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ゼロタッチ革命~変わる買い物体験を支える、小売のビジネス変革~(全4記事)

IT企業がテクノロジーを駆使して作った“次世代カフェ” 完全キャッシュレス&ウォークスルー実現の舞台裏

2019年7月2日、株式会社ソラコムが主催する日本最大級のIoTカンファレンス「SORACOM Discovery 2019」が開催されました。2019年は「IoTを超えて」をテーマに、IoTの最新トレンドやビジネス活用事例、IoTプラットフォームSORACOMの最新サービスを紹介しました。今回は、「ゼロタッチ革命~変わる買い物体験を支える、小売のビジネス変革~」と題して、小売のビジネス変革とそれらを支える技術、今後について意見を交わすパネルディスカッションの模様をお届けします。本パートでは、クラスメソッド株式会社代表取締役の横田聡氏が展開する、キャッシュレス・レジレスの飲食小売り「Developers.IO CAFE(デベロッパーズ・アイオー・カフェ)」について語りました。

キャッシュレス、レジレス、ウォークスルーの新世代カフェ

長谷川秀樹氏(以下、長谷川):じゃあ、3人目、横田さんの方に移っていきたいと思います。

横田聡氏(以下、横田):はい、よろしくお願いします。弊社は、ちょっと2人とは切り口が違って、「IoTを使って、IT企業が飲食小売のお店を始めてみました」という、実験の記録のような紹介になります。

(スライドを指しながら)これは今年の2月に、実際に秋葉原でオープンしたお店です。どんなお店かは、まずは動画をご覧ください。

(動画スタート)

カフェですけれども、外から注文できます。2週間ぐらいで作りました。これは、ありがちですよね。サイネージです。これは1週間で作りました。オーダー管理のシステムも1週間ぐらいで作りました。それで、コーヒーを渡す。これが1つ目の機能です。

2つ目の機能がウォークスルーの決済ですね。QRコードをかざして入店して、お店の中で商品をピックアップ。そのままカバンに入れる。普通に「万引き」をしています(笑)。エリアを出ると決済完了。これは技術検証を半年ぐらいやっていました。

(動画終了)

こういう感じのことをやっております。

長谷川:すごいですね。中国のラッキンコーヒー(瑞幸珈琲/Luckin Coffee)を抜いて、5万店舗ぐらい出したらいいんじゃないでしょうか。

横田:5万店舗ぐらい、がんばりたいと思います(笑)。

IT企業がなぜ飲食小売業を展開?

横田:自己紹介させていただきますと、学校を出まして、会社を作りました。以上です。(2019年)7月から16年目がスタートしております。会社名はクラスメソッドと申しまして、主にクラウドインテグレーション、お客様のIT支援をやっている会社です。15年ぐらいやっていたんですけど、1年ぐらい前に始めたこの飲食小売のお店はB to C、しかも路面店をやっています。

当社の企業理念は、短縮しますと「とにかく創造活動に貢献したい」ということなんですね。最近、デジタルトランスフォーメーションと言われて、みなさんもやりたいと言われるんですけれど、なかなかお客様自身も動ききれないし、僕たちもやりきれなくて、もどかしさがすごくありました。

それはなんだろうと思ったら、こういうことかなと思ったんです。世の中の事業会社さんが「IT企業をやるぞ」と声高に叫んで内製化だったり、いろいろな投資をされるんですけれども、海の向こうでは、IT企業が事業会社化されているんですね。

この流れにちょっと乗ってみるかということで、去年の5月にシアトルに行きました。(スライドのAmazon Goの店舗写真を指しながら)とにかく、すごい創造活動を発見してしまったんですね。「なんか、すげぇ!」と思いました。

外見は普通のコンビニで、店内には何やら大量のセンサーがあって、なんかすごいことやっているんだろうなと思います。だけど、1人の消費者として、「物を買った時に、何も最新テクノロジーを感じることなく物が買えてしまった」ということに衝撃を受けました。

秋葉原でAmazon Goと同様の購買体験が可能

長谷川:この中で、Amazon Goがどんなものか知っている人、わかっている人はどれぐらいですか?

