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もし仮に、定性・定量リサーチを全開発者が自ら実施できるようになったとしたら(全1記事)

ユーザーインサイトをどう開発に活かす? pixivが実践するカジュアルなリサーチカルチャーの作り方

さまざまな「ユーザー理解」を実践する取り組みを共有する場である「Insight Tokyo」。第1回目のテーマは「UXリサーチ×データ分析」です。pixivのエンジニア兼UXリサーチャーである森田洋介氏は、自身の創作活動からの実体験も含め、ピクシブ社内のカジュアルなリサーチカルチャーとそれによって得られる生のユーザーインサイトについて共有しました。講演資料はこちら

pixivのユーザーインサイトを開発に活かす

森田洋介氏:今日は「もし仮に、定性・定量リサーチを全開発者が自ら実施できるようになったとしたら」といった、長めのタイトルでセッションを担当します、ピクシブの森田です。

改めてハッシュタグは#InsightTokyoとなっています。オンラインのセッションは顔が見えない分、登壇者側が一方的に話すことになりがちなんですけど、ぜひツイートで盛り上げてもらえるとうれしいなと思っています。

今回は自分でもちょっと釣りっぽいタイトルかなと思うんですけど、これはあくまでも1つの理想だと思って受け止めてもらえるといいなと思っています。わりと「こうするべきだ」とか、「専門職は不要だ」という過激な主張をしたいわけではなくて、ピクシブではこれを理想にしているよという話だと思って聞いてもらえればと思います。その上で試行錯誤として具体的にどういうことをやっているのかを紹介していきたいと思っています。

今日のテーマにもなっているUXリサーチとデータ分析の専門領域同士のコラボレーションなんですけど、今日は他の登壇者がそこに関してけっこうガッツリと事例とかを話してくれるんじゃないかなと思ったので、あえてその外側の部分について、専門領域の外側も大事なんだよということについて話していきたいと思っています。

自己紹介ですね。ピクシブの森田と申します。pixivというサービスの開発を担当していて、もともとエンジニアだったんですけど、今はUXリサーチャーを兼任しています。

ピクシブ株式会社では、「創作活動がもっと楽しくなる場所を創る」という理念のもと、pixivというクリエイター向けのプラットフォームの他、漫画アプリとかECサービスとか、多くのサービスを展開しています。

現在は200名ほどの規模の会社で、最後にこれを言うとセッションそのものが採用目的っぽくなってしまうのでこのタイミングで言っておくんですけど、一緒に働いてくださる方を絶賛募集中です。このセッションを聞いて興味をもたれた方、ぜひご連絡いただければと思っています。

そんな会社で私が何をやっているかというと、現在はだいたいここに書いてあることを仕事としてやっていて、ちょっと幅広いなと思われる方もいるかもしれないんですけど、一言で言うと「ユーザーインサイトを開発に活かすこと」なのかなと最近は思っています。

よく質問を受けるんですけど、どうしてそこに行き着いたのかという点に関しては、2019年UX MILKさんのカンファレンスで紹介させてもらいました。詳しく知りたい方はそちらの資料を見てもらえればと思っています。

Slackの雑談でディープな知見が得られる社内リサーチ

最初にピクシブにおける定性・定量リサーチについて、ザックリ説明しておきたいなと思っています。ピクシブではカルチャーというドメイン領域を扱うインターネットテクノロジー企業だと思っていて、カルチャーとしては定性、テクノロジーとしては定量と自然と両者と向き合う必要が生まれてくる環境なのかなと思っています。

pixivの開発を例に言うと、前提としてデータドリブンな意思決定がメジャーとなっています。まず作って提供して効果測定を通じて知見を得るみたいな流れで、ABテストなどを活用して高速で仮説検証サイクルを重ねていくというケースがけっこう多いです。ユーザーインタビューといった定性リサーチも実施していて、そちらについてはPMやデザイナーが要所要所で実施します。

開発者自身がユーザーであるケースもおそらく他社に比べて多いのかなと思っていて、「この分野についてはあの人に聞いてみよう」みたいな感じで社内リサーチが活発に行われたりもします。私自身も趣味で絵を描いていたりして、その辺の実体験がサービスの改善に活きることもけっこうあるかなと思っています。

本題ですね。定性・定量の双方をつなぐために外側の部分でいろんなことをやっていたりすると。その事例について、今日は広めに紹介させてもらえたらいいなと思っています。まずは定性に付随する事例を紹介していきたいと思います。3つほどあります。

まず1個目は社内リサーチ文化ですね。会社紹介のところで開発者がユーザーであるケースが多いと説明したんですけど、その象徴として挙げられるのがSlackの雑談チャンネルがかなり活発だというところだと思っています。

例えば、好きなゲームとかアニメ好きが集まるチャンネルとか、さまざまなチャンネルでさまざまな話題が飛び交っているんですけど、そこはドメイン知識の宝庫、宝の山かなと思っています。対象のトピックを探してフラッと入って質問するだけで、ディープな知見が得られるみたいな感じで、便利な使われ方をしていると思っています。

社内で創作文化が活発という点も挙げられるかなと思っていて、もともとクリエイターとして活動していた人が入社というパターンももちろんあるんですけど、そうでもない人もたくさんいる中で、入社後に絵を練習し始めるというパターンもあったりします。自分もその中の1人ですね。

すごくタイムリーなエピソードがあるんですけど、ここしばらくVTuberにドハマりして見ているんですけど、その一環でファンアートを描いていて、昨日の夜に自分の描いた絵が初めて配信に使われて、涙が出るぐらい感動することがありました。

