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日本発自動運転EVスタートアップはどうやってTeslaを超えるのか 「Ponanza」作者が描く完全自動運転車の未来(全2記事)

“勝算0.1%”は挑戦しない理由にならない 将棋プログラム「Ponanza」作者・山本一成氏が今自動運転をやる理由

国内外の自動車メーカーが注力している自動運転技術ですが、現状では、運転手のアシストが必要なレベル3程度の車がせいぜいで、レベル5となる完全自動運転の車には程遠い状況です。 そこで今回は、青木俊介氏とともに自動運転EVスタートアップ「TURING株式会社」を立ち上げた山本一成氏に自動運転の未来についておうかがいしました。後半は、自動運転実現のために必要な技術と、社会実装における課題について。前半はこちら。

自動運転特有で必要になるもの

――将棋とは違って自動運転特有で必要になるものはあるのでしょうか?

山本:将棋もけっこう思ってもみなかったことが起こるんですよ。人間にとっても知らない局面はいっぱいあるから、ルールどおりだからといって、見たこともない展開にならないわけじゃありません。

ただ、将棋に関する全部のことはコンピューター上で再現可能です。自動運転の場合、道路上で起こるすべてのことをコンピューターの中でエミュレートするのは、がんばっている人もいるのですが、不完全ですね。

実際に走行データを取ってきて、それをコンピューターに勉強させる仕組みをきちんと作るのは難しいです。

――なるほど。TURINGは車の中の知能の部分だけではなくて、外側のハードな部分も併せて作るとされているんですか?

山本:しています。それはとても簡単な理由で、逆説的ですが、完全自動運転ができるのであれば、それは車を作らないともったいなくないですか?前人未到の完全自動運転ができるのであれば、それは乗っけないのは損でしょうという、ある意味単純な話です。少なくとも日本は作れますよね。

――将来的には、大手企業と協力して車を作るのでしょうか? それとも完全オリジナルなるものを作るのでしょうか?

山本:もちろんそのへんは、オプションとしては当然あるべきだと思っています。ただ「トヨタさん買収してくださいよ~」みたいな顔していたらたぶんダメなんだと思う(笑)。

――ダメというのは?

山本:自分たちで全部やっていくという気概は大事です。だってTeslaを超えるんでしょ。って思っています。もちろん大手企業との協力体制は将来的にはあり得ます。可能性をわざわざ捨てるようなことはしていません。

ただ、例えばモーターとインバーターは作れるし、バッテリーもどこまでコモディティ化するかはわかりませんが、作れるんじゃないかな? こんなことを言うと怒られるかもしれませんが(笑)。

でもファクトとしては作れるはずです。冷静に考えると自動運転よりは簡単なはずです。なぜかというと今あるものだから。難しさの性質は違いますけどね。できるはずです。

――いつまでに完成させたいと思っていますか?

山本:2025年までにはハンドルがない車を公道で走らせたいなと思っています。

現代社会で移動の自由がない人々に訴求をしていきたい

――自動運転の実現によって、私たちの生活はどう変わると思いますか?

山本:まず、自動運転が誰にとって幸せかという話ですが、今は運転できている人を仮に運転強者と呼ぶのであれば、彼らにはそんなに刺さらないかもしれません。そもそも運転は楽しいですからね。私も運転は好きです。

一方で運転が苦手な人、今できない人にとってはどうでしょうか。この間、足の不自由な先輩の車に乗せてもらったのですが、足が不自由な場合、非常に苦労がありますよね。

ほかにも、日本の文脈でいうと、地方に住むお年寄りの方々。あるいは、未就学児。彼らには移動の自由がないわけじゃないですか。気軽に移動したくても、そのオプションが今はないんですよね。なので、彼らこそが一番の潜在的なお客さんなのかなと思っています。

自動運転車があるとなにがいいかというと、でかける時にあまり深く考えなくてもでかけられることなんですよね。タクシーだと大変じゃないですか。田舎では30分前に呼んで、来るかなぁと待って、来たから乗ってみたいな。自動運転車が実現すると、今まで気軽に移動できなかった人たちが移動できるので、そういうのがなくなります。

この社会の中で、特に運転という枠組みにとらわれない人たちに対して、もっと訴求できればなと思います。忘れちゃいけないテーマかなと思いますね。

自動運転以外禁止の社会実現にはまだ時間がかかる

――自動運転が実現した時に、社会は自動運転だけになるのか、それとも人間が介在する車と共存していくものなのでしょうか?

