2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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福島智史氏(以下、福島):宋先生がさっきおっしゃっていた、こういう状況になっても子どもを作りたいというのは、意志の部分と本能的な部分のミクスチャーがあるところだと思っていて。先生が向き合っていらっしゃる患者さんって、理性の部分のコントロールもけっこう効くような患者さんが多いんじゃないかなと思うんですけど。
今みたいな議論って、患者さんにとっても少し不安が和らいだり、前向きに社会を作っていきたいと思うきっかけになったりするんでしょうかね。
宋美玄氏(以下、宋):どうですかね。今の議論を聞いていて、やっぱりテクノロジーだけで解決できない部分がすごく多いのかなと思います。今はフェムテックとかのヘルステックがすごく流行っているんですね。
これは高橋さんがどう思うかあれなんですけど、女性のほうがよりそういうテクノロジーとかへの割り切りが少ないのかなと思うんですが。我々医師の「ホルモンとか月経とか更年期は、理論上こうすると解決できます」みたいな説明よりも、ピアカウンセリング的な、お互いが共感し合うコミュニティのほうが圧倒的に主流というか、ニーズがある感じなんですよね。
コロナ中に子どもを産む・授かるとかもそうで。私は今、もうすぐ10歳の子どもがいて、東日本大震災直後の妊娠なんですね。そういう時は、「今、次世代を生み育てる責任とかって果たせるの?」みたいな感じがあるんですけれど。そういう理屈じゃない、もっと深い部分にワーッて突き動かされて行動するのが人間なのかなと、今の議論で思ったんです。
高橋祥子氏(以下、高橋):そうだと思いますよ。ほとんどの人は情報だけではそんなに興味が乗らないので(笑)。どちらかというと、そこに自分の感情を乗せられて初めて、自分の中に入っていくということだと思うので。育児とか出産に関しても、良くも悪くも感情論がものすごく多いなと思うんですよね(笑)。
「根性で母乳を出す」みたいな話とか(笑)。でも、それは認知の問題と、ちゃんと共感を作っていくという、コミュニケーションの仕方の問題もあるかなとは思いますよね。
福島:そうですよね。まさにコミュニケーションのところこそ、意味づけができる。権威づけによって意味づけを聞いてもらえるようになるのかなと思っていて。中尾さん、宋先生がおっしゃっていたように、ドクターの話って比較的聞いている方にインストールされやすくて。「確かに、先生が言っていたからこうなのかも」という認知があると思うんですけど。
そこって薬剤師や看護師さんとか、医療に携わるもう少し広範なプレイヤーにも意味づけのサポートをしてもらうことは現実的に可能だったり、そこにテクノロジーがサポートできることはあると思います?
中尾豊氏(以下、中尾):そうですね。さっきのテーマにもなるんですが、むしろそれ(テクノロジーなどのサポート)が必要だと思っていて、今やりながら感じているところでもあります。さっきのお二人の話を聞きながら、あすか会議なので、逆の意見を言おうかなと思っていたんですけど(笑)。
福島:あはは(笑)。
中尾:逆に不安がある方だからこそ、テクノロジーが入れる余地もあるかなと思っていて。例えば不安を解消するような情報が自動的にテクノロジー上に入ってくると、それを見る機会が増えるし、宋先生がおっしゃっていたような、同じような不安を持つ方のコミュニティが生まれると、不安が解消される。
そのコミュニティもオンライン上でできるかもしれないし、さらに自分の行動を変化させた時に行動の変化がトラックされ、情報が見える化されると、認知に変わると思うんですよね。
認知が変わると、(高橋)祥子さんがおっしゃっていたような自分のもともとの不安が、「違うんだ。こっちでも大丈夫なんだ」と安心感に変わり、また行動が変わって習慣化されると。そこにはテクノロジーが入る余地があるなと僕は思っています。
一方で、ご質問の薬剤師や看護師がそこの部分で活きるのかについては、確実に活きると思っていて。医師ができることと薬剤師と看護師ができることは、おそらくコアバリューが違うと思っています。判断や診察は、医師がもちろんトップですが、その判断をするための情報を薬剤師から医師に提供することもある意味、価値につながりますし。
さっき言った話に戻っちゃうんですが、誰がどの薬をなんで飲めていないのか、そしてそれをどう解決するのか、「飲み方をこう変えたら、より飲みやすくなるよ」といったところとか。医師はそこまでしきれないし(笑)。「そこは薬剤師やってくれよ」って話もあったりするので。
そういったところへの介入は薬剤師も求められるし、テクノロジーも活きるし、見えてきた情報を連携するという意味では、医師への付加価値もできる。テクノロジーがないと無理なんじゃないかなと思っている部分もあるので、ご質問の答えで言うと両方、YESと思っています。
