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CTO目線でのキャリア形成論 〜「エンジニア35歳定年説」 は真っ赤な嘘〜 (全3記事)

下りのエスカレーターを逆向きに上がるのがエンジニア稼業 レアゾン・ホールディングスCTOが転職経験で得た、6つの学び

技育祭は「技術者を育てる」ことを目的としたエンジニアを目指す学生のための日本最大のオンラインカンファレンスです。ここで登壇したのは、株式会社レアゾン・ホールディングス 取締役 CTOの丹羽隆之氏。自身の経歴を振り返りながら、転職するうえでの学びについて話しました。全3回。2回目は、複数の転職経験で学んだことについて。

その1 「自分のやりたいこと・得意なことを知る」

丹羽隆之氏:ここから本題です。僕の視点なので参考にならないと思うかもしれませんが、転職を重ねたうえで学んだことを聞いてください。「転職を重ねた上で学んだこと①」は、「自分のやりたいこと・得意なことを知る」です。そのうえで、僕が利用したのがSEDAモデルという考え方です。

スライドの左側が理系で、右側が文系。機能的価値の解決がEngineeringで、問題定義がScience、意味的な価値の問題解決がDesignで、問題提起がArtと位置付けられています。DesignとArtの違いですが、いわゆる顧客がいるようなもので、顧客の主観的要望まで理解してサービスに反映させるのがDesign、顧客が意味付ける内容の新しい提起・提案がArtです。

よく記事などで見られる、このモデルを使って行われる評価だと、昔の日本のエレクトロニクス産業は機能的価値を重視してものづくりをしていて、それが一時は流行ったけれど、その後は衰退してしまった。現在世界で評価されているAppleやダイソンなどは機能的価値と意味的な価値をきちんと融合しているので世界で流行る、と言われています。

最近では、バルミューダの商品も問題提起を含めて新しい意味的な価値を生み出していると僕は思っています。先ほど話したように、顧客価値の高い商品を生み出すには4つが統合した価値の創出が求められます。これは1人ですべてを担えということではなく、自分が得意としているのはどの領域かを理解するということです。

それ以外の分野は、それが得意な人と共働してプロジェクトを運用していくことが重要だと思っています。僕もそうなんですけど、どうしてもエンジニアはエンジニアとばかり話をする。その中で「これは問題だ、解決しよう」となるんですが、そうすると機能的な価値にしかフォーカスしていないものができあがってしまいます。

たぶんAppleやダイソンはそうではないのだろうということです。今の時代、サービスの成功において必要条件と言えるのがEngineeringとDesignの統合的価値です。消費者がその商品を所有して使用する際の満足度や喜びをAppleは「ユーザーエクスペリエンス」と言っていますが、2つを融合させることでそれが高まっていきます。

menuのサービスのミーティングは、エンジニアだけではなくデザイナーや他の職種も参加することによって、この問題に対するアプローチを行っています。このSEDAモデルを知った時、僕はもともとエンジニアが好きでしたが、Engineeringが得意だということを認識しました。学生時代にコンピューターグラフィックスやコンピューターアートを専攻していたので、自分はどちらかというと問題提起側かと思っていましたが、実際に考えて仕事をしてみると問題解決が得意だと認識できました。

その2 「武器を磨く」

「転職を重ねた上で学んだこと②」は、「武器を磨く」です。これはわかりやすいかと思います。学生時代は苦手なことでもテストがあるので、みなさんがんばる必要があります。社会人は最低限(の勉強)は必要ですが、そんなことはありません。会社はプロフェッショナルとして給料を支払っているので、自分がどこであればそれに見合った価値、もしくはそれを越えるパフォーマンスを出せるのかをぜひ考えてみてください。

そういうことを考えながら社会人生活を送っていると、そのうち自分がどの部分であれば人に勝てるのか、自分の価値はどこにあるのかがわかってきます。いわゆるメタ視が徐々にできるようになってくるということです。

