2024.10.10
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斉藤徹✕八子知礼トークイベント 「愛のある組織変革」は実現可能か? 〜「人間性」と「デジタル化」を両立する組織トランスフォーメーション〜(全6記事)
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斉藤徹氏(以下、斉藤):僕も情報システム出身で、20代からIBMで働いていました。八子さんもたぶんずっとIT畑で、長いですよね。
八子知礼氏(羽化、八子):はい、IT担当のコンサルでした。
斉藤:そうすると、経営者になっても、人に対してもコンピュータと同じように人も命令すれば従うと思ってしまいがちですよね。部下に対しても、コンピュータと同じように「正しくインプットしてるんだから、正しくアウトプットしてよ」となるわけで。きっとふたりとも、組織を統制しようという感覚が強かったかもですね。今も強いかもしれないですけど(笑)。
(会場笑)
八子:強いかもしれないですね(笑)。
斉藤:でも、やっぱりそれは何かうまくいってないよな、という感じですよね。それではバトンを受け取って僕のほうで説明していきますね。これがね、驚くべきことに、すごくうまく僕の資料につながっているんですよ。
八子:偶然ね(笑)。
(会場笑)
斉藤:「最難関の『人の問題』を深堀りしよう」という場合に起きているのは、いったいどういう問題なのか……「新しいことをしたくない」「自分の知識を出したくない」「他の部門のことを考えたくない」。やっぱり同じですね。
八子:あれ? 同じですね。
(会場笑)
斉藤:やっぱりこれがすごく大きいんですよ。もうちょっと愚痴を聞いてみると「目の前の仕事で頭がいっぱいだし、そもそもDXとか突然降ってきて、意味わかんないし、余計な仕事入れないでよ...」って感じですね。
八子:リラックスしたトーンですね。
斉藤:けっこうそんな感じです。あとは、「自分の知識を出したくない」というのは、大切な知識を渡しちゃったら、会社の中で自分の価値や居場所がなくなっちゃうんじゃないかと思うからなのでしょう。
「他の部門のことを考えたくない」も同じで、自分の部門の数字を達成するのが精一杯で、協業というよりもむしろ競争相手になってしまっていて、なかなかコラボレーションできない。営業と開発は仲が悪いし、同じ営業部門で第一部、第二部、第三部で仲良いわけがない。必ずこういう問題が出ますよね。
斉藤:なんでこういう問題になってしまうのかについて、物理学者で哲学者のデヴィッド・ボームがなかなかすばらしいことを言っています。
組織は人が作ったもので、人の持っている思考が組織や世界を作っているんだけど、普通、人はそういうことを意識しない。でも、組織が動き出すと、人が作ってたものにも関わらず、今度は組織が人をコントロールし、拘束してしまう。要するに、ある時から主従が変わってしまうんだ、ということを言ってるんですね。
例えば、経営者の方針に従って経営企画部門が予算を作りますよね。予算を作るまではいろいろ相談して作るかもしれないけど、作ったあとはもう完全に一人歩きしますよね。
八子:そして「あとはやっておいて」になっちゃいますよね。
斉藤:そう、予算の数字が考えられた背景なんかは関係なくなってしまいますよね。でも実際にはその予算は、12月だったら12月のタイミングの経営状況の中で作ったもので。今はVUCAの時代だから、1年先のことなんか解像度が低くて、ほとんど読めないわけです。
八子:わからないですね。
斉藤:そういう段階で作った予算にも関わらず、変化よりも予算達成が優先されてしまう。また「ちょっとこれおかしいんじゃないか」と言っても「公平性が大切だから」ということで例外が認められなくなっちゃうんですよね。
斉藤:デヴィッド・ボームが言うには、人はあらゆるものを断片化するほうが考えやすく、しかもその中で「理解しやすい断片」に注目すると。本来、ものごとは「機能と意味」が対になっています。「こういうこと(意味)のためにDXをやろう、やるのはこれ(機能)だ」と言ったもののうち、「これ(機能)だ」ばかりにガーッと走っちゃうんですよね。
八子:手段のほうにいってしまいますね。
斉藤:そうなんですよ。目的は置いていかれてしまうんです……。
八子:希薄になると申しますか。
斉藤:精神と物質といってもいいでしょう。このふたつが乖離してしまうんです。「見える化」というのは重要ですけれども、問題は「見える化したものに意識が集中するために、見えないものが無視されてしまう」ことにあると言えますよね。
「人」を資産としてとらえると、ヒューマンキャピタル(人的資本)とソーシャルキャピタル(組織関係資本)というものがあります。前者は見えやすい側面、後者は見えにくい側面がありますが、実際には両方とも重要です。
