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BtoCにおけるPdMの活躍(全1記事)

あなたの価値は製品が成功したかどうかでは決まらない メンバーを鼓舞し、チームのベストを引き出すPdMの意義

​⽇本と世界のプロダクト開発をつなぎ、⽇本のソフトウェアプロダクトをグローバルで通じる⽔準へ引き上げることを⽬指し、設立された「日本CPO協会」。「Adobe XD」の創立メンバーにエンジニアとして参画し、その後PM(PdM)となったElaine Chao氏が自身の取り組みについて話しました。

「Adobe XD」のシニアプロダクトマネージャー

Ken Wakamatsu氏(以下、Wakamatsu):CPO協会のイベントにご参加いただきありがとうございます。簡単に自己紹介をお願いします。

Elaine Chao氏(以下、Chao):エレイン・チャオと申します。アドビでシニアプロダクトマネージャーをしています。

Wakamatsu:アドビを知っている人は多いと思いますが、アドビと担当するプロダクトについて教えてください。

Chao:アドビは多国籍企業です。「Photoshop」など、誰もが私たちの偉大なクリエイティブソフトウェアを知っていますが、扱っているものは「Creative Cloud」だけではありません。ドキュメント事業も行っており、中でもPDFはとても有名です。

あまり知られていないのはデジタルエクスペリエンスの分野です。そこでは分析とマーケティングキャンペーンの効果の測定を行っています。

全体としてアドビが扱う領域は多岐にわたります。私が取り組んでいるのは、ユーザーエクスペリエンスとユーザーインターフェイスの設計です。「Adobe XD」という新しいプロダクトです。

Wakamatsu:XDについて、もう少し詳しく教えてください。

Chao:XDでは共同作業でやり取りを繰り返しながら、アイデアをかたちに落とし込むことができます。携帯電話や冷蔵庫、スマートゴミ箱など、形態に関わらず、自らが考えたデジタルエクスペリエンスを迅速にデザインしてプロトタイプを作り、アイデアを試すことができます。また、チームでの共同作業を可能にするのもXDが提供する幅広いエクスペリエンスの1つです。

自分のエクスペリエンスをWebサイトやスマートゴミ箱に実装するためには開発者、顧客、関係者など、導入に関わるあらゆる人とのコラボレーションが必要です。

実は私はAdobe XDの創業メンバーの1人です。エンジニアとして参加できたのは本当に幸運でした。今はXDのプロダクトマネージャーとしてコラボレーションに携わっています。

先ほど、人と人とのコラボレーションについてお話しましたが、私が注力しているのはクラウド上でデザイナーと一緒に働く領域です。全インフラチームと協力して、クラウドドキュメントや共同編集などの経験をXDの世界に持ち込んでいます。

プロダクトマネジメントにおける強みと課題

Wakamatsu:プロダクトマネジメントにおける、アドビの企業理念やチームカルチャーについて教えてください。

プロダクトのアイデアや開発方法の多くがエンジニアリング主導の企業もあれば、プロダクトやプロダクトマーケティング主導の企業もあると思います。あなたのチームはどうでしょうか?

Chao:プロダクトの開発において、アドビは変革の最中にあると言えます。Adobe XDのPM(PdM)、デザイン、エンジニアリング、プロダクトマーケティングは非常に深いパートナーシップを築いていて、誰もが意見することができます。プロダクトマネジメントはこれらの情報を集約して、ユーザーの声を確認する役割を担っています。

Wakamatsu:アドビのような成熟した企業が、まったく新しい領域に進出して新しいプロダクトを作るには多くの課題があると思います。その経験について教えてください。

Chao:私はアドビで本当にさまざまな1.0プロダクトに携わってきました。その中で、XDは一番新しいというだけです。

これまでは、多くが最先端の技術を追求するというパターンでした。新しいプロダクトを作るという意味では、既存の会社には強みも課題もあると思います。

一方、アドビのように大きなポートフォリオを持っていると、新製品に投資することができます。自分の会社に投資資本があるので、数年間の開発に取り組む30人の人材を投資するのは簡単です。大企業であれば、より多くのリソースを投入して、この目標をより早く達成することができますし、そのようなリソースをたくさん持っています。

