2024.10.10
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スポーツアナリティクスのオリジナリティを考える(全1記事)
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Kanazawa氏(以下、Kanazawa):Kanazawa Keiと申します。
最初はここから入りたいのですが。
ということで、知っている方も多いのかなと思いますが、このJSAAはスポーツアナリスト協会で、スポーツアナリティクスジャパンを運営しているところです。
それがこんなことを書いているのですが、意味はわかりますか? 「『スポーツアナリティクスの機能を因数分解する』ってなんだ?」とか、「『スポーツアナリストから新たな価値を創造する』って何の話をしているんだ?」と、まったく意味がわからないと思いますが、この辺りをひもといていきたいというのが、今日の趣旨です。
「スポーツアナリティクスは、具体的にどういうところにオリジナリティがあるんだっけ?」という話を、たぶんあまり考えることがないと思うので、そういうところも考えてみてもらえるといいかなと思って、今回発表します。
私はもともとどういうことをやっていたかと言うと、スポーツアナリストとしての仕事としては、2009年から今まで野球中継でのデータの解説とか野球教養番組の監修とか出演をしていて、あとは選手の総合評価指標の開発、トラッキングデータ分析の書籍の企画・執筆など、けっこう多岐に渡ってやっています。とくに野球×メディアを中心にやってきました。
今は、メインがマッチングプラットフォームでのレコメンドロジックの企画、分析、開発をしていて、普段はスポーツからズラした仕事をしていますが、スポーツ側も継続的にやっています。
「スポーツアナリティクスのオリジナリティとは?」という今回のタイトルですが、最初に僕はこう思っていますという話をします。
まず、スポーツアナリティクスとは、スポーツに関する課題を科学的な知見を踏まえて解決しようとする活動だと考えています。その特徴とは、何かを解決したいという「課題の当事者」にとっては、(スポーツアナリティクスは)科学的、サイエンス的な解決手段である、ということが1つ。もう1つは、課題を分析して解決するあるいはサポートする「アナリスト」にとっては、(スポーツアナリティクスは)芸術的あるいはアート的な要素が大きい、ということです。これが、(スポーツアナリティクスの)オリジナリティだと思っています。
スポーツに関する「アナリティクス」はどういう活動かというと、たとえば何か問題があって困っている人々がいます。アナリストは、それを科学的な情報を踏まえて解決のサポートをする人、そういう位置づけになるかなと思います。
この「課題の当事者」から「アナリスト」を見たとき(黄色い矢印)にどのように見えるかをまとめたのが以下の表です。
(この表では)スポーツのパフォーマンスにはどんな課題があって、それを誰が課題に思っていて、それをサポートするのにどういうアナリストの専門性があるのか、さらにそのバックボーンとしての科学的な専門性にはどのようなものがあるかをまとめています。
(一番左の)「課題の対象」には、ゲームそのものの「構造」があって、次に「パフォーマンスの結果」、何対何でどっちが勝ったみたいな話ですかね。そのあとに「パフォーマンス遂行」と呼ばれますが、実際の試合でプレイしている話。その試合でプレイする話の手前に、それだけのプレイができるための「前提」がないとパフォーマンスできないので、そこをどう作るかみたいな話。そして、そもそもパフォーマンスするにあたって、障害のリスクみたいな話もあるということ。これらを具体的に表したのが、その隣の列になります。
そしてその隣がそれぞれの当事者、メインは選手ですが選手以外にもGMとか監督とかスタッフとかコーチとかも当事者となり得て、そういう人たちも「なんとかして勝ちたい」とか、「なんとかしてうまくなりたい」みたいな課題をもっているのがわかると思います。
そして「課題の当事者」である彼らからすると、アナリストに求めているのは、(スライドを示す)この後ろのこれらのさまざまな科学的専門性。統計もそうでしょうし、最近だったらトラッキングデータが入ってきたので、バイオメカニクスであったり、トレーニング学、コーチング学みたいなものも、バックボーンとしては必要になってきていますね。
課題の当事者が、スポーツアナリティクスを使って何かしら課題解決をしようというときに、こういった科学的な専門性から何かアドバイスがほしい、課題解決のアドバイスがほしいみたいな話が、(スポーツアナリティクスの)オリジナリティだと思っています。
今日はちょっとこれがメインの話ではないので、この辺の参考書籍をあとでざっと見てもらえればと思います。
こういう感じで、「課題の当事者」にとっては、スポーツアナリティクスはたぶんサイエンスなのですが、一方アナリスト側にとっては、どういうところにオリジナリティがあるんだっけ? というのが今回のメインの話になります。
