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Fortniteのユーザーエクスペリエンス(全3記事)

『Fortnite』開発者が語るゲームのUXデザイン 人間の脳の“制約”を見抜く

2020年3月28日、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)主催の特別ウェビナー「『Fortnite』のユーザーエクスペリエンス」が開かれました。講演者は、世界的ヒットゲーム『Fortnite』のUXディレクターで、書籍『ゲーマーズブレイン UXと神経科学におけるゲームデザインの原則』の著者としても知られるセリア・ホデント氏。自身が携わった『Fortnite』開発時の事例を中心に、ゲームのUXデザインや人間の脳のしくみについて解説しました。 ※この記事はIGDA日本に許可をいただき、ログミーTechが独自に編集したものです。内容についての責任は弊メディアにあります。

『Fortnite』におけるUX設計を語る

セリア・ホデント氏:本日はみなさんとこういうかたちでお話しすることができて、大変うれしく思います。ただ、本当であれば東京でみなさんと直接お会いしながらできるはずだったのが、今はリモートで地元のカリフォルニア州にいるのがちょっと残念ではありますが。

本日は、ユーザーエクスペリエンス(UX)と人間の脳、そういったものを組み合わせてどういうふうに『Fortnite』に活かしたかというお話をした上で、ほかのゲームにどのように適用できるかまでお話しできればと思います。

私は心理学で博士号を持っているのですが、その後は10年間ゲーム開発業に勤しんできました。

私はフランス出身ですので、キャリアのはじめはフランスのUbisoftでした。その後Ubiのモントリオールに移って、LucasArtsを経て、2013年にEpic Gamesに入りました。EpicではUXディレクターとして働いていたので、スタジオの中で行なわれていることを全体的に見ていたのですが、Unreal Engineについても関わってきました。

そして、もちろんですが、今回の議題である『Fortnite』についてもしっかりと関わってきました。

2017年に退社しまして、そこからはフリーランスのコンサルタントとして活動しています。

ユーザーエクスペリエンスというのは、我々開発者がゲームにどのような意図を込めているか、そしてその意図を、実際にプレイするユーザーが受け取るものとどのようにすり合わせていくかにあります。

開発者側としては、開発者のメンタルモデルの中に「このゲームはこういうゲームだ」というかたちがまずあるわけです。ただ、デジタルゲームにはシステムやエンジンといったものがあって、最終的に開発者が作りたかったものを作るには制約などいろいろなものが入ってきて、実際に自分たちが意図したものには若干違ったものにはなりますよね。

そして、最終的にプレイするプレイヤー側は、できあがったゲームを触ったときの感覚でゲームを判断するわけです。開発者はゲームとして出荷されませんからね。

このため、ゲーム開発者が意図した仕様・ゲームの内容が、プレイヤーが体験するものと同じになるようにしなければいけません。

UXの重要性とは「意図をどのように正しく伝えるか」

ユーザーエクスペリエンスというのは、ユーザーがどのような体験をするかを想定して、実際にそのように動いているかを検証することです。つまり、ユーザーエクスペリエンスは、あなたが作っているゲームの方向性や作り方を変えるという話ではなくて、それに込められた意図をどのように正しく伝えるかという部分にあるわけです。

これを実現するために、今日は3つのステップに分けてお話をしたいと思います。

最初は認知科学。要するに、我々の脳内でどういったことが行なわれているかというお話ですね。なぜこれが重要かというと、ゲームにおける体験は我々の脳内で起きているからです。

こちらの図は、かなり簡略化したものではありますが、我々の脳がゲームを遊んでいるときの情報処理を簡単なモデルにしたものです。

この場合、最初の左側の知覚、専門用語で言うと「刺激(stimuli)」ですね。これが入力としてあります。それが最終的に右側にある脳に記憶されるわけですが、その間に影響を及ぼす要因がいくつかあります。