山本:直近では共存することになるでしょう。リサーチャーの人がよく、完全に自動運転になれば信号機も全部消せる、みたいなことを言っているのですが、信号機を消すというのは、つまり車と車、あるいはインフラと車がコミュニケーションすることで交差点の信号機が消えるという話です。

止まらずに交差点をヒュッヒュッとリアルタイムで移動できるという夢物語を描くんですが、社会のインフラはそんなに簡単には変わりません。10年ではたぶん変わらないと思いますよ。だって、10年以内に今の現行の車は廃止ね、という話にはならないですから。

だからかなり時間がかかると思います。「自動運転以外は禁止」は、あり得るとは思いますが、それこそ悪い意味でのエポックメイキング的なことが起きない限り、とても時間がかかると思います。

自動運転の対義語として手動運転があるのであれば、手動運転が毎年たくさんの交通事故を起こすのに、一方で自動運転はぜんぜん起こさない。例えば、年2件対年3,000件みたいになってきたら、変わるかもしれないですね。

自動運転が実現すれば人間はそれを受け入れる

――例えば「ゆりかもめ」は電車なので、そもそも自分が運転できないことがわかっているから、自動運転であっても違和感があまりなく、身を任せているところがあると思います。一方車だと、現時点で運転ができている人がいます。これが完全に自動運転になった時に、人々はどんな反応をすると思いますか?

山本:あーだこーだ言うんじゃないですか? 将棋と一緒ですよ。あーだこーだ言うけど、慣れてしまえばあっという間に忘れますよ。

――将棋の時もやっぱりあったのですね。

山本:そうですよ。将棋の時もいろいろありました。将棋が強い人は、将棋の世界にとっては神様と同じなので、一番強い言葉を使うと、私は神を殺した人間です。でももうみんな、それを忘れています。

人間にはすごくいいところがあって、今を受け入れるようになっているんですよ。今この瞬間を受け入れるようになっている。それを別の言葉で一番意地悪に言うと、すぐに手のひらを返すというか(笑)。

自動運転に関しては、誰もが批評家になるんです。なぜかというと、なんとなく話すのが楽しいから。とはいえ、実際にできてしまえば、別にそんなもんでしょとすぐに忘れますよ。

自動運転をUXとしてどうユーザーに表現していくかが課題

――無人電車や飛行機も乗ってしまえば便利だと思うのですが、それらが登場した当時は怖くて乗られないという人ももちろんいたと思います。体験しないとわからない、みたいなハードルがあるのかなと思うのですが、そう考えると、自動運転車が一般的になるためには体験が必要になるのでしょうか。

山本:それはもうちょっと自動運転のUXの話で、表現がうまくできるかどうかの問題だと思っています。Teslaは技術の側面ばかりがフォーカスされますが、UXとして優れているところが偉大だと思っています。

どういう表現をするかが、自動運転の文脈では大事だと思っています。例えば、将棋においてはAIが勝率を分析して、対局時にスコアバーで勝率表示をしていますが、あれは自動運転の表現例として発明だと思います。自動運転そのものの信頼度もありますが、自動運転をどういうふうにユーザーにUXとして表現するかというのは、とてもおもしろい課題だと思っていますね。

ハンドルがない車はどう表現したらユーザーにとっていいんですかね。私もまだわからないんですよね(笑)。

未来から見ると絶対に正しくない現在

――今のところ実現しているのはレベル3で、人が介在しないとダメですが、TURINGは、ハンドルがない車、つまり最終的には人がぜんぜん運転に介在しないところを目指しているのですね。

山本:だって後世から見たら、人間が動かしているのは鉄の大きな塊ですよ。今は絶対未来から見ると正しくないです。これは間違いない。だって2、30年前までセクハラという単語があったかどうかとか、みんなそこらへんでタバコ吸っていたりとか(笑)。すごい時代ですよね。でもこれもほんの2、30年前の話ですよ。当時はスマホなんてなかったんですよ。

あとから見れば現在はぜったい否定されます。50年後から見たら、人間がこんな鉄の塊を普通に運転していて、わりとよくミスして無関係な人が死んでいたという話、そしてそれを社会が受容していたというのは、ちょっと想像を絶するものだと思いますよ。

それを自動化しようとしたらなぜか反対する人がいっぱいいた、と言ったら、なんのために反対していたの? と意味がわからないと思いますよ。

今の時代を彩っている技術の奇跡に日本はぜんぜん介入できていない

――日本で車を量産するうえでは、車本体の審査があって、それがなかなか通りにくいと聞いたことがあるのですが、そこに対してのなにか施策があるのでしょうか? あるいはこういうところは日本も直すべきという話なのでしょうか?

