2024.10.10
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創造的に暮らす未来のデザインとは?_面白法人 カヤック(全1記事)
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中島みき氏:面白法人カヤックの中島と申します。今日は「ゴールを定義しないSMOUTのサービスデザインとは」というタイトルでお話しします。先にお断りしますが、前の(公演の)山林さんと田中さんはデザイナーだと思いますが、私はデザイナーというより事業側の人間なので、サービスデザイン寄りの話をしようと思います。
自己紹介をします。今は、面白法人カヤックのちいき資本主義事業部で事業部長をやっています。大阪に生まれて、家族の転勤の都合などで転々として、いろいろな地域で暮らしてきました。長く広告事業の仕事をしていますが、売れる仕組み作りの「仕掛け」という言葉が好きで、売れる仕掛け作りみたいなことをいろいろな会社でやっていました。「PayPay」の立ち上げにも少し関わっています。
カヤックにジョインしてからここ3年は、今日紹介する「SMOUT」というサービスの事業責任者のほか、「まちのコイン」という地域通貨(コミュニティ通貨)の運営もやっています。
そんな経歴の私が、なぜ地域の事業に関わり始めたのか。長くマーケティングの仕事をしていましたが、ある意味、1種類の仕事しかしていませんでした。40歳になる前に、このままでいいのかと思ったんです。マーケティングの「広告×何々」というものが私にはなくて、掛ける何かを探すために、いろいろなおもしろい人に付き合って、いろいろなところを旅していたら、いろいろな地域に行くきっかけが生まれました。
ちょうどヤフーにいた時、自分の持っている環境やこれまでの経験が活きるところがありそうだ、もしくは、逆にイチから学ばせてもらえそうだと思うことがすごくたくさんあって、いろいろなものを全部「やーめた」と言って、カヤックにジョインしたという背景があります。そういう意味でいうと、私も地域でたくさん学ばせてもらっているし、人生観や価値観も大きく変えてもらった。そんな関係にあると思います。
今日は「SMOUT」というサービスをメインにお話しします。(スライドを指して)SMOUTというサービスは、こういうWebサイトで、2018年の6月からサービスが始まっています。「移住スカウトサービス」という名前がついていますが、たくさんの情報が掲載されているので一度見てもらえるとうれしいです。
今は760くらいの自治体の情報が掲載されています。この一つひとつを私たちはプロジェクトと呼んでいて、現在も募集中のプロジェクト以外の過去に終わったプロジェクトも1つの地域の個性として掲載しており、それらが5,500もあります。今、登録・利用してくれている方は3万3,000人です。もちろん登録しなくても利用できるので、毎月たくさんの方に見てもらっていて、地域の人たちとのつながりが生まれています。
私たちのこのサービスはシンプルに言うと、地域に行きたい人と地域に来てほしい人をSMOUT上でマッチングしています。このプロジェクトを見て、知って、連絡を取り合う、もしくは逆に、いわゆる都市部のユーザーが登録してくれているので、そのプロフィールを覗いてスカウトに行くようなこともたくさん起こっています。そこで人同士が知り合っていく、そんなサービスをやっています。
このサービスを立ち上げる時に、けっこういろんなことを考えて、今でもいろいろ考えていますが、どんな課題があったのかを先にお話しします。ぶっちゃけた話もするので、さっと流してもらってもいいかもしれません。
私はやはり「地域の定説」と言われるものが課題だと思っています。定説を覆したりなにかを変えたりするからこそ、私たちが行く価値があるんじゃないかと思っています。
例えば移住の関係で言うと、地域の魅力の発掘や発信など自分たちのことを外の人にお任せしているんですよね。書いてもらったり、きれいに見せてもらったり、自分たちのことなのに全部外の人に任せてしまっている。ほかの例だと、自治体が「移住したら100万円あげます」とか言っている。私は正直「100万円をもらってもなあ」と思います。そんなお金で釣られるような話だっけ? ということとか。
人口がすごく減少しているのに移住・定住と言われると、都市部のユーザーは「死ぬまでそこにいなきゃいけないのか。怖くて移住・定住なんかできない」と思うかもしれません。
今日のタイトルでもありますが、地方創生や人口減少に伴う地域の担い手不足という言葉は、東京でなんの不自由もなく暮らしている人たちにあまり共感されません。お国の人がよくそういう言葉を使いますが、そう言われてもあまりピンと来ない。
長野県とか北海道とか四国の地域とか、みんながパッと思いつく有名な地域もありますが、「そこはあなたにとって本当に幸せな場所ですか? そうとは限らないんじゃないですか?」とすごく思っていました。
