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ウマ娘 プリティーダービー 3DCGキャラクター事例~基本設計とウマ娘ならではの表現について~ (全2記事)

“ウマ娘”の魅力を最大限に表現するために かわいさ・スポ根・臨場感を実現する3DCGモデル仕様制定

Cygames Tech Conferenceは、「最高のコンテンツ」を目指してきたCygamesの技術カンファレンスです。『ウマ娘プリティーダービー』キャラモデル班からは、渡辺氏、本間氏、中野氏が登壇。モデル仕様制定や、ウマ娘らしさの追求におけるチームの取り組みについて発表しました。全2回。前半は、ウマ娘のモデル仕様について。

ウマ娘キャラモデル班の紹介

渡辺皇士氏(以下、渡辺):それでは「ウマ娘プリティーダービー3DCGキャラクター事例〜基本設計とウマ娘ならではの表現について〜」のセッションを始めます。ウマ娘たちを魅力的に表現するために、ウマ娘キャラモデル班が行ったモデル仕様制定や、ウマ娘らしさの追求といった取り組みの一部を紹介します。

本セッションの登壇者を紹介します。私は3DCGリードキャラクターアーティストの渡辺です。某大手ゲーム会社に十数年在籍して、多数のハイエンドゲームタイトルに関わった後、2018年にCygamesに入社して、ウマ娘プリティーダービーの開発に合流しました。3Dキャラクターモデル関連、全ての監修を務めています。

本間俊介氏(以下、本間):サブリードの本間です。アニメ制作会社でアニメーターを経験し、2017年にCygamesへ入社しました。ウマ娘プリティーダービーの開発ではキャラクターモデル制作や監修を務めています。

中野俊寛氏(以下、中野):サブリードの中野です。2015年にCygamesへ入社して、2017年からウマ娘プリティーダービーの開発に合流しています。現在はキャラクターモデルの制作や監修を務めています。

ゲームの世界観をさまざまなかたちで広げている『ウマ娘プリティーダービー』

渡辺:まずは『ウマ娘プリティーダービー』の概要から説明します。

ウマ娘プリティーダービーは、偉大な競走馬たちの名前と魂を受け継いだウマ娘たちが織り成す、クロスメディアコンテンツです。本セッションでは以降、「ウマ娘」と省略します。

ゲームは2021年2月にリリースされました。プレイヤーがウマ娘のトレーナーとなってトレーニングメニューを組み立てる本格的な育成ゲーム要素と、レースを勝ち抜いたウマ娘たちがウイニングライブでファンと喜びを分かち合うアイドル的なライブステージ要素も併せ持ったゲーム内容となっており、実在した競走馬のエピソードをキャラクターのストーリーとして表現することで、ゲームのみならずテレビアニメーションや漫画作品、リアルのライブイベントなど、ゲームの世界観をさまざまなかたちで広げています。

ウマ娘キャラモデル班の使命は「カッコかわいいハイクオリティなキャラモデルをつくること」

本セッションのアジェンダを紹介します。まず、ウマ娘のキャラモデル班の紹介をします。そのあとにモデル仕様の説明、ウマ娘ならではの表現の話をして、最後にまとめとなります。まずは私たち、ウマ娘キャラモデル班について説明をします。

ウマ娘における3DCGセクションはこのような構成になっており、私たちは(スライドを示して)ここのキャラモデル班に所属しています。キャラモデル班は具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか。

代表的な業務範囲としては(スライドを示して)このようになっています。キャラモデル制作、テクスチャ制作、スキニング、クロス(揺れもの)制作、ミニキャラ制作、プロップ(小道具)制作など、多岐にわたる物量を制作しなければならない私たちは、ウマ娘のキャラモデルを制作していくうえで大事な要素は何かと考えました。

キャラクターとしてのかわいさ、ライバルとお互いを認めつつも競い合うスポコン、レースやライブにおける臨場感。それらを表現するために4つの項目の表現を追求していきました。感情表現を表す表情、躍動感を表現する髪や衣装の動き、よりリアルな骨格や布の質感を表現する造形、臨場感溢れるレースを演出するための濡れ・汚れ。