この間に物理的に脳の中に変化が起こるわけです。シナプス、ニューロンのつながりが起こるということですね。

これが脳の適応力と呼ばれるようなものになります。この適応力があるからこそ、我々は環境に適応して生きてこられたわけです。

実際に知覚してから記憶になるまでの間にはたくさんの処理が行なわれるわけですが、これらの要因に応じて学習の効率が大きく変わります。本日とくに強く強調したいのが、Attention、注意の部分です。注意を払っている対象は、通常、学んだときの効率が高くなるようになっています。

「主観的に解釈した世界」の制約

まずは1つの例を見て、自分たちの脳が注意と制約をどのように扱っているのか見てみましょう。

まずは知覚から。スライドの画像を見て、あなたの脳が何を知覚するかをちょっと想像してみてください。

おそらく、みなさん『ストリートファイターII』のキャラクターを示したものだとわかったのではないかと思います。

この講演をすると、だいたい40パーセントぐらいの人が一瞬でストリートファイターだとわかります。ただ、ほかの6割はすぐにわからなかったり、人だということもわからなかったりすることもあります。

なぜわかる人とわからない人がいるかというと、知覚とはかなり主観的なもので、もともと情報を持っていたかどうかによるからです。

もし色覚に関するに何らかの障がい、つまり色覚特性をお持ちの方は、そもそもこの画像が見られないので、その点についてはお詫び申し上げます。これはまた一方で「色だけを使って情報を伝えてはならない」といういい教訓にもなるわけです。

まず、その知覚の持つ制約の1つに「主観的である」というのがありますが、我々の知覚している世界には、自分の頭の中で主観的に解釈したものがあるんですよね。

これがゲームにとってはなかなかの難題です。ゲームというのは基本的に刺激を何度も繰り返して提供することによって成り立っているものですから、この点が非常に難しい。このため、作ったものが実際に自分が意図した通りに受け取ってもらえるかが常にわからない状態にあるわけです。だからこそ我々はテストを行ないます。

こちらがFortniteでテストを行なったアイコンです。これは2013年時点でのFortniteで使われていたアイコンなんですけれども、これを見て何のアイコンだかわかるか、ちょっと想像してみていただけますか。

当時、これは罠を示すアイコンだったんですね。もちろんこれは仮置きのものだったので、プレイテストに招いた方々にいろいろ話を聞いていくなかで、アイコンについても話を聞いてみました。

こちらのアイコンについてプレイテスターに話を聞いてみたところ、覚えていない人もいましたし、なんだかわからなかったという人もいました。人によっては、木だとか弾薬だとか、そういったものだと思っていた人もいました。

Fortniteでは罠は非常に重要なものなので、そういうふうに取られていては大きな問題になると感じました。アイコンが何かをしっかり考えてもらうのは、Fortniteというゲームが意図するところではないので、これは正さなければいけないと感じました。

そこで、アイコンを熊バサミに変えました。非常に典型的な罠のイメージがある画像です。そして、このアイコンに変更してからは、ユーザーの間で混乱、あるいは間違った認識をされることはなくなりました。

なので、これは正しい内容を適切に示すのがどれだけ難しいか、あるいはテストによってそれがどのように克服できるかを示す例になったのではないかと思います。

そして、作られたゲームを海外にリリースされることを想定されているのであれば、さまざまな文化でどのように捉えられるかも考慮する必要があります。

記憶に関する負荷をプレイヤーから取り除く

では、次に記憶についてお話ししていきたいと思います。ロダンの『考える人』。この像を頭の中に思い浮かべてみてください。そして、左右の手足がどういうポーズを取っていたか、よく思い出してみてください。

だいたい通常の講演の会場からは「右腕が左足についていて……」と聞こえてくるわけですが、さぁ実際は?

