
「呼ぶ前にやれることがある」「アジャイルコーチに組織を変えてもらうと依存するんじゃないか」「もっと上のポジションになってビジョンを描くといいかも」という話を聞くことができましたが、この時、私の心はトップのメンバーを「わかってくれない人たち」と認識していたのかもしれません。
いかがでしたか。私の失敗ストーリーは以上です。次のセクションでは私の失敗を考察していきます。最初にお話ししたように、スクラムを知らない人にも届けることを想定した内容だと思ってください。
メンバーからスクラムに対する反応があったんですが、その時、私は(メンバーの)抵抗を感じていました。抵抗感のある振る舞いの受け止め方を考察します。相手の気持ちに寄り添えていませんでした。これはけっこう大事なことだと考えています。スクラムをやってみたところ、メンバーからの反応はさまざまでした。細かく開発するものを分割するよりも、まとめてやってしまったほうが効率良く作業ができる。今までの(やり方の)ほうがやりやすい。こんな感じです。
これを聞いた時に「分割して1つずつ完成させていきたいのに」とか「やりやすいほうに近付けていくと従来の開発に戻ってしまうので、不確実性の理論が伝わっていないんじゃないか」とか、メンバーからの反応に私の心はざわついていました。
反応がある度に答えを用意して説明します。論理立てて説明できないことがあれば、説明できるように本を読んで勉強しました。カンファレンスにも行きました。私の行動を振り返ると、共感を引き出せない反応やスクラムの理想と異なる態度に対して自分の答えを突き付けています。これではメンバーも不満を感じますよね。
どうして私がメンバーの気持ちに寄り添えなかったのか。私は、メンバーがスクラムの理想と異なる振る舞いをするのは、知識が足りなくて解釈が誤っているからだと反射的に評価して決めつけていました。
例えば、相手と議論をする時に相手の話を聞きながら「相手の言いたいことはこういうことだな」と、頭の中で結論を先回りした経験はないでしょうか?
先回りした結果、相手の言っている論理の間違いを推測したとしましょう。会話を聞きながら間違っていると評価して、「話が終わったら間違いを正すためにこれを言うぞ」という気持ちに支配されたことはないでしょうか。この経験に近い感覚です。今回は自分の気に入らない振る舞いを認識したことで、その理由を先回りしてとっさに評価して決めつけていました。
メンバーの態度は、意識的であれ無意識であれ、不安や問題の捉え方に影響を受けています。スライドの右の図を見てください。私が評価して決めつけるために認識していたのは、メンバーの振る舞いという情報だけです。赤い部分しか認識していませんでした。ですがメンバーの振る舞いはメンバーの問題の捉え方に影響を受けていて、問題の捉え方はメンバーの感じている不安に影響を受けています。
例えば納期に対するプレッシャーがあると、達成できなければ自分は評価されないことから「無能なのではないか」という不安を感じます。そんな不安を持ってメンバーがスクラムの活動を捉えると、アウトカムよりもアウトプットのほうを最大化できないことを問題として捉えます。すると並列で分担して効率良く作業を進めたいという理由から、1つずつ完成させることが難しくなります。
にもかかわらず、私は1つずつ完成できていない振る舞いだけを認知して、それだけを見てスクラムの論理に訴えていました。これでは相手の不安を減らす助けにはなっていません。メンバーが自然とスクラムに沿った行動をするための根本的要因は、振る舞いそのものにはないのかもしれません。ちなみに私がとっさに評価して見つけた振る舞いをしたのは、「スクラムに共感してもらえない」ことや、「自分は無能なんじゃないか」という不安から「問題は相手にある、チームにある」と考えたからです。
私の認知の仕方が原因なのですが、自分に原因があることを客観視できていないので、とても狭い観察結果から直感してとっさの防御反応で心がざわついているのがわかります。このように、自分の適応課題を認識して認知できる範囲が広がるほど、自分の態度や振る舞いがどういった不安や問題の捉え方から現れているのかが説明できます。
次に、抵抗感のある振る舞いに対する私の説明がうまくいかなった理由を考えます。メンバーから共感を得られないことが続くと、だんだんと評価と決めつけが強くなり、気に食わない気持ちが言葉に滲み出てくる感覚がありました。すると強引な介入の傾向が強くなり、相手を敵と認識したり評価したりして、余計に説得に頼るモードに入っていきます。
主張で優劣をつけようとすると、意見が対立した時にうまく解消できません。メンバーの気持ちを無視して対立を強引に解消すると、モチベーションを低下させます。チームメンバーにする私のアプローチは、アジャイルコーチの提案を断った上司の行動と同じであることに気づきました。この説得のアプローチは、権力が支配的であれば人を動かすことができますが、自分より権力が上の人には通用しません。
私のアジャイルコーチの提案は、私より権力も立場も上の人たちへのアプローチだったのでうまくいきませんでした。強引に対立関係を権力で説き伏せるアプローチで共感を引き出すことは難しいです。例えば、チームリーダーである私は、メンバーを説得するために言葉を尽くしましたが、協力してくれたとしても表面上のコミットメントしか引き出すことができず、形骸化していきました。