同時に、多くのレガシーにも対処しなければなりません。Creative Cloud全体のエコシステムの構築を例にしても、PhotoshopやIllustratorは25年前、30年前のコードベースが使われています。InDesignも同じです。何十年も使い続けてくれているユーザーは、これらのプロダクトを知り尽くしています。新商品を出すと市場に摩擦が生じ、その新商品にも影響を及ぼします。

私たちが成長を加速させることができるのは、多くの投資と優秀な人材がいるからです。一方で、彼らは自分の仕事が最終的には大きなエコシステムの一部になることを知っている、つまり摩擦が生じることを知っているという難しさもあります。ただそれは、大きなエコシステムを持つ大企業で働くことの強みでもあると思います。

何をなぜ優先するのかを常に協議している

Wakamatsu:そのイノベーションとプラットフォームのバランスはどう取っていますか?

Chao:イノベーションとプラットフォームは常に慎重にバランスを取るようにしています。何を優先するのか、なぜそれを優先するのかを常に協議しています。

この分野を担当するプロダクトマネージャーの中には、本当に難しい選択を迫られる人もいます。例えば15プロダクトで何百人月もかかる機能をいつリリースさせるのか。あるいは対照的に、たった1つの小さな新アプリケーションにどのように反映させるのか。バランスを取ることが大切です。

複数の組織にまたがって広い視野を持つ人材がいるのは助かります。Creative Cloud全体を把握しているCPOのスコット・ベルスキーも、私たちが頼りにしている一元化された技術を統括するCTOも、アドビのビジネス全体にとって何が重要なのかを全員で共有できています。

Wakamatsu:XDに関して、そのアイデアがどのようにして生まれたのかを教えてください。個人的にとても興味があります。

Chao:プロダクトとしてスタートする前は小さなプロトタイプチームで、プロダクトマネージャー、エンジニア数名、デザイナー数名が一緒に取り組んでいました。デザインとプロトタイピングを同じ面で行うと、どんな感じになるのかを考えました。

今、UXやUIを見ると、すべてのプロダクトにはデザインとプロトタイプの両方があります。しかし当時のこの業界は、どんどん細分化がされており、あるプロダクトでデザインしたものを別のプロダクトに移して、それをまた別のサービスにアップロードする。そしてそれを何度も繰り返さなければならないという状況でした。

当時のプロダクトマネージャーが、この体験全体をひとまとめにすることがアドビにとってチャンスになると考えました。会社が製品としての投資を決定するまでに、多くのイテレーションと顧客訪問を行いました。製品化するタイミングで私も加わり、他の多くのチームメンバーとともにこのインフラの構築を始めて、スケールするプロダクトとして作り上げました。

その領域で競合がいる=人々がそこになにかを求めている良いシグナル

Wakamatsu:アドビで新製品を始める時は、新製品に取り組む専門のチームがあるのでしょうか? それとも(Googleのような)「20パーセントルール」があるのでしょうか?

Chao:それは時代とともに変化しています。チームの中にはスカンクワークス的なプロジェクトをやろうとする人もいます。VP(vice president)にアイデアを売り込んで、少しの間、資金を提供してもらう人もいます。イノベーションを起こすにはさまざまな方法があります。

プロダクトの内部にもイノベーションがあります。例えばPhotoshopのような既存のプロダクトの場合、イノベーションはどのように起こるのでしょうか。先日リリースされたニューラルフィルターのような機能はどうでしょうか。その仕組みはどうなっているのでしょうか。

人々が自分のアイデアを実現するためのさまざまな機会があります。例えば、年に1~2回会社公認で設けられている「ガレージウィーク」では、エンジニアは1週間好きなことに取り組めます。「すべての開発がストップしてもOK、GO!」という感じです。最後にアイデアを発表するちょっとしたコンテストがあります。発表するのは新機能のアイデアかもしれないし、彼らが持っているコンセプトかもしれませんが、中にはプロダクトになったものもあります。

Wakamatsu:新しい1.0プロダクトを作る際、プロダクトマーケットフィットの観点からはどのように取り組んでいるのでしょうか。どのようなことをしているのかを教えてもらえますか?