これだけ並べても地方移住にはミスマッチの予感しかしませんが、SMOUTはこれを変えていこうとしてきました。ただし、まだ途中なのですべてが解決しているわけではないことをご承知おきください。
どんなことをやってきたのかを、これからいくつかお話しします。このあたりからサービスデザインっぽい話だと思って聞いてもらえるとうれしいです。先ほどの(登録・利用している)約3万人の人の中には、都市部のユーザーと地域のユーザーの2種類がいますが、IDを分けないことにしています。
先ほどの「移住したらもうその場所に骨を埋めてください」ということではないと思っているので、例えば私が福井県の鯖江市に移住したとしても、もしかしたらまた違う町に行きたくなるかもしれない。もしくは東京に戻りたくなるかもしれない。都市部のユーザーがいつか地域ユーザーになって今度は発信する側になったり、またどこかの地域ユーザーもしくは都市部のユーザーに戻ったりすることが自由にあってもいいのではないかということで、まずはポリシーとしてサイトのIDを分けない構成にしています。これは本当に根幹の部分、魂や志の部分だと思っています。
もう1つは、私たちカヤックの経営理念にもある、「地域のつくる人を増やす」ということ。SMOUTにもそれがすごく息づいていて、地域のつくる人を増やそうとしています。最初の課題にあった、外部に任せがちだった状況からどんどん自分たちで作っていく。SMOUTのWebサイトの管理画面から投稿する時にスライドのような書き方ガイドとか、良い例・悪い例、こうしたほうがいいというTipsが書かれているので、それになぞって、もしくはほかの人たちが作ったものをなぞりながら作ってもらいます。
先ほど5,500のプロジェクトがあるとお伝えしましたが、すべて地域の人たちが書いています。私たちは一切手出しをしていません。最初はみなさん「そんな時間も能力もない」と言いますが、Webサイト上でガイドに従ったり、ほかの方の情報を聞いたりする内に、できるようになるんです。
やってみて一番すごいと思ったのは、ユーザーの反応を見て「今度はこうやって作っていこう」「こういうふうに書いてみよう」「これがよかったから、今度も使ってみよう」「写真の使い方はこうしよう」と考えるようになることと、地域の人たちがより地域のことをじっくり考えるきっかけにもなったことです。
なので、「地域のつくる人をふやす」ことは、とても大事だと思います。
もう1つは、先ほど死ぬまで移住しなきゃいけないのかという話をしましたが、それ以外に、そもそもそんなに移住したくないけれど地域に関わりたいという人も大勢いるんですよね。
人口減少のさなか、最近国では「関係人口」という言葉を使っています。2拠点に居住する人や副業で関わる人、企業の出張で関わるような人も薄い関係人口かもしれませんが、いろいろな地域との関わり方があると思っています。
SMOUTは移住をゴールにしていないので、働く、住むという情報ばかりではなく、体験するという情報、もしくはただ情報を発信するというプロジェクトも積極的に出してもらっています。「地方って何なんだろう?」と思っている人たちが突然移住の情報を見ても、「これじゃないな」と思うかもしれませんが、SMOUTは大丈夫です。
見てもらって、「地域ってこういう人たちが集まっているんだ」「こんな暮らし方なんだ」「こんな出来事があって、みんなこういう事業をプロジェクトでがんばっているんだ」と、書いている方の個性や熱意のようなものに少しでも心が揺さぶられたら、あなたはたぶん「興味ある」ボタンを押してしまうと思います。
「興味ある」ボタンを押してもらうことで、地域の方々とのコミュニケーションのステップが築かれていく。私たちは、なるべく地域の人たちと都市部の人たちがコミュニケーションをする場を作っていきたいと思っていて、そのためには一歩目のハードルをぐっと下げて、いろいろな種類の情報を掲載することを重要視しています。
冒頭の話に戻ると、移住をゴールとせず、ゴールを定義していないサービスです。逆にパッと見た時にわかりにくさもありますが、あえてそこをトレードオフして、その人たちの価値観やタイミングでつながり合えるような場所を作っています。
先ほどは、人の話をしましたが、もう1つとても大事にしていることに「人を知って地域を知る」があります。課題に「有名な地域があなたの幸せな地域とは限らない」と書きましたが、まさにそうなんです。
私は、福井県の鯖江市の関係人口です。鯖江という町を最初はほとんど知りませんでしたが、ある人がきっかけでつながり合って、「今、鯖江の関係人口です」といろいろなところで言っています。人を知ることで鯖江を知って、鯖江を知ることでまた違う人を知って、人をトリガーとすることがすごく多いです。
現にこれまでも、SMOUTでいろいろなつながりが生まれていますが、「なぜあなたはその地域に移住したんですか? なぜその地域に関わるようになったんですか?」と聞くと、かなりのポーションで「誰々さんがいたから」「誰々さんの話を聞いて、自分もそこでやっていけそうな気がしたから」と回答があります。つまり人との出会いがその人の背中を押すきっかけになるのだと思います。
