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人間らしさを引き出す空間づくりとWell-being(全4記事)

“マス向けの幸せ”は最終的に誰も幸せにできない 人間らしく生きられるデジタル社会のヒント

デジタル化が進み、必ずしもオフラインで人々が集う必要がなくなった時代における、空間デザインの在り方とはどのようなものなのか。パナソニック株式会社Aug Labによるオンラインセミナー「人間らしさを引き出す空間づくりとWell-being」では、極地建築家の村上祐資氏、Konel Inc.プロデューサー/ファウンダーの出村光世氏、永山祐子建築設計主宰の永山祐子氏、パナソニック株式会社 Aug Labリーダーの安藤健氏によるパネルディスカッションが行われました。本パートでは、デジタル社会の中でも、人間らしくいきいきと生活できる空間づくりについて意見を交わしました。

未来の生活を思い浮かべながら空間づくりを考えていく

安藤健氏(以下、安藤):これまでの話とわりと近いところもあるんですけれども。最後に、人間らしくあるための空間づくりというテーマそのものになってくるかなと思います。改めてデジタル社会の中で人間らしく……人間らしくというのはそもそも何なのかとか、いきいきと生活するためにどんな方向性にもっていくのがいいのかというところで。ご意見ある方がいたらと思うんですけど、永山さんどうですか?

永山祐子氏(以下、永山):今村上さんもおっしゃっていたように、やっぱりトライ&エラーするしかないのかなぁという中で、みんなに馴染むものはたぶん残っていくし、これはちょっと合わないなというものは淘汰されていくのかなと思うんですけれども。

自分の子どもを見ていても、新しい世代とテクノロジーの関係はぜんぜん違ったりするので。私が思っているテクノロジーと新しい世代が思っているテクノロジーって絶対違うじゃないですか。だから、けっこう未来を予測しながら作っていかないといけない。

未来に使う人。今の子どもたちが大きくなったときにどうなんだろう、ということも予測しながらやっていかなきゃいけないし、そこは逆に難しいけどおもしろいところかなぁとは思います。未来型の生活を思い浮かべながら、「何が必要なの?」「どんなことが今幸せなんだろう?」というような根源的なことから。

25年ごとの大きな転換期に耐え得る、柔軟性のある建築

安藤:建築や空間作りは息が長くて、一度できてしまうとけっこう長い間存在するものかなと思うんですけど、いつもどれくらい先のことを考えて空間作りとか、使う人の幸せを考えて取り組みをされているんですか?

永山:例えばある家族であれば子どもが成人して、老後を過ごす家になるという、すごく長いスパンですよね。それこそ60年くらいのスパンで考えたり。

世の中の動きって、だいたい建築の歴史や全体を見ても25年スパンと言われることが多いんですけれども。震災のこととか今回のコロナのこともそうなんですが、25年くらいでわりと大きな転換期が来ているなというのは最近感じています。

そういう転換期にまたたぶんガラッと変えなきゃいけないタイミングが来るので、私たちが予測している何十年もある瞬間には更新しなきゃいけない。そういう更新に耐え得る柔軟さ。全部作りきらないことも必要なのかなと思っています。完成形がない状態でずっと作り続けることが必要なのかなと思っています。

安藤:なるほど。ありがとうございます。テクノロジーという観点から、まさに25年というと、今2020年なので45年ぐらいとかですね。そのあたりだと巷ではいわゆるシンギュラリティ、AIとかそういうのがどんどん来ますよ、という話。これからそういうテクノロジーが我々の近くに入ってきたときにどうなるのか、ちょっと予想もつかないところもあるかなと思います。

一極化しないものづくりを通して、風通しの良い社会を目指す

安藤:出村さんは、テクノロジーを頻繁に作り出すほうも使いこなすほうも、どっちもやられているかなと思うんですけれども。例えば出村さんから見たときに、より人間らしく生きるために、これからどうしたらいいでしょうか?