横田:全員、ご存知ですよね。行ったことがある方は、どれぐらいいらっしゃいますか? やっぱり、10パーセントぐらい、10パーセントもいないぐらいですかね。(Amazon Goのあるシアトルまでは)往復で40万円ぐらいかかると思うんですけど、(クラスメソッドのカフェは)秋葉原です。400円ぐらいで行けるので、ぜひ一度ご体験いただけると幸いです。すごく雑な仕組みなんですけれども、なんとなく似たような体験ができます。

(Amazon Goには)アプリがあって、QRコードが用意されていて、AmazonのIDがあれば入店できます。そのまま「万引き」してお店を出るとスマホに通知が来て、「買いましたね?」となります。「これは、すげぇぞ」と思いました。

(Amazon Goは)何か、やっているんですよ。顔なのか、手なのか、足なのか。重さなのか、温度なのか、光なのか。何なのかわからないんですけど、何かやっている。すごく悶々としました。技術もそうなんですけど、体験のすばらしさにすごく悶々としたんですよ。

日本に帰ってきて「とりあえずやってみよう」ということで、みんな仕事が忙しかったんですけど、6月からチームを作りました。社内で8人、兼務で集めてスタート。まずは、秋葉原は(電子パーツを販売している)会社がありますので、いろいろパーツを集めました。(スライドを切り替えながら)ぜんぜんニューリテールには関係がないんですけれども、結局どう作ったのかということを、ちょっとお話しできればと思います。

大量のパーツを買って、木を削って組み立てて、完成。だいたい2週間ぐらいですかね。無印良品で買ってきた棚の上に「うまい棒」が乗っていて、下には重量のセンサーが入っています。(うまい棒を)取ると重量に変化があって、(そのデータを)クラウドに投げてというものを雑に作って、「これ、Amazon Goっぽくない?」って、みんなでレビューをしてということをひたすら繰り返しました。

ソフトウェアの会社がはんだごてを使ってモノづくり

長谷川:この時はまだ、重さのセンサーだけでやっている感じですか?

横田:これは重さだけです。でも、実際はコンビニなので、いろいろな人が入ってきて、入ったり出たりします。1人の人が複数の商品を取ったりもするので、「そのあたりはどうなっているんだろうね?」とは思うものの、誰も教えてくれないので、いろいろ研究しました。

他には、実際に買えた方がいいので、(決済機能として)Stripeを入れてみました。技術検証するにあたっては、自分のオフィスであればいいんですけど、他のところに置いた時には、なかなか有線は引けません。Wi-Fiにもできたんですけど、Wi-Fiを借りるのも難しいし、お客様の中には「Wi-Fi? 何それ?」みたいなところもあるのでSORACOMを導入しました。

とりあえずSORACOMを入れてみたかっただけです(笑)。入れてみました。顔認証で入ったり、姿勢推定(ポーズエスティメーション)と言いますけれども、人の骨格がどんな動きをしているかを映像で判別したり、商品画像の学習などもしました。

(スライドを指しながら)これはたぶん検証中の画面です。とにかく高速に試す。1パーツにつき1日か2日ぐらいで、みんなで寄ってたかって検証し、社内でレポートを上げて、「これはいけるんじゃないの?」「あれもいけるんじゃないの?」とやり始める。

長谷川:これは基本的にAWSのテクノロジーでやっているんですか?

横田:半分ぐらいです。それ以外は、世の中にある、さまざまなテクノロジーを組み合わせてやっています。これは、学習はAWSのSageMakerですけれども、推論はNVIDIAのJetsonでやっています。いろいろ組み合わせてやっています。

あと、AWSはぜんぜん関係ないんですが、基本的には最短の時間でやろうと思ったので、在りものを使おうと思ったんです。だけど、やっぱり在りものじゃ足りなかったので、はんだごてを使って、回路を書いて作ったりしています。(スライドを指しながら)これは、「測距センサー」といって、手が入った瞬間を検知しています。

手作りなので、ガムテープやボンド、リード線などを秋葉原で大量に買ってきて、はんだごてを使って作ります。うちはソフトウェアの会社です。15年間ずっと画面に向かって仕事をしてきたんですけれど、初めてのはんだごてを使っての作業ですね。社員の私物です。オシロスコープも社員の私物です。ちゃんと電流が通っているか、波形が取れるかを見ます。

(スライドを指しながら)木で作っていたんですが、運ぶたびに壊れたので、鉄にしました。ガムテープだとはがれにくかったので、養生テープにしました。そういうことを本当に高速で繰り返し実験していって、結局1年間で4回作り直したんですが、3回目の時に工場に委託して生産しました。

海外も検討したんですけど、200か300くらいのロット数で考えていたので、国内の工場さんと繋がりができて、そこに発注させてもらいました。

プリント基板に社名が載ることは、ソフトウェアエンジニアの夢

横田:(スライドを指しながら)あとは、プリント基盤も作り始めました。これは初代です。もうバージョン2、バージョン3みたいなこともやり始めています。たまたま社内に回路が書ける人がいたので、その人が書いて、設計専門の事務所に発注し、プリント基板の一歩手前まで作って、レビュー。今度はそれをプリント基板屋さんに発注して、作ってもらう。そういうことを、ほぼ内製でやっています。