それらを踏まえたうえで、ウマ娘キャラモデル班のミッションとは、「カッコかわいいハイクオリティなキャラモデルをつくること」です。かわいいのはもちろんのこと、レースやライブなどでのかっこいい姿、また、3Dのキャラクターモデルとして最先端でハイクオリティなモデルを作ることが私たちキャラモデル班の使命です。

理想を追い求めて都度アップデートをしてきた

ここからは、ウマ娘のモデル仕様について具体的に話します。基本仕様と一言で言ってしまえば簡単ですが、ウマ娘は定期的に更新されるスマートフォンおよびPC用のゲームなため、スケジュールに紐付いた運用に耐えうる効率化も考慮しなくてはなりません。そのうえで、キャラモデル班のミッションを遂行するための到達点のイメージが必要です。

限られたリソースで効率的に作ること、豊かな表現でモデルを見せること。つまり、基本仕様に対して、クオリティを担保しながら実装できる仕組みを入れることが重要となります。この項目では、全ウマ娘に対して同じ仕組みで実装するために、また、ウマ娘というキャラクターを表現するために私たちが取捨選択した、基本仕様の一部を紹介します。

基本仕様制定は容易ではありません。開発期間が長期化してしまうと、初期に制定した仕様で制作したキャラモデルを古く感じることがあります。画像のキャラモデルは開発初期の頃のもので、現在と見比べると各種の表現にかなり差があります。開発当時は衣服の揺れの動きも直線的な動きしかできず、かなり不自然でした。一度改善を試みましたが、それでもまだ満足のいく内容ではありませんでした。

開発期間中も技術は発展していきます。世の中の表現技術に追い付き、リリースした時にトレーナーの皆さんに十分に満足していただくためにも、都度アップデートを繰り返しながら開発をしなければいけませんでした。

理想を追い求めた結果、(スライドを示して)このようにウマ娘として追い求めていた理想的なクオリティのキャラクター表現が可能になりました。開発当時→現在。開発当時→現在。目元をはじめとした各種パーツの違いがわかるかと思います。

もちろん顔は正面だけではありません。3Dモデルとして多角的に調整していくことが重要です。また、衣服の揺れの動き方や衣服の形状、存在感などもより見栄えの良いものにできたかと思います。

モデルの基本仕様その1 モデルテクスチャ構成

本間:では、実際に今の過程を経て作り上げた、現在の基本仕様について紹介します。上からモデルテクスチャ構成、シェーディング、アウトラインの順に解説します。モデルテクスチャ構成から見ていきます。

まずはモデルの構成要素について説明します。1キャラクターの構成要素はこの表のとおりです。上から順に見ていきます。マテリアルは合計で6つです。ポリゴン数は、これらの合計で2万ポリゴン弱になります。骨数はキャラクターごとに異なりますが、共通部分では約160ジョイント使用されています。テクスチャは、合計でおよそ20枚使用しています。最後にウェイトのインフルエンス数です。1頂点あたりに割り当てられている骨数のことですが、こちらは2つです。

次にテクスチャ構成です。テクスチャではモデルの色、質感などを表現します。大きく分けて、カラーマップと制御用マップに分かれています。まずはカラーマップから紹介します。

アニメのような陰影表現をするために、ウマ娘のゲームでは2枚のカラーマップを使用していて、ディフューズテクスチャで通常色、シャドウカラーテクスチャで陰色を指定しています。2枚を見比べると、シャドウカラーテクスチャは全体的に暗めの色を使用し、そのうえで反射や2段階目の陰、いわゆる2号影などが足されています。また、単純に暗くするのではなく、パーツによって彩度や色相も細かく調整しています。

