2024.10.10
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藤井善隆氏(以下、藤井):『SCRUMMASTER THE BOOK』で、スクラムマスターのキャリアみたいなのがちょっと最初に示されたなぁっていう気がしたんですよね。
あの本が出る前は、スクラムマスターのキャリアはけっこうふんわりしていたなぁと思っていて。やはりあの本を読んで僕も「結局、名前ではなくてやっていることに注目するといいんだろうなぁ」みたいに思いました。
僕も何個かのチームのスクラムマスターをやっている中で、このチームへの接し方って、どんな分野でも絶対通用するやろうなぁという肌感はあるんです。
今はソフトウェア開発の現場でスクラムという名前のものを取り入れて、やっていることはティーチング、コーチング、ファシリテーションなんだけど、ソフトウェア開発の部分から自分が退いて、今度はぜんぜん違う分野でなにかしらの生産をしているところに関わるとすれば、ある程度は導入していけるだろうなという肌感がなんとなくあったんですよ。その肌感を言語化したのがあの本やなという気がちょっとしましたね。
粕谷大輔氏(以下、粕谷):うんうん。確かに。やはり名前がついたり、言葉で定義してもらって初めて気づくことがあると思っていて。それまでは、スクラムマスターになったら、この後10年ずっとスクラムマスターをやっているのかなとか、もっとそういうことを考えちゃっていた気がします。
粕谷:ほかにも、エンジニアリングマネージャーとかも最近名前がついて、随分と自分の立ち位置を説明しやすくなりました。エンジニアリングマネージャーと言われていなかった頃と、結局やっていることはなにも変わっていないんですが、とはいえ「自分の仕事ってなんだろう?」とちょっとフワフワしちゃうんですよね。
それがエンジニアリングマネージャーという名前がついたことによって、「あ、自分の仕事はこういう名前がつく仕事なんだ」と足元が固まるというか。スクラムマスターもわりとそういうのがあるのかもしれないですね。
藤井:うん。
粕谷:遠藤さんは、先ほどあまりキャリアのことを考えていないとおっしゃっていましたが、10年後自分がどうなっていたいとかありますか?
遠藤良氏(以下、遠藤):組織全体に対してワークショップをやったり、そういうコラボレーションを生む場の仕掛け人みたいなことができていたら、今の自分のWillとしてはおもしろいのかなぁと思っていますね。
粕谷:うんうん。
遠藤:ちょうど今も開発以外に、カスタマーサクセスのチームのふりかえりで毎月ワークショップをやったり、全社の集まりみたいなところでワークショップをやったりしていて。
そういう活動の延長線上に自分の価値というか、ソフトウェア開発以外のところでの価値を出していくというところで拡げていけるんじゃないのかなぁと思っています。まさに先ほど出てきたスクラムマスターのレベルの場の広いところ。やはりそっちに近づいていくんだなぁとなんとなく思いますね。
粕谷:なるほど。
藤井:うん。
粕谷:そういう延長線だと、わりと40歳や50歳になってもまぁまぁ仕事ができていそうな気もするなと、ちょっと思いました。僕も10年後は50歳を過ぎているんですよね。プロダクトやSaaSの業界のエンジニア出身で、50歳を過ぎている人のロールモデルってあまりなくて、正直想像もつかないんですけど。
でも、今の自分のスキルをどんどん拡張していけば、食いっぱぐれはせんやろうみたいな謎の感覚はちょっとあったりします。
遠藤:わかります。
藤井:ふんふん。
遠藤:本当に、「ソフトウェア開発のスクラムチームのスクラムマスターだけをずっとやっていました」だと、経験の幅は拡がるけれども……みたいなところがあるとは思っていて。
