2024.10.10
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村井純氏(以下、村井):そのインチキの話で思い出したんだけど、この機会にちょっと。
Sun (Stanford University Network)Microsystemsというものを作ったビル・ジョイ(Sun Microsystems社 共同創業者)は俺の友だちで4.2BSDにTCP/IP入れるぞと言った張本人なんだよね。
ビルと俺は同学年で仲がよくて、修士も一緒で、ドクターも同じ時に取ろうねと言っていたんだけど、結局彼はサン(Sun Microsystems社)を作ったので、ドロップアウトしちゃったんだよね。ドクターよりもシリコンバレーのベンチャーの第1号みたいなのを選んだ。だから「CEOを雇うんだけどさ、一緒にインタビューしてくれない?」と言われるくらい、あのガレージ時代から付き合いがあるんだよね。
それで、「Sun-1」っていう最初のサンのワークステーションができたんだけど、とんでもなく動かないんだよ、もうボロいわけ。4.2BSDをなんとか入れた、いわばワークステーションの最初の作品だよね。
それでこれを、最初のInteropに出して、ビルが「純、これ」って言って、初め4つに割れるスクリーンが。ビットマップとして。その時、「おお、ちゃんと動いているね、これ。よかったね」って俺がリターンを押したら、パッと「触るなよ!」と。バチンと落っこっちゃうわけ。つまりボロい。
非常にボロいものをInteropに出していて、「それに手を出すなよ」とか言われてケンカになったことがあるんだよ。
でもね、それが何を育てたかというと、ジョージ・ルーカスなんだよね。『スター・ウォーズ』の2作目の5の時に大量にサンの製品を買うんだよ。最後のタイトルのところに出てくるコンピューターは全部サンのやつだから。バークレー校のやつ。
それが楽しくて、スター・ウォーズの2作目を見にいく。友だちの名前が全部出ているから。
田中邦裕氏(以下、田中):かっこいい。
村井:すごく熱心に使ってくれたの。それで、実はサンって立ち上がったんだよ。
なんでジョージ・ルーカス、つまりルーカスフィルムが、あの未開発のボロい、それこそインチキなワークステーションを使いこなそうとしたかというと、やはりルーカスも、当時SFに関してけっこうハイブリッドに撮っていたんだよね。物理的なレールに乗せてやるとかさ。コンピューターグラフィックスではそこまでできなかったから、円谷英二みたいにぶら下げていたんだよね。
何が言いたかったかというと、ルーカスは目をつぶって、ボロくてもいい、つまり触ると壊れるものを使って『スター・ウォーズ』を作ったんだよ。
それでエンジニアはすごく元気が出たんだよ。だから、何て言うんだろう、エンジェル(投資家)みたいなもんなんだけど、投資をするんじゃなくて、おもしろいものを作ろうとしているやつを信じていた。
多少たぶんオーバーヘッドもあるし、ルーカスは、お金を出して買った高いコンピューターでもスター・ウォーズの2作目を作れたと思うんだよ。その時は、そいつらをエンカレッジするつもりもあったんだと思うけど、そうやってサンは立ち上がったんだよ。そうすると、やはりこういうのは必要なんだよ。
だから今、「未踏」の財団が、なんかインチキだけどおもしろそうなことをやっているから、力をつけてやろうかとやり始めていて、今日の理事会でも「ここから先をどこまで広げるかね?」みたいな議論をしていると思います。IPAもさくらもそういうことができるのかもしれないけど、なんかあれは印象的な歴史だったな。
登大遊氏(以下、登):スター・ウォーズの話はすばらしいと思いました。だいぶインチキな感じで、最初にボロのやつがバッとスター・ウォーズのエピソード5『帝国の逆襲』で使われた。
村井:あれがサンが世の中にデビューするきっかけになったんだよね。
あの時、USENIX(USENIX協会)なんて酷かった。俺の発表がこの部屋であって、隣でスニークプレビューみたいに、ルーカスのやつらが、いかにUNIXを使ってこういうシステムを作ったかをチラ見せしているんだよ、デススターがぶっ壊れるところとか。
田中:すごいすごい。
村井:隣の部屋から「うおーっ!」って声が聞こえるから、俺の部屋からだんだん客が減っていくんだよ。隣の部屋にみんな行っちゃって(笑)。けっこう楽しい時でした。
登:有名になったものの裏側は、実はこんなふうなんやでと秘密をちょっと見せるのはすごく意味がある。