逆の矢印ですね。アナリストからみたときに、スポーツの課題の当事者に対して、どうスポーツアナリティクスを使うか、オリジナリティがあるのかを考えたいと思います。
スポーツの課題を大きく分けると、スポーツを「する人」の課題とスポーツを「見る人」の課題、大きく分けるとこの2つかなと思います。その「する人」と「見る人」の課題をさらにざっくり言うと、「する人」は基本的には「うまくならない」や「勝てない」というのが課題なんですね。「見る人」の課題は、基本的に「わからない」や「見ていてもおもしろくない」「つまんない」など、そこら辺に集約されると思っています。
この課題における背景は基本的に2つで、自分が楽しみたいんですね。うまくなったり勝ったりすることでスポーツを楽しみたい。見る側もまさにそうかと思っています。それが1つ目。そして、そもそも楽しむ・楽しまないはどちらでもいいんだけど、結果を出したいと。稼ぐとかプロでやっている人はそういうところも多いと思うんですが、結果を出したいというのが2つ目としてあるかなと思います。
この2つの背景をもうちょっと考えていくと、「楽しみたい」は、何をもって楽しいかはけっこう人それぞれだと思うんですよね。なのでその課題を解決するために、一人一人の正解をちゃんと追っていかないといけない。正解の特徴としては一人一人の正解がけっこう違うというということがあると思います。一方で「結果を出したい」というのは、ある程度明確なものがあるので、共通の正解があると考えます。
このそれぞれの正解の特徴を軸とした専門領域を大まかに考えると、一人一人正解が違うものは芸術・アート領域だと思うのです。最近『13歳からのアート思考』みたいな本が出ましたが、それぞれが「自分にとっての正解は何だっけ?」と考えていくことは、やっぱり基本的にアート思考だと思っています。
一方で、共通の正解があるというものは、サイエンス性を出せる話だと思うので、これは科学、サイエンスの領域だと思っています。
この両サイドを見ていかないといけないこと。そこにオリジナリティがあるのがスポーツアナリティクスかなと、考えています。一般的なデータアナリティクスは、サイエンスの話をメインでしていると思うんですね。本来ビジネスの(データアナリティクスの)中でも、問いを立てるというところも含めて、アーティスティックな話はすごく大事なはずなんだけども、「稼ぐため」という基本的なwhyが決まっているので、あまり優先されづらい。
もちろん、スポーツアナリティクスでもあるデータから共通のKPIを定めていって、KPIをどう達成していくか、達成するためのプロセスをどう設計していくかみたいなことがメインになると思います。でも、やっぱりスポーツアナリティクスの特徴というのは、アナリストから見たらアーティスティックな部分、芸術的な領域が入るところが、かなり特徴的だと僕は思っています。
スポーツの基本は「遊び」なので、何をクリアしたら当事者は楽しいのか、納得するのかが千差万別であり、当事者ごとに課題の個別性がとても高いですし、あと対戦型であればゼロサムゲームなので、全員が結果を出すことができない構造であることも影響していると思います。
僕はスポーツアナリストの理想はこんな感じをイメージしています。いろいろな科学的専門性がありますが、それをある程度知っていって、何か課題の当事者に対してサポートできるか考えている状況です。
こういうことをやっていくと、スポーツアナリストは、多彩な科学的アプローチを踏まえながら、個の特性に合わせて複数の正解を導き出すような専門性をすごくもっていると思っています。
「スポーツアナリストの機能を因数分解したらこういう特徴があるんじゃないか」という話が出てきたのは、スポーツアナリストをメインでやっている人たちからすると、自分たちはニッチで特殊なことをやっているようでいて、実は汎用的で現代社会に必要とされる能力を持っているのではないか?、という考え方があって、もしそうだとするなら、スポーツアナリティクスはとても社会的に意義がある活動であり、スポーツアナリティクスの文化がちゃんと醸成していきたいよね、みたいなことを考えているからだと思います。
最後に、こういった「スポーツアナリストの機能を因数分解して」みたいな話だけに限らず、まだ世界中で見えていないような、よくわからない領域なんだけどすごく魅力的なことをやっている多彩な才能を、実は世に送り出しきれていないのではないか? ということをスポーツアナリスト協会のメンバーや自分は考えていまして。
そこでそういうプラットフォームをつくりたいと思いました。それが「HiVE」というもので、来週24時間ぶっ続けで配信しようと思っています。
※この発表後、実際に7/23-24に24時間配信を実施した、配信映像はこちら。
HiVEでは、スポーツアナリストを世に輩出するためにはじまったスポーツアナリティクスジャパンを起源として、多様でインタラクティブなフェスを考えています(SXSWがアーティストを世に輩出するためにスタートしたように)。
