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及川卓也さん自ら語る「今、始める ソフトウェア・ファースト」​(全4記事)

日本は製造業を模範しすぎる 及川卓也氏が「ソフトウェア・ファースト」を重要視する理由

ITエンジニアの課題解決能力を社会にインストールするために、2020年2月に発足したコミュニティ、ハッカーライフラボ。 第4回目のオンラインイベントは、2019年10月に刊行された『ソフトウェア・ファースト』の著者である及川卓也氏が「ソフトウェア・ファースト」の考え方、日本企業の課題などについて紹介します。2つめは、日本の企業の現状について。

所有ではなく体験に価値が移ってきている

『All Things Must Pass』という映画があります。私は恐らく飛行機の中かなんかで見たんじゃないかと思いますが、TOWER RECORDSの栄枯盛衰を描いた映画です。このTOWER RECORDSは日本ではまだ渋谷などにある、いわゆるレコード・CDショップです。米国ではしばらく前に潰れてしまっています。

考えてみると、私も学生時代は、こういったレコードショップ・CDショップから音楽との接点が生まれたわけですね。

ちょうど私が中学・高校のころはアナログレコードにカセットテープが唯一の手段だったわけですけれども、高校のころにソニーとフィリップスが発明したコンパクトディスクが普及しはじめました。

ここでまず記録フォーマットがアナログからデジタルに変わり、その後2000年代に入り、もはや媒体と言われているものが必要なく、コンピュータデバイスだけで音楽のやりとりができる、音楽の楽曲の購入ができる世界になりました。その後はご存じのとおり、今ではサブスクリプションで契約している楽曲であるならば聴き放題、というように変わってきているわけです。

ここで変わってきているものは、所有がまずフォーマットがアナログからデジタルになり、さらには媒体が必要となくなったところ。その次には価値が、所有から利用、そして体験にと変わりました。

昔はアーティストが好きならば、そのアーティストの楽曲もしくはレコードと言われているものを全部所有することが価値だったわけです。けれども、今サブスクリプションになると、その事業者が提供したもの、もしくはほかの同じような趣向をもつ人が作った、そういったプレイリストと言われているようなもの、そこから新たな体験や出会いがあり、ほかの楽曲やアーティストを好きになることが、けっこう楽しくなったりします。そうしますと、もはや所有ではなく、体験に価値が移ってきていると。

ソフトウェアがすべての産業セクターで世界を食べている

こういったものの背景にあるのはシェアリング。これカタカナでカッコよく言ってますけど、昔で考えれば貸し借りですよね。でも、こういったものが抵抗感なく一般化してきている。あと大事なのがインターネットの接続。これが非常に安く安定していつでもどこでも使えるようになっていると。さらには、先ほどの価値の変化と同じように、富の概念が変化してきていることが言えると思います。

こういうことを言ったのが、2011年に、NetscapeというWebのブラウザやサーバを一般化した企業の創業者でもあったMarc Andreessenです、彼が『The Wall Street Journal』に寄稿した非常に有名な記事「Why Software Is Eating the World」(なぜソフトウェアは世界を食べているか?)というのがありました。

ソフトウェアがすべての産業セクターで世界を食べていると。しばらくしたら、すべての企業はソフトウェア企業になるだろうと。実際、今の音楽業界に限らず、いろんなところでソフトウェアを活用した企業が、いわゆるディスラプティブなかたち、産業構造を破壊するようなことが起こされている。

ただ一方、最近ですと、そういったネットの世界のビジネス手法をリアルの世界に持ち込もうとした企業、UberやAirbnbは、非常に新興で勢いもあり、新しいサービスを作ってはいるんですけれども、はたして企業としての収益では必ずしもうまくいっているかというと、そんなことはないこともわかっています。

というのは、ソフトウェア、とくにネットの企業のビジネスというのは、ある一定の投資をしたならば、そのあとはユーザーが集まった結果として、収益が右肩上がりに上がっていきます。そういったネットワーク外部性と言われているような効果を享受できる世界なんですけれども、リアルな世界はそこに人が介在し、例えばUberの場合だったら、運転手はいるし車は必要です。そういったような世界では、必ずしも限界コストと言われる投資が一定レベルにある程度抑えられても、収益は上がっていくルールが通用しないというのも見えてきています。

なので、必ずしもソフトウェアがすべてではないことも見えていると。ただ、それでもソフトウェアの威力と言われているものは非常に破壊的であり、これを活用できるかどうかが企業の競争力と言われるところに大きく左右すると考えられます。なので、「すべての産業が(ソフトウェアを活用した)サービス産業へと(移行している)」というふうに考えられます。

「プロダクト」と我々は言うわけですけれども、従来の「製品」と日本語で言ったときのプロダクトとはだいぶ変わってきていまして、プロダクトは事業そのものであるような世界が今広がっているわけです。

なので、先ほど話したように、そういったなかでソフトウェアを活用できるかが非常に大きなキーになっていますという話です。

「国力」と「IT力」の相関関係

そういったことをいくつかエピソードを交えて書いているのが1章になりまして、2章は日本が負けましたという話。

失われた10年・20年・30年と言われるような話があり、世界時価総額ランキングでも、平成元年と30年ではぜんぜん違い、平成30年、去年ではトヨタ自動車1社がやっと入っているだけになっていると。