たまにビジネス書にも書いてありますが、当社でも、会社もしくはプロジェクトはプロスポーツチームのようなものだと考えています。その中でものづくりをするエンジニアたちは選手です。管理系の部門や営業の人たちが、我々が戦いやすい、もしくは戦える環境作りをしてくれて、最後はエンジニアという選手がサービスというフィールドで他の会社よりも良いプロダクトを作って、ユーザーに喜んでもらうことがゴールです。

そこでは自分が得意なことで貢献する必要があるので、あまりできないことや苦手なことでは勝負しないほうがいいと僕自身は思っています。

その3 「好きなこと・やりたいこと・興味があることを仕事にする」

「転職を重ねた上で学んだこと③」は、「好きなこと・やりたいこと・興味があることを仕事にする」です。社会人になると1日だいたい8時間は仕事をするので、1週間を5日間と考えると40時間仕事をします。1週間は週末を入れると24×7で合計168時間なので、40時間仕事をするとすれば、だいたいその時間の25パーセント近くを使っています。

もし忙しくて1日10時間働いたら、30パーセントも仕事に使っていることになります。せっかくの人生の時間のうち、それだけの時間を使っているのに、それがやりたくないことって、けっこうつらいですよね。

とはいえ、みんなが好きなことを仕事にできているわけではありません。スライドに書いてある社員エンゲージメント指数(※正式名称は、従業員エンゲージメント指標)というものが発表されていますが、日本は先進国中もっとも低くて、サラリーマンの3人に1人が会社に反感を持っていて仕事を嫌っているそうです。

これが、日本人は世界でもっとも自分の働く会社を信用していないと言われる所以です。その帰結として、日本の労働生産性はOECD加盟国34ヶ国中21位、先進7ヶ国ではずっと最下位です。昔の映画やドラマで、新聞を読みながら仕事をさぼる場面を見た覚えがあります。

その4 「転職で重視すべきこと」

「転職を重ねた上で学んだこと④」は、「転職で重視すべきこと」です。先ほどの好きなことを仕事にするという話にも通じますが、今、コロナ禍で働き方が大きく変わってきています。少し前はライフワークバランスを重視する会社や人が多くて、1日8時間は仕事をして、8時間は寝て、8時間はプライベートというバランスを取りたい、そういう働き方をしたいという人が多かったです。

ただその当時から、僕は1日を3分の1ずつ分割するのではなく、ライフワークバランスを一生で考えるべきではないかと感じていました。当然子どもが生まれた時は、子どもや家族のために時間を優先して使うべきだと思うし、逆に若くて時間があって仕事をしたい、もしくは仕事につながるような勉強がしたいのであれば、そこにどんどん時間を使っていいのではないかと思います。

1日のバランスを考えるのではなく、一生で見た時にバランスが取れているのが本当のライフワークバランスではないかと、その時は思っていました。最近それをうまく言い表した言葉が出てきて、「ワークインライフ」と言ったりしています。当社のエンジニアも今はフルリモートで仕事をしています。リモートで働くための環境やサービス、進め方も一気に広がって、みんな遜色なく仕事ができるようになってきました。

今後は、たとえコロナ禍が終息したとしても昔に戻るわけではなく、ポストコロナ時代と言われるような未来になるのではないか。そこではもう、うちの会社も含めて全員が一律に出社をするようなことはないと思っています。ミーティングやブレストなど、当然顔を合わせて進めたほうがいいものもたくさんありますが、集中して開発したい時には自宅で集中したほうがいいというのが、うちの現場で多く聞かれている意見です。

フルリモートかどうかは本人が選べばいいと思いますが、自宅で仕事をする人は間違いなく増えていくと思います。そうするとワークインライフという働き方になるのではないか。仕事はオフィスだけ、オフィスを出たらプライベートというわけではなく、仕事と生活が密接に、人生として融合していくような、もしくは内包したような働き方なのかなと思っています。

