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10〜1000 名開発組織に向き合ったCTO 経験から語るキャリア論(全4記事)

切り捨てる勇気を持たなければ、得たいものは手に入らない 投資家思考で考える、エンジニアのキャリアパス

技育祭は「技術者を育てる」ことを目的としたエンジニアを目指す学生のための日本最大のオンラインカンファレンスです。ここで登壇したのは、株式会社LayerX・代表取締役 CTOの松本勇気氏。自身のCTO経験から、キャリア論を語りました。全4回。4回目は、CTOの役割について。前回はこちら。

やりたいことと、捨てることを取捨選択してきた

松本勇気氏:この観点で自分のキャリアについて振り返って、Gunosyまでどういうことを考えていたのかというと、それほど完璧に予想していたわけではありませんが、Gunosyについては、スマートフォン市場に大きな成長の可能性があると考えていました。

当時は、まだみなさんもiPhoneをそんなに使っていなかったのですが、その中でスマホの市場が大きくなるとしたら、絶対に使われる機能は何かを考えていて、ニュース配信がその内の1つにありました。その当時、ヤフーがPCで使われていて、MSNニュースなど、いろいろなニュース配信があったので、ここは必須の仕組みの1つだよねと思っていました。ほかにもいろいろあるのですが、その中の必須の仕組みの1つで、かつ、目の前に自分がチャレンジできるチャンスがありました。

あとは事業の成功に貢献する過程で、成功するスタートアップの要素を自分のものとしたいなと思っていました。一方で、僕はこういう意思決定をすると、自己成長の中で特定の技術を掘り下げることをけっこう捨ててしまっていたんですね。リターンは事業成長の過程で学ぶことで、事業成長に貢献しないものを優先してしまうと、そこに矛盾が起きるので、とにかく事業成長に必要なことをやりました。

当時、もしかしたら僕がデータサイエンティストとして勉強していたら、また別な道もあったのかもしれませんが、それは捨てました。当時は分散処理基盤などいろいろ進化している最中だったので、データ処理基盤のエンジニアとしてすごい人たちが周りにたくさん出てきました。それをいいなと思いつつ、「俺は仕方ない、器用貧乏でもいいからこの方向に行くぞ」とこの時決めました。

というところで、事業成長に貢献していくことを最優先に置いてアクションしました。その次が、ここはもう先ほど話しましたね。市場環境として、大企業改革が日本市場全体を見ると重要になると僕は思いました。ソフトウェアを活用して企業変革できるのは、すごく貴重なスキルだなという自覚を持ってアクションをしてきました。その瞬間、自分でスタートアップする選択肢もあったのですが、そういうのは捨てました。

ほかにも、技術的におもしろいところを掘り下げる可能性もありました。例えばブロックチェーンをずっと追っていこうとか、機械学習を追っていこうとか、自動運転とか、今だと僕は核融合にもすごく興味があって勉強していますが、そういうものに対してはいったん身を引こうというトレードオフを決めて、自分の時間をフルに大企業改革に投入していきました。

そのあとに、コロナで市場環境自体がガツンと変わってしまったので、また自分の中期でのアクションを変えなければいけないということで、日本中のデジタル化に貢献することが、自分にとってのやりたいことと合致していて、今やるべきはSaaSを活用してデジタル化を広く推進できる組織をつくることで、それができるおもしろいリーダーをサポートすることが大事だなと思いました。なので、このDMM時代の改革が一段進まなくなるけれど、この方向に進もうとこの時に決めました。

得たいリターンや、短期・中期・長期の目標ははっきりさせる

こんな流れでずっと取り組んでいて、ここまでの話の中で大切なことについても少し触れていきたいと思います。得たいリターンや、短期・中期・長期の目標をはっきりさせるのは大事だと思います。みなさんはこれから会社を選ぶ中で、すごく悩むと思うのですが、一番大事なのはどの会社に入るかではなくて、どういうリターンを得たいのかを考えることです。どういうことを達成したいかと言えばいいのかな。達成したい長期のあり方、中期のあり方をいったん固定してから、今度は短期に集中してアクションしていく。先ほども言ったのですが、二重振り子にならないように目標を固定して、アクションを変えていくことがまず大事です。

リターンを決めて、アクションを決めると、やりたいことがいっぱい出てくると思います。世の中には誘惑がいっぱいありますからね。ゲームをしたいとか僕はすごくありますが、ゲームだけではなくて、例えば、自分は絶対にこの技術をやりたいと思っていても、今この会社は違うという場合、どちらを選ぶのかきちんと軸を持たなければいけません。長期目標をいったん決めたらそれを盲信し、それに対して全力でアクションしてみることで、無駄のない努力ができるようになります。捨てることはいっぱい出てきますけどね。

決めたら、長期を定期的に見直します。このマイルストーンをどうやって進んでいくかは大事です。マイルストーンのここまで進んだ時に、そこから得られた情報から振り返って、実は長期が違ったのではないかと思ったら、変えてもいい。自分の中では長期を決めて、短期のアクションを取っていって、進んでいってマイルストーンに近づいていって、これは違うなと思ったら長期を作り変えるということを自分の中で相互にやっていきます。

自分にどんなことがあってもなくならない価値をストックする

その中で大事なことのもう1つが、ストックする価値です。先ほどポートフォリオとあったのですが、ポートフォリオは自分の持っている資産の大きさでできることが増えます。考え方でいいのは、ストックすることが重要だということに気づかされることです。時間は平等なので、技術力だけではなく、例えば信用やお金など、いろいろストックする価値があって、これを獲得すればするほどいろいろな取り組みができます。

(コメントを見て)ちなみにコメントに、長期目標を考え直すタイミングが難しそうとあるのですが、これはあまり難しく考えずに、四半期や1年で自分の中で切ってしまっていいと思います。適切な自分の振り返りタイミングなんてあまり予想できないので、決めてから考えていいと思います。