福島:なるほど。テクノロジーで見える化し、その不安をファシリテートしていく。適切なソリューションにアプローチさせにいくために使われるところはおもしろいなと思いましたし。
テクノロジーによってバックアップされた一定の患者さん、もしくはユーザーにとって親しみやすいアイコンの1つである看護師さんや薬剤師さんが、正しい情報へのアプローチ、コミュニケーションをサポートしていくのは、良い未来のデザインのような気がしますね。
残り15分弱になってきたので、たくさんいただいたご質問の中からピックアップして考えたいなと思います。
ヘルスケアの論点で、国がより予算(社会保障費)を投資していくべきポイントについて。先生の議論の中でもあった「点数をどこにつけるのか」みたいな論点でもあると思いますし、高橋さん的には「もっとこの研究に当て込むべきだ」「もしくは日本としてはここは守り切るべきだ」みたいな議論もあろうかと思いますが。
「国としてヘルスケア論点で予算を当てにいくとしたらここだ」みたいなものがあれば、少しフリーディスカッションで、ご意見をうかがいたいと思います。
宋:文脈をまったく無視していくと、病気になるよりも病気にならないように予防する医療に向けていってほしいとは思うんですが、やはり問題意識ってなかなか持ちにくいんですよね。
日本の医療はギリギリの体制でやっていて、「有事に対応できない」とずっと言われていて(笑)。コロナになって本当に有事に対応できなくなってすぐ溢れてしまっても、「医療従事者が力を出し惜しみしている」「開業医はコロナを診ていない」とか言って、「有事になってもやっぱりわかってもらえない」みたいな感じなんですけど。
やっぱり予防接種とか、ヘルステックでもいろいろやっていますけど、運動したりとか食事管理とか。行動経済学の話になると思うんですけど、そういうものにもっとリソースを割いてもいいんじゃないかと思うんです。
福島:そうですね。「どこに投下していくか」と「どこに投下しないか」がセットなのかなという気もしますね。ある種、非常によくできた日本の制度によって、予防しなくても経済的な負担がなんとかカバーされ得ることで、予防意識が高まらないところがあるんですが。
福島:高橋さん、どうでしょう。見える化だったり、手前でしっかり予防していくというところでも、例えば予算がついたら、保険点数がついたら、そういう意識がぐっと変わるんじゃないかというポイントはございますか。
高橋:そうですよね。そこはすごく難しいんですけど、やっぱり病気になったあとのお金があまり個人にはかからないとなると、予防に対する意識は低くなるというのはそのとおりです。逆にその負担を個人に負わせるとなると、病気を治せるかどうかに経済格差がものすごく反映されてしまうところがあって、難しいですよね。
だから「分けたらいいかな」と思うのが、生活習慣病とか自分の行動で進行を遅らせることができるものについては、ある程度負担を減らしてもいいのかなと個人的には思っているんですけどね。
あとは遺伝子情報で、例えば認知症とか糖尿病とか、リスクが高い人たちに介入していくのが、経済的な効果があるのは論文でも見ているので。全員に対して予防していくよりは、コロナもそうですけどリスクが高い人たちを優先して対応していくのがいいかなとは思いますよね。
福島:まさに「平等と公平」みたいな議論なのかなと思いますね。
高橋:そうですね。
福島:中尾さん、いかがですか。
中尾:けっこうその考えに近いんですが、最近のデータを見てみると、高齢者の方で問題が起きている方への介入が大事だなというのは、もうイメージとしてあるんですが、一方で、重症化予防の概念ってこれから必要になってくるんじゃないかなと感じていて。
例えば透析やCKD(慢性腎臓病)の前の腎硬化症や糖尿病性腎症を、どう重症化させないかという論点で考えた時に、データを見ると実は60代・70代の方は比較的薬をきちんと飲んでいるのですが、30代・40代の方は薬を飲めていない、もしくは飲み方が間違っているケースも多いんですよ。
そうなってくると、医療従事者がそこを意識した介入ができるようになると、アドヒアランスが改善して薬を飲むようになって、重症化しないという良いサイクルも生まれる。
問題解決をするのは重症化の人でいいと思うんですが、将来的なお金がかかる層に対して早めに介入していくという、目的を変えた社会保障費もありなのかなとは感じていますね。
福島:step by stepで、おもしろいですね。リスクベースだったり、プロセスを見ながら重みをずらしていくのは、おっしゃるとおり、新しいアプローチなのかなと思いました。
福島:もう1問いきましょうか。薬剤師の方からのご質問で「自分は業務改善や患者さんに向き合っていきたいが、組織の長がそこをあまり理解してくれない」といった質問がいくつか来ていまして、これはどうでしょう。
