2024.10.10
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ユーザー中心のデザインプロセスが社内に浸透するまで(全1記事)
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猪爪雄氏:マネーフォワードの猪爪です。「ユーザー中心のデザインプロセスが社内に浸透するまで」というテーマで話します。2019年の夏に社内でサービスデザインの勉強会を開催しました。それからいろいろあって、プロダクト開発プロセスのスクラムというフレームワークの中にデザインの手法を組み込んだ“ユーザーフォーカススクラム”というフレームワークを作り、現在さまざまなプロダクトで活用が進んでいます。
本日は、ユーザー中心のデザインプロセスを浸透させるために、私がマネーフォワードで取り組んだことを、できるだけ具体的に紹介したいと考えています。HCD(Human Centered Design)やサービスデザインなどの方法論を社内に浸透させたいと思っている方、プロダクト開発のプロセスにユーザーリサーチなどユーザーを理解する手法を取り入れたいと考えている方。
そのほか、社内に複数のプロダクトがあり、その開発プロセスがそれぞれ独自の方法を持っているため、チームでの知見の共有がうまくいかない方。さらに、そもそもどのようにプロセスを変えていけばいいのか悩んでいる方の参考になればうれしいと思います。
自己紹介をします。マネーフォワードビジネスカンパニーデザイン部副部長兼デザイン戦略室に所属している、猪爪です。2012年に株式会社スポットライトというスタートアップで、来店ポイントサービス「スマポ」のデザインを担当していました。
その後、2018年に仮想通貨取引所のデザイナーとしてマネーフォワードに入社し、現在はバックオフィス向けSaaSプロダクト「マネーフォワード クラウド」を運営するチームで幅広いデザインに携わっています。
マネーフォワードの紹介をします。創業は2012年。現在は社員数が1000名を超える規模(の会社)になりました。
ミッションは「お金を前へ。人生をもっと前へ。」です。私たちはお金と前向きに向き合い、可能性を広げられるサービスを提供することで、ユーザーの人生を豊かにして、よりよい社会作りに貢献していきたいと考えています。
ビジョンは「すべての人の『お金のプラットフォーム』になる。」ことです。
(スライドを指して)VALUEと書かれている行動指針には、User Focus,、Technology Driven,、Fairnessの3つがあります。
User Focusは、常にユーザーの本質的な課題を理解して、ユーザーの想像を超えるソリューションを提供し続けること。Technology Drivenは、テクノロジーの力をサービスに活用してイノベーションを起こし続けること。Fairnessは、ユーザー社会・株主社会など、すべてのステークホルダーに対してフェアかつオープンであることを誓っています。VALUEの1つにUser Focusがあるように、ユーザーと向き合うことを、とても大切にしている会社です。
マネーフォワードはさまざまな領域でさまざまなサービスを取り扱っていますが、主要なプロダクトは家計アプリの「マネーフォワードME」と、バックオフィス向けSaaSの「マネーフォワード クラウド」です。
また、新規事業やM&Aにより、事業領域を拡大しています。(スライドを指して)今回はこの図の中から、マネーフォワード クラウドを運営する組織の中で、ユーザー中心のデザインプロセスが浸透するまでの話をします。
マネーフォワード クラウドは、さまざまなステージの企業や個人向けに、いろいろなプロダクトを展開しています。個人事業主には確定申告、企業には会計サービス、ほかにも請求書、経費、給与など、さまざまなプロダクトが内包されているようなサービス群になっています。
会計など、プロダクトごとにチームが存在し、それぞれのスモールチームが権限を持ち、ユーザーの課題解決に向き合っています。(スライドを指して)2021年は、ここに書かれていないものも含めると、大小合わせて10程度の新規プロダクトをリリースしました。複数の新規プロダクトや既存プロダクトが混在し、さまざまな規模とさまざまなフェーズのプロダクトがあることが特徴としてあげられると思います。
