2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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柳瀬隆志氏(以下、柳瀬):今までは個別に値下げの作業をやっていたので、我々の指示としても「なるべくロスが出ないように仕入をしろよ」「値下げもよく考えてやれよ」と、すごく曖昧な指示しかできていなかった。そうすると、みんなそれぞれの判断で良かれと思ってやっていますが、けっこうな金額の値下げロスが発生していました。
今はそこもダッシュボードで見ているので、ガラス張りになっていて、誰かが何かをやるとすぐわかる仕組みになっています。売上自体の予測も機械学習で夏物の売上予測を出しているので、「大体このシーズンは、暑い場合はこのぐらいの仕入量にしてね」というのをカテゴリー別に具体的に指示が出せるようになりました。
あと、期中の進捗も毎週商品部のミーティングの中でチェックしているので、そこの精度は上がって無駄な値下げが減っているのが大きいです。
宮崎善輝氏(以下、宮崎):外部情報で天気の情報を取り入れられているということで、しっかりと機械学習に打ち込んで反映されているんですね。
柳瀬:そうですね。気象庁から入手した10年分くらいの気象情報を学習データにして、売上の予測をしています。
宮崎:(仕入を最適化しつつ)プライシングの適正化も図れたという感じですね。すごいです。ちなみに利益はどれくらいでしょうか? 何パーセントくらいの寄与率ですか?
柳瀬:パーセンテージでいうと、たぶんすごい(寄与率です)。何百パーセントというレベルになると思います(笑)。元が小さいんじゃないかという話もあるんですが、最初に比べるとぜんぜん違いますね。
宮崎:なるほど。すごいですね。
柳瀬:DXやデータドリブンでと言ってますが、結局やっていることは、B/SとP/Lを見て、財務諸表上の課題に対して何をすると数字が良くなるのかを把握して、その数字が良くなるように施策を打つことなんですよね。
それが経営的な立場で見ているデータ活用のやり方ですけれども、各バイヤーは自分の商品をなるべく売りたいとか、機会ロスを減らすために仕入のコントロールをやらないといけないという業務の話があります。だから、経営的な財務の話とバイヤーの業務の話では、ちょっと見え方が違うんです。
下手すると、バイヤーが良かれと思って数字を悪くすることもあるので、そこをうまくコントロールするような仕組み作りとか、ダッシュボードへの情報共有を今はやっているところですね。そうすると結果的に業務の指示も的確に出せますし、B/S、P/Lも良くなるという図式なのかなと思います。
宮崎:特に利益のほうに寄与しているということでしたが、売上に寄与するデータの活用というのは、どういったものがあるんでしょうか。
柳瀬:かなり小売業的な地味な話なんですが、例えばABC分析をして、どの商品がAランクなのか、Bランクなのか、売れ筋なのか死に筋なのかをちゃんとラベリングして、半年に1回程度見直しをしているんです。
過去の売上実績から各商品のABC分析をする際、計算量がけっこう多いのでExcelでやってたんですが、バイヤーの個別のExcelでは大変過ぎてやりきれない。それをデータベース上でグルっと回すと、簡単にできるようになりました。
あと、あるお店でうまくいった事例をチャットで共有しています。例えば「この商品は、バレンタインの時にこういう売り方をするとすごく売れました」という事例を誰かが業務日誌で書くと、いい事例だったらすぐにみんなが真似をする。もしくは「私はこれがいい事例だったから、真似をしたら?」と言うと、ワッと64店舗にその情報が伝わって、売上が上がる施策を実行できるようになりました。
それってすごく単純だし、普通はやっているだろうと思いますが、うちではできていなかった。月1回の店長会議の時にしか情報共有をする場所がなかったのです。
64店舗がそれぞれ離れているので、電話以外の手段で日々リアルタイムに情報共有ができていなかった。わざわざみんなに話を聞いて事例として集めて、店長会議で発表していたものが、リアルタイムに毎日チャットで共有できたのは、売上には地味に効いていると思います。
宮崎:チャットを馬鹿にできないですね。
柳瀬:けっこう大きいと思います。そのへんのコミュニケーションもすごく良くなって、みんなが前向きにどんどん事例を挙げてきたり、成長しているなとすごく実感しますね。
宮崎:なるほど。「現場で物を売ります」というかたちで採用した人が、「僕はこのデータ分析やりたかったんです」というようになると、かなりのめっけもんですね。
柳瀬:そうですね。データ分析のプロジェクトの最初に入った社員は、今はけっこうすごいです。TableauさんのTableauフォーラムという英語でいろんな情報交換をしているコミュニティで、1週間に7件から8件くらいコミュニティに投稿して、海外の人たちの困りごとに英語で答えて解決しています。
それがTableauさんに直接評価されて、グローバルのフォーラムのアンバサダーになっているんですよ。そんなことをしているなんてぜんぜん知らなくて、Tableauの人に教えてもらったんですが、「いや、楽しいからやっています」と言っています。
宮崎:なるほど。すごいですね。
柳瀬:そんな社員の才能は、こういうことをやらないと絶対に気付かないので、非常に良かったなと思いますね。
宮崎:なるほど。(能力が)伸びる反応率、変化量が大きい人材を狙って採るというよりは、たまたま多かったのですか?