やはり「セールスチームのチームビルディングもやっていました」みたいな経験を今のうちに積めているのはメチャメチャおいしいと思っているんですよ。「ソフトウェア以外のチームビルディングもやっていました」と言える状態になるので。
なので、自分の今の軸足の回りで少しずつ実際の業務経験を積みながら、スクラムマスターとしての輪を拡げていければ、なにかしらやっていけるんじゃないかなぁという、謎の自信ですね。
粕谷:メッチャわかります。やはり組織に対する貢献度って、どれだけ影響力の面積が広いかがあると思っていて、そういうふうに拡げていくといいのかなと思いますね。
遠藤:あとはそういう貢献を評価してくれる組織にきちんと(身を)置くのは大切かなと思いますね。
粕谷:うんうん。
藤井:確かに。
粕谷:チャットで質問をいただきました。2つ新しいのがあるかな? 「スクラムマスターについて、プロダクトオーナーもやってみようと思いますか?」
ロールがぜんぜん違うので、やってみたいなと思うことはあるけれど、スクラムマスターのキャリアの延長としてプロダクトオーナーをやってみようという感じはないですね。経験として1回ぐらいはやっておいたほうがいいかなとか、自分の得意なプロダクトの領域だったらやれるのかなと思う。
プロダクトオーナーとスクラムマスターの仕事はぜんぜん違うんですよね。
遠藤:そうですね。プロダクトオーナーはできないなぁ(笑)。
粕谷:僕はやはり開発者チームとか人間関係とか、そういうところに興味があって、プロダクトにメッチャ興味があるかというと、今はわりとそうじゃないんですよね。POってプロダクトに興味がないと務まらないので。
遠藤:うん。あとはビジネスセンスがある程度必要。
粕谷:そうそう。
遠藤:ビジネスセンスというか、決断する力とか、自分を信じる力がある程度いるかなぁと思っていて。
藤井:うんうん。
粕谷:プロダクトに対して軸が必要ですよね。そこを持てるかどうかなんですが、今僕はあまりピンときていない。逆に藤井さんはすごいですよね。
藤井:僕は、すべてのものはI/Oと、処理だと思っているので。
粕谷:あはははは(笑)、エンジニアっぽいことを言い出した。
藤井:人もプロダクトもソフトウェア開発も、全部そうだと思うんですね。それを向ける対象が違うだけで、結局I/Oだけを考えれば、中はある程度想像つくよなという感覚なんですよ(笑)。
粕谷:なるほど。
藤井:なので、スクラムマスターはたぶん見る対象が人なだけで、その人がどういうアウトプットをしてくるのか、どういうインプットを受け取っているのかを観察して、どういうオブジェクトなのかなと考えて、関連を引いて、コーディネートしていくんだと思うんです。プロダクトもそうだし、エンジニアをやっている時もそうなので、僕は別にどこでも一緒なんじゃないかなと思います(笑)。
粕谷:なるほど。逆にどこでも一緒って感じもあるのか。
藤井:うん。結局関数の話をしているんじゃないの? っていう。
粕谷:なるほどね(笑)。関数か。おもしろいな。
藤井:決断する時も、基本はアウトプットを見て自分で処理して、相手にどういうインプットを出すのかを考えるだけなんかなぁ、みたいな。そこはけっこう変数が多いので、複雑なんだとは思いますけどね。でもまぁ、スクラムをやっているということは、基本的に複雑系に対応していくので、それは一緒かなぁと。
別に場所は変わっても、やっていることはおそらくものを一人ひとりみんなで作り上げて、価値を得て報酬を得るという、そういう仕組みの中の一部なのかなという気はします。
粕谷:なるほど、ありがとうございます。
粕谷:もう1つ質問を紹介しますね。「『うちの会社ではある程度出世してからじゃないとスクラムマスターはできないよ』と言われたのですが、実際のところ新卒入社2、3年目ではスクラムマスターは務まらないでしょうか」。
これは難しいなぁ。僕は難しい、無理じゃないかなとちょっと思っちゃいます。やはりある程度の経験がないとやれない仕事かなと、僕は思いますね。遠藤さんはどうですか?
