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リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したこと(全2記事)

ユーザベースが直面した「ユーザーの顔が見えない問題」 平野友規氏がリサーチ文化を埋め込むために実践したこと

「​​RESEARCH Conference」は、リサーチをテーマとした日本発のカンファレンスです。より良いサービスづくりの土壌を育むために、デザインリサーチやUXリサーチの実践知を共有し、リサーチの価値や可能性を広く伝えることを目的としています。ここで登壇したのは、株式会社ユーザベース コーポレート執行役員・CDOの平野友規氏。リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したことを発表しました。全2回。前半は、入社当時の課題と、その解決のために取り組んだボトムアップとトップダウンについて。

今回のテーマは「リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したこと」

平野友規氏(以下、平野):みなさんこんにちは、平野です。本日は、「リサーチ文化を組織に埋め込むために実践したこと」をみなさんとシェアできたらなと思います。お願いします。

というわけで、今回はこういう題目ですが、あくまでも僕が見てきた解釈の話なので、もしかしたら事実としては違う解釈をする方もいるかなと思います。僕の見てきた景色をシェアできたらなと思います。

結論として、今プロダクトマネジメント組織が立ち上がっています。これは、僕が全部1人でやったのではありません。外的要因やトップダウンの意思決定の影響もある中で、どういうふうにリサーチが埋め込まれていったのかをお話しできればなと思います。

自己紹介ですね。僕にはデザインとリサーチの師匠がいて、須永先生(須永剛司氏)という方がいます。この本はおもしろいので、よろしければみなさん読んでみてください。

僕のリサーチは、やはり須永先生がベースになっています。今回の「RESEARCH Conference」はSTARTがテーマだったので、マイリサーチスタートはどこだったのかなというところでお話ししますと……2014年に論文を書きまして、これが僕がリサーチを明確に意識したスタートだったなと思っています。

僕は今、ユーザベースという会社に所属しています。SaaSのプロダクトを専門に扱うデザイン組織の組織長をしています。こういうデザイン組織の組織ビジョンでやっています。

今までのリサーチ事例

「平野さん、いったいリサーチで何をやってきたの?」というのが、たぶんあまり外部に出ていないので、簡単に紹介したいと思います。

(スライドを示して)婚活アプリのこういうのをやっていたり、ユーザーリサーチをしながらRICOH Future Houseのストーリーを考えたり。三菱重工業のDX推進のリサーチですね。これは富士通の公共サービスのリサーチですね。これはカシオの新規事業プロダクトのリサーチですね。こういうこともやっていました。

僕はデンマークに1年ほど行っていて、その縁で木浦さん(木浦幹雄氏)とも知り合っています。この英語でやったインタビューが、本当に人生で一番きつかったインタビューですね。こんなジャーニーを書いて、こういう作品を作っていました(笑)。

あと、リサーチとかデザインシンキングのツールを自分でまとめたりもしています。(スライドを示して)こういうのをやったり、デザインシンキングのワークショップを作ったり。ほかには、大学院に行って、佐賀大の看護師の方々と一緒に、看護コミュニティのリサーチをして、こういうことをやりました。

分析ですね。僕はスプレッドシート派であまり付箋を使った分析はしないので、こんなふうにまとめたり。インサイトとしていろいろなものが出てきたので、それを絵にまとめて修了制作にした感じです。

これはちょっと宣伝になりますが、今オンラインなのでアレですが、「D.TOKYO」でBtoBのUIデザインコースをやっていて、もうすぐ第2期が始まります。今はオンラインでも、リサーチをその中に組み込んで、「Figma」「FigJam」とかでやっています。

デザイナーは新しい可能性を照らす道具になれる

大変お待たせしました。自己紹介は以上で、「リサーチ文化を組織に埋め込むためには?」。主題ですね。

結論、「デザイナーはすでにある組織文化(リソース)に光を当てる。そして、ドメインマスターを特定し、その人がリサーチ責任者となる」というところですね。

インデックスは、こんな感じになっています。今日はこの5つでいきたいと思います。

1番ですね、「すでにあるリソースに光を当てる」。これは、『Rehearsing the Future』というデンマークの在外研究に行った時に出会った本ですが、ここにこんな一文があります。

「魔法のような日常に感謝しましょう! 新しい可能性は、すでにそこに、利活用できる資源として存在しています。でも、それを見つけるには、新しい光で探す必要があるんです」。