私たちはスライドに表示されているように、中には違うところもありますが、なるべく人の顔と名前を出してもらっています。自治体によっては「リスクがあるので顔は出せません」と言う方もいますが、なるべく出したほうがいいとお伝えしています。これを出すか出さないかで、まったく効果が違うからです。
例えば、神奈川県鎌倉市とだけ書いてあるところに個人的な相談なんかできませんよね。こういう人が聞いてくれているからこれを相談しようとなるので、やはり顔が見える関係は、Web上やオンライン上でもとても大事だと思います。
今私たちは自治体の人たちに、いかに個人の顔を出せるようになっていけるかを、いろいろなデータを基にお話ししているところです。
ここから先は、「人を知ってもらいたい」をベースに最近始めたことについてお話しします。
今、特集ページで「まちのリーダーからのラブレター」という企画をやっています。(スライドを示して)先ほどのスライドには、移住や関係人口の担当者や民間の方のお名前が出ていますが、自治体の首長がプロジェクトを上げてくれてもいいのではないかと思って、いくつかの自治体の首長、町長、市長に出てもらっています。
ただ、みなさんのご想像どおり、普通に町長や市長に「書いてください」と言ってもピンと来るものが上がってこないと思ったので(苦笑)、私たちが用意した質問にぜひ答えてくださいと言いました。(スライドを指して)私たちが考えた、個性が引き出されるであろう9つの質問に答えたものを提出してもらいます。
おもしろいものを挙げてみると、例えば「最後の晩餐に食べたいものを教えてください。」には「大福もち、豆大福」「妻の炊きたてのご飯と卵焼き」「カツカレーが大好きだから、胃もたれしたままあの世へ行きたい」。
これを聞いただけでも、その首長もしくはその町に興味を持つでしょう。私たちがサービスの中の質問というかたちでいろいろな方が持っている情報を引き出すことで、もともと持っていたけれど出せていなかったものが出てくるようになる。同じ質問をしても、これだけ町の個性が出る。すごくシンプルですが、とてもおもしろい事例だと思っています。
この「子どもが都会に行きたいと言ったら何と言いますか。」も、すごくいいことがたくさん書いてあります。「行くなら行ってこい。ただし漠然と過ごすんじゃない」。だいたい子どもは漠然と過ごしているんじゃないかと思いますが、それを「漠然と過ごすんじゃない」と言う、この町長と一度話してみたいと思うのではないでしょうか。
つまり、町長や市長のようなお堅い方も、このプラットフォームに乗っかることで個性が出てくるし、より人というものを感じられるようになるのではないか。それによって人と人の価値観がつながるのではないかと思います。
最後のスライドで、今日のテーマの「地方創生×デザイン」について私が考えていることをお話しします。
私たちは、移住はゴールではなく関わり方もタイミングもそれぞれだと思っています。結局、地方創生は地域、人、お金、例えば労働力なんかも含めて、関わりにいくということが地方創生の根幹なんだろうと。そして、1人でも多くの人に行ってもらったり、関わってもらったりする際、それぞれの価値観がものすごく重要な軸になってくると考えています。
私たちの移住スカウトサービスは、一応わかりやすく「移住」という言葉を使っていますが関係人口など、いわゆる地域の情報を扱っています。1種類のゴールにしてしまうとそれしか認められない、それしか許容されなくなってしまうので、地方創生こそ価値観にどれくらい寄り添えるかということなのではないかと思っています。私たちは価値観をとても重要視しているし、その結果、自分ごと化されやすくなって、地域に関わり合っていく。もしくは連絡を取ってつながりが増えることにつながっていくと思います。
Webサイト上でゴールを定義しないのは、UI設計上とても難しいと思っています。私たちがユーザーインタビューをすると、何ができるサイトかわからないという回答が大量に返ってきますが、その一方、ものすごくゴールを明確にしてしまうことで、私たちが維持しておきたい、必ず守っておきたいところがなくなってしまうかもしれないので、どういう設計にすればよいか、どうすればわかりやすく自分ごと化しやすいWeb設計になるのか、Web UIになるのかを、今はまだやりながら考えている状態です。
いずれにしても自分ごと化しやすくすることの重要性が、「地方創生×デザイン」のキーなのではないかと考えています。今はこのように考えている途中なので、聞いている方の中に「こんな方法あるよ」「こんなやり方あるよ」「なんだったら手伝ってやるよ」という方がいたら、つながり合えたらうれしいと思います。以上です。ありがとうございました。
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