まあ一例なんですけど、リサーチでは得がたいような生のインサイトが、趣味を通じて得られる環境にあるのかなと思っています。

一口にクリエイターといってもさまざまなマインドタイプがある

そういう独自でのリサーチが増えていくと、バイアスの偏りに懸念が出てくるとも思っています。そういう場合には、それこそ定量というところを合わせもつかたちで、「それで本当に数値は改善するんだっけ?」と、リサーチから得られた仮説をABテストを通して検証していくことも推奨しています。

定量リサーチにおいてもバイアスの懸念がなくなるわけではないのかなと思っていて、判断するのが人間である以上、認識の歪みというのがどうしても生まれてきてしまうと思っています。せめてその歪みを自覚しながらやっていこうということで、『FACTFULNESS』という2019年出た本の読書会を新卒向けに実施したりもしました。

他に大事にしていることとして、ユーザーに対する解像度がキーワードとしてあります。わかりやすい例として、ユーザーのマインドタイプというものを社内の共通言語として定義していっている事例として紹介したいんですけど、例えばクリエイターとユーザーさんを呼んだとして、そのときに一口にクリエイターといってもマインドのありようはけっこうさまざまあると。

実物ではなくて、あくまでイメージとして受け取ってほしいんですけど、例としてプロのクリエイターさんがもっているマインドと、シンプルに創作を楽しんでいるようなユーザーさんのマインドでは、方向性がかなり違ってくるのかなと思っています。そういうときに、ユーザーペルソナを作るというアプローチがあると思います。

例えば、プロのクリエイターさんも創作行為そのものを楽しむマインドも合わせもっていることがあると思います。なので、その間に線を引いてしまうのではなく、一人ひとりがさまざまなマインドタイプを前提としてもっていて、それの強弱があったり、時と場合によって変化していくものなんだという前提でマインドタイプというものを作っていっています。

このようにして多様なユーザーを多様なまま把握するというところで、そのためのコミュニケーションとしてマインドタイプというものを作っていっています。

ほしいと思ったときにすぐ手に入るようにデータを整備する

サクサクいきますね。次に定量面の事例をザックリと紹介していきたいと思います。こちらも3つ紹介したいと思います。

1つ目としてユーザーを中心にデータを整備していくことをやっています。「データの整備とは何ぞや?」と思うかもしれませんが、うちの会社はLookerという分析ツールを使っていて、そこを整備していくというところと、あとはデータの中身そのものを整備していくというところもあったりします。

例えば、データを扱う際に生のログデータをそのまま使おうとすると、俗に言う前処理に大きな作業時間が取られてしまったりします。あとは、pixivのような規模の大きなサービスになってくると、BigQueryやクラウドの分析基盤を利用しているんですけど、それでもどうしても計算のコストがかさんでいってしまうことがあります。

なので、ほしいと思ったときにすぐに手に入るように事前に処理を施すことをけっこう重要視してやっています。

ピクシブでは、ユーザーを中心に、例えばユーザー数を軸にするかたちでさまざまな指標を事前に集計してダッシュボード化することをやっていたりします。けっこう忘れがちなんですけど、リサーチを考える上でここはかなり大事なのかなと思って、大きめにリソースを割いています。

データドリブンの基本となるサイクル

次に、開発サイクル寄りの話をしたいと思います。インサイト抽出サイクルと書いているんですけど、具体的には施策の効果測定とは別に主要指標を俯瞰してモニタリングするダッシュボードをデータ整備を含めて開発しています。

ウィークリーで数値の動向をダッシュボードを見ながらサマリー化して、ユーザーインサイト定例という会を開いて、施策の効果測定の結果も含めて「どうしてこうなったんだっけ?」というのを、数値ベースで分析して議論することをやったりしています。

作って計測をして、そこから学びを得てさらに作っていくというサイクルがデータドリブンの基本かなと思っているんですけど、その中でもLEARNの部分が一番難しいのかなと思っています。そこでインサイトをいい感じに得るために、あれやこれやを工夫しているという感じですね。

すみません、時間がなくなってきてしまったので、説明をちょっと省いてしまうんですけど、データリテラシーを底上げしていくことも会社として取り組んでいます。ここに関しては、過去にいろいろとアウトプットしてきているので、気になる方はちょっと調べていただければと思っています。

最近ではUXリサーチ視点で分析ツールのHowではなくWhyというところで、「どういうときに何をモチベーションとして分析ツールを使うんだっけ?」というところを学ぶ勉強会をデザイナーやPMを対象にやっています。

カジュアルなリサーチカルチャーを作り、定性・定量の間の境目をなくす

まとめていきます。雑多にしかもサラッと紹介してきてしまったので、個別の事例について参考にならないこともあったかもしれないんですけど、どれを取っても時間が掛かってしまうと思っているので、そこはバッサリとディテールをそぎ落としました。

言いたいこととしては、専門領域の外に目を向けた際にもやれることはけっこういっぱいあるよねというところで、その一例だと思って受け止めていただければと思っています。俯瞰して見えてくることもあるのかなと思っていて、総じて言えるのは、カジュアルなリサーチカルチャーを作っていくことかなと思います。それをやることで、結果として定性・定量の間にグラデーションができますよね。

改めてタイトルなんですけど、「もし仮に、定性・定量リサーチを全開発者が自ら実施できるようになったとしたら」どうでしょうかと。ピクシブでは双方をつなぐために外側の部分を充実させていっています。結果として、カジュアルなリサーチカルチャーが根付いてきていると。

そうした状況ができあがった上で、各種の専門領域をユーザーインサイトを得るという目的ベースで突き詰めていくとしたら非常にわくわくしてくるのではないかなと思っています。

ということで、今日はさまざまなバックボーンをもっている方々が聞いていると思いますが、何かしら考えるきっかけになればうれしいです。

以上、どうもありがとうございました。

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