そうやって自分のストックする価値をきちんと意識していきます。例えば信頼される人であればあるほど、いろいろなポジションをやらせてもらえたり、いろいろなチャンスが降ってきたりしますし、技術が強くなればなるほど、任される技術のタスクが増えていきます。自分にどんなことがあってもなくならない価値、自分の頭の中や社会のつながりの中にある価値をストックしていこうとすると、できることが年々増えていくので、ここはすごく意識していきます。

ポジションを取るデメリットを受け入れる

あとは先ほど言ったのですが、やりたいこと、おもしろいことは世の中にたくさん出てくると思います。最近だとみんな、Web3やNFTと言っています。個人的にはどうなんやと思いながら、これに対する意見はいったん置いておきますが、Web3、NFT、DeFiがどうだこうだとか、Open Policy Agentがどうだこうだとか、いろいろな技術がやってきます。どれもおもしろくて、やってみたい。おもしろいからやるのもたまにはいいのですが、そればかりやって、こっちに進んで、こっちに進んでとやっていると、目的地にぜんぜん着きません。

だから、自分の目標をきちんと決めることが重要で、それに対して合わないことはきちんとトレードオフを取る、我慢するというのができるか。意思決定は、常に快適なわけではありません。自分の意思決定に対する責任を取れるかを、自分で意識します。こういうことを持っていると、きちんと前に進めるのかなと思います。

また、会社選びをする時に、ここにズレがあったら絶対に選んではいけません。これは採用活動ですごく意識していることで、僕の会社が、みなさんが入社した時に貢献できるかということです。どうなりたいのかがあって、そこに対して貢献できるからこそ、良いキャリア選択だと思うのです。なので、そういった考え方で自分と会社のズレがないかをきちんと考えるし、そこに対してズレがあってもやるのか、デメリットを取るのかみたいなことはすごく意識したほうがいいです。

CTOはエンジニアではなく経営者

事例として、CTOを目指すとしたらどうするのかという話をするのですが、聞いてくれている人の中でも、CTOやPdMをやりたいなどいろいろあると思うので、CTOをずっとやってきた人間として、CTOとは何だろうかという話を最後に少しします。

いったんキャリアの中期目標ぐらいに置くとしたら、きちんと知っておくことは大事です。CTOとは何だろうかと考えると、CTOは経営者でエンジニアではありません。CTOは経営者で、その中で技術に一番詳しい人というイメージだと思っているので、もちろんエンジニアリング的なスキルも大事で、これは専門性として持っているのですが、先に経営者であるということが重要です。

技術者として正しい意思決定をするのではなくて、経営者として正しい意思決定をすることが大事なポジションなので、技術力が高ければCTOになれる時代ではないと思います。もしCTOになりたいのなら、短期・中期・長期のサイクルの中で何ができるかをまず考えていきます。どういうCTOでありたいのか、そのために必要なことは何か、大量の課題に向き合わなければいけません。大量の課題に対して、いろいろな経験を持っていく必要があって、これは知識だけではできないこともいっぱいあります。

その中で特に大事なのは、先輩たちはどういうステップで登って行ったんだろうと考えることです。実は社内に、「あなたがCTOになるために」という資料がこっそり置いてあります。社長のふっきー(福島良典氏)がある時、スプレッドシートに大量のCTOのリストを作って、彼らがどういうふうにそこに至ったかをまとめてくれました。

中を分類すると、スタートアップで叩き上げられた人、成長するベンチャーの中で経験を積んで自分で起業していく人、内部で昇格する人、たまに大きな会社の中で突然変異みたいに生まれる人など、だいたいこんな分類で、僕みたいな叩き上げのタイプや、僕の前のCTOの榎本(榎本 悠介氏)みたいな成長ベンチャーを経験したタイプがいます。そういうのを見て自分のアクションを決めていくといいです。

もしCTOを目指される方がいたら、実際の先輩たちのアクションも見て、そこから自分の短期・中期・長期のマイルストーンを考えて、達成可能か考えてみるといいのかなと思っています。

投資家思考で自分のキャリアを考える

そろそろまとめに入ります。僕は自分のキャリアについて、いつも投資家思考で考えています。ここまで考えてきたリスク・リターンや、ポートフォリオは、すごく投資家的な考え方です。あくまで自分が持っている、時間やお金や信用などいろいろなものを含めた資産をどこに配分するかがキャリアの戦略だと思っています。ポートフォリオはその中でどうあるべきかだったり、どういうふうに資産を積み上げていくべきかだったり、積み上げるものがそもそもなんなのかだったりを考えたり、意識するようにしています。

その中で大事なのが、100%資産を稼働させる方法を考えることです。目標にそぐわないものをどうやって切り捨てるかという、切り捨てるための勇気を持たなければいけないし、それに対してやってくる自分の不都合、不利益みたいなものをきちんと受け止める自分の精神力が必要です。

また最初の頃は、時間以外のリソースがなかなかなかったりします。とすると、時間をできる限り稼働させるのは大事です。ただ、それはブラックに働けということではなくて、自分のパフォーマンスを長期で維持できるように、どうやって働けばいいのかを模索することかなと思っています。そうやって自分のキャリアについて向き合って、技術者としてどう成長するかとか、そのための自分の目標の置き方を考えていけるといいのかなと思っています。

というところで、私からの発表は以上とします。LayerXはこういった考え方で採用した仲間に対して、どうやってプラスが作れるんだろうかと壁打ちしながらいろいろ作っていける会社でありたいと思うので、もし興味があれば、僕や社員のMeetyに応募してください。カジュアルにお話ししましょう。では、以上とします。ありがとうございました。

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