僕はこれを再解釈して、デザイナーは新しい可能性を照らす道具になれると思っています。パートナーにデザイナーが道具として組むことで、新しいリソースを探していく、可能性を見つけにいけると考えています。

ユーザーの顔が見えないという問題を抱えていた

今日は、2019年から2022年にどういうことが起きたのかを話していこうかなと思っています。

まず2019年、僕が入社したタイミングはこんな感じで、僕も右も左もよくわかっていませんでした。1つ覚えているのが、後の初代チーフカスタマーオフィサーになる、カスタマーサクセスのリーダーが「ユーザー解像度を高めてほしい」とずっと訴えていたんですね。

当時のカスタマーサクセスのリーダーが、ペルソナではなくリアルユーザー、いわゆるN1の理解を伝えていたのを覚えています。

彼女は、顧客ヒアリングからの開発提案などをガンガンやっていたので、僕から見たらUXデザイナーと名乗っても遜色ないぐらいの仕事をしていたんですね。ただそんな中で事業部のメンバーは、ユーザーの顔が見えないという問題を抱えていました。

簡単にまとめるとこんな感じで、マネジメントは「週次の全体定例を挑戦の場に変えたい」と言っていて、リーダーは「もっと、ユーザーの解像度を高めてほしい」と言っていて、メンバーは「SPEEDAユーザーって、こういう人たちでしょう」と言っている状況だったんですね。

課題解決のために実践したこと

じゃあ、何を実践したか。まず、週次の定例を挑戦の場に変えるというミッションがあったので、「SPEEDA JAM」というものをロゴから作りました。ここではSPEEDAユーザーや機能開発に関することをみんなで話し合ったり、UXリサーチやデザインリサーチについて理解していったり、もしくはそういう手法を試したりして、みんなで課題を学び合いました。

その中で生まれたものの1つに「SPEEDA Cafe」というものがあります。これは僕の中でもかなり大きな思い出にもなっていますが、SPEEDAユーザーを実際にオフィスに招き、そこでカスタマーサクセスと一緒にコーヒーを飲みながら、ユーザーの課題を聞いていくんですね。

その場で解決できることはカスタマーサクセスがそこで実践していく。そこには、セールス、マーケ、デザイナー、エンジニアも同席可能にしたという施策が、思い出深く残っています。

あとは、SPEEDAでできることが限られているので、そこを補足するためのワークシートとSPEEDAを使って、ユーザーさんと一緒に「SPEEDA市場リサーチワークショップ」というものをやりました。ここにも、セールス、マーケ、デザイナー、エンジニアが同席可能にして、実際のユースケースに基づいた課題を、ユーザーさんと一緒に間近で見るということをやっていきました。

このフェーズ1でわかったことと結論。いわゆるユーザビリティみたいなプロダクトの操作性に関する課題は理解できたのですが、ただ、どのユーザーが何の便益を欲しているかは、ちょっとわからなかったんですね。やはりスポットなので、ユーザーの顔が見えない問題は解消していませんでした。

あと、リサーチをプロダクト戦略に落とすのに、やはりボトムアップだと限界があるんだなと感じました。事業部の週次定例とカスタマーサクセスは、SPEEDAがかなり昔からやっていることだったので、このあたりを土台にしました。

Goodpatch社と組んでスタートしたユーザーリサーチプロジェクト

フェーズ2、「専門家や有識者と共同する(トップダウン)」ですね。

はい、来ました。Goodpatchさん。もうね、Goodpatchさんにメチャクチャ助けられましたね、本当にありがとうございます。

さっきのフェーズ1は1年ぐらいの話ですが、ここは3ヶ月のフェーズで話します。2020年の1月からだいたい3月に、事業責任者が代わりました。その事業責任者がSPEEDAの全メンバーと1on1をした結果、やはりユーザーの顔が見えないということを、事業責任者自身が再認識したのが大きかったと思います。

そこで、Goodpatchさんと組んで、ユーザーリサーチプロジェクトをスタートしました。プロジェクトは、事業の提供価値や整理、言語化みたいなところと、ユーザーリサーチをOKR、目標管理手法のオブジェクトに導き出すことをゴールに設定しました。

「平野さん、あれだけリサーチをやっていたのに、なんで平野さんは先導しなかったんですか?」ということですが、僕はこの時まだ事業責任者とのリレーションが築けていなかったので、まずはプロジェクトマネージャーに徹しました。僕は、プロジェクトマネジメントが大好きなので。このプロジェクトにはそこに特化してコミットしました。