事業指針は「ココロを動かすクラウド」。目指しているのは、人が動かす“あたたかいクラウド”サービスを作ることです。業務を効率化すること、便利にすることを超え、ユーザーが使うたびにワクワクできるようなサービスを作っていきたいと考えています。
その「ココロを動かすクラウド」を実現するためには、ユーザーを理解することがとても大事だと考えています。ただ、それに対しては、数年前には大きく2つの課題がありました。
1つは、「リサーチできない」こと。当時はまだマネーフォワード クラウドのデザイン組織ができたばかりで、プロダクト数に対してデザイナーが足りていない状況でした。そのため、UIデザインを作ることで手いっぱいになっていました。そして、実際にリサーチの経験も不足していたため、すごく時間がかかり、なかなか定期的なリサーチができない状況でした。
2つ目の「ナレッジが蓄積されない」は、社内に土台となる、みんなが共通して使えるプロセスがなかったため、新規プロダクトが立ち上がるたびに、新しいチームがそれぞれ独自の手法で開発プロセスを構築していました。そして、目の前のユーザーやサービスの提供に向き合う中で、プロセスに関する知見共有の優先度が下がりがちという課題がありました。
そこに対して、ユーザーを理解するための仕組みを整備し、さまざまなプロダクトが活用しやすい環境づくりを行いました。そして、そのスクラムを“ユーザーフォーカススクラム”と名づけ、現在も運用を続けています。
この“ユーザーフォーカススクラム”は、マネーフォワードのVALUEである行動指針の“User Focus”とアジャイル開発手法である“SCRUM”を合体させたものです。
ニーズの発見とサービス提供を交互に繰り返すようなプロセスを経ることで、最短・最速で精度の高い解決策をユーザーに届けることを目指しています。(スライドを指して)左側のニーズ発見フェーズでは、ユーザーを深く理解して適切な解決策を発見していきます。右側のサービス提供フェーズでは、素早く開発して、プロダクトや機能をユーザーに届けることを目指しています。
フレームワークを整備してから現在まで1年半ほど経ち、今はさまざまなプロダクトでの活用が進んでいる状況です。(スライドを指して)こちらに表示されているものは一例です。
取り組みの一例を紹介します。この“ユーザーフォーカススクラム”を考案した際に、社内向けドキュメントを整備したりMiroを活用したりすることで、さまざまな人が情報にアクセスしやすい環境を整備しました。この影響もあって現在は、ユーザーフォーカス・スクラムを活用したい人が、簡単にプロダクト開発に取り入れられる状況まで持っていくことができました。
(スライドを指して)こちらが具体的な手法の一例です。左上から紹介します。ステークホルダーマッピングは、今後開発を進める上で、社内外の関係者を洗い出して整理します。ペルソナは、どんな会社にいるどんな人なのかについてN=1の解像度を高めます。
サービスブループリントは、利用者とサービスの流れを整理します。カスタマーレターは、サービスをリリースしたあとユーザーから届いてほしい手紙を事前に書いて、世の中にどんな影響を与えたいのか、ユーザー視点で考えています。
ユーザーストーリーマッピングは、開発するプロダクトを活用した際のユーザーの行動を視覚化します。
プロトタイピングは、UIプロトタイプを素早く作って壊し、開発するプロダクト像を描きます。このような手法を積極的にスクラムの中に取り入れることで、ユーザーの理解を促進しています。ここまでが“ユーザーフォーカススクラム”の概要です。
ここからは、このプロセスをどうやって社内に浸透させてきたかの話をします。フェーズ1から4に分かれており、特にフェーズ1はかなり初めの一歩なので、どうつながっていくかわからない部分もあると思いましたが、初めの一歩目をどう踏み出せばいいかわからない方もいると思うので、この話から始めたいと思います。
まず、フェーズ1「ワークショップ」です。2019年の夏に社内でサービスデザインの勉強会を開催しました。その参加者から自分の仕事にもサービスデザインを活用してみたいという相談を受け、仕事の合間に活用しやすいように数時間程度のワークショップを開くことにしました。
(スライドを指して)当時のワークショップの流れがこちらです。まず、右上の「現状体験の可視化」からユーザーの体験を視覚化して、次にその体験をもっとよくするアイデアを考えたあと、実現可能性を加味しながら理想的な体験を考えました。そして最後に、プロトタイプを活用してどんどんかたちを明確にするという流れで、いろいろなチームと連携しました。
