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赤裸々に語る 変化と挑戦(全3記事)

メルカリCTO名村氏が明かす、エンジニア評価制度を変えるためにやったこと Part.2

2019年9月24日、株式会社メルカリにて、エンジニア向けイベント「Mercari Bold Challenge ~CTOとエンジニアが赤裸々に語る 変化と挑戦~」が開催されました。社員数は1,800人を超え、40ヵ国以上の国から多様な人材が集まり急成長を続けるメルカリ。一方で、急成長に伴って新たな課題も生まれています。そこで今回は「Bold Challenge(大胆な挑戦)」というテーマで、メルカリのエンジニア組織の変化と挑戦について、そのリアルを語ります。「メルカリ・メルペイ CTO公開対談『赤裸々に語る 変化と挑戦』」に登場したのは、株式会社メルカリ CTO・名村卓氏、株式会社メルペイ CTO・曾川景介氏、株式会社レクター広木大地氏。

「グローバルテックカンパニー」の誤解

広木大地氏(以下、広木):では、質問にいったん戻ります。こんなふうにいろいろ赤裸々に語っていこうと思ったのは、何らかの後悔というか、この1年で「もうちょっとこうしたらよかったのに」「こうできればよかったのに」といったことがあったのかなと推察したんですが、いかがでしょうか?

名村卓氏(以下、名村):どうでしょうね。一時期メルカリは「グローバルテックカンパニーを目指します」と言っていた時期があるんですが、言わなきゃよかったなと思っています。

(会場笑)

広木:それはどういった真意なんですか?

名村:一人歩きする言葉が多くて。「グローバル」と「テックカンパニー」というワードが、すごく一人歩きするんです。社外から見てもそうだし社内から見てもそうなんですが、良くも悪くもメルカリはすごくジャパニーズカンパニーなんですよ。

今ダイバーシティになってきて、やっと少し変わってきたのと、「テックカンパニー」といってもけっこうマーケティングでがんばって伸ばしてきたこともあって。なかなかテックの部分の投資といいますか、正しい選択をハイプライオリティで、世の中で言うテックカンパニーみたいにできているかといったら、できてなかったんですね。

「これからやっていこう」というところでそれを言ってしまって、できてないことだらけになって「できてないじゃん」と不満がたくさん出てきた感じです。あと、入ってくる人がそれを期待して入ってきたらぜんぜん違ったこともあったので、「あぁ、言わなきゃよかったな」と。

広木:なるほど。

(会場笑)

なんかいい笑いが出ていますね(笑)。

広木:でも、見ていてけっこう難しいなと思うのは、「コードフリーズしました」という話を、以前マイクロサービス化していく話で出していたときに、「コードフリーズしていて事業がめっちゃ伸びてるじゃん」とIRは見ると思うわけです。「あれ? エンジニアいなくても意外と伸びるんじゃない?」なんて、ビジネスサイトや周りを見ていて思ってしまうんじゃないでしょうか?

名村:実際、コードフリーズの延長を例外的に許可した時期もありました。今はまたコードフリーズして、厳格に管理しています。メルペイのリリースに近づいたときに、コードフリーズしているとメルペイが間に合わないといったことで、一時的にメルペイに関わるところを許可したことは判断としてあるんです。

ただ、とはいえコードフリーズしてもマーケティングで伸ばせる部分は大きかったので、そういう意味ではそこの部分は伸びていたのかな、というのはありますね。

広木:なるほど。曾川さんはメルペイを公開したこの1年で何かありましたか。

メルペイローンチから1年経って…

曾川景介氏(以下、曾川):そうですね、1年前というと、ちょうどメルカリのテックカンファレンスをやった頃です。そのときメルペイの今のコンセプトに関わる部分などをみなさま向けにはお話しました。「だいたいそこで言ったことはやれている」「思ったとおりのことやっている」というのはあったんです。

反面、「もう少し早く出せたかな」というのもありました。これがおそらく僕らの精いっぱいだったので「どうパズルを解くのか」といった話はあるんだけど「もう少し近道する方法はなかったのか」などといったことを思うことはあります。

ただ、僕はあんまり後悔しないタイプの人間なので。「今をベストにしていきたいな」と思うと、そのときや今いる一部の人たちに一生懸命やってもらって作ってきたものを、「今どうやったらもう少し伸ばせるかな」「もっとお客さまに使ってもらえるかな」、そして「お客さまの本質的な課題に迫れるかな」といったことを考えています。

たらればはいくらでも話せるけど、やっぱり何を思ってももう帰ってこない。先ほど僕は「時間を戻せるよ」なんてお金やメルカリの話をしたんですが、可逆な意思決定と不可逆な意思決定があって。けっこういろんなものが「不可逆」なんです。今思うと不可逆なことが多いからこそ、そのとき悩んで決めて、今となって結果が出てない、失敗したこともたくさんあるんですよね。