出村光世氏(以下、出村):永山さんのお話にもあったんですけれども、世代というのもすごく重要な視点だと思います。例えばデジタルペットみたいなものも、今は実際に手に取ることができます。僕はものすごく撫でたくならないんですけど(笑)。子どもたちの世代は意外とすんなりいけていたりというところがあると。

僕がちょっと意識してものづくりをしていきたいなと思うのは、「一極化しないこと」がすごく大事かなと思っています。やっぱりそこにはオルタナティブな選択肢があるべきだと思いますし。

ものすごく高機能なデジタルペットがいたら、ある種、ものすごくおバカで、単機能なデジタルペットもいたほうがいいと思いますし。デジタルじゃないものも選択できる中で、「私はこれを自分の意志で選んだ」ということがちゃんと、作り手も使い手もフィードバックできような風通しの良い社会になっていくといいな、とすごく思いますね。

安藤:ありがとうございます。そういう意味では多様性というか、やっぱり自分で自分自身のWell-beingは築いていくんだ、というか(笑)。自分が主体的に未来を描きやすい社会自身を作っていくことがすごく大事なのかな、と思ってうかがいました。最後、村上さんどうですか?

「何がしたいか」ではなく「何をしたくないか」に着目

村上祐資氏(以下、村上):やっぱり極地の中でも、どうしても「幸せ」みたいなかたちを1つにしたがるんですよね。それは隊の規律なども出てきてしまうんですけど、それを広げていくために、実はすごく大事なのは「何をしたいか」じゃなくて「何をしたくないか」。

「避けるべきもの」をちゃんと保って、あとは好きにして、ということがすごく大事で。まずはその「避けるべきもの」に対してフォーカスをする。どちらかというと「こうしたい」「ああしたい」のほうに僕らは目がいきがちなんですけど、逆かなと思うんですね。

あとは「人間らしく」という意味では、さっきデジタルペットというお話があって。出村さんが僕のエピソードで気に入ってくださった(笑)、AIBOを持っていった2週間のミッションがあって。そのときに何が良かったかというと、今までミーティングの中でいかつい顔をしていたほかのクルーが、デジタルのあの犬に「おー、よしよし」ってやってるんですね。

今まで見せてくれなかった顔を、その存在が見せてくれる。それを見て、僕が「なんかかわいいな」と思うし。やっぱり極地の生活はいろいろな風景が全部一緒になるし、仕事のルーティンも全部一緒になるので、視覚的なものはだんだん心が動かなくなってきたりするんですね。そういった危機感というのは、やっぱり少し持っているわけです。

だけれども、本物じゃないこの生き物を「かわいい」と思えている自分に安心するようなところがあって。そういう意味では、お互いの異物感を、あるいは自分が今持ってる異物感を、「まぁいいかな」と許せる。そんなテクノロジーはやっぱり存在して欲しいなと思うし、それこそがやっぱり気持ちの中で「避けてほしいもの」なんですね。

すべてをコントロールしようとすることで生まれる軋轢やつらさ

安藤:なるほど、なるほど。おもしろいですね。今のお話を伺って、永山さんはどうですか。たぶん「現象として表現する」ということを、途中でご紹介いただいたと思うんですけれども。そういう「好き」、もしくは「嫌い」みたいなものを、みんなで共有する。それはたぶん一様でもないと思うので、そういうものがこれから複数存在する中でどう共有していくのか。

それでもわりと家の中は、嗜好が合う人がいるのかなと思うんですけど。例えばこれから、まちづくりなどに考え方を発展させようとしたときに、いろいろな価値観がある中で、どう共存させていくべきなのか。お考えや思いはありますか?