村井:そうだよ。このセッションの前にSUNSET CELLARSをやっていたじゃん。
田中:ああ、やっていましたね。
村井:SUNSET CELLARSってすごいんだよ。俺も実は2ツタを(葡萄のツタ)買っているんだけど。
田中:私も1ツタ買っていますね。
村井:ナパ・ヴァレーに行って、ワインセラー行くじゃん。ずるいんだよね。地元の小さなワインセラーが、ワインクラブに入っていて、つまりアメリカ特有のサブスクモデルだよね。
セールスやマーケティングをやらなくても、一定数のボトルが必ず出るから、ずっと地味に作り続けられる。ずるいのはなぜかというと、アメリカに住んでいないとクラブに入れない縛りがあるから。これをSUNSET CELLARSは解決してくれたんだよね。
田中:そうですね、僕は3ヶ月に一度、3本届きます。
村井:僕、6本。
田中:6本、2口だから。
村井:しかもコンテナのパッキングも上手にやって、日本で九百何十円の送料で、このクラブに入れるようにしたのが彼らなの。
ワイン仲間はシリコンバレーにもいっぱいいて、バークレーのやつらもUNIX作っていたやつらもみんななぜかワインクレイジーなんだけど、俺たちも含めて、そういう人たちがSUNSET CELLARSを支えているのは、おもしろいし、このブレイクスルーよくやったよって思う。そういう感覚をルーカスも持っていたのかもしれないね。
田中:本当に好きでやっていて、それを応援する人がいて、それを買いたいと思う人がいる。最近、プロセスエコノミーという言葉が流行っているらしいですね。単に商品化だけじゃなくて、その背景に何があったのか。
なので、単にテレワークシステムができましたよ、ではなくて、こんなにおもしろいことをいろいろやってるんだぜという、ストーリーが重なるからこそ、やはり話に重厚感が出るんだと思うんですよね。
村井:VPNを作りまくっている登さんは、ある意味、敵もきっといるんだよね。VPNをやっていると、トラッキングしながら穴を埋めていくネットワークを国全体で運営している国もあるわけだし。このトラッキングをしたい職業やセグメントもあるわけだし。
そういう人には、犯罪幇助ツールじゃないけれど、そういうふうに捉えられる。まあ金子(金子勇氏)の「Winny」もそうだよね。
テクノロジーっていろいろな使い方ができる。これがおもしろいからと夢中になっている時に、バチンってやられちゃう。俺たちもパブロフの犬みたいなところがあるから、おもしろいことをやろうと言っているとバチンといじめられる、バチンと切られるが繰り返されると、おもしろいことをやる前に身を引いちゃう。
田中:それって、もしかして社会全体のことなんじゃないですかね。
村井:そうそう。これもパブリックで言うことじゃないかもしれないけど、社会を動かすようなソフトウェアを作っていく時に、さっきのルーカスみたいな応援するという仕組みもできると思うんだけど、一方では、それがなにか悪いことになるんじゃないかと、リスクに対するところに集中して芽を摘んじゃうということもやはり起こっている。
そういう意味で、俺はソフトウェアの開発で裁判が起こると証人として呼ばれるんだよね。
田中:ああ、なるほど。
村井:「このソフトウェアは、こうやって開発しなきゃいけないから、これは犯罪の幇助じゃありませんよ」みたいな、幇助じゃないという側の証人。
田中:コインハイブとかそうでしたよね。
村井:だから、とにかく芽を摘むなということは、社会全体で考えたほうがいいかもね。
田中:それで言うと、登さんの資料の最後のほうに、ゼロリスクとメッチャやりたい放題ではないところに、1つのポイントがあるんじゃないのとありました。ああ、これだ。
登:日本のインターネットの発展も、村井先生たちが絶妙なリスクコントロールを無意識でやっていた結果なんじゃないかと自分たちは思います。
国の規制もいろいろあったんだと思います。NTTの民営化前とか、民営化後も電気通信事業法とか。WIDEは、制約をかけてくる方々に対して突破する力を持っている半面、実は裏ではよく根回しをされていて、合意形成をしていた。
だからといって、最初から合意しているわけじゃなく、学術的な感じとよく似ていて、2つの相反する考えを議論してぶつけ合うという考えは絶対に消さないという、そういう精神が混ざっているんじゃないかと自分たちは思います。それはすごく高度で、事なかれ主義でスムーズにやるよりも、実は大変難しいことなんじゃないかと思います。
(次回へつづく)
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