Chao:まず、コンセプトを提示して、しばらくユーザーに使ってもらった時のフィードバックの確認をします。ビジネスアイデアを試すという意味では1つ、おもしろいことを学びました。コンサルタントに来てもらい、リーンビジネスの実践について教えてもらっています。どのようにテストを行い、どのように人々から情報を得るのか、人々が何を望んでいるのか。すべてのエンジニアが理解するのに役立ちました。

私たちは、その領域で競争がある場合、それは人々がそこになにかを求めているという良いシグナルだと学びました。もしその領域で競合がいなければ、誰も買いたいと思わないという強いシグナルです。私たちはそれを常にチェックしています。常に評価と聞き取りを繰り返し、多くの会話を交わしています。

リサーチ文化は社内で成熟している

Wakamatsu:XDは毎月リリースされているので忙しいでしょうね。

Chao:ええ、とても忙しいです。プロダクトマネージャー、マネージャー、ディレクターを数えると、15〜20人になると思います。つまりこのプロダクトにはたくさんの人、たくさんのプロダクトマネージャーが関わっています。そして常になにかが動いています。これだけ多くのチームがリリースに向けて動いていると、特定のタイミングで公開できるものが常にあります。

また、当初から毎月リリースを行いたいと考えていたので、そのためのインフラやプロセスを構築しました。誰もがそれぞれリリースに向けて取り組んでいる機能を担当しています。中にはAdobe Maxのようなメジャーリリース日を狙った大きな機能もあります。また、準備が整った時点で公開されるものもあります。その結果、年間を通じてお客さまに価値を提供できるのです。

Wakamatsu:私が初めてリサーチやデザイン、プランニングに関わったのはアドビでした。年々変わってきていると思います。その過程を少し説明してもらえますか?

Chao:リサーチは複数のレベルで行われていて、実際にアドビでは成熟しています。デザイン担当のVPを中心としたデザイン組織があり、プロダクトチームに多くの人が組み込まれています。デザインパートナーもいます。私はXDに特化したデザイン組織全体と協働しています。

ほかにも、デザイン組織の一部としてリサーチ組織の構築も行っています。デザインリサーチャーたちの多くはなんらかの社会科学の博士号を持っています。「この文化はこうだ」という民族学的な面の研究もしています。今日話した男性は、言語学のバックグラウンドを持っていました。彼は人々が作られた用語をどのように理解するかを研究しています。おもしろいですよね。なぜアドビでリサーチを行っているのかもわかりますよね。彼は今、私たちのために製品用語をテストしてくれています。

リサーチのやり方ですが、PMも、プロダクトマーケティングの人間もリサーチを行います。私たちは常にプロダクトの中で成長実験を行っています。

結局のところ、プロダクトの学習に役立つ研究をどのように集約するかということになります。リサーチには定性もあれば定量もありますが、そのすべてがなんらかのかたちでロードマップに影響を与えます。

Wakamatsu:今でもユーザーリサーチのために現場に行くことはありますか?

Chao:今はパンデミックの時代なので、そういうことはあまりしていません。しかし、お客さまとのつながりを大切にすることは私たちにとって重要です。2018年、2019年は少なくとも全員1回は顧客訪問に行ったと思います。

特定の都市でアドビのイベントを開催する、「クリエイティブ・ジャム」(Adobe College Creative Jam)も行いました。その一環として、その街の中小企業から大企業まで6~10件のお客さまを訪問して話をしました。コラボレーションを重視している私にとって、さまざまなチームがどのように連携しているかを知ることができたのは良かったです。

PMの永遠の課題「タイムマネジメント」にどう向き合っているのか?

Wakamatsu:対面でユーザーリサーチを行う場合、どのようなチームがお客さまを訪問するのでしょうか?

Chao:戦略的ビジネス開発を行う、start devという組織が大企業のお客さまとの提携を行っています。そこにはデザイナーとPMがいて、できる限りエンジニアも同席します。営業経由のコンタクトであれば営業担当がいる場合もありますし、つながりを作ってくれたコミュニティチームの誰かがいることもあります。

私たちが訪問する企業すべてがアドビの既存顧客ではありませんが、私はアドビのエコシステムの外で人々が何をしているのかを聞くのが好きなので、素晴らしいことだと思っています。通常は3~5人のチームでお客さまを訪問しています。

Wakamatsu:どうやってみんなをまとめていますか?