永山:今のお話の中で思ったのは、やっぱり全部コントロールしようとすると、すごく軋轢も生まれるし、つらくなってくる。自分とあまり文脈が関係なくて、コントロールできないようなものがいる前提で当たり前だ、それが隣にいるんだという状況のほうが、安心するというか。

ペットって、何を考えてるかわからなかったりするじゃないですか(笑)。話もできないし。そのコントロールできない具合が、なんだかちょうどいいような。そういうものがあるのかなと思ったりしました。

安藤:なるほど、ありがとうございます。やっぱり違うものをしっかり認めるというか、そこにテクノロジーが加わってきたときに、それぞれがしっかりと解釈をすることが、すごく大事なのかなと思いました。

それでは、ちょっとまとめに入りたいなとは思うんですけれども。冒頭、テクノロジーはどういうふうに空間の中に入っていくんでしょうねという話の中で、永山さんに言っていただいた「(テクノロジーが)自分だけに向いてるとちょっとしんどいよね」というのはある意味、今日いろいろな方の議論をずっと聞いてて、共通するというかですね。

たぶんいろいろな人がその空間にいる中で、あるタイミングではそれぞれにテクノロジーが向くかもしれないし、もしくはテクノロジーも外に対して向いていくかもしれないと。

これからどんどんフレキシビリティをもってトライ&エラーしていきながら、これからどういうテクノロジーが出てくるかはよくわからないけれども(笑)、ダメだったらダメ、良かったらいいよね、と。たぶん万人が受け入れることはないのかなという気もするので、そういうところを探していければいいかなと思いました。

ゆらぎかべ「TOU」はアートなのか、プロダクトなのか

安藤:それで、セミナーを聞いていただいてる方から、いくつかご質問をいただいております。まずは「TOU」に関するものを何個かいただいておりますので、出村さんにご質問をしたいなと思います。もしかしたら私が答えたほうがいいかもしれないですけど(笑)、出村さんの立場でお答えいただければ。

「これから『TOU』を、『ゆらぎかべ』としてアート作品にしていくのか、人間の生きる空間の中でナチュラルに使っていくのか。もしくはそのときに、壁じゃないような新しい使い方は存在してるんでしょうか」という質問をいただいていますけど、いかがでしょう。

出村:はい、ご質問ありがとうございます。まずアートなのかプロダクトなのか、デザインなのかという話で言うと、もともとあまりそこの線引きをせずに作っていて。そういう「アンコントローラブルなものが生活空間にあったらどうなるか」という問いを投げているという意味では、アート作品として鑑賞いただくことも十分できると思いますし、そこから議論を起こしていただきたいなと思うんですけれども。

Aug Labのプロジェクトとしては、実際に空間に置いてみて、何を感じるのか。まさに村上さんがされていたような実験を繰り返して、構造自体をよりブラッシュアップしていきたいというよりも、どういう現象が重要だったのかをエッセンスとして抽出していく活動を進めていきたいなと思っています。壁が正解だったら壁でもいいと思いますし、「これは天井のほうがいいんじゃないか」ということになれば、天井を作ればいいと思いますし。小型化して携帯できるものを作る、という答えもあり得るかなと思っています。

“マス向けの幸せ”は最終的に誰も幸せにできない

安藤:ありがとうございます。ほかにも多くの質問をいただいておりまして、永山さんに振ってしまおうかなと思うんですけれども。今回、パネルディスカッションのテーマ自身も、要は「人間らしく生きる空間とWell-being」みたいな、わりとざくっとしたテーマで(笑)、パネラーのみなさんにはちょっとご迷惑をお掛けしたかなと思うんですけど。

そういう抽象度の高い課題をみなさまはたぶん、実際の生活に落とし込んだりプロダクトに落とし込んだりされていると思うんですけれども。そういうときに、どういうところに気をつけてアプローチをされているのかを教えてください、という話が来ています。

永山:そうですね……すごく難しいですし、例えば「幸せに感じる瞬間って何ですか」と聞いても、たぶん人によってぜんぜん違うと思うんですけれども。私たち、とくに私がやっていることは、例えば住宅だったらある一定の、すごくその人らしい回答に応えていくことなんですよね。例えば「どんな時間が幸せに感じますか」と聞いたりして、「こういうことが好きなんだな」とか。