実際には両方の腕を左足に乗せているというものだったんですね。世界的な有名な彫刻であるにもかかわらず、我々はどういう格好をしているかをちゃんとは覚えていないわけです。それはなぜかというと、記憶というのは非常に間違いやすいものだからです。

こちらの図は、我々がどれぐらい速く物事を忘れるかを示した曲線です。そして、その覚えている内容も100パーセント正しいわけではありません。記憶というのは再構築が繰り返されていくわけですね。その過程で情報がどんどん失われていくわけです。

ということは、ゲームにおける重要な要素をプレイヤーのみなさんにすべて覚えておいてもらうのは悪手だということになります。だからこそ、HUD(画面に常に表示される情報)はゲームでは非常に重要になってくるんですね。

ゲーム画面上に表示されているHUDの内容は、全部必要な情報ではあるけれども、プレイヤーが覚えておく必要がない情報になっているわけです。

例えば、チェストの近くに行ったときに、何ボタンを押せば開けられるかというのが出ていますね。これはプレイヤーにかける記憶の負荷を下げる効果があります。またHUDでは、クラフトできるもののレシピをプレイヤーが覚えるのではなく、レシピを表示するようになっています。

ゲームにおけるUIやHUDが非常に重要な理由は、この記憶に関する負荷をプレイヤーから取り除けるところです。

脳は処理が得意ではない

では、次にちょっとしたゲームをしてみましょう。これからカードを選んでもらいます。これから少しの時間だけカードを見せますので、できるだけ覚えるようにしてください。

(2秒ほどカードの表示)

では、あなたが覚えているカードを消してみます。どうぞご覧ください。

うまくいってればいいんですが、どうですかね。

種明かしをすると、全部のカードを変えているので、あなたが覚えていたカードは全部変わっていたことになるわけです。

これはマジックの世界ではミスディレクションと呼ばれています。マジシャンはそういった脳の働きについてすごくよく理解しているので、我々は騙されてしまうわけです。

これを心理学用語で「change blindness(変化盲)」といいます。

我々の脳は、環境におけるすべての内容を覚えることにあまり向いていないので、1つ、もしくはせいぜいいくつかの内容を覚えるのが精一杯ということですね。

要するに、我々の持っている注意力は、基本的には常に足りないのです。複数の情報を同時並行で処理することが得意ではないと言い換えることもできるでしょう。

ですので、ゲームではプレイヤーにマルチタスクを課すようなことはできるかぎり避けるべきです。とくにプレイヤーがなにかをゲーム内で学んでいる最中は、マルチタスクは避けるべきでしょう。新しいゲームに取り組んでいるということは、そこに注意を大きく割かれているわけで、そこでマルチタスクを課すのは、かなり悪い手だということになります。

これはFortniteの悪い見本です。Fortniteは当初、いろいろなことを試している時期だったんですが、いくつかのことを同時に学ばせようとしてしまいました。

この動画の中では、プレイヤーにどうやって体力を回復するかを教えようとしていました。この動画では体力が50パーセントを切ると点滅してテキストが表示されるとなっていました。

では、まず実際に動画を見てもらいましょう。

(動画が流れる)

実際このテストで起きたことは、ほとんどのプレイヤーがちらっと表示されていたテキストに気づかなかったということですね。倒すべきゾンビに集中していたので、テキストには注意が向かなかったということです。

というわけで、重要な情報をプレイヤーに提示するときには、ほかのことで忙しいという状態を避けることが非常に重要になってきます。

知覚・注意・記憶の3つが大きな課題になる

この3つをまとめますと、知覚、注意、そして記憶というものがどれだけ弱いかということですね。知覚は主観的であり、注意力は基本的に足りない。そして記憶は間違いが多い。

もちろんゲームによっては、この特定の場所をプレイヤーに対する挑戦的な課題として使うことも可能でしょう。例えば『‎Monument Valley』などのゲームにおいては、知覚というものを試している部分がありますよね。そして、注意の部分を強く挑戦課題としているのが多くのアクションゲームでしょう。

このため、作るゲームがどの分野のどの領域でプレイヤーに課題を提示するのかをしっかり自分で認識しておいて、それに合わせたユーザーエクスペリエンスを組むことが非常に大事になります。

そして、ユーザーエクスペリエンスを構築していく上では、我々が意図しない、望んでいない問題・課題になる部分を排除していくことが重要になってきます。

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