お金も重要です。お金とやりたいことは転職する時に迷うポイントだと思うんですが、転職10回キャリアの僕からのアドバイスとして、両方叶えられるならベストですが、どちらかと言えばやりたいことを優先するべきではないかと思っています。若いうちはどうしてもお金が欲しいし、必要というのは当然僕も理解しています。

必要なタイミングでお金を重視するケースがあってもいいと思います。ただ、あまり若いうちに給料を理由に転職先を決めると、転職を重ねるうちに軸がブレやすくなる。僕は日本人にしては転職回数が多い、特に同じ年齢の人には負けたことがないくらい多いんですが、転職理由を説明できているので、今のところ転職回数が多いのが原因で内定を断られたことはありません。

それも、その時に興味があることやその時にやりたいこと、その時在籍していた会社ではできないことをやるために転職しているからだと考えています。

年収で就職先、転職先を決めるとして、2社あるうち例えば年収が50万円高い方に就職したとします。1つ前に話しましたが、やりたいことからちょっとズレていると、好きなことを仕事にしていないので徐々に仕事が嫌いになる、もしくは成果が出にくくなることが可能性として上がってくると思います。少し給料が低くても、やりたいことをやれたら、成果を出して昇給して、その成果を基にもっと良いところに転職できるかもしれません。どの会社も成果を出している人は欲しいので、いろいろな会社が選択肢になると思います。

さらに、転職のタイミング。その時在籍している会社で成果を出してから転職するのか、望んでいるポジションの仕事を見つけたからすぐに転職するのか。これは難しい。

どうしても入りたい会社がある時は、タイミングは一期一会なのでその時に行かないと入れないというケースもあると思うので、その場合はそちらを重視してもいいと思いますが、僕自身は、成果を出してからそれを基にやりたいことをやれそうな会社に転職するというスタンスでやってきました。世の中には自分が知らないだけで、良い会社がたくさんあるし、どうしてもこの会社に入りたいという企業名よりは、自分が何をやれるかを重視して転職していました。

冒頭の平均勤続年数の話を思い出してほしいんですが、ベンチャーで転職する場合、1つの会社で関われるプロダクトはどれくらいあるか。僕も転職を重ねましたが、初めのうちはだいたい1~2個のプロダクトに関わって転職していました。つまり、成果を重ねていかないと、転職しているうちに転職回数に比べて成果の数が減ってくるんです。

もしみなさんが面接官だとして、「技術力はすごいけれど、こんなに転職しているのになぜ成果が少ないんだろう」という人が来たら、「人とうまくやれないのかな」とか、いろいろ思いませんか。そう考えると、やはり若い時ほど成果が重要で、僕は20代で大きなプロダクトに関われたことがその後の人生の助けになっていると感じています。

その5 「常に学び続ける」

転職を重ねた上で学んだこと⑤は、「常に学び続ける」です。最近は当たり前すぎて言われなくなりましたが、IT業界は2000年代やその後をドッグイヤーやマウスイヤーと言われていました。

これは、犬の1年が人間の7年に相当することを進化のスピードに喩えたネーミングなんですが、実際に技術の進歩はどんどん速くなっています。少し前にカッティング・エッジと言われていたディープラーニングやマシンラーニングはすでにコモディティ化していて、今ではAWSやGCPのクラウドを使って画面をポチポチしていると、モデルを選ぶだけで使えます。

技術トレンドも重要で、日本人は特にトレンドに対して感度が高いと言われていますが、それだけでなく自分の好きな技術も追いかけていくことをおすすめしています。ディープラーニングは、僕が学生時代に流行っていたニューラルネットワークという人間の脳を模したネットワーク構造の研究が基になっていて、当時は通信速度やハードウェアの制限で実用に耐えないと言われていましたが、ネットワークやハードウェア、CPU、GPUの進化によって可能になりました。