簡単にまとめると、マネジメントが「ユーザーの顔が見えないので、ユーザーリサーチをやるぞ!」ってなり、リーダーが「ユーザーリサーチの結果を踏まえてOKRを作るぞ!」ってなって、メンバーは「ユーザーリサーチの結果が楽しみ!」みたいな状態になりました。

これはGoodpatchさんの仕事の中でやってもらったことですが、ユーザーインタビューをしてもらって、それを図解化したり、いろいろなことを実践して、最後は定例ミーティングで発表するという流れになっていたかなと思います。詳しくは、Goodpatchさんのホームページに書いてあるので、興味がある方は読んでみてください。

リサーチで得た学び

僕が一番衝撃を受けたリサーチ結果の1つ。これはさすがに詳細を語ることはできないので、喩えで持ってきました。

リサーチャーが「どのメニューが消えたらこのカレー屋さんに来なくなりますか?」って聞いたんですね。事業部、SPEEDA側は「きっとキーマカレーに違いない。あれはうちの自信作だぞ」と思っていたら、顧客や常連客はまさかの「福神漬け」と答えたんです。

これは僕の最大の学びでした。事業部にとって福神漬けは、メニューではなくおまけだと思っていたんですね。だけど常連客は、福神漬けも含めてメニューとして認識して、決しておまけではなかった。リサーチをするとこういうことがわかってくるので、あらためてリサーチの大切さを学びました。

このあたりがアウトプットで、Goodpatchさんのホームページに載っているので、見てみてください。

ここでの学び、見出したことは、新しく来た事業責任者がユーザーリサーチを常態化させることの大切さを再認識したことです。

また、SPEEDAの向かうべき方向性の1つの仮説が生まれたというのもあります。Goodpatchさんのユーザーリサーチの発表をSPEEDA事業部の全メンバーが聞いたことで、プロダクト戦略にユーザーリサーチが非常に役に立つんだということを知ったというのがあったかなと思います。

土台にした組織文化は、新しい事業責任者のキャラクターですね。トップダウンでやる場合、誰がやるかも非常に大事だなと思っています。新任の事業責任者は、「ああ、そういう人だよね」というのが、カルチャーとして理解されているので、トップダウンでやっても波風が立ちにくい方なんですね。

逆に、前任の事業責任者の場合は、トップダウンでやると「あれ、どうしちゃったの?」みたいに思われてしまう。ボトムアップ型だったんですよね。だからそこが、やはりうまかったなとは思っています。OKRを使ったというところ。これがフェーズ2です。

事業部メンバーの疑問「目の前の自分の仕事とリサーチはどうひもづくの?」

フェーズ3です。「小さく自走し、少しの結果を残す」というところです。

2019年は週次の定例でがんばって、ポイント、ポイントでリサーチを広めていったのですがなかなか根付かず、Goodpatchさんの力を借りてバンッとみんなにトップダウンしたことで、リサーチの有意性を少しわかってもらいました。

Goodpatchさんとのプロジェクトが終わった2020年4月から9月、だいたい半年間の状況がこんな感じです。まずSPEEDAのユーザーの顔がわかるようになったんですね。それは本当によかったなと思っています。事業責任者は、「ユーザーリサーチの取り組みは、継続したいな」とは考えていました。ただ次の一手をどうするかを、当時迷っていた印象を僕は持っています。

事業部のメンバーは、「プロダクト戦略との関係性はわかったんだけど、ユーザーリサーチが自分の今の目の前の仕事とどう関わるの?」と、よくわからなかったので、ちょっとまだ距離が遠かったんですね。リサーチと自分の仕事がひもづくのが……というのがありました。

このタイミングで「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」というBtoB SaaSの事業部3つが合体して、デザイン組織も合体しました。僕はそのタイミングでデザイン責任者になりました。僕はユーザーリサーチの取り組みや、インハウス化をメチャクチャしたかったんですが、育休に入りました。どう考えても家族ファーストにしなければいけなかったので、「僕はそれを担えません」と、当時の事業責任者にメッチャ言ったのを覚えています。

当時をまとめるとこんな感じです。「ユーザーリサーチは継続したいけど、結果指標はどうしよう?」みたいにマネジメントは思っていました。僕は「ユーザーリサーチをインハウス化したいけど(僕はそこの責任を今取れない。なぜなら育休で子どもを育てるほうが優先だから)」となっていて、メンバーは「ユーザーリサーチって自分の目の前の仕事と、どうつながってるの?」という状況でした。

(次回へつづく)

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