プリント基板に社名が載ることが夢だったんですよね(笑)。そういうの、ありませんか? ありますよね? 「エンジニアあるある」だと思うんです。特にソフトウェアエンジニアの方は、夢だと思います。できますよ。

あとは、最初はAWSのサービスで人の動きを検知していたんですけれども、より特定のドメインの映像の解析がしたかったので、これも映像学習させて、やっていったりしています。他にも、センサーだけじゃなくて、アクチュエーターですね。入店のところに必要な棒(入場ゲート)みたいなものを設計しています。

3回作り直していますが、なぜこんなに作り直しているかというと、弊社はさっきのカフェビジネスの横展開を目的としているのではなくて、「自分たちでどのようにイノベーションを起こしていったらいいのだろうか」ということを考えているからです。

「そういえばAmazonって、フィードバックループサイクルを高速で回しているな」と思ったんですね。「じゃあ僕らも、フィードバックループサイクルを高速に回せたら、いいものができるんじゃなかろうか」と考え始めて、やり始めたのが昨年の6月です。

お客様の声を得て、初めて本当にいいプロダクトができる

横田:あとAmazonはよく、「カスタマーフィードバックをすごく大事にする」と言っています。研究室の中でPoC(Proof of Concept)使いをしていても、誰の意見ももらえないんですよ。だから市場に投入して、お客様からの声を得て、初めて本当にいいプロダクトができると考えたので、3回目にお店を出そうと決めました。

それで、店舗物件を借りました。100軒ぐらい物件データを見て、10軒内見して、ネゴシエーションして、借りました。それでオープン。年間4回作っていて、今は4周目をやっています。3回作ってだいたい落ち着いたので、4回目はクラウド側をSaaS化しています。

ハードウェア側は今、リファレンスモデルという形で量産できるようなフォーメーションを作っている途中です。いろいろなタイプのお店ができるように、今はリファレンスモデルを作っています。

やってみて見えたこととしては、やっぱりカスタマーフィードバックはすごく大事ということです。うちのエンジニアは、カフェで何人か働いています。お客様が来店するので、お客様の行動が見られますし、働いているスタッフの動きも見えます。

それを、運用も担当している(自社の製品を)作っているエンジニアが毎日見て、何が起こっているかを把握し、そのフィードバックをサービスに反映する。これが年に1回とか、3か月に1回じゃなくて毎日できるので、うちではバージョンアップを毎週やっています。全部内製でやっています。

これもAmazonのカルチャーですけれども、よく「Think Big」と言います。1店舗目をやってみて、じゃあ2店舗目どうなんだろうと考えます。(さらに)日本だけじゃなくて海外はどうだろうと考える。(そうやってどんどん大きく)考えて、今いろいろとチャレンジしている真っ最中です。以上です。

事業化せずに、イノベーションの練習を続けたい

長谷川:これはだいたい、いくらぐらいかかったんですか?

横田:これですか? 例えばカフェのお店と同じハードウェア構成だったら、たぶん200万円ぐらいだと思います。

長谷川:研究開発費も全部込みでいくらぐらい?

横田:研究開発費も込みだったら、5,000万円ぐらいじゃないですかね(笑)。

長谷川:これは、みなさんも思うかもしれないんですけど、本当は小売業がやるべきことですよね。小売業が新しい店舗を実験しようと思って、5,000万円ぐらい払って、あるいは投資して、自分がやるか、あるいは誰かにやってもらう。

「誰もやらない」とまでは言わないけど、小売業ではほとんどの人がやっていないことです。そんな中、どうですかね? 小売業から「うちともどんどんやってほしい」って来ますか?

横田:これは変な考えなんですけれども、できるだけ事業化しないようにしています。

長谷川:この小売業のモデルを、ということですか?

横田:今やっているものは、イノベーションの練習です。やればやるほど良くなると思っていて、お客様に渡した瞬間に運用・保守になるんじゃないかなという気がしています。そこがちょっと不安なんです。

ご意見もうかがいたいんですけれども、要はものを作ったらそれをメンテナンスしなきゃいけないですよね。それでビジネスにするのは当然、事業計画に合っていると思うんですけれども、エンジニアとしては毎週変更したいんです。お客様の悩みや思いを毎週反映させたい。それでやっています。

ビジネス化しないほうがエンジニアはのびのび働ける?