山本:まだ法基準はきちんと見えていないですねぇ。国交省といろいろと話さなきゃいけないかもしれません。そもそもハンドルがもしなかったらどうするのか、なにも決まっていません。

ちょっと私の妄想も入っているかもしれませんが、この分野に対して邪魔したい人なんて誰もいないんですよ。なので、正しくやれば必ず道は開けるのかなと思っています。

経産省の人ともこの間話したんですが普通に困っていた。誰かやってくれないかって(笑)。

――それもこれから話し合いでいろいろと進めていく感じなんですね。

山本:そうです。摩擦ゼロというわけにはいかないと思いますが、本当に大きな話をするとこれは時代の流れなので。官僚の人たちも、逆に国内メーカーを全部止めて海外からの輸出オーケーですよとはしたくはないじゃないですか。それだけは嫌じゃないですか。

――なるほど。ただ、人によっては、海外のものを輸入して、それを日本で売ればいいんじゃないの? と思う人たちもいると思います。山本さんは、やっぱり日本発であるべきだと思っていますか?

山本:人類が勝っていくなら別に輸入でもいいじゃん、という話はわからなくはないんですよね。別にそれはそれでいいんですよ。

ただ、日本はリソースがいっぱいあって、頭のいい人がいっぱいいるのに、今奇跡になんの介入もできていないじゃないですか。例えば私たちがオンラインで話しているものとか、iPhoneも奇跡の塊じゃないですか。パソコンやスマホの中にどれくらい日本製があるかと考えると、結局今の時代を彩っている技術の奇跡に、日本はぜんぜん介入できていないんですよ。

自動運転なんて奇跡の塊じゃないですか。その奇跡にまったく介入できなくなるのは、逆にいいんですか? という話なだけです。私は嫌です。

「競合を超える可能性が0.1パーセントしかないからやらない」は挑戦しない理由にはならない

――Teslaを超える、「We overtake Tesla」のところですが、超えられる可能性は十分にあり得ると思っていますか?

山本:客観的に0.1パーセントくらいじゃないかなぁ。0.1パーセントから1パーセントくらいじゃないですかね。強気ですよ(笑)。でも、0.1パーセントならやらない、という選択肢をしてきた結果が、今の日本だと思います。

――0.1パーセントあればやるべきだということでしょうか。

山本:やるべきかどうかは価値判断になるので、私は強制はできませんが、ただ今日本がこうなっているのは、みんなが0.1パーセントしかないからやらないと言った結果ですよ。それは間違いない。

青木さんも私も、言葉を濁さなければエリートです。普通に生活していれば普通に幸せなんですよね。スタートアップというのは、少なくとも短期的には不合理な選択なんですよ。青木さんなんて、ほっといたらどこかの旧帝大の教授くらいにはなれましたよ。もうなれなくなっちゃったみたいな言い方は良くないかもしれませんが(笑)。

私は、HEROZ株式会社で1回上場を経験しています。なので、別に自分がもうちょっと幸せになるような小遣い稼ぎはしないでおこうと思っているんですよ。どう表現すればいいかはわからないですが、ちょっといい感じにやって、ふっと上場するのはやめるんですよ。それはよくない。

Teslaを超えるのは、常識的に考えると無理です。ただ、そういうことを言わないと、結局みんなが不幸せになっている。つまり今の日本の環境は、個々人が最適戦略をしてしまった結果、大域的には最適ではない結果になっている。

みんなが目の前の小さな良い選択肢を取ることによって、みんなが損していますよね。Teslaを超えるというのは、そういうことをしないように。小さく落ち着かないようにといつも思っています。なので、スマートな感じのAIスタートアップがちょっと上場してうまいことやりましたみたいなちっちゃいことはやめます。

――そういう意味で言うと、自動運転はまだとりかかっていない部分が多いので、まだこれからという感じですか?

山本:だってTeslaもどうすればいいかは迷っていますよ。だからやるんです。

――だから挑戦する。

山本:もちろん。勉強はしないとね、というのはありますけど。

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