ただ私は公共の建物も作るので、そうすると今度はいろいろな人の想いがあると思うので。それに向けてどうやるかというときに、あんまりぼやっとしないように、やっぱり仮想を立てています。

ある程度、自分が思う幸せを前提に考えたりするようにしているんですけど。あんまりマスに向かうと、最終的に誰にとっても幸せじゃないような(笑)、平均値になっちゃうので。そこは何か、ちょっと特化した人物像を思い浮かべながら作ることが多いですね。

「極地で人が死んだり、苦しんでほしくない」

安藤:なるほど、ありがとうございます。そうしたら最後になりますけど、村上さん。今の質問とも関連するんですけれども、そういう幸せとか、これからもしかしたら人が極地で生活するかもしれないという、まだ見ぬ未来を想定した上でいろいろなアクティビティをされているかなと思います。これはすごく難しい質問で申し訳ない(笑)。「その先に何があるんでしょうか」という。

村上:(笑)。

安藤:すごく難しいご質問をいただいてるんですけれども(笑)。「生活の先」というのもそうですし、もしかしたら「技術で作った社会の先」にどういうところがあるとイメージされてるのかを、ぜひ教えてもらいたいという。

村上:いや、けっこう単純なことを考えていて。僕がなんでこういうミッションをやっているかというと、単純に「そういう場所(極地)で人が死んだり、苦しんだりしてほしくない」というところに尽きるんですよね。

それで、こういうミッションを通して、どう苦しむかというのは、なんとなくわかっているので。その苦しみを避けなきゃいけないんだけれども、この1,000日のミッションで、僕がそこに一緒に行けばできることがあるように感じているんですが。

そうじゃなくて、やっぱり道具。僕の場合は「建築」になると思うんですけど、その建築に「託す」というふうになったときに、どういうふうに置き換えていくかということは、ものすごく難しくて。

さっき永山さんもおっしゃっていましたが、それが個としての考えなのか、マスに向けてなのか、やっぱりいろいろなことがあるので。(選択していく中で)落とさなきゃいけないものもたくさんあるんですよね。

そういうプロセスの中で、最終的にはやっぱり、「人というものが何なのか」が見えてくるんだろうな、とは感じていますね。僕らはけっこう、人のことがわからないで走っているところがあるので。人がわかるといいのかな。それに尽きるような気がします。その先が、ちょっと答えになっていないですけれども。

使い手や利用シーンを考え抜いて、well-beingな空間を作っていく

安藤:なるほど、ありがとうございます。ちょうどまさにAug Labでも、可能な限り人をちゃんと理解した上で、その人、その人にフィットした幸せの方向がたぶんあるんだろうと。空間に対しても画一的な答えではなくて、その人・そのタイミングに応じて、もしくは価値観に応じて、いろいろなことをデザインできたらいいなと。そういうところで、取り組みを進めていきたいなと思っています。

最後に村上さんがおっしゃった「託す」という言葉は、事前の打ち合わせのときにもけっこう使われていたキーワードで。要は「このテクノロジーを信じられるか、信じられないか」とか「託せるか、託せないか」ということは、やっぱりそれを使うであろう特定の人のことを、テクノロジーを創造した人がどれだけ考え抜けたかというところにも関わってくるのかなと思っておりまして。

我々としてはぜひ、そういうテクノロジーだけを作ることを目的にせずに、特定の人であったり、特定のシーンをしっかりと思い浮かべながら、テクノロジーをうまく使って、Well-beingな空間を作っていければなと思っております。ぜひ引き続き、いろいろとご意見をいただきながら進められたらなと思っております。

本日は改めまして、本当にありがとうございました。すべての質問を拾いきることができてないんですけれども、以上をもちましてパネルディスカッションを終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

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