Chao:どう進化してきたかを考えるとおもしろいです。一元化されたCreative Cloudのプロダクトチームがいて、彼らは実際にこれらの多くを推進してきました。私は仕事の一部で、XDのクラウドエコシステムに関する取り組みを行っていて、実際私も評議会に参加しています。評議会にはクラウドでなにかを持っている、あるいは持つ予定のすべてのPMが参加しています。

週に1度のミーティングでさまざまなトピックを取り上げて、互いの学びを共有しています。私たちはSlackチャンネルで常に話し合って解決しています。

Wakamatsu:週や月に、多くのミーティングがあることは容易に想像できます。さまざまな優先事項とスプリントチームとの間で、どのようにタイムマネジメントを行っているのですか?

Chao:それはPMの永遠の課題ですよね(笑)。私は複数のプロジェクトに関わっているので自分自身をどのようにスケールアップさせるかを学んでいるところです。委任するにしても、一括して行うにしても、人をまとめるにしても、3~5つのスクラムチームをカバーするイニシアチブに取り組むにしてもです。

一つひとつのスクラムチームとミーティングをする代わりに、それらのリーダーたちとのミーティングをオフィスアワーに設けています。どのエンジニアも週に1回、チームリーダーや主任研究員が参加するリーダーシップミーティングがあり、取り組んでいるイニシアチブについて話します。

私は小さなホワイトボードに私がやらなくてはいけないことを書き出しています。ここが今週取り組む優先事項トップ3~5で、ここが現在進行中の案件で、次の休みはここです。毎週スクリーンショットを送っていて、毎週月曜日にそれを確認して編集しています。なにかを完成させるとホワイトボードから消して、その写真を送ります。

毎週月曜日、彼らは「エレインの最優先事項」を知っています。私の仕事がこのリストに載っていなかったとしてもです。特別なものはすべて主要なイニシアチブのトップに置かれます。チームのコミュニケーションと期待値の設定がその大部分を占めます。

自分だけが結果を出すことがプロダクトマネージャーの仕事ではない

Wakamatsu:予定していた質問を終えました。他に伝えたいことはありますか?

Chao:日本ではプロダクトに関わる女性が少ないと聞きました。私の場合、プロダクトに携わることは恐怖心との戦いでした。私はエンジニアになったばかりの頃、18ヶ月サイクルで仕事をしていました。PMがいてもプロジェクトは失敗する時もあります。するとそのPMは解雇あるいはレイオフ、または退職していました。

そのような不確実性は、私に大きな恐怖を与えました。私は良い仕事をしなければ職を失うかもしれないという、そんなストレスフルな状況では生きていけません。

業界もPMへの期待も時代とともに変わってきていると思います。私はPMになってから4年半ほど経ちますが、私の評価は私の成功でも、私の担当するプロダクトが市場で成功したかどうかでもありません。私が評価されるのは、私がどのような価値をもたらしているのか、どんな明快さをもたらしているのか、どんなストーリーを語っているのか、どんな影響を与えているのかです。

持続可能な方法でチームをどのようにリードしているのか、見識を備えているのか、どうすれば他の人のベストを引き出すことができるのか、一緒に働くPMたちをどのように鼓舞するのか。このようにさまざまな尺度で捉えることで、私自身の成功につながっていると感じています。自分だけが結果を出すことが私の仕事ではないからです。

多くの企業でもそのように考え方が変わってきています。製品が売れるか売れないかであなたの成功が決まるわけではありません。あなたがプロダクトマネージャーとしてもたらす他のすべての価値で決まるのです。安心感を求めている人たちは未だにたくさんいて、そういう人たちの励みになればうれしいです。私は今でもそのようなニーズを持っています。

私は個人的な安心感、経済的な安心感を大切にしています。心の安全も大切です。これらはプロダクトマネジメントがリスクを伴うものなのかを考える上で必要な要素です。特に女性にとってはそれが悩みの種だと思います。

業界が変化しているということを伝えたいです。あなたが見ている職場がそのような方法であなたをサポートしてくれるかどうか、そしてより革新的なプロダクトマネジメントを実施しているのか。あるいは20年前のプロダクトマネジメントなのかを見極めるべきです。

Wakamatsu:お時間をいただきありがとうございます。知識や経験を共有いただき、ありがとうございます。お話に共感する人は多いと思います。そして、より多くの方にプロダクトマネジメントに興味を持ってもらえればと思います。

Chao:お招きいただき、ありがとうございます。

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