(スライドを指して)これが実際のワークショップの写真です。左側が人事企画(もしくは)人事と一緒にやった、従業員の満足度を高める方法を見つけるためのワークショップです。真ん中が社内で実施したビジネスモデルコンテストのアイデアを創出するためのワークショップです。右側が実際のプロダクト開発の現場でも活用したもので、ここから「マネーフォワード クラウド会計Plus」というサービスのリリースにつなげられました。
このワークショップの体験から学んだことの1つ目として、最初にサービスデザインの勉強会をやらなければ、興味を持ってくれている人がいることを知って、一緒にワークショップを開催することにはならなかったと思っています。自分たちのことを知ってもらう活動をすることで、興味を持った人が声をかけてくれることを肌で実感できました。
2つ目は、ワークショップを実際にやってみると、体験をベースに解決策を考えることでアイデアの精度が向上します。3つ目は、ワークショップという日常とは少し異なる環境、心理安全性の高い環境がおもしろいアイデアにつながることを学びました。
最後に書いてある、「役割の壁を超えて、行動すると新しい道ができる」という1文。実は当時、この活動自体は私に期待されていた役割と少し異なっていましたが、なんとかスケジュールを調整して、いろいろなチームをサポートしていました。
すると、マネーフォワード クラウドのチームからその取り組みを我々の本部で活用してほしいと相談があり、異動することになりました。役割の壁をなんとか乗り越えると、また新しいチャンスが生まれるところも、この活動をとおして学んだおもしろいポイントです。
フェーズ2の「スプリント」について説明します。マネーフォワード クラウドのチームに異動したあと、UXリサーチをしたりチームマネジメントをしたり、忙しい日々を過ごしていました。そんな中、2020年頭に新規プロダクトが立ち上がることになり、そのデザインを担当することになりました。
当時担当したプロダクトは、電子帳簿保存法に対応したオンラインストレージサービス「マネーフォワード クラウドBox」です。すごく簡単にサービスを説明すると、GoogleドライブやDropboxのようなストレージサービスです。
プロジェクトに参加したのは、ちょうどこれから企画を考え始めようというタイミングだったので、短期間で誰にどんなプロダクトを提供するかを決めるためにデザインスプリントを活用しました。(スライドを指して)デザインスプリントの流れはこうです。
まず、どんなことをデザインスプリント内で実施するかを計画して、ドキュメントを準備しました。次に、前提条件の整理として社内インタビュー、制約条件の理解、法制度の理解などを行い、調査した内容をもとに現状の可視化につなげました。5W1Hで整理したり、ユーザーの行動や感情を可視化したりしていました。
そこから、アイディエーションフェーズで理想体験を可視化して、ペーパープロトタイピングなどを描いていきました。最後に、完成したプロトタイプやインタビューシートを持って実際にお客さまを訪問し、インタビューを実施。仮説が間違っていた場合は、すぐに改善して次のインタビューに臨むことを繰り返して、精度を上げていきました。
(スライドを指して)こちらがその時の写真です。新卒2年目のエンジニアがメインの開発チームでしたが、デザインスプリントを活用したことで、素早く対象領域の理解度を高めることができ、精度が高いプロダクト開発につなげることができたと考えています。
このスプリントをとおして学んだことの1つ目は、デザインスプリントを活用することで、短期間でも効果的にユーザー理解を深めることができること。2つ目は、体験を視覚化することで、どこにどんなペインがあるのか、どのペインを優先的に考えるべきなのか、チームが見落としている穴がないのかを幅広く見ることで、企画をスムーズに進めやすくなったことです。
3つ目は、プロトタイプや体験の視覚化などの全工程をエンジニアと一緒に進めましたが、開発チーム全員でユーザーを理解する活動をとおして、自分たちが作るプロダクト像のイメージに対する共通認識が持てました。なぜこのプロダクトを作らなければいけないのかを深く理解し、圧倒的に高い当事者意識を持ってプロジェクトに関わることができた点が、とてもよかったです。