ほかに、関数型言語からオブジェクト指向、手続き型みたいなプログラミングモデルも何度かトレンドが来ている気がします。結局ハードウェアの限界によって制約を受けた課題は、ハードウェアの進化によって解決されて一気にトレンドが変わってしまうので、トレンドだけを追いかけるよりは自分の好きなことを勉強しておくほうがいいと思います。

先ほどキャリアの中で話をしたメタバースも、いろいろな技術と融合することによって進化して復活しています。また、周りのエンジニアの人たち、自分の友だちでもライバルでも全世界のエンジニアが常に学び続けています。周りから抜け出すためには、知識であれ経験であれ実装のスピードであれ、一気に周りから抜けるくらいの努力が必要だと思っています。

スライドの左の写真は、下りのエスカレーターを逆向きに進んでいるところです。想像してみてください。僕がよく使う喩えですが、下りのエスカレーターを逆向きに上がっているのがエンジニア稼業だと思っています。実際、常に一歩一歩勉強をして進んでいるだけでは、周りもみんな同じように努力をしているので現状維持です。ここから次の階であるステージやキャリアを上げるためには、駆け上がっていく必要があります。次の階に到達しても、また逆向きのエスカレーターがあるのが、エンジニアのキャリアパスだと思っています。

会社はエンジニアのアウトプットに対して給料を支払っているので、本来、会社を経営している人が見ているのはみなさんのアウトプットなのですが、インプットをしていないと新しいことができなくなってしまう。当然、効率化されたりミスが減ったりという意味では進歩していきますが、本当に新しいことをやるためにはインプットを増やしてアウトプットにつなげるという学びが必要だと思っています。

その6 「新しい領域に挑戦する」

転職を重ねた上で学んだこと⑥は、「新しい領域に挑戦する」です。僕が大学を卒業したのは27年前ですが、その頃は僕たちのような仕事はプログラマーと呼ばれていました。ゲームを開発するのも、ネットワーク系の処理を書くのも、サーバーや金融系の処理を書くのもプログラマーで、エンジニアと呼ばれていたのは機械系や製造系に行く人たちでした。本当に工学系の人だけでした。徐々にプログラマーの仕事が細分化されて、内容が深くなっていき、専任の職種が生まれて、情報工学系の仕事全般がITエンジニアと呼ばれるようになりました。今やエンジニアと言えば、ITエンジニアのことを指すくらいになっています。

スライドにProEngineerというサイトから取って来た資料を載せていますが、エンジニアの種類は20種類くらいあるそうです。

SREなど、すでにここにないものもあるので、どんどん増えているということです。周辺領域の仕事も今はどんどん融合していて、ITエンジニアの仕事領域は未だに拡張しています。10年くらい前に新しい仕事としてもてはやされたデータサイエンティストも、その後出てきたAIエンジニアも、そこから細分化されたMLOpsと言われる仕事が生まれたり、どんどん領域が広がっています。

エンジニアの知識を基に他の仕事をしている人も多いです。当社でいうと広告事業部の事業責任者はもともとエンジニアだったり、フードデリバリー事業の事業責任者ももともと機械学習エンジニアだったりします。彼らはエンジニアとしての知識と経験を使ってエンジニアに開発をさせながら、自分自身は事業を伸ばすという方向に興味があって職種を変えていった人たちです。

menuの立ち上げのリードサーバーエンジニアをやっていた人たちも、今はうちの会社で人事部長やっています。これは僕が口説いてやってもらっている面も強いですが、エンジニアとは別の仕事をする、もしくはエンジニアをしながら別の仕事をすることも今後は増えていくのかなと思っています。

今後もエンジニアの領域はどんどん拡張されていきます。とはいえエンジニアだけですべて完結することはできないので、エンジニアとしての知識や経験を基に別の仕事をすることも可能だと思います。

(次回へつづく)

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