僕は最初の最初、ソウゾウという会社に入って新規事業をやっていましたが、ソウゾウでやっていたものはもうたくさん閉じています。そういう挑戦をしてきたことは、僕はよかったと思っていますし、その結果メルペイという会社を作れました。今いる人たちもソウゾウの人たちがたくさんいます。

メルペイは「選択と集中」のフェーズ

広木:一時期ソウゾウさんとかも含めて、「いろんなことやっている会社」というのがメルカリのイメージとしてあったと思うんですが、最近は「選択と集中」といった感じなんですか。

曾川:そうですね。やっぱり経営が成熟してきたこともあると思っています。それまではなんでもやっていい会社だったんですが、今は勝ち筋というか、どこに張るか明確に意思決定してきているな、というのは感じています。

そこらへんの質問でもあるんですが、「経営と事業」の部分の現場というか、我々含めてプロダクトを作っている人たちとの距離感が近づいていて。かつその「精度」は、前よりはすごく上がっているんだろうな、とは思います。

ただ、そのぶん「なんでもできる会社」というか「新しいことをどんどん試せる会社」というよりは、ある程度仮説を持ってそこを掘りにいく会社になっているなと思います。

広木:そういうところで、近年というか、近々メルカリに向いている人、メルペイに向いている人も上場後1年ぐらいでけっこう変わってきているんですか。

曾川:昔のほうがおそらく「荒野に放たれてやる」のが得意な人がよかったです。今はある程度専門性をもって、今我々が困っているところに対して直接解を出せる人が向いているというか、求められている気はします。

ただ、それって「最初から全員にできたのか」というと、そうでもないです。もちろん僕らがやっている、例えば「信用を創造しよう」というところは、この今のやり方でやっている人たちは誰もいないんですね。ほかの基盤、金融機関、誰もやってないから。

そのあたりの人に解を持っている人はいないので、きちんと自分で仮説を持って、そのために機械学習も含めていろいろな勉強してやっていくという意思を持っているのであれば、それは「向いている人」だと思います。

経験だけではなく、ある程度僕らが「ここ掘ろう」と思っている領域に対して、自分自身の意思を伴いながら「こういう世界を作っていきたい」と思って取り組める人が、向いている人なんじゃないかなと僕は思います。

メルカリ名村氏は「CTOがほしい」?

広木:名村さんは、なにか変わってきましたか。

名村:英語喋れる人がより必要になったのは変化としてありますが、価値観としてはそんなに変わってないんじゃないかな、と思っていますね。ただやっぱりスタートアップの「2、3日で作ってとりあえず出して、ワーッていうものすごいカオスなスピード感が楽しい」というフェーズでは、やっぱりなくなっています。

できるだけそういうのを維持したいというのはあるんですが、組織とプロダクトが大きくなってきたので、いい意味での「適当な感じ」はだんだん作るのがなかなか難しくなってきています。そういったところの変化はあると思いますね。そういう意味で言うと、「昔のほうが好きだった」という人はいると思っています。

広木:そこは「ミスマッチが生じてきている」というのも。ミスマッチというか、前の雰囲気がよかったから別のキャリアを描くという人も増えてきているんですか?

名村:ごく少数ですが、やっぱりスタートアップの最初の立ち上がりが好きな人は一定数いるので。そういう人たちは「スタートアップでまたやりたいです」と言って、次のステップに行く人もいますね。

広木:「今、1人だけ誰でも連れてこれるんだったらこんな人がほしい」みたいなのあります? どういうキャリアで、どういう人がほしい、というような。

名村:CTOがほしい。

(会場笑)

曾川:CTOいたらいいかもなぁ(笑)。

広木:(笑)。名村さんの次となると、どういう人なんですか。

名村:いや、僕もうぜんぜん、CTO歴1年とかなので、熟練のやる気のある人を(笑)。

広木:熟練のやる気のある人(笑)。

(会場笑)

エンジニアの評価制度における期待値設定

広木:そんな、少し変わってきた中で、エンジニアの評価の仕方や評価制度も、最近はかっちりしてきているんですか?

名村:そうですね。ダイバーシティ……外国人が増えてきて、例えばアメリカやヨーロッパといった海外の会社で経験のある人が入ってくるようになって。メルカリの評価制度はずっと「絶対評価をする」「市場価値で計る」というもので、細かい「どういうことができたら、これ」という「ポイント制」的な考え方はあんまり定義されていなかったんです。ふわっとしたのは若干ありましたが。

そうなってくると、海外から来るだけじゃないかもしれませんが、期待値設定というか評価はだいたい「期待値は、これやってね」ですね。それを超えたらexceed expectationsで、それどおりの期待結果だったらmeet、それよりできてなかったらダメよ、と決める。期待値に対してどういうふうにしていくかを、1on1でトラックしていくのが海外の定石なんです。

そういうのをずっとやってこなかったので、なんかふわーっと「これぐらいやっていこうね、がんばろうね。OKRこれだよ」という感じでやって、期末になって「よくがんばったね」みたいな感じの評価だった。それがさすがに日本人的というか、曖昧な評価というのが許されない、許し難い人たちが増えてきたっていうのもあります。