4つ目は、かなり早い段階でユーザーインタビューを実施しましたが、それによって自分たちが「こうではないか」と考えていた前提が、何度も壊れるような体験をしました。その体験を通して改善を繰り返すことで、プロダクトを進化させることができたと思います。ここから、ユーザーインタビューは早めにやったほうがいいことを学びました。
ここからはフェーズ3の「スクラム」について話します。先ほどのデザインスプリントをしていた中、「マネーフォワード クラウド確定申告」をリニューアルすることになりました。ちょうどスクラムマスターが育休に入っていたので、戻ってくるまでの間、私が代理でスクラムマスターを担当することになりました。
当時考えていたこととして、デザインスプリントやワークショップはとてもよい手法ではあるものの、忙しくなると後回しになりやすかったり、単発で終わったりしがちだと思っていました。さらに、デザインチーム内でデザインのプロセスを整備したいという意見が上がっていましたが、デザイナーのプロセスだけを整備するのではなく、開発とスムーズに連携ができるプロセスを作りたいと考えていました。
また、今後も複数の新規プロダクトが立ち上がる計画がある中で、チームごとにプロセスを考えるのではなく、マネーフォワードらしいデザインのプロセスを作り、そこにナレッジを蓄積していきたいという想いがありました。
そこから、これまで培ってきたデザインの力とスクラムを融合させたフレームワークを考え、スクラムマスターという、チームにスクラムを導入する役割を活用して開発チームに“ユーザーフォーカススクラム”の導入を進めていきました。
フェーズ4の「横展開」です。“ユーザーフォーカススクラム”というフレームワークを整備したことで、それから1年半の間にさまざまなプロダクトで活用が進みました。
よかった点は3つあります。1つ目は、さまざまなチームが活用しやすい環境ができたこと。2つ目は、同じフレームワークを使うことで、ナレッジを参考にしやすい環境作りができたこと。3つ目は、開発プロセスにデザインを組み込んだことで、デザイナーと開発チームとの連携がスムーズに進んだことです。
今後もっとよくしていきたいと考えている点。1つ目は、より多くのチームが活用できるような環境を整備したい。2つ目は、このプロセス自体をより効率的に改善するために、プロセスの評価方法を整備したい。3つ目は、以前よりもナレッジの横展開が進んでいますが、もっとナレッジの横展開を活発化できる方法を考えていきたいと考えています。
最後に、プロセスを浸透させるためのポイントを紹介します。1つ目が、小さく始めること。最初からスクラムにデザイン手法を加えようとしてもうまくできなかったと思います。ワークショップから始めて、どんどん活用して少しずつ成功体験を積み上げたのがよかったと考えています。
2つ目が、未来から逆算すること。実は、このプロセスを作る前に、デザインチームの年間計画を立てていて、その中で人材採用とメインプロセスの確立が必須の課題でした。そのため、スプリントやスクラムなどを積極的に利用して、プロセス作りに力を入れてきました。このように未来を描くことで、今何に注力すべきかを考えることができると思います。
3つ目が、周りを巻き込むこと。プロセス作りは、1人では進まないと思います。周りの人を巻き込むこと、周りの人が入りやすい環境を作ることでいろいろな人が助けてくれました。
4つ目が、フィードバックに真摯に向き合うこと。新しいことを始めると、うまくいかないことがたくさんあると思います。その中で、周りの人の言葉に向き合い、きちんと理解してネクストアクションを改善していくことが大事でした。
最後は、楽しく取り組むこと。エモーショナルな話になりますが、人生は一度きりなので、自分が楽しいと思うことや、やりたいと思うことに真摯に向き合う。そうすれば粘り強く続けることができるし、いろいろな工夫が生まれると思っています。
最後に、以上のようなプロダクト作りをしている方で興味がある方がいれば、MeetyでもTwitter経由でも構わないので、声をかけてもらえるとうれしいです。東京だけでなく名古屋・京都・大阪・福岡でもさまざまな職種を募集しています。
マネーフォワードは、複数のスタートアップが同じミッションに向かって進んでいるような、とても面白い会社です!興味を持っていただいた方は気軽に声をかけください。私からの発表は以上です。
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