長谷川:今でいうクラウドのSaaSモデルであれば、「そもそも要件は聞きません」という契約の中で、毎週アップデートしていくことは可能だとは思うんですけれども、そのあたりはどうなんですか?

横田:クラウド側は、エンジニアリングの世界なので可能です。CI・CDというか継続的インテグレーション、デプロイメント、バージョンアップ。それは可能なんですけれども、店舗のオペレーションやハードウェアについては毎週バージョンアップするのはなかなか難しい。

例えば小売店1つ取っても、非常に小さなお店もあれば、大きなお店もありますし、扱っている商品も違います。食品もあれば、乾きもののお菓子などもあります。すごく(たくさんの種類が)あるので、それらすべてに対応するハードを作るのは、今のうちにとっては、まだちょっと難しいということはあります。

長谷川:じゃあ、「横田 de Go」としては、今後はどうしたいと思っています?

横田:最終的にはみんなに使ってもらえるかたちにしたいと思っているんですが、できるだけビジネス化したくないという気持ちと今、戦っています。

(会場笑)

なんとなく、わかります(笑)? (その方が)エンジニアも、のびのび働けるんですね。お客様がついてしまうと、堅い見積りになるんですよ。うちは本当に、さっきのような技術検証を、毎日すごいスピードで上げていくんですね。でも、お客様に提供してお金をいただくことになった瞬間に、見積りがたぶん10倍ぐらいになる。下手すれば、30倍ぐらいになると思うんですよ。

長谷川:なるほどね。まぁちょっと頭の中を変えればいけるような気もしますけどね。

横田:いけるような気もしますけどね。ちょっといろいろアイデアをいただきたいです(笑)。

ハードウェアの継続的インテグレーションの課題

久保渓氏(以下、久保):横田さんがおっしゃっていたことで、弊社でもすごく課題だなと思ったのが、ハードウェアの継続的インテグレーションのコストがかなり高いことです。弊社も自社プロダクトなので、2週間に1回ぐらい、ハードウェアもソフトウェアも含めてバージョンを切ってやっているんです。バージョンを切るのはいいんですけれども、デプロイってソフトウェアだとめちゃくちゃ早いじゃないですか。

でも、それに対してデプロイする時には、コードを1本変えたり部品を1個変えるだけでも、誰かが現地に行くか、筐体全体を交換するようなことにもなりかねない。それによって、業務の数や業務まで変わることもあり得ると思います。

ハードウェアの継続的インテグレーションをどうしていくかというのは、IoT系のベストプラクティスがまだ定まっていないような感じがあると思いますね。

長谷川:ハードウェアも1年とか3年で区切って、そこで総入れ替えするようなことをモデルに入れながら、全体設計をしていく感じですか?

久保:そうですね。たぶん一番主流なのは、サブスクリプションモデルにしておいて、半年から1年ぐらいでバージョンをどんどんリプレイスしていくかたちです。ただその場合だと、最終的な利益率に響いてきます。

使えない過去のバージョンがどんどん生まれてくることにもなるので、その「負の遺産」というか、いらなくなったバージョンがどんどん死んでいくことが、「いいんだっけ?」というのも含めて、まだ正解を見つけられていない感じがしますね。

最新テクノロジーをサービスに適応させるタイミングの難しさ

林英俊氏(以下、林):私は今まさにその狭間にいて、バージョン1を配って、バージョン2が7月に出ます。サーバーやソフトウェアがまったく同じでいけるかというと、やっぱりバージョン2はいろいろ良くしたいので、ハードウェアも中身も変わっているんですけど、サーバーもそれに合わせて変わるんですよ。

そうなると「バージョン1を回収するべきか?」となるんですけど、1万台とか配ってしまうと、もう久保さんのところほど簡単ではない。その中で、サーバーもソフトウェアも二重管理のソースができていって、「どうしようかな?」と悩むことになっています。

なので、お気持ちがわかる気がします。店を5つ作ったとして、その後にもっと良いものに気付いちゃった時に、その前の店はどうするんだということですよね?

横田:はい。今、うちではハードも作るんですけれども、コンピュータビジョンとかAIまわりのテクノロジーも活用し始めていて。ああいうものは、半年くらいで「価格が10分の1で、性能が100倍」みたいなものが出てくるんですよ。

「そんな良いものがあるなら、どんどん使おうよ」と思うんですけれども、「いやいや、昨年決定したこの仕様で」というものがあると、「最新のものは、いつ使おうか?」となっちゃいますよね。

テクノロジーの進化は速いんですよね。そこをどうキャッチアップしていくのかが課題です。キャッチアップはできるんだけど、それをサービスに適応させるタイミングが難しいなと思います。

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