ヒューマンキャピタルというものは個人個人の能力ですね。個人の能力はとてもわかりやすいので資本として考えられている。それに対してソーシャルキャピタルというものは「人と人との関係性も、実は組織にとって資本であり、とても価値の高いものなんだ」という考え方です。
でも関係性というものはすごく見えづらいから、ほとんど無視されちゃうんですよ。それで、断片だけになっていくんです。そのように、いろいろなものが断片化されていってしまうことに根っこがあるんじゃないかなと思います。
斉藤:その結果、ビジネスでは、見える化しやすいお金とか数字が支配する世界になってしまう。ちょっと哲学的な話になりましたけれども。僕たちはDXとかITとかデジタル化をずっとやっているので、けっこうデジタル思考ですよね。
八子:そうですよね。
斉藤:でも、デジタル思考はどうしても意味とか精神を軽んじてしまって、人や組織の問題を引き起こしちゃうんです。結局、DXは全体最適を目指すものにも関わらず、それができなくなっちゃう。デジタルなトランスフォーメーションができなくなっちゃうというところが、難しい問題だなと思いますよね。
例えばその典型として、デジタル思考や管理思考の人が、人をどう見るかということがあります。人を「それ」として扱っちゃうんですよね。
私は人間なんだけれども、他人には私情を抜きにして、役割とか機能を求める。特に部下が増えてきて、5人、10人、100人と増えてくると、とてもみんなのことは考えられない。こういう考えにどんどん陥ってしまうんですよね。
斉藤:でもこれは明らかに幻想です。なぜかというと、僕は本当に99パーセント自分のことを考えて、恥ずかしながら生きているわけですよ(笑)。八子さんも99.5パーセントくらいは自分のことを考えていますよね。
八子:おぉ? 上乗せしましたね(笑)。
(会場笑)
斉藤:(笑)。だいたいみなさんもそうだと思います。一人ひとりはやっぱり自分のことを人生の主人公として生きているわけで、道具じゃないですよね。人間なんです。それで、自分の考えていること、自分がやっていることが正しいと思って行動しているわけですから。そういうところがそぎ落とされちゃうんですよね。
さっき八子さんも言われていましたけど、コンピュータは命令に無条件で従います。アウトプットがおかしい時は途中のロジックが間違っているんですよね。どこかにバグがある。バグがなければ必ずアウトプットは正しいはずですね。これがコンピュータです。フィジカルもそうですよね。
でも人はどうかというと、そうじゃないんですよね。いくら正しいことをしたとしても、それが機械のように出てくるわけじゃない。むしろインプットをしたという動作が気に食わない。人は自己決定したいんです。
ここらへんがなかなか難しい。内発的動機を生むためのもっとも大切なポイントのひとつは、人間は自己決定しないとやる気にならないということ。ここがとても難しいところです。
斉藤:でもどうでしょう、僕は若い頃、よく部下に強制しちゃってましたけど。どうですか? 今もやってますか。1日1回ぐらい?
(会場笑)
八子:いやいや! さすがに歳をとりましたからね(笑)。
まぁでもそういうことは往々にしてよく起こりがちなことではありますよね。
斉藤:リーダーは責任感の罠にはまって、悪気もなく部下に強制しちゃいますよね。誰もがしがちだと思います。自分の思ったことを伝えれば、人はそのとおりに動くし、動くべきだ、と思っちゃうところがあるんですよね。でも部下も、人生を主人公として生きている人間ですから、コンピュータのように扱うと逆に反発して、むしろ動いてくれなくなっちゃいます。特に言い方がひどかったりすると「ペッ」となりますよね。自分がやられたら絶対そうなりますから(笑)。
八子:なりますよね(笑)。
斉藤:ここがやっぱり難しいところですよね。さっきの「新しいことをしたくない」とか「自分の知識を出したくない」は、そうだよねと思います。じゃあそれをどうすればいいのかなと考えると、指示したら逆に反発されてしまうし、ここが難しいところで、人の問題はどうやって解決すればいいんだろう……という感じで、対談に入るんですかね。
八子:おぉー……。
(会場笑)
いや、答えが出てきたあとでの対談じゃないんですか?
斉藤:答えは出ない……ですね。
八子:出ない。
斉藤:八子さんが見事に出してくれると(笑)。
(会場笑)
八子:いやいや(笑)。責任重大だなぁ。
『だから僕たちは、組織を変えていける ーやる気に満ちた「やさしいチーム」のつくりかた』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス) )
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