抵抗感のある振る舞いに対して説得を続けると心が疲れてきて、そもそも介入することが怖くなってきます。今度は逆に、強引な介入をやめてチームに意思決定を任せた結果、「リーダーに決めてほしい」と言われて反発されました。私はリーダーを「意思決定をする役割」だと解釈していたため、チームに意思決定を任せるスクラムマスターとして意思決定をチームに促しました。ところがそれは極端過ぎました。
「当たらず障らず」という言葉がピッタリです。チームの活動に介入することが極端に減っていきます。反発される感じに怯えて、介入することを控えていたのだと思います。スクラムマスターにはチームを健全に保つ役割があり、そのためにリードしなければいけないことがあります。『SCRUMMASTER THE BOOK』には確か、「スクラムマスターはリーダーです」と書かれていたと思います。自分に権限がある以上、どこまで行っても自分がどうしたいのかを主張するしかありませんよね。
このセクション(「躓いても歩みを止めないために意識したこと」)では、考察を受けて、私が歩みを止めないために意識したことをお話しします。
みんな自然な力学で行動しています。観察できる範囲を広げて、メンバーの不安や問題の捉え方に関する情報を得ることができると、評価して決めつけることが減っていき、だんだんと防御反応が落ち着いていきます。例えば、私のアジャイルコーチの提案は断られましたが、トップの人にはチーム運用のプロセスの答えがあったのかもしれません。
アジャイルコーチを呼ぶと組織の考え方を変えられて、自分がヒーローになるということが脅かされる可能性があります。だからトップの人は、自分の答えを試したいがために「アジャイルコーチを呼ぶ前にやることがある」という回答をしたのかもしれません。そのように考えが及ぶと、みんな自然な力学で行動しているように考えられます。
私が相手の立場に興味・関心と共感を示せるようになると、抵抗感のある振る舞いを観察しても心がだんだんと落ち着いていきます。するとチームメンバーからの共感が引き出せなくても相手の話に聞き耳を立てて、興味を持って聞くための心の準備が整います。そうしてやっと説得以外のアプローチを検討できるようになります。
尊重するということは、イマイチなやり方でも任せるということです。私も当然チームを尊重したいし、していると考えていました。しかし、チームのスクラムのやり方や反応が理想と比べて論理的に誤っていることが気になるあまり、チームに自分のやり方を強く押し付けました。やりたいこととやっていることが矛盾しています。
落ち着いて抵抗感のある振る舞いに向き合えるようになると、ようやく尊重することを検討できるようになります。ですが、私はここで悩みました。私が問題を指摘しないと、いつまでもチームは変化できません。チームのパフォーマンスは現状維持です。でもメンバーがやりにくいというのなら、その考えを尊重しないとメンバーのモチベーションは低下します。なので、メンバーの考えを尊重しながらスクラムへの適応を促せるように、私の振る舞いを近付けていきました。
まとめです。抵抗感のある反応を観察した時、評価したり気づかせたりする前に話を聞くこと、理解すること。理解する時は、態度の背景にあるシステムの情報を引き出すこと。メンバーの行動を尊重して、新しいアイデアへの適応も促せるように自分の振る舞いを近付けていくことです。
最初の1人は、選択肢が増えるように失敗しよう。これが今日一番言いたかったことです。相手の振る舞いの背景まで観察できることに気づくと、その情報を引き出すことができます。すると、説得以外のアプローチが選択できるようになります。最初の1人になる人は、組織やチームを変えたことがありません。なので、常に情報が不足した状態からスタートします。
本の知識に頼ると、私みたいに頭でっかちに知識を振りかざすだけのアプローチになってしまうかもしれません。共感が引き出せない時や躓いた時に、その歩みを止めないためにできることは、選択肢が増えるように失敗して情報を増やすことだと思いました。そうすると、会社やチームが違っても、みなさんそれぞれの光明を自分の洞察から見つけて、それぞれの「それはそれで良かった」ストーリーが始まるのだと思います。最初の1人になる人に、早く2人目である仲間が現れることを私は願っています。
最後にちょっとだけ、躓いたあとに見出した光明から少しずつ手応えを得られた話を紹介します。
あの出来事から数年後の話です。1つずつ説明はしませんが、ポジティブな印象が増えてきました。気楽に気負わず歩みを進めてみたら、最初とは違う景色が見えました。
今日の私の躓きからの考察が、みなさんにとっての光明になって、次の歩みのための勇気になればこんなにうれしいことはありません。「組織を変革する最初の一歩に躓いたけど、それはそれで良かった話」でした。ではみなさん、どうか良い旅を。ご清聴ありがとうございました。
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