遠藤:僕も見たことがないし、経験したこともないので想像で話しますが、1回トライはしてみてもいいかなぁとは思いますね。スクラムマスターというロールをもらって、そこで真剣に向き合うことで見えてくるチームの世界観とか、そこからさらにエンジニアに戻ったとしても持っていける経験はあると思っています。
チームがそれを受容できるなら、やってみてもいいんじゃないのかなと思っています。ただ、チームも、作るベロシティも安定していないし、作るのもままならないというスクラムチームでいきなりスクラムマスターをやるのは難しくてできない。
粕谷:確かに。それってチームの状態によるかもしれないですね。ある程度スクラムチームとして成熟しているチームでジュニアな人が「ちょっとチャレンジしてみます」だったらたぶんできると思いますが、「これからスクラムを導入します、なにもわかりません」というチームだと絶対無理だし。
やはりある程度「こういうチームであるべきだ」というゴールイメージがスクラムマスターの中にないとたぶん無理で、新卒2、3年目だと理想の開発チームがどういったものなのかがわからないと思うので、理想の開発チームがすでにある状態でスクラムマスターはできるけど、それがない状態でそこに持っていくには経験が必要な気がしますね。
遠藤:チーム内外の力学もある程度把握しながらサポートをしていかないといけないところもるので、アジャイルコーチについてもらってちょっとトライするとかだったらぜんぜんアリかなとは思いますね。
いきなり本を読みながらみたいな感じだと、僕は茨の道じゃないかなと正直思ってしまう(笑)。
粕谷:そうですよねぇ。ふりかえりでみんなが話している内容もたぶん2、3年目だとわからないこともあるんじゃないかなと思うので、なかなか難しそう。
遠藤:もしかしたらその方にすごくコーチングの適性があって、覚醒をすることもぜんぜんあるとは思いますが。
藤井:そうですね。でもふりかえりの内容って、コーチングだけではないですもんね。たまにティーチングの内容も入ってくると思うので、そういう時にティーチングができるかも問われるだろうし。
粕谷:でも僕、ソフトウェア開発でいくと20年ぐらいの経験があってスクラムマスターをやっていて、このスキルは応用力があると思っているけど、じゃあ自分がぜんぜん知らない業界、それこそソフトウェアじゃない業界でスクラムマスターをやれるかというと、けっこうムズい気がしていて。
スクラムマスターとしてやってきた経験値もあるので、なにもできないわけではないかもしれないですけど、例えば製造業とかで「スクラムマスターっぽいことをやってくれ」と言われたら、やはり経験がないと難しいんじゃないかなってちょっと思います。遠藤さん、どうですか?
遠藤:他業種でのスクラムマスターとか、そういった振る舞いってことですよね。
粕谷:そうそう、他業種。
遠藤:十数年いるソフトウェア業界だとある程度信頼してもらえそうな関係性からスタートできるかなと思いますが、それがないところでとなるとなかなか難しい……信頼を作るところから徐々に始めていくんだろうなぁとは思いますね。
粕谷:信頼、そっか。それでいくと、スクラムマスターとしての汎用的なスキル部分に信頼してもらえるんだったらなんとかなるのか。
遠藤:うん、なるのかなぁ。
粕谷:なるのかもしれないですねぇ。
藤井:でも『スクラムガイド』の中では、スクラムでやる3つのロールとして、開発者とスクラムマスターとプロダクトオーナーがあって、スクラムマスターとプロダクトオーナー2人に、開発者が本来すべきことを寄せているというか(笑)、抽出してその部分だけをやってくれって言って専門性を出している感じで捉えているんですね。
基本的には全員でやらないといけないのですが、全員でやっていると開発に集中できないよねって。なので「この部分とこの部分だけ2人でやって」と言って、この1人の人に任せるみたいな、そのパターンの違う方向のものが2つ適応されていると思うんですね。
粕谷:犠牲者パターンとフェーズですね。
藤井:はい、そうです。犠牲者パターンやったかな。そうだとしたら、新米スクラムマスターの人は、それだけ1人に任せられるのかというのがたぶん問題なんだと。チームとしてやるべきことの中で、その人に犠牲になってもらうということなので、その人が1人で完結できないんやったら意味ないですよね。パターンがはまらない。
遠藤:あぁ、なるほど。
粕谷:なるほどなるほど。
藤井:なので、できるんやったらできるんじゃないですか(笑)。チームとしてもそのチームの全員でやらないといけないことの中の、スクラムマスターに役割としてやってほしいと思うことを担当できるんだったら、できる。
粕谷:なるほど。
藤井:そもそもチームもヒヨコだったら無理じゃないかなという気はするんですね。ソフトウェア開発の中の、プロダクト開発におけるみんなでやろうとしていることを、誰でもできますよという状態の中から1人犠牲になるかたちで引っ張り出すと思うから。と、ちょっと思いました。
粕谷:わかってきました。質問の答えとしては、チームが成熟した状態だったら任せてみてもいいかもね、とかそんな感じですかね。
粕谷:けっこういいお時間になってきました。あと1トピックぐらい話して今日はおしまいにしようか。
遠藤さん、メッチャ無茶振りしますが「よし、これは話しておきたい」とかあったりしますか?