GDP推移を見ても、日本はまったくフラットな状態で伸び悩んでいるんですけれども、他国は著しい成長を遂げています。

「なんでだろう?」と考えたならば、この「国力」と言われているものと「IT力」と言われているものに、相関関係があるのではないかと考えられます。

じゃあ伸びている企業はどういうところかというと、ほぼすべてIT企業、もしくはITを活用できているような企業と言えるわけです。

この背景には、先ほどのサービス産業化に加えて、ITの位置づけが、事業の一部を人じゃなく機械にすることによって省力化やコスト削減できた時代から、そもそもテクノロジー、ITがないと事業が成り立たない、事業の進化・成長を望めないと言われるように変化したことがあげられます。これに気づいていない人たちが、日本には残念ながら多かったんじゃないかなと思います。

それはなんでかというと、ソフトウェアと言われているものをどう捉えるかが大きく違ったのではないかと。

これはMIT Sloan SchoolにいるMichael Cusumanoという教授が、だいぶ前に書籍の中で述べたことなんですけれども、米国はソフトウェアを活用して大儲けした、例えばMicrosoftやOracleといった存在を知っているので、これはビジネスの種だということを知っています。ヨーロッパは、標準化もしくはソフトウェア工学と言われるようなかたちで、そのソフトウェア自身を美として、もしくは体系化するところに長けている。日本は製造だと考えてしまっています。

なので、日本の考え方は大量生産には向いているんだけれども、これでエッジの効いた世界を変えるようなものは生まれてこないということを、実はこの『ソフトウェア企業の競争戦略』という本はもう10数年前に書かれたものなんですけれども、そこで見事に教授は言われています。それをいまだに引きずってしまっているのではないのかな。

日本は製造業を模範にしすぎる

日本は、このソフトウェアの開発だけではなく、いろんなところに製造業の過大なるモデリング化、製造業を模範にしすぎるところがあると思います。日本の製造業は本当にいまだに世界のトップをいくすばらしい産業ですし、多くの優れた企業もいるんですけれども、すべてを製造業にモデル化するのは無理があるんじゃないかなと思っています。

時間も限られているので、ここは簡単にしか説明しませんけれども、そもそも製造の工程というのは工場なんですね。設計図を基に大量生産していく考え方ですけれども、ソフトウェアはそもそも大量生産する、1つの設計図からいくつもの複製品を作るような、そういった工程はないわけです。あと、ウォーターフォールがどうしても基本になってしまうところや、設計と実装という工程が完全分離されるようなところ、こういった問題があります。

さらには、製造業を中途半端に模倣する。製造って実は工場の中の職人さんがすばらしいスキルを持っていて、彼ら自身、例えば技能オリンピックというようなものを開いたりして、常にそのスキル向上を目指していて。あと、その方々の待遇も非常にきちっとリスペクトされるような存在になっているわけですけれども、ソフトウェアにおける製造は、おそらく実装になるんですけれども、「そこの人たちに対する評価はどうだろう?」ということも考えなければいけない。

さらには調達・外部委託。製造業は典型的な多重下請け構造なんですけれども、悪い意味ではなくて見事なまでの多重下請け構造になっており、自分たちが作らなかったものに対してもキッチリとグリップを利かせる。「どこに何を委託し、どのぐらいの機能のもので、コストで」を全部見れているので、いろんなグローバルなサプライチェーンを構築しながらも、例えばトヨタ自動車のような日本の自動車メーカーは、北極からサハラ砂漠まで、厳しい自然環境の中でもほとんど壊れないようなものを作れています。

でも、ソフトウェアの場合の調達は、いわゆる外注と言われている開発パートナーに委託する作業だと思うんですけれども、「そのときに同じぐらいのこだわりをやっているだろうか?」ということは考えなければいけないと。

書籍で訴えたいと思っている内容は……

というような話をしていって、そもそも構造的な問題があり、人間的なところも評価ちゃんとされていないんじゃないかという話。設計と実装の誤解とか、そういった話を2章では書いていて。さらに先ほど言ったように「手の内化」と言われているもの。あと「デジタイゼーション/デジタライゼーションというものを経ていないのに、DXへいくのは無理がないですか?」という話。

あと組織としては、私のずっと持論である「プロダクトマネージャーをきちっと配置しましょう」という話ですとか。あとは、プロダクトマネージャー1人じゃなく、組織としてプロダクト志向、事業利益の最大化とユーザーへの価値の最大化、これを全員が考えていくようなことをしなければいけないと。

最後にキャリアとしては、偶然と必然と言われているようなもの、これを組みわせていくところが、キャリア構築の肝ではないかなというようなお話をしています。

というようなところが、最後のほうは(時間が足りなくなるだろうなという)予想どおりだったんですけれども、本当にサーっと舐めるだけになりましたが、書籍で訴えたいと思っている内容になっています。このあと質疑応答などで必要だったならば、用意してきたスライドからも拾ってお答えしたいなと思います。

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