柳瀬:それは確率論かなと思っていて。50人いたら、1人か2人くらいは意外とそういう人がいます。うちのような小売業の会社でも、10人中1人か2人は「データ分析がおもしろい」と思ってハマりますね。あとはできる社員がいるので、横の連携でサポートし合うと伸びることもあります。
宮崎:なるほど。社員のレベルが上がることによって、中途や新卒の採用のブランディングにも寄与していると思うんですが、どのような見せ方をしていったのですか?
柳瀬:実は今、九州にいますが、九州のDXの話で九経連(九州経済連合会)さんから呼ばれて講演することも非常に多いです。いろんなところでうちの社員が「おたくの社長の講演を聞いたよ」と言ってもらう機会が増えているので、やっぱり自分たちがやっていることは正しいんだなと、実感しているみたいですね。
柳瀬:あと、私自身もITが好きでしたが、あくまで自分の趣味のものだと思っていました。でも、自分の興味があることをちゃんと極めたり深めたりすると、意外と仕事にも役に立つんだなと思いました。
自分が社長になって、特にITを使い始めて思いましたが、社会課題の解決をすることによって継続する事業を生み出せるんだなと思っていまして。みんなが困っている、課題だなと思っていることを解決しないまま、仕方がないものだと思ってそのまま仕事をしているケースはけっこう多いです。けれども、当社はITやデータを使って、解決しているケースが増えている。
解決策というのはまさにソリューションで、それを僕らはITで解決しているので、うちでやったモデルが実は他のところにも応用が効きます。自社の課題解決をしたら、実は社会課題の解決になっていて、解決策自体が事業になるんじゃないかということを、最近すごく感じています。いきなりDXで新しい事業というわけではないですが、ITと地域事業の相性は非常にいいんだなと思いますね。
宮崎:課題を解決した結果、コンサルティングサービスを提供し始めることができたというところなんですよね。おもしろいですね。九州地方のクライアントさまに多く広げているんですか?
柳瀬:いや、そんなこともなくて。関東や大阪など、そこは九州に限らずやっています。
宮崎:やはり(課題が)聞きやすい、小売業が多いですか?
柳瀬:小売とか飲食も多いですが、大学もありますね。
宮崎:大学ですか。
柳瀬:九州大学さんのIR室の仕組み作りも僕らがやっています。データを集めて分析するようなタスクがあるところは、使えるのかなと思っていますね。
宮崎:なるほど。IRに関しては大学で活きているんですね。
宮崎:今まではそういった新規事業を作られたと思いますが、さらなる新規事業の立ち上げは、今後どのように進めていかれますか?