薬局でもクリニックでも、もしくは会社という大きな組織でもある問題だと思いますが。あすか会議的なご質問だと思いますので、みなさんにおうかがいしたいと思います。
既存の勢力というか、慣習が強いヘルスケアという領域の中で、新しいことを提案していくためのHowについて。みなさんのこれまでの工夫やご経験があれば教えてください。薬局系の質問が発端だったので、中尾さんからいきましょうか。
中尾:わかりました。今回(ビジネスリーダーを育成する)グロービス経営大学院のイベントなので、疑問を感じている方は「批判よりも提案を」という考え方で提案するべきだと僕は思いますね。「経営者の方が変わるか変わらないか」よりも、「どう変えるか」という視点になって、その経営者の方の欲求に合わせてきちんと資料を作れるかだったりとか。
もしくはDXという文脈になった時に、DXに肌感覚がない経営者の方もいらっしゃると思うので、「自分をDX戦略のチーム員としてやらせてください」「この会社を良くするから、その組織のリーダーとしてみなさんの業務改善とか付加価値に対するオペレーションをやります」「経営としてもネガティブにならないようにやるから、試させてください」という提案ができるかどうかだと思っていますね。
あるいは国が動くという話もありますが、外的要因に任せると観察になってしまうので。私たちもそういう動きはしますが、このあすか会議に参加されている方々は各企業や各組織の問題解決をするべきかなと感じています。
福島:ありがとうございます。これはある意味では、次の危機が来た時に、志を持つ人がどうやって組織を動かして準備をしていくかというポイントでもあると思うんですけれど。高橋さんや宋先生、このあたりについて少しコメントいただいてもいいでしょうか?
宋:いやぁ、もうなんかね。……本当にコロナについては出口がそれなりに見えている時期なので、ワクチンを変に妨害されずにうまく広めていくことが非常に大切になっています。ワクチンに多少反対している人がいても、集団免疫まであと数ヶ月が見えてきた段階なんですけど。
しかし今回のコロナの対応では行政も国も、「なんでそういうふうになっちゃうかな」みたいなことがすごく多かった。やはり情報の取捨選択もそうですし、専門家の立ち位置や扱い方についても今回のことを反省して、うまくやっていくべきなのかなと思います。ただワクチンに関しては、粗い点もありますけど総じて良かった。2020年よりは2021年のほうがいい感じです。
福島:アップデートされたかな。
宋:はい。そういうふうには感じます。
福島:高橋さんはご自身で起業され、ユーグレナグループに入って、前に動かす力が強い組織にいらっしゃると思うんですけれど。まさにみなさんがやっていらっしゃるような、もう少し社会をぐっと前に進めるというところで、今の議論に加えて工夫されていることがあれば、最後に教えていただけますか。
高橋:そうですね。会社自体は前に進めることをやっているんですけど、業界としてはそうでもないかなとは思っていまして(笑)。個人向けの大規模な遺伝子解析サービスを日本で初めて始めた時に、遺伝子検査をずっと扱ってきたような学会の先生方からめちゃくちゃ反対されたりとか(笑)。
「アメリカでこんなに進んでいるのに、日本ではこんなに反対するの!?」みたいなことがけっこうあって、大変だったんですけど(笑)。「もう止まっているような場合じゃない」みたいな段階の時に、個社で戦っていくのも大変なので、業界団体を作ってロビイング(政治的な働きかけ)をしたりとか。
あとは学会の先生方とは、一対一でアポを取って話をしにいって。説得とか喧嘩とかじゃなく、「こういう思いで、こういうことをやろうとしているんです」という、地道な対話をやってきたという感じですかね。
有事の時に急に進むのもあるとは思いますが、ほとんどは何かが来た時に備えて、平時にどう道を作っていくかのほうが大事だと思うので、そこを粘り強くやっていくしかないと思っています。
福島:おっしゃるとおりですね。今日の議論をまとめていくと、有事を機に今まであまり気にしていなかった方々まで、リテラシーというか意識が広がって、他方でそれがゆえに情報の非対称性が強く反映されるようになった。不安になる方はより不安になるという要素が出てきたかなと。
そういった不安に対して、テクノロジーで整理できる部分は整理して、整理できない部分に関しては、志を持った人たちが単体で戦うのではなくて、束になって新しいアップデートを推し進めていこうというところが、メッセージの中に込められていたかなと思います。
あっという間に1時間が経ってしまいました。本当にみなさん、ありがとうございました。ご質問もたくさんいただいて、拾いきれずにとても残念です。宋先生、高橋さん、それから中尾さん。今日は1日、ありがとうございました。オーディエンスのみなさんも、ありがとうございました。
中尾・高橋・栄:ありがとうございました。
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