続いて制御用マップです。制御用マップはライティング、陰、光沢、形状、映り込みの調整に使用します。合計5つのチャンネルを確保するために2枚のテクスチャを用意しています。内訳ですが、(スライド)左の1枚目にはシャドウマスク、スペキュラマスク、カットオフマスクを格納しています。右の2枚目には環境マスク、リムマスクを格納しています。頭部と体では多少内訳が異なりますが、体では6チャンネルのうち5チャンネルを使用しています。

それではチャンネルごとの作用を見ていきます。シャドウマスクは文字どおり、陰をコントロールするためのマスクです。形状に即した陰影では、アニメ的な陰形状を表現することは困難です。また、ポリゴン数などの兼ね合いから、細かな陰影を表現するのも限界があるため、こちらのマスクを用いて補助します。

制御用マップの中では最もクオリティへの影響が大きく、テクスチャ作業の大半をこの調整にかけています。画像はマスク調整をする前と後の画像です。左が適用前、右が適用後です。右を見ると、シワや落ち影などが足され、臨場感が増しています。かなりアニメっぽくなったのがわかるかと思います。

次にスペキュラマスクです。スペキュラマスクはハイライトの表現に使用します。髪の毛のつやや金属類など、光沢感のある箇所に使用します。アニメ的なテイストでは、必ずしも物理的に正しいハイライトが望ましい結果を生むわけではないので、このマスクを用いて直接ハイライト形状を作ります。左が適用前、右が適用後です。画像では主に金の装飾に用いられています。金の装飾の質感が感じられる仕上がりになったかと思います。

次にカットオフマスクです。カットオフマスクは細かな形状を表現するのに使用します。一定の閾値を境に、描画する範囲としない範囲を分けることができます。例えばレースの穴や、細かな凹凸を表現するために使用します。これが適用前です。

そしてこれが適用後です。このテイエムオペラオーの場合、腰やマントの板状のモデルが切り抜かれ、装飾の立体が明瞭になりました。使用できるポリゴン数が限られる中、クオリティを追求するうえで非常に重宝されるマスクです。

環境マップは、光を反射する素材の環境反射を表現するのに使用します。スペキュラマスクと適用箇所が類似しているため、この2つを併用して見た目の調整をすることが多いです。角度に応じて、さまざまな表情を見せてくれますが、狙った見た目を作る時は扱いが難しい要素です。画像では、金の装飾部分に映り込みの反射が追加されているのがわかると思います。左が適用前、右が適用後です。金属部分に環境反射が足され、質感がより伝わりやすくなったかと思います。

最後にリムマスクです。これも名前のとおり、リムライトの適用箇所を制御しています。リムライトとは、逆行的な光のことを指し、立体感を強調するために使用します。ウマ娘のゲームでは、常にキャラモデルにリムを入れて、立体のシルエットを強調していますが、全ての箇所に入ってしまうと情報過多になるため、裏面や入り組んだ箇所をはじめとした、悪目立ちしそうな箇所を調整しています。画像では首元や脇の下などが該当します。

右が適用前、左が適用後です。適用前では、全体的にリムがくどく見えますが、発生箇所を限定することで画面全体のまとまり感が出ています。このように、ウマ娘ごとにライブの照明が変化したり、レースで環境が変わる際にも自然に見えるように各テクスチャの調整を行っています。テクスチャ構成に関しては以上です。

モデルの基本仕様その2 シェーディング

本間:次にシェーディングの制御に関する内容を解説します。シェーディングは、3Dの物体に対して、疑似的な陰影を付ける手法です。例として特に制御が複雑な頭部を解説します。基本の制御は、先ほど解説したシャドウマスクで行いますが、頭部ではより精度の高いシェーディング表現のためにさまざまな工夫を行っています。ここでは、さらに細かな陰影調整のためのディテール制御用のマップを紹介します。

頭部では、絵的なシェーディングを実現するためにディテールマスクというものを追加しています。主に頬、鼻のシェーディングを制御するために使用します。これは通常のシェーディングとは別に制御することが可能で、ライトの角度と組み合わせて補正をかけることで多様な陰の表現が可能です。また、頬と鼻の陰は個別に制御可能です。