柳瀬:次に取り組まなければいけないと思っているのが、CRMの活用です。データの活用として、CRMをもう少し小売業でもできるようにしていきたいと思っています。僕らは今のところ、個別のお客さんの識別がぜんぜんできていなくて。
宮崎:なるほど。
柳瀬:ID-POSがないので、何らかの方法でお客さまのIDを取って、購買履歴から「こういうものが売れるんじゃないか」と戦略を立てる。そうすると、その日の出たとこ勝負みたいな今の小売業の商売のやり方から、よりお客さまとのリレーションを深めて、ファンになってもらうことができるんじゃないかなと。
今までは人のつながりだけでやっていたので、非常に脆弱な体制だったんですが、それをデジタルデータでちゃんとロジカルにしていこうと考えています。
宮崎:売上に寄与しそうなところですね。僕もそこがすごく好きです。ID化できないような大量な顧客が来る業態において、いかに接客力を上げるのか、いかにIDで一意にするのかが非常におもしろいなと思っています。
そうすると、現場で刹那的な接客をずっと重ねるんじゃなくて、時系列的な接客ができるようになってくるんだろうなと思います。私もホームセンターによく行くんです。すいません、コーナンが近くにあるのでコーナンに行くんですが。
柳瀬:(笑)。
宮崎:例えば家の庭のガーデニングをしたいとなると、必要なものは時系列的に徐々に変わっていきますよね。そういうところをデータ側から一意で測定することによって、「この人、最近何かやっているよね」という情報が見える。
そこに「最近おもしろい金具が出てきて、これを使うと非常にいいですよ。ちょっと値段が高いんですけどね」という提案が来ると、「え、そんなものあるの? めちゃめちゃいいじゃないですか」という話になると思うんですよね。
柳瀬:そうですよね。端的に言うと、ECができているようなことをリアル小売業でできるようにならなきゃいけないという感じですよね。
宮崎:本当にそうですね。それこそデータの世界ですが、周辺地域にいる人たちのリピートがほとんどだと思うんです。その方々のグループ分けをする、客層のデモグラフィックをどうやって観測するのかによって、いろんなストーリーが作れるんだろうなと思います。
今、アプリを作っている大手のところも、おしなべて同じものが同じ季節に「安くなりますよ」という通知をするだけなので、非常にもったいないと感じています。
柳瀬:そうですね。小売業が取り組める範囲は本当に広いんですが、まだまだやっているところが少ない感じがしますよね。
宮崎:そうですね。例えばアプリはダウンロードするけれども、ポイントは楽天ポイントというケース。
「何をやっているんですか。データを取られているだけですよ」「完全にデジタル戦略の全体像が描けていないでしょ」というツッコミがあるので、とりあえずツールを入れればOKだよとか、ポイントが流行っているから入れましたとなってしまう。そういう話じゃないんだけどなと、各社のホームセンターごとに色を想像しておもしろいなと思っています。
柳瀬:そうですね。だから、ITやデジタルの経営戦略そのものに深く関与していかないと、意味がなくなってきている時代だと思います。
宮崎:間違いなくそうです。
柳瀬:トップの人がちゃんと理解している会社のほうが、プロジェクトを進めやすいですよね。
宮崎:そうだと思います。いやぁ。この話、もっと続きをしたいです。CRMでデータから出てくるインサイトを発見した時の喜びは、それが売上につながると、さらに「よっしゃ! 仕事楽しい」となりますよね。
柳瀬:意外と小売業にそういう人材はまだ少ないんですが、小売業と統計やデータの相性はいいなと思いますね。アクションをする現場が目の前にあるので、すぐに結果も出るからトライ&エラーをしやすいです。そして、データが貯まりやすい。
宮崎:本当におっしゃるとおりです。データが大量に日々発生し、かつ1日単位でPDCAを回せるのは楽しいだろうなと思います。
柳瀬:本当にそう思います。
宮崎:ありがとうございます。この話は、もっと続きをやりたいなと思いました。しかしながら、お時間をちょっと超えてしまいました。
柳瀬:すいません(笑)。
宮崎:非常におもしろい。もっとお話を聞きたいのですが、時間になってしまいました。今日のように、今後もいろんな方々に学びの多いお話をしていただく予定でおりますので、ぜひ奮ってご参加いただければと思います。
ファイナンス稲門会も入会ご希望の方は、ぜひご連絡いただければと思います。こういった企画を一緒に考えていくこともできると思いますので、やっていきましょう。Kaizen Platformさん、経産省、金融庁など、さまざまなDXの方々に来ていただきます。
最後に一言。今日聞いている方々は、当然DXに興味をお持ちの方々ばかりですので、一言伝えておきたいことがありましたら、お言葉をいただければ幸いでございます。それでは締めとさせていただきます。
柳瀬:うちの会社にもそういう(デジタル)人材はいなかったですし、私自身もDXという言葉がない時からデータ分析を始めて、5年から6年やって振り返ってみると、これがDXと言われている会社の変化なのかなと感じています。
まだ、みんなの前で胸を張って「DXできました」ということではないので、やることはたくさんあると思いますし、新しい技術やノウハウはどんどん今後も生まれてくる分野だなと思います。
私自身も日々学ばないといけないと考えていますし、いろんな人からのご意見やコメントは、我々の学びのきっかけにもなります。我々のやったことがみなさんを勇気付けることになればと思って、日々仕事をしております。質問やコメントがあればぜひお寄せください。今日はどうもありがとうございました。
宮崎:ありがとうございます。本日は貴重なお話を聞かせていただきまして、ありがとうございます。この続きの話は、ぜひまた別の機会でできたらと思います。
柳瀬:はい。ぜひぜひ。
宮崎:今回はこれで終了となります。ご清聴のほど、ありがとうございました。
柳瀬:ありがとうございました。
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