広木:エンジニアの評価制度のRC2を、チラ見せしてくれるらしいという話ですが。

名村:それでその、いろんな会社に……。

広木:(スライドを指して)チラ見せされてもパッと読めないだろうという(笑)。

(会場笑)

メルカリのグレード制度について

名村:いろんな会社にヒアリングしたら、やっぱりEngineering Ladderをちゃんと作って、エンジニアの「どういうことができたらこういう評価をします」というのを、きちんとクリアな文章で書いて。

広木:これはプリンシプルというか。

名村:そうですね、プリンシプルですね。プリンシプルをベースにラダー。プリンシプルは「どういうことが大事ですよ」と書いてある文章で、それぞれのプリンシプルの項目に対して、「何がどれぐらいできている」といった具合です。

メルカリはグレード制度があって、EX1~5までの5段階のグレード評価です。これのところにそれぞれをマッピングしています。

広木:これってまだRelease Candidateって書いてあったということは、ドラフトなんですか?

名村:これまだドラフトですね。

曾川:でも結局EX4でも、上の連中の人もいるっぽいので。

名村:いますいます。ぜんぜんいますね。

曾川:結局ストリクトに運用するよりは、基準を作っておかないとある程度評価が定量的に行えないです。お金などもそうですし、そういうことを定義したんだと思います。

名村:社内的には公開されているので、そのレンジの範囲ですね。

広木:ちなみにこれって今ドラフトということですが、どんな感じのプロセスで評価制度などを作っているんですか。

名村:ないところにこれを入れるとなると、けっこう大変なんです。エンジニアの合意を得るのがすごい大変で。逆に言うと、「反論しなかったじゃん」というのをやっちゃおうと思って。

(会場笑)

広木:「反論しなかったじゃん」というのをやっちゃおう?(笑)。

名村:そう思って、反論できるチャンスをいっぱい作りました。作っていく課程で、まずベースのドラフトを作って全体に共有して、何度かタウンホールミーティングのようなかたちで「もし何か意見があれば来てください」というのを。月に1回、1週間に1回、2週間に1回、というふうに何度か開催しました。

かつ、Google Documentなので「コメントもできます」というかたちです。ディスカッションと、ここのプリンシプルにもありますがDisagree and Commitというのがあります。要は「反論はもしあるならしてね」「ただ、決まったら基本合意ですよ」というものです。こういうのはだいたい、とくに僕の勝手な個人的な感覚で言うと、日本人は導入したあとに文句言うんですよ。

(会場笑)

導入して実際に運用しだすと、「あれはダメ、これはダメだ」「やってらんねー」などと言い出すんですよね。「いやいやちょっと待って」「反論するチャンスあったでしょ」というふうにきちんとしとこうと思っています。導入に向けて「これでもか」というぐらい反論するチャンスをきちんと与えて、きちんとディスカッションはしました。

一応コミッティーというのを作って、何人かこういう評価を作りたい人たちを集めて、そこで議論しながら現場主導では進めてもらっていますね。

広木:納得感を作るのはけっこう大変ですよね。だから「そこに投資していこう」という時間をかけているということですね。

名村:そうですね。さすがに300人くらいを超えてくると「全員納得」には絶対ムリがあります。なので逆に言うと「反論しなかったでしょう」って。

ジョブディスクリプションには求める人材を明記

広木:これまでの「ないところに入れる」ということもありながら、曾川さんがおっしゃっていたように、スキルとしてはそれまでの、「ゼロイチが早い」といったことよりも「ピンポイントで問題解決をしてくれるスペシャリティをより高く評価していきたい」といったニュアンスで先ほどおっしゃっていたのかなというふうに受け取っていますが、そういう要素は入っているんですか?

曾川:これはもう少し原則的な話です。個別のスキルセットでこれがいい・悪い、みたいなのは入ってないと思います。むしろそういうのに基づかないものがここに入っていて。たぶんジョブディスクリプションの中では明確に「こういう人に来てほしいよね」みたいなのが書かれているかなと思います。

そこはちょっと分かれて、おそらく昔に比べてジョブディスクリプションがきちんと合っている。現状に対して本当にストリクトに書かれるようになったというのが、おそらく私の言った変化です。これはどちらかというと評価やカルチャーを作っていくためのものなので、その意味合いが違うかもしれないですね。

広木:なるほど。ちなみに、(スライドを指して)おそらく今「こんな細かい字見せられても」とみなさん思っていると思いますが、どうしたら読むことができるんですか?

(会場笑)

曾川:公開するよね。

名村:公開しますね。今、こういった情報をまとめたサイトを作ろうとしています。そこで公開して、要は来る人も一応こういうのを見て、「あっ、こういうふうに考えているんだね」とわかった上で入ってもらったほうが入ったあとのミスマッチがないので一応、公開する予定ですね。

広木:じゃあ、Comming soonみたいな。

名村:Comming soonですね(笑)。でもRC2なんで、RCいくつまでいくかはちょっとわかんないですが。

広木:なるほど(笑)。

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