最後に、ライトを動かした際の陰影を見てみましょう。調整する前は陰が歪んでいるのですが、ディテールマスクなどで調整することで、より絵的できれいな陰影になっています。このように、シェーディングではアニメ調モデルとしての自然さを担保するための調整をメインに行なっています。シェーディングに関しては以上です。

モデルの基本仕様その3 アウトライン

最後にアウトラインに関する内容を解説します。アウトラインはアニメ調の絵作りにおいて、とても重要な役割を持つ要素です。イラストで、線画にあたる部分です。上から、陰影との両立、アウトラインの調整、色の変化、の順に解説します。

基本的な仕組みですが、アウトラインは面を反転した上で法線の方向に膨らませたモデルを生成することで実現しています。アウトラインを膨らませると、法線の方向に沿って膨らんでいるのがわかるかと思います。

実際のキャラモデルで見てみましょう。髪のアウトラインを膨らませて線の太さを変えています。形状のシルエットに沿って膨らんでいるのでわかるかと思います。太いとよりポップな雰囲気になるので、そういったテイストを作るのもおもしろいかもしれません。

アウトラインをきれいに出すために、法線調整を行う必要があるのですが、法線はさまざまな影響を与えるので、アウトライン用の法線調整を行うと、シェーディングの見た目を損なう結果になってしまいます。

画像はアウトライン用の法線を使用した場合と、シェーディング用の法線を使用した場合の比較です。

シェーディング用では、アウトラインが所々途切れてしまっています。一方、アウトライン用の法線では、線はきれいに出ているものの、リムや陰影が乱れているのがわかるかと思います。このように、1つの法線では、アウトラインとシェーディングのクオリティを両立するのが難しいことがわかるかと思います。今回は解決策として、シェーディング用とは別にもう1つ、アウトライン用の法線情報をキャラモデルに用意することにしました。

大元のモデルにシェーディング用の法線を持たせ、アウトライン用の法線調整を施したアウトライン用モデルから、大元のモデルのUVsetの中に移し替えることで、それぞれに適した法線情報を両立させました。

陰影との両立方法がわかったところで、続いては実際の調整方法について説明します。アウトラインの調整ですが、直接法線の角度を調整していきます。自社ツールなどで、ある程度効率化は行いますが、基本的には地道な手作業です。髪の束など、面が急激に切り替わる部分などは特に調整が必要です。前髪の線にご注目ください。左の調整前の画像では、前髪の線が途切れてしまっていますが、右の調整後の画像では前髪の線がはっきりと表示されています。

最後にアウトラインの色です。アニメ調で利用される表現に近づけるために、アウトラインの色はシーンごとの演出に合わせて色を変えます。オグリキャップが、オーラを発した瞬間のアウトラインの色に注目してください。変化がおわかりいただけたでしょうか。並べて見てみます。比較すると、アウトラインが白く発光したような見た目に変化しているのがわかるかと思います。

アウトラインの色はディフューズカラーと指定された色を混合することで色味を制御しています。スキルカットなどの演出時には、合成色、ブレンドの割合、合成方法などを変更します。動画では髪の毛のアウトラインカラーが遷移しています。このようにアニメ調に見せるために、アウトラインの設定はキャラモデルの中でも非常に重要な役割を担っています。アウトラインに関する解説は以上です。

まとめです。基本仕様に、ミッションと運用のバランスを担保できる仕組みを入れることで、ハイクオリティを実現しています。モデル&テクスチャ構成、ウマ娘の基礎的なルックを構築するために必要なレギュレーションの制定をしました。シェーディング、ディテールマップを使用した精度の高い陰影表現を実現しました。アウトライン、シェーディングとの両立や、より動的で豊かな演出に耐え得るアウトラインの仕組みづくりのお話でした。モデルの基本仕様の解説は以上です。

(次回へつづく)

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