遠藤:僕は情シスのロールもやっていて、ツールの導入とかをやったりしているんですが、スクラムマスターって、すごくチームや人に向き合わないといけないじゃないですか。それって基本的にはコントロールできないものじゃないですか。でもそこばかりに向き合い続けているとすごく疲れるなという。
藤井:うふふふふ(笑)。
粕谷:なるほど。ほうほう。
遠藤:情シスって逆にいろいろなものをコントロールしていくべきロールじゃないですか。
藤井:そうですね。
遠藤:なので、そこのバランスはすごく自分の中で取っているなぁと最近思いました。
粕谷:へぇー!
藤井:おもしろいですね。
粕谷:なるほどね。ふだんなかなか自分で整理ができないものをたくさん扱うので、ここは自分が整理できるものだけを集めた仕事を。
遠藤:そうですね。今日はここのツールのアカウントの権限をきちんと整理した、みたいな。
スクラムマスターとしては、そんなに短期的にメンバーをコントロールしたいとか思っているわけではなくて、漢方薬のように長期的な役割をしていきたいなと思っていて。人に向き合う、チームに向き合う、不確実なものに向き合う、コントロールできないようなものに向き合うって、やはりムチャクチャつらいので、専任とはいえ、ちょっとそういうバランスを取る役割を持っているほうが、僕は心がヘルシーにいけるのかなぁと思っています。
藤井:なるほどー。
粕谷:あぁー、確かに。
遠藤:それこそアンチパターンとしては、チームの仕事を取るとなるとスクラムマスターと開発チーム兼任みたいな感じになっちゃうので、ぜんぜんチームと関係ないところで兼任するのがいいんじゃないかなぁって思うんです。
粕谷:へぇ、いいことを聞いた。なるほど。確かにこう、スクラムマスターをやっていると気持ち的に消耗しやすい仕事もありますよね。ありがとうございます。
粕谷:そろそろいい時間になりましたが、最後に遠藤さんからなにか告知事項があれば。いい機会なのでお知らせとかありますか?
遠藤:LAPRASでは、エンジニアを大募集しております。LAPRASのリクルートサイトも新しくなったので、ぜひLAPRASの会社のサイトからリクルートサイトを見てください。
あと、LAPRASは今までスコアが中心だったんですが、入力してもらった職務経歴書からワードを抜き出して、マップ形式でその人のスキルを可視化するみたいなのを始めたので。
粕谷:へぇ!
藤井:へぇー。
遠藤:ちょっとおもしろいと思うので、「最近LAPRASにログインしていないなぁ」という方はぜひログインしてもらえるとうれしいです。よろしくお願いします。
粕谷:弊社もすごく便利に使っています。また明日から僕もスクラムマスター採用に活用しようっと(笑)。
遠藤:よろしくお願いしまーす(笑)。
粕谷:ありがとうございます。僕からも今日のイベントのアンケートをみなさんにいただきたいと思っています。僕らもだんだんネタが切れてきたので、こういうテーマを扱ってほしいとかあればぜひ。あと今日の感想もアンケートでいただければと思います。
あと私たちChatworkもスクラムマスター採用をがんばっています。いきなり採用とかハードルが高いなという場合はカジュアル面談も受け付けているので、興味をお持ちの方はぜひご応募いただければと思います。
では今日は遠藤さん、どうもありがとうございました。
遠藤:いえいえ。こちらこそありがとうございました。
粕谷:では、スクラムBar、今日は閉店にしようと思います。
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