細かいところはnoteで出しているので、見てもらえるといいかなと思っています。
あまりまとまりきれていませんが、「スポーツアナリストのオリジナリティってなんだっけ?」ということを考えていくきっかけに、あるいはこの文化が今後どのように広がっていくのか少しでも考えるきっかけになってもらえればいいと思っています。以上になります。
司会者:ありがとうございます。さっそく質問も来ています。すごくいい発表だったなと個人的にも思いました。
お話の中でサイエンスとアートというところがあったかなと思いますが、それに関して質問が来ていまして、「アートというところにエンタメみたいな要素が少しは入るんじゃないか」というのがこの方のご意見で、「例えば野球で中継を見ていると盗塁が成功する確率がどのくらいだ」みたいなのが出てくるみたいなところ。
「ああいうのを"見る人にとってのアートな領域”みたいな理解をすればいいんですかね?」という質問が来ていますね。
Kanazawa:ありがとうございます。見る人の課題で「結果を出したい」という人はあまりいないと思うんですよ。見る人の課題は、わからないやつまらないなど「楽しみたい」に入ってくると思っていて、メディア向けのスポーツアナリティクスの活用というのは、だいたい「結果を出したい」に入ると思います。
僕も、メインはメディア向けのことをやることが多かったですが、野球をよくわかっていない人が、でもやっぱりデータを使って僕らが説明することによって「あ、そういうことだったんだ」とわかるみたいなこと。そうやって楽しめることを考えてつくっていたので、そういう意味では、見るスポーツのソリューションとしては、アートな領域のほうが大きいと思っています。
司会者:なるほど。ありがとうございます。私は事業会社でデータサイエンスをやっていますが、そこの中でもデータサイエンスを探求しつつ、どう受け手に伝えるかみたいなところで、少しアートティックな要素があるのは大事だなと思ったので、すごく共感しながら話を聞いていました。
Kanazawa:ありがとうございます。
司会者:私から1つ質問ですが、サイエンスとアートというものは必ずしも交わらない概念ではないというか、ちょっと被る要素もあるのかなと思うのですけど、その辺りはKanazawaさんはどう考えていますか?
Kanazawa:これをベースとして考えているのが、 Krebs Cycle of Creativityの「もつれ時代における創造性」なのですが、アートとサイエンスとデザイン、エンジニアリングの4象限に対して、全部網羅することによって、今時代のクリエイティビティが生まれるみたいな話の概念図があります。その中で、アートとサイエンスの領域を哲学、フィロソフィーという感じでまとめられていたりするんですよね。
だから結局、どこに依拠するかということによるのかなと思っていて。僕はアーティストだから自分の独自性を出していくということがアイデンティティであると思っていますが、けっこう研究者の方だと「僕はこの領域のサイエンスのスペシャリストだから、まずそこに依拠して話をするのである」みたいなことを考えていて、そこのポジションの差みたいな感じかなと思っています。
それがちょうど間ぐらいの人もたぶんいるし、極の人もいると思うんですけど、その辺りがもちろんまったく分けられるわけではなくて、どういう哲学をもっているかによると僕は思っています。
司会者:はい、ありがとうございます。すみません、時間の都合で最後の質問になるんですが、「最後のトークのほうで『スポーツアナリティクスに限らない新しい価値を作りたい』みたいな話があったと思うんですが、この『新しい価値』というところがどの辺にありそうか」今時点の考えで少しあったら、お話いただきたいのですが。
Kanazawa:ありがとうございます。普通に言うとスポーツだけでなくて音楽とかアートとかファッションとか、今回もスポーツアナリティクスジャパンでHiVEをやったんですが、そのときにスポーツとこれに近しいアーティスティックな領域を掛け合わせていくことで、実は多彩な表現ができることが、一番近いかなと思って進めています。
ハイコンテクストになるので、すごい伝えづらいんですけど、例えば僕がデータを使ってメディアで表現することだけじゃなくて、アスリートの言葉を抽象画として描いて「こんな感じのアートだと、私は思います」と出したときに、実はそういうアートのほうが響く人たちがいる。僕がデータを使って喋るよりも、ただ絵が描いてあるだけのほうがその人の内面を全部表していると、その人が言っている。
「この絵いいね」みたいな表現はけっこうできると思っているので、そういう意味で言うとアート領域と他のジャンルをコラボレーションして何か新しいものができてこないかなと思っています。
司会者:ありがとうございます。時間の都合で、ここでいったんKanazawaさんの発表を終了したいと思います。ありがとうございました。
Kanazawa:ありがとうございました。
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