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Design for Impact & Inclusion(全1記事)

クックパッドのデザイナーが学んだ「インクルーシブデザイン」の本質

2019年9月10日、クックパッド株式会社にて「Cookpad Product Kitchen #2」が開催されました。北欧、デンマーク/コペンハーゲンの新興デザインスクール、Copenhagen Institute of Interaction Design(CIID)にて毎年夏に開催される、サマースクール。今回は、そのサマースクールに参加したエンジニア、デザイナーたちが、そこで学んだことや得られた気づきを語りました。プレゼンテーション「Design for Impact & Inclusion」に登壇したのは、クックパッド株式会社デザイナーの田中理佐子氏。講演資料はこちら

Design for Impact & Inclusion

司会者:ありがとうございます。次はクックパッドの田中から「Design for Impact & Inclusion」というお話をさせていただきます。

田中理佐子 氏(以下、田中):お待たせしました、発表を始めます。よろしくお願いします。

私は田中理佐子といいます。

クックパッド株式会社の会員事業部のえほんチームに所属していて、今は「おりょうりえほん」という、こどものために食育の絵本を届けるサービスのデザイナーをしています。

今回はCIIDの報告ということで、サマースクールでなにをしたかというお話をして、そのあと学んできたことをお話したいと思います。

まずはサマースクールで体験したことを、時間軸を追ってお話しします。たくさんのコースがあって、私は「Design for Impact & Inclusion」という、主にインクルーシブデザインについて学ぶコースに参加してきました。

参加者は11名で、アメリカのIDEOから講師が2人の全部で13人でした。1週間という限られた時間だったので、スキルよりも考え方を学ぶことが目的として参加しました。

ワークショップは月曜日から金曜日の5日間で、最初は「バイアスとはなにか」「インクルーシブデザインとはなにか」という講義が中心で、そのあとユーザへのインタビューにけっこう時間を費やして、プロトタイプを作成してプレゼンテーションをするという流れでした。

インクルーシブデザインとはなにか

1日目は主に「インクルーシブデザインとはなんなのか」という講義でした。インクルーシブデザインは、一言でいうと性別や民族などの経済状況などの違ういろいろな人にとって使いやすい、多様性に合わせたデザインを作ることです。

そう聞くと、ユニバーサルデザインとの違いは何なのかが議論にもなっていたのですが、私はこの言葉が的確に表していると思っていて「ある特定の人についての問題を解決して、それを他の人の問題へ拡張する」というイメージがユニバーサルデザインで、この「特定の対象者にフォーカスする」という部分がインクルーシブデザインにおいて大事な部分です。

IDEOが提唱する「デザイン思考」という言葉は聞いたことがあると思いますが、この一般的なデザインプロセスの中にユーザを巻き込んでデザインをしていくことを、インクルーシブデザインといいます。

デザインプロセスとは、リサーチして課題や問題点を抽出して、それを基に解決するアイディアを考えてプロトタイプを作って検証してそれを現実に着地させていくというプロセスが一般的にあって、ユーザと一緒にアイディア出しをしたり、ユーザにインタビューをしたりという、プロセスの中にユーザを入れていくことをインクルーシブデザインといいます。

インクルーシブデザインの事例

次に、インクルーシブデザインが社会的に影響を与えた事例を含めながら、今回は3つ(の事例)の紹介をします。

こちらは、長年肌に合わない白人用のバンドエイドを使っていた黒人の人が、ある日初めて黒人用のバンドエイドを使ってみたら今までの違和感が一気に解消してすごく感動したというツイートで、すごく話題になったそうです。

黒人用のバンドエイドはインクルーシブデザインの視点で作られたもので、これがどれだけ人にどれだけの影響を与えているかという例です。

2つ目は、自動車の事故率が男性よりも女性のほうが47パーセント高いというデータがあって、ある自動車メーカーが自動車を製造する際の事故実験で女性型のダミー人形を使用したところ、女性の事故率が下がったという結果が出ました。

これは、自動車のデザインの自動車事故という検証の部分でインクルーシブデザインの視点を取り入れることで、影響を与えたという事例です。

3つ目は、女性の身体の筋肉の画像です。

一般的に理科の教科書には男性の筋肉の画像しか載っていません。私は女性として(そういった図を)実際に見たときに、自分の筋肉がどうなっているのかは考えてみたこともなくて、自分が当たり前だと思っていることをもう一度考えてみるという視点がインクルーシブデザインをする上では必要なんだと知ることができました。

街に出てインクルーシブデザインを探す

一通り事例とケーススタディからインクルーシブデザインを学んだところで、ワークショップでは外に出て、リアルの世界でインクルーシブデザインを探していきました。

実際に見つけてきたものとしては、外国語表記があるATMや、イヤホンをさすところがあって耳が聞こえない人でも聞けるようになっているものなどを見つけました。

それから(信号が)すごく早く変わっちゃう横断歩道があって、「これは誰のためにデザインしているの?」「ベビーカーの人はどうなの?」「お年寄りの方はどうなの?」「これはインクルーシブデザインじゃないんじゃないの?」という議論がありました。

2日目はインクルーシブデザインにおいて重要な、バイアスについての講義がありました。

バイアスのことを講義ではわかりやすく「レンズ」と呼んでいて、デザインするときはまず「人は誰もが『レンズ』を持っている」ことを知っておかなければならないこと。それから、自分と相手の持っているレンズがそれぞれ違うことも認識する必要があると学びました。

違うということがわかった上で自分が信じる情報を選ぶということができます。

アイスブレイクしていた、レンズを知るということに関しておもしろいゲームがあったので紹介します。

これは、質問に沿って当てはまるグループに分かれるというゲームです。

例えば、兄弟構成で4箇所に分かれて、長男のグループの人に他のグループの人が「あなたは責任感がありますか?」と聞いてそれに答えるという感じです。お題は「犬派か猫派か」「卒業した教育機関は私立か公立か」「宗教はどれか」などがありました。参加者の多様性がわかるところと、自分がどういう種類に所属しているから今のレンズが生まれているかがわかるというところが考えるきっかけになっておもしろかったです。

バイアスについてまとめると、この2点がインクルーシブデザインにおいて頭の片隅に置いておくべきだということです。

インタビューの内容を整理する

2日目の後半で「どうすればコペンハーゲンのまちに移民をとりこめるか?」という課題を与えられました。それについて3日間に考えていくんですけど、まず国連の人からデンマークの移民の人に対する法律や、国が行っている仕組みなどの取り組みについて聞き、3日目に実際に移民の人が会場に来て、対面で1時間ずつぐらい「どうして母国を離れてここに来たのか」「そのときどういう思いをしたか」という話を聞きました。

ここに1日半と、けっこう時間をかけていて「対面することが大切なんだ」と学びました。そのあとチームに分かれて、インタビューからわかったことを付箋に書いて、ボードに貼って整理していきました。

ユーザインタビューで印象に残った言葉をそのまま書いたんですけど、解釈を入れずに直接の情報を書くことで、自分のバイアスを入れないように、話が途中で変わらないようにしました。あとは、ユーザの視点を大切にしていました。

言葉から解釈することでチームの認識を揃えることが大変でした。課題設定に対するチームの認識を揃えるために、「例え」がすごく役立ちました。問題を運河に、変えられない法律を天気に、精神的な人との繋がりを隣人に例えて「私たちはそこに橋を架けるんだ」として、自分たちがフォーカスすべき問題の認識を統一することに役立ちました。

そのあと、注目したい問題がチーム内で固まってきたところで、「How Might We」(どうすればこの問題が解決できるか)という一文に直して、それぞれアイディアを出して、2つのグループが合同でアイディエーションをしました。

アイディアが決まると、プロトタイプを作るために具体的なところを話していきました。

インクルーシブデザインを通して学んだこと

最終的に、私たちのチームは「Hygge Hoods」というものを作りました。

これは「どうすればコペンハーゲンのまちに移民を取り込めるか」という課題に対して「どうすればデンマークと祖国の両方の文化を感じられるか」を目的としています。コンセプトは「あなたのHyggeスポットを見つけよう!」です。

Hyggeは「安心できる心地良い空間」というような意味です。

移民の人たちにとっての心地良い空間を、Google マップ上で見つけることができるというサービスです。このサービスを使うと、だれもが街に帰属感を感じられて、自分自身や身近な人から人とつながれるというものになります。

以上が、5日間のワークショップで体験したことです。ワークショップを終えて考えたこと、実務の中で大事だと思ったことをお話します。

今回インクルーシブデザインを通して学んできて、リアルのユーザと対話することが大事だと思いました。今「おりょうりえほん」というサービスに関わっていて、私は食育をする母ではないので(メインユーザの)気持ちがわからないんですけど、自分が出して「あまり良くないな」と思ったアイディアでも、ユーザの人が良いと言ってくれることがあります。一緒にアイディエーションしてみて、インクルーシブデザインを実践して、すごく有用性を感じています。

同時に、インタビューした人が本当にリアルなユーザかどうかを見極めることがすごく重要だと思いました。

この人は、デンマーク人のアーティストの方と一緒に10年ぐらい移民の助成活動をしている人です。「この人の言っていることは本当に移民全員を代表しているのか」という疑問がすごくありました。インタビューの相手が(ユーザの)代表であるかどうかを見極める必要があるなと思いました。

また、その人がどのようなレンズを持っているユーザであるかをわかった上で、得る情報を選ぶことが大切だと思います。

以上が、私がCIIDで学んできた報告になりますが、この話自体にもバイアスがかかっていると思うので、よしなに情報を選んで持って帰